「傾聴スキル」とは?そのエッセンスを知り、応募者との信頼関係をベースにしたマッチングを目指そう

応募者の想いを汲み取り、深いところで理解しようとする―それは応募者と企業とを結ぶ転職エージェントにとって必要な態度です。

ただ、応募者にとって、転職もそれに先立つ離職も人生に深く関わる切実な事柄ですから、そう易々と人には話せないことがあっても当然です。

では、どうしたら相手をよりよく理解できるのでしょうか。

そのヒントをくれるのが、「傾聴」です。

「傾聴」のエッセンスを理解し、応募者との信頼関係をベースに適切なマッチングを目指しましょう。

「共感」と「肯定」と「尊重」

筆者は30年あまり日本語教育に携わってきました。その間出会ってきたのは、大学などの高等教育機関で学ぶ外国人留学生や日本人学生、リカレント教育に取り組む社会人、地域で私たちの隣に暮らす、外国にルーツをもつ成人や子どもたちなど、年齢もバックグラウンドも多種多様な人々です。その数はざっと計算して数千人でしょうか。

そうした人々との関わりの中で、「傾聴」がどれほど大切かを日々痛感してきました。

人にはそれぞれの「物語」がありますが、それをシェアするのはそう容易いことではありません。

人を深いところで理解しようとする「傾聴」。そのエッセンスを理解し、心の片隅においておくだけでも、相手への理解度や相手との関係が驚くほど変わります。

でも、それと同時に、「できないこと」を明確にすることも大切。

筆者の専門は日本語学や日本語教育であって、「傾聴」についてレクチャーできるほどの専門性はありませんが、だからこそ読者の皆さんと同じ目線に立ち、

「少し心がけるだけでも大きく変わる」

ことをお伝えできるかもしれません。

本稿ではそんなお話を、基本的な理論と拙い体験を併せて皆さんとシェアできたらと思います。

「積極的傾聴(Active Listening)」とは

「傾聴」とは何でしょうか。

まず、「傾聴」の「聴」に注目しましょう。

似た意味を表す漢字に「聞」がありますが、こちらは「自然に耳に入る」というような意味合いです。

一方、「聴」の方は「耳を傾けてきく」、さらに「受け入れる」という意味があり、その中核的な意味は「耳をつきだし、まっすぐな心で、よくきく」です *1。

これだけでもイメージの輪郭が浮かんできたのではないでしょうか。

そのイメージを保ちつつ、心理学用語としての「傾聴」がどのようなものかみていきましょう。

「傾聴(積極的傾聴:Active Listening)」を提唱したのは、アメリカの心理学者でカウンセリングの大家、カール・ロジャーズ(Carl Rogers)です *2-1。

彼は、自らがカウンセリングを行った多くの事例を分析し、カウンセリングが有効であった事例に共通していた、聴く側の3要素を挙げました。「ロジャースの3原則」です。

それは人間尊重の態度に基づくカウンセリングの提唱といわれています。

ロジャーズの3原則

ロジャースの3原則とは、「共感的理解」「無条件の肯定的関心」「自己一致」で、カウンセラーにとって必要な基本的態度として重要視されています *3:p.173。

順にみていきましょう。

1)共感的理解 (empathy, empathic understanding)
相手の話を、相手の立場に立って、相手の気持ちに共感しながら理解しようとする *2-1。

