技術革新とコロナ禍で産業構造はどう変わる? 成長産業は? 転職エージェントに求められるリテラシーとは

「10-20年後、日本の労働人口の約半数がAIやロボット等で代替可能になる」 ―そんな調査結果が社会に衝撃を与えたのは2015年のことでした。AIなどの技術革新は産業構造を変容させ、私たちの働き方にも影響を与えると予測されています。

また、コロナ禍という予期しない状況が産業構造や働き方に与えつつある影響も無視できません。

本稿では、技術革新やコロナ禍の影響を受けている業種を把握し、今後予想される産業構造の変化についてわかりやすく解説します。

技術革新による職業の変化

AI(人工知能)、ICT(情報通信技術)、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータ、ロボットなどの技術革新が私たちの社会を変えつつあります。

先端技術によって、将来どのタスクがどの程度自動化され、どの職業がどのように変化していくのでしょうか。

実は、それを予測するのは非常に難しいといわれています *1。

そこで、ここでは、いくつかの異なる予測をみていきたいと思います。

影響が大きいとする研究結果

まず、冒頭でふれた研究結果をみていきましょう。

近い将来、コンピュータ技術によって、労働人口の49%が機械に代替可能である―それは、日本のシンクタンクとオックスフォード大学の研究者との共同研究によって試算されたものです(図1)。

図1  人工知能やロボット等による代替可能性が高い労働人口の割合
出典:*2 野村総合研究所(2015)「日本の労働人口の 49%が人工知能やロボット等で代替可能に ~601種の職業ごとに、コンピューター技術による代替確率を試算~」 p.1
https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/news/newsrelease/cc/2015/151202_1.pdf

研究の対象は国内601種類の職業で、 代替可能性が高い職業と代替可能性が低い職業が、それぞれ100種ずつ示されています *2:pp.4-5。

この研究で、AIやロボットの代替が難しいとされているのは、以下のような職業です *2:p.2。

  • 芸術、歴史学・考古学、哲学・神学など抽象的な概念を整理・ 創出するための知識が要求される職業
  • 他者との協調や、他者の理解、説得、ネゴシエーション、サービス志向性が求められる職業

一方、次のような職業はAIやロボットに代替できる可能性が高い傾向があるとされています。

  • 必ずしも特別の知識・スキルが求められない職業
  • データの分析や秩序的・体系的操作が求められる職業

減少するタスクと増加するタスク

一方で、上のような推計結果は過大であるという意見もあります *1。

その中には、職業を構成するタスク(業務)単位でみると、タスクの大半が自動化される職業は9%程度しかないという研究結果もあります。

総務省は様々な研究結果をふまえて、以下の図2のような変化が起こるのではないかと推測しています *1。

図2  AIの導入による職豪の変化
出典:*1 総務省(2018)「平成30年版 情報通信白書:第1部 特集 人口減少時代のICTによる持続的成長」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd145210.html

まず、AIの導入によって機械化が進むとみられる職業ではタスク量が減少します。

その一方、AIを導入・運用するために必要なシステム開発やシステム運用などでタスク量は増加します。また、AIを活用した新たなサービス業などの職業が登場して、それによってもタスク量が増加します。

したがって、AIの導入が進めば、機械化の可能性が高い職業に就く人が減る一方で、AIを導入・運用する職業や、AIの登場により新しく生まれる職業などに就く人が増加すると考えられるのです。

労働市場の両極化

ここで、もう1つ押さえておきたいのは、既に始まっている、労働市場の両極化です(図3)。

図3 職業別就業者のシェアの推移
出典:*3 経済産業省(2019)「第四次産業革命に向けた産業構造の変化と方向性に関する基礎資料」 p.18
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/2050_keizai/pdf/006_05_00.pdf

図3をみると、専門職・技術職等の高スキル職と、医療・対個人サービス等の低スキル職が増える一方で、製造等の中スキル職が減少しているのがわかります。

こうした労働市場の変化は、転職にも大きな影響を与えているはずです。

コロナ禍によって影響を受けた産業

次に、コロナ禍によって影響を受けた産業をみていきましょう。

まず、2020年5月までの状況です(図4)。

図4  第3次活動指数 業種別の推移(2019年1月~2020年5月)
出典: *4 経済産業省(2020)「新型コロナウイルスの影響を最も受けた「生活娯楽関連サービス」とは」
https://www.meti.go.jp/statistics/toppage/report/minikaisetsu/hitokoto_kako/20200728hitokoto.html

第3次活動指数とは、サービス産業の活動の活発さを表す指数です。

2020年の2月から5月までの総合指数は、4か月連続で前の月より低下しました *4。

中でも低下幅が大きかったのは生活娯楽関連サービスです。

生活娯楽関連サービスには、以下のように、生活や娯楽に関連する様々なサービスがあります。

  • 生活関連:宿泊業、飲食店・飲食サービス業、洗濯・理容・美容・浴場業、旅行業、冠婚葬祭業、写真業
  • 娯楽関連:映画館、劇場・興行団(プロスポーツ興行含む)、競輪や競馬などの競走場、ゴルフ場などのスポーツ施設提供業、遊園地・テーマパーク、パチンコ
  • その他:学習支援業、ペットクリニック、自動車整備業(家庭用車両)など

