転職を希望する従業員に対して、さまざまな手段で妨害工作を行う企業があるようです。
転職妨害は、その内容によって労働基準法違反・債務不履行・不法行為などの違法行為に当たります。現在の会社から転職妨害を受けた場合は、法律を味方につけて毅然と対応しましょう。
また、転職エージェントが転職妨害について相談を受けた場合、対応すべきこと・すべきでないことの境界線を見極めつつ、求職者に寄り添いながらサポートを行ってください。
今回は、
・転職妨害のよくある事例と違法性
・会社から転職妨害を受けた場合の対処法
・転職妨害の相談を受けた転職エージェントが行うべきサポート内容
などをまとめました。
転職妨害のよくある事例と違法性
従業員に辞められては困る会社は、さまざまな理由を付けて転職を妨害してくる可能性が高いようです。
しかし転職妨害は違法であり、従業員が会社の不合理な主張を受け入れる必要はありません。転職妨害のよくある事例について、なぜ違法であるのかを見ていきましょう。
「転職するなら賃金をカットする」
賃金をカットすると脅して転職を妨害することは、労働契約および労働基準法に違反する行為です。
従業員の労働時間に対しては、退職予定の有無にかかわらず、労働契約および労働基準法に従った賃金が発生します。
会社は従業員に対して、発生した賃金の全額を支払う義務を負います(労働基準法24条1項)。勝手に賃金をカットしたり、損害賠償などの名目の金銭を賃金から控除したりすることは認められません。
もし会社が勝手に賃金をカットした場合、従業員は会社に未払い賃金の支払いを請求できます。
「転職したら退職金を支払わない」
会社が退職する従業員に対して退職金の支払い義務を負うかどうかは、労働契約・就業規則等のルールによって決まります。
労働契約・就業規則等のルール上、会社が退職金の支払い義務を負う場合は、そのとおりに退職金を支払わなければなりません。
会社が勝手にルールを捻じ曲げて、退職金を不支給とすることは契約違反です。不当に支払われなかった退職金は、未払い賃金請求の対象となります。
「転職するなら今のプロジェクトが終わってから」
現状携わっている仕事(プロジェクト)が終わらなければ、従業員を退職させないと主張する会社もあるようです。
しかし無期雇用の従業員であれば、会社に対して2週間前に通知すれば、いつでも労働契約を解除して退職できます(民法627条1項)。
有期雇用の従業員の場合、契約期間途中での退職は原則不可ですが、契約開始から1年が経過すればいつでも退職できるようになります(労働基準法附則137条)。
またやむを得ない事由があれば、契約開始から1年以内であっても、労働契約を解除して退職できます(民法628条)。
法律上、従業員がどのような業務に携わっていようと、上記のルールに従って退職することが可能です。
したがって、「転職するなら今のプロジェクトが終わってから」という会社の主張は不合理であり、無理に引き留めれば従業員に対する不法行為(民法709条)が成立します。
「引き継ぎが済まない限り転職させない」
退職前に引き継ぎを完了することを強要する行為も、会社の従業員に対する不法行為が成立する可能性が高いものです。
道義的には、引き継ぎを完了してから退職することが望ましいかもしれません。しかし、従業員には引き継ぎを行う法律上の義務はなく、前述のとおり、2週間前通知などの要件を満たせば退職できます。
「転職するなら業界に悪評を流す」
「他社に悪い評判を流して、業界内で働けなくしてやる」などと脅して転職を妨害する会社もあるようです。
しかし、このような脅しは「脅迫罪」(刑法222条)や「強要罪」(刑法223条)に当たる犯罪行為です。
また、実際に他社へ悪評を流したとすれば「名誉毀損罪」(刑法230条)に該当するほか、従業員に対する不法行為も成立します。
現在の会社から転職妨害を受けた場合の対処法
転職を希望する従業員の方が、現在の会社から転職妨害を受けた場合、以下の対応によって解決を図ることが考えられます。
内容証明郵便で退職届を送付する
前述のとおり、無期雇用であれば退職の2週間前、有期雇用であれば雇用開始から1年経過後の通知により、従業員はいつでも会社を退職できます。
この場合、退職について会社の承諾は不要です。
会社に対して退職を通知した事実を証拠として残すため、退職届を内容証明郵便によって会社に送付しておきましょう。
もし会社が後から退職の無効などを主張してきても、退職届の内容証明郵便の謄本が手元にあれば、退職が有効に成立したことを証明できます。
なお、有給休暇が残っている場合には、有給休暇を取得してから退職する旨を内容証明郵便に付記することも考えられます。
退職代行を依頼する|弁護士への依頼を推奨
退職に関するやり取り自体が大きなストレスである場合には、退職代行サービスを利用することも一つの選択肢です。
退職代行サービスはさまざまな業者が提供していますが、基本的には弁護士に退職代行を依頼することを推奨いたします。
他の退職代行業者とは異なり、未払い賃金請求など法律上のトラブルの解決も一任できる点が、弁護士に依頼することのメリットです。
転職妨害の相談を受けた場合、転職エージェントはどうすべき?
転職エージェントは、担当している求職者から、転職妨害に関する相談を受けることがあるかもしれません。その場合には、転職エージェントとして対応すべき領域の範囲を適切に見極めつつ、できる限り求職者に寄り添ったサポートを心がけてください。
自分が間に入って解決しようとするのはNG|必要に応じて弁護士を紹介する
転職エージェントは、転職妨害を行う会社と従業員の間に入って、自ら問題を解決しようとしてはいけません。
この場合、会社と従業員の間には法律上のトラブルが発生しています。
法律上のトラブルの解決を業として取り扱うことができるのは、弁護士または弁護士法人のみです。それ以外の者が、法律上のトラブルの解決を業として取り扱った場合、「非弁行為」として犯罪に該当します(弁護士法72条)。
転職エージェントとしては、非弁行為の禁止を犯さないように、必要に応じて弁護士を紹介するなどの対応に留めるべきでしょう。
円満退職に向けたアドバイスを送る
転職エージェントが自らトラブル解決に動くことはできなくても、求職者に対して、一般論としての円満退職に向けたアドバイスを送ることはできます。
求職者からよく話を聴き、退職に当たり何がネックになっているのかを踏まえたうえで、解決策を一緒に考えてあげましょう。求職者の立場に寄り添い、抱えている問題に対して誠実に向き合うことが信頼獲得に繋がります。
もし自分だけで判断することが難しい場合には、上司や同僚への相談に加えて、顧問弁護士など外部専門家への相談もご検討ください。
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【著者】阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
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