「共感的理解」の「共感」とは何でしょうか *4:pp.128-132。

それは、自分の経験や価値観を一旦脇におき、相手のものの見方を共有し、自分とは異なる見方を認め、尊重する立場です。

言い換えれば、相手が置かれた境遇や現実感を分かちあう行為です。

「共感」がどのようなものか理解するために、「共感」とよく似た「同情(シンパシー)」と比較しながら、考えてみましょう。

「ゴールデン・ルール」をご存じでしょうか。

ゴールデン・ルールとは、

「相手にどう接したらいいかわからないとき、自分ならどうしてほしいのかを想像し、それに従う」

ことです。

このルールの根底にあるのは、

「すべての人は基本的に同じである。だから他の人々は私が求めているのと同じような扱いを求めているはずである」

という考え方です。

これが「同情」です。

一方、「共感」は、

「相手と自分は個別の人間なので、相手の経験を完全に理解することはできない」

という考えが根本にあります。

その上で、

「仮に自分が相手だったとしたら、このような気持ちなのだろうか。このような経験なのだろうか」

と考え、相手の枠組みに沿って、相手を理解しようと努めるのです。

このような「共感」はプラチナ・ルールとも呼ばれます。

次の表1で「共感」と「同情」の違いを確認しましょう。

出典:*4 矢代京子 他(2011)『異文化コミュニケーション・ワークブック』三修社 p.130より抜粋

ここで、ひとつ注意しなければならないことがあります。

それは、「共感」の目的は「完全な理解ではない」ということです。

「共感」とは、「他者はわからないという想定を出発点として、どうやって他者と共存するかを模索する」ことだといわれます。

相手と自分が別個の人間である以上、相手を100%理解することは難しいでしょう。

「相手は必ず理解できる」と考えることは、自分の枠組み、自分がもっている類型に相手を当てはめてしまうおそれがあり、むしろ危険です。

相手を理解しようと努めつつ、その限界をわきまえることも大切な態度だといえるでしょう。

2)無条件の肯定的関心 (unconditional positive regard)
相手の話を善悪の評価、好き嫌いの評価を入れずに聴く。相手の話を否定せず、なぜそのように考えるようになったのか、その背景に肯定的な関心を持って聴く。そのことによって、話し手は安心して話ができる *2-1。

「無条件の肯定的関心」とは、「相手のここがいいけれど、ここはよくない」といった条件付きの理解で接するのではなく、ありのままの相手を受け入れ、尊重し、無条件に関心を向けることです *3:p.173。

したがって、相手の話の内容が、たとえ自分が考える常識の範囲を越えていても、はじめから否定せずに、なぜそのようなことを考えるようになったのか関心を持って聴く態度が大切です。

3)自己一致 (congruence)
聴き手が相手に対しても、自分に対しても真摯な態度で、話が分かりにくい時は分かりにくいことを伝え、真意を確認する。分からないことをそのままにしておくことは、自己一致に反する *2-1。

「自己一致」とは、相手との関係の中で聴き手が「自分のままでいる」ということです *3:p.174。
相手と接しているとき、相手は自分にとって望ましい話をすることもあれば、その反対に受け入れがたい状況や考え方を示すこともあります。
そのような場合に、聴き手は自分自身の内面に生じている感情に蓋をせずに、相手から感じ取ったものをありのままに受け入れるという態度が大切なのです。

相手とのコミュニケーションでは、さまざまな感情が生まれるでしょう。
例えば、「つい自分の価値観を押し付けたくなってしまう」とか、「こういう人は苦手だ」などと感じることもあるかもしれません。
そのような感情に揺さぶられることなく、人と接するときの自分の癖や自分の未熟さ、弱さを自覚し、認め、受け入れる。そして、相手と対等な関係を保ちつつ、自分の間違いや弱さを隠すのではなく、ときには相手に見せて、相手も自分も同時に尊重する態度が重要です。

傾聴的態度の難しさと重要性

厚生労働省の資料では、傾聴する際の条件として以下の3点が挙げられています。

1)質問はしてもよいが、質問ばかり繰り返さない。
2)別の話題に誘導しない(話し手は話題を変えてもよい)。
3)意見を求められても、アドバイスや意見をしない。
 (アドバイスや意見を述べ始めると、聴き手と話し手の立場が逆転する) *2-2

「傾聴」においては、あくまで話し手が主役であって、聴き手は聴き役に徹し、聴き手の方から結論や答えを出さないという態度です。

筆者は初めて「傾聴」の理論に触れたとき、それまでよかれと思ってしていた、他者への自分の態度の中に問題を見出し、衝撃を受けました。
その経験をお伝えし、「傾聴」についてさらに考えていきたいと思います。

当時、筆者が大学で担当する日本語クラスに心配な留学生がいました。
仮にAさんとしておきましょう。
Aさんは遅刻が多く、宿題もしょっちゅう忘れ、授業中にも集中力が続かず、机に突っ伏して寝ていることもありました。

留学生は自国を離れて来日し、慣れない環境で勉強します。親元を離れるのが初めての人もいますし、大学生活も初めて。日本語能力も十分ではない。
新しい環境にすぐにはなじめず、日本での日常生活や大学生活にストレスを抱えるのはむしろ当然といってもいい状況です。
けれど、すぐには適応できなくても、周囲のサポートも得て、徐々に日本での生活に適応できていくケースが多いことが筆者には経験的にわかっていました。
Aさんもそうかもしれない、少し様子をみよう、そう決めました。