次に、2020年4月から2021年4月までをみてみましょう(図5)。

図5 第3次活動指数 業種別影響度合い(2020年4月~2021年4月)
出典:*5 経済産業省(2021)「経済解説室ニュース(2021年6月15日)」
https://www.meti.go.jp/statistics/toppage/report/archive/kako/20210615_1.html

1回目の緊急事態宣言が発令されたのが2020年4月で、その後、緊急事態宣言は解除と発令が繰り返され、その間にまん延防止等重点措置も施されました。

図5からわかるように、サービス産業活動は、そのような状況と連動して推移しています。

2021年4月の業種別の動きをみると、11業種中6業種が前月と比べて低下する一方、4業種が上昇、1業種が横ばいという状況でした *5。

上昇したのは、情報通信業ですが、自動車小売業、織物・衣服・身の回り品小売業などが低下しました。

運輸業、郵便業も低下していますが、その中でも特に鉄道業が減少しています。低下した業種は、まん延防止等重点措置や3回目の緊急事態宣言発令の影響を受けたものと考えられます。

アフター・コロナの産業構造

最後に、アフター・コロナでの産業構造がどうなるか考えてみましょう。

国内外の識者120人がアフター・コロナの社会変化を予測した結果があります *6:p.12。

その中で、産業構造に関する予測は以下のようなものです。

  • 飲食業や観光業は産業規模としてかなり縮小
  • オンラインによる新ビジネスが続々登場
  • リモート化、分散化など新しいライフスタイルに伴う需要が拡大
  • 3密対策を盛り込むなどこれまでにない市場セグメントが登場

では、各産業分野はどう変化するのでしょうか。

まず、コロナ禍前の状況からみていきます(図6)。

図6 コロナ禍前の各産業分野の状況
出典:*6 NEDO国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(2021)「コロナ禍の社会変化と期待されるイノベーション像/バイオものづくりの可能性」 p.15
https://www.jba.or.jp/web_file/NEDO.pdf

図6から、ヒトよりモノに比重が置かれ、製造業が最も大きな産業であること、デジタル化が進んでいないことがわかります。

次にアフター・コロナの状況予測をみてみましょう(図7)。

図7 コロナ禍後の各産業分野の状況予測
出典:*6 NEDO国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(2021)「コロナ禍の社会変化と期待されるイノベーション像/バイオものづくりの可能性」 p.16
https://www.jba.or.jp/web_file/NEDO.pdf

先ほどの図6から大きな変化が生じていることがわかります。

例えば、以下のように、モノからヒトへと比重が移り、どの産業分野においてもデジタル化が進展しています。

  • 製造業:デジタルモノづくりへの移行
  • 金融・保険:デジタル通貨・オンライン決済の導入・普及
  • 運輸・郵便:自動運転・ドローンの普及
  • 行政、医療・衛生、教育:リモート・オンラインの普及

また、球の大きさから各分野の成長度合いを比較すると、縮小が目立つのは製造業であるのに対して、大きく拡大するのは情報・通信分野や金融・保険分野であることがわかります。

そうした変化と連動して、労働者の移動も増加するでしょう。

おわりに

これまでみてきたように、アフター・コロナでは産業構造が大きく変化し、それに伴って産業分野をまたいで転職する労働者が増加することが予想されます。

また、労働者に求められるリテラシーが大きく変わっていくのも必至です。

転職エージェントは、近い将来訪れる産業構造の変化とそれに伴う労働者の動きを的確に把握して、時代が要請する転職者のニーズに応えていく必要があります。


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【エビデンス】

*1 総務省(2018)「平成30年版 情報通信白書:第1部 特集 人口減少時代のICTによる持続的成長」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd145210.html
*2 野村総合研究所(2015)「日本の労働人口の 49%が人工知能やロボット等で代替可能に ~601種の職業ごとに、コンピューター技術による代替確率を試算~」
https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/news/newsrelease/cc/2015/151202_1.pdf
*3 経済産業省(2019)「第四次産業革命に向けた産業構造の変化と方向性に関する基礎資料」
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/2050_keizai/pdf/006_05_00.pdf
*4 経済産業省(2020)「新型コロナウイルスの影響を最も受けた「生活娯楽関連サービス」とは」
https://www.meti.go.jp/statistics/toppage/report/minikaisetsu/hitokoto_kako/20200728hitokoto.html
*5 経済産業省(2021)「経済解説室ニュース(2021年6月15日)」
https://www.meti.go.jp/statistics/toppage/report/archive/kako/20210615_1.html
*6 NEDO国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(2021)「コロナ禍の社会変化と期待されるイノベーション像/バイオものづくりの可能性」
https://www.jba.or.jp/web_file/NEDO.pdf


【著者】横内 美保子(よこうち みほこ)

博士(文学)。元大学教授。大学における「ビジネス・ジャパニーズ」クラス、厚生労働省「外国人就労・定着支援研修」、文化庁「『生活者としての外国人』のための日本語教育事業」、セイコーエプソンにおける外国人社員研修、ボランティア日本語教室での活動などを通じ、外国人労働者への支援に取り組む。

Webライターとしては、主にエコロジー、ビジネス、社会問題に関連したテーマで執筆、関連企業に寄稿している。

Twitter:@mibogon