それからすぐに、1か月に1度行っている面談の日がきました。

「日本の生活にはもう慣れましたか」
「はい」
「寮のルームメイトともうまくいっていますか」
「はい」
「勉強はどうですか」
「まあまあです」
「ときどき遅刻するのは?」
「寝坊です」
「国でもそうでしたか」
「ええ、まあ…」
「朝は苦手?」
「ええ」
「日本語の勉強はどうですか」
「難しいです」
「そうですよね? 授業が終わった後、1日何時間くらい勉強していますか」
「…1時間くらいです」
「そうですか…。2、3時間やっている人もいるし、中には4、5時間という人もいますよ」
「……」
「厳しいコースですからね」
「はい」
「日本の生活に慣れてきたら、もう少しやってもいいかもしれませんね」
「はい」
「…他に聞きたいことはありませんか。何か困っていることは?」
「ありません」
「そうですか。何か困ったことがあったら、いつでもアポをとって来てくださいね」
「はい、ありがとうございます」

こうしてあっけなく1回目の面談が終わりましたが、結局、筆者はAさんから何の手がかりも得ることができず、ただいくつかのアドバイスをしただけに終わりました。

読者は既に気づかれたことでしょう。
質問のしすぎ。
相手の回答を待つ態度がない。
勝手に結論を出して相手に押し付けている。

そうです。
お恥ずかしいことですが、そのときの筆者には傾聴的態度というものが決定的に欠如していました。

そうこうしているうちに、問題が起こりました。
Aさんが何の連絡もなしに中間試験に大幅に遅刻したのです。
あたふたと教室に駆け込んできたAさんは流れる汗をぬぐいながら問題に取り組み始めましたが、大幅に遅刻したため、すぐに時間終了。

中間試験は成績に反映しますから、単位の取得にも影響を与えます。
もし留年することになれば、Aさんは入学時に支給されていた奨学金の受給資格を失ってしまうため、それは経済的にも大きな痛手となります。

どうしたものだろう。
Aさんを研究室によんで話をしてみても、前回同様、何の手がかりも得られず、「何か、変だ」と思いながら、なす術もないまま日々が過ぎていきました。
ところが、ある日のこと、するりと謎が解けたのです。

Aさんは先輩のBさんと一緒に保健の授業を受けていました。
その日のテーマは発達障害。
ある発達障害の事例が、Aさんの行動に悉く合致する。それで、日頃からAさんのことを心配していたBさんがもしやと思ってAさんに尋ねてみた。すると、あっさり発達障害であることを認めたというのです。

そうであれば、なすべきことは唯ひとつ。
すぐに保健室の先生にアポをとり、経緯を説明してアドバイスを仰いだ結果、Aさんの承諾をとった上で、定期的にカウンセリングをしていただくことになりました。

その時、どうしてもっと早く気づいてやれなかったのかと悔やむ筆者に、カウンセラーでもある保健室長が「傾聴」の話をしてくれたのです。

とにかく、共感的に聴く。
自分の価値観は脇に置く。
聴き手側から答えを出さない。
相手に結果を求めない。
効率性を持ち込まず、相手の話を待つ。
相手を変えようとしない。

新鮮でした。
自分がよかれと思ってしていたことが、的外れだったこともよくわかりました。
それ以来、それらの留意点を心の片隅において学生たちと接することにしています。
傾聴的な態度を身につけるのは決して簡単なことではありませんが、そのエッセンスを理解し、心がけるだけでも、相手への理解や相手との関係性が驚くほど変わる―それが筆者の実感です。

「傾聴」は応募者と企業とをマッチングする転職エージェントにとっても、応募者をよりよく理解する上で有益なはずです。
是非、試してみてはいかがでしょうか。


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【エビデンス】
*1 鎌田正・米山寅太郎『新漢語林 第二版』大修館書店(電子辞書版)
*2-1 厚生労働省「こころの耳>話を聴く~積極的傾聴とは~>傾聴とは」
https://kokoro.mhlw.go.jp/listen_001/
*2-2 厚生労働省「こころの耳>話を聴く~積極的傾聴とは~>傾聴練習の進め方3」
https://kokoro.mhlw.go.jp/listen_005/
*3 藤澤文 編(2013)『教職のための心理学』ナカニシヤ出版
*4 矢代京子 他(2011)『異文化コミュニケーション・ワークブック』三修社


【著者】横内美保子(よこうち みほこ)
博士(文学)。元大学教授。大学における「ビジネス・ジャパニーズ」クラス、厚生労働省「外国人就労・定着支援研修」、文化庁「『生活者としての外国人』のための日本語教育事業」、セイコーエプソンにおける外国人社員研修、ボランティア日本語教室での活動などを通じ、外国人労働者への支援に取り組む。
Webライターとしては、主にエコロジー、ビジネス、社会問題に関連したテーマで執筆、関連企業に寄稿している。
Twitter:@mibogon