就職・転職活動における面接が「得意」という人は、それほど多くないはずです。
特に吃音に悩む人にとって、就職・転職活動時の面接は人生の中で最も苦手な局面の一つでしょう。
実際、吃音が就職活動自体におよぼす影響は小さくありません。
吃音者を対象にした調査では、多くの人が
「吃音が職業選択に影響を与えた」
「吃音が職業選択の幅を狭めた」
「吃音が就職の妨げになった」
と答えています。
その一方で、就職後の勤務年数が10年を超える人も多数います*1。
吃音の就労におよぼす影響
回答者の属性と人数(未回答16名)
それでは、吃音に悩む人が就活で成功するためにはどうすればよいのでしょうか。「就職・転職活動の面接前に取り組んでおくこと」と「面接時の吃音対策」に分けて見ていきましょう。
就職・転職活動の面接前に取り組んでおくこと
就職・転職活動時に吃音者であることを隠すのは、必ずしもメリットにつながりません。就職・転職後にかえって苦労する場合も考えられるため、あらかじめ企業側に伝えることをおすすめします。
もちろん、吃音を告白することに抵抗を覚える方も多いでしょう。「不利なあつかいを受けるのでは?」という不安もあると思います。しかしながら、就職希望者の能力や人柄とは関係ない部分で採否を決める企業に就職しても、良い結果は得られないでしょう。
逆に、吃音者であることを知ったうえで採用の意思を示す企業は、吃音者に対する配慮が期待できる企業といえます。就職後に後悔しないためにも、吃音者であることは前もって企業側に伝えておきましょう。
エントリーシートや職務経歴書を活用する
就職・転職活動では、履歴書とあわせてエントリーシートや職務経歴書を提出する場合がほとんどです。これを利用して、吃音があることをあらかじめ知らせておきましょう。自己PR欄に吃音に関する前向きなエピソードを記載するのも良い方法です。印象に残りやすいため、他の応募者との差別化を図れます。
面接時に吃音があることを伝える
吃音の症状が軽い場合は、面接時に吃音があることを伝えてもよいでしょう。「吃音」という言葉に抵抗がある場合は、「緊張すると言葉が詰まることがある」「うまく言葉が出てこないことがある」などと言い換えるのも方法の一つです。
エージェントを利用する
就職・転職エージェントを通じて、吃音者であることを企業に伝えてもらうのもよいでしょう。場合によっては、吃音者の採用実績がある企業やほかの吃音者の体験談を紹介してもらえるかもしれません。また、エージェントを利用すれば、不採用の理由をフィードバックしてもらえます。吃音以外に原因があることがわかれば、次の就職・転職活動に活かすこともできるでしょう。
就職・転職活動時に吃音者であることを伝える方法と得られるメリット
★エントリーシートや職務経歴書に記載する ・企業の吃音に対する配慮を事前に知ることができる。 ・自己PRに利用できる。 |
★面接時に直接伝える ・吃音を理由に書類審査で落とされるリスクが減る。 ・「吃音」という言葉を使わずに伝えるチャンスが得られる。 |
★エージェントを利用する ・吃音者の採用実績がある企業を紹介してもらえる可能性がある。 ・ほかの吃音者の体験を教えてもらえる可能性がある。 ・不採用の理由をフィードバックしてもらえる。 |
面接時の吃音対策
吃音に悩む方の多くが苦手とする面接も、対策を講じることで乗り切りやすくなります。
話し方を工夫する
ゆっくりと話す・唇や舌をやわらかく接触させる・やわらかな発声を心がけるなど、話し方を工夫すると吃音の頻度が減ることがわかっています2。わざと軽く吃る練習(吃音緩和法)を取り入れるのも良い方法です3。面接官やほかの応募者の反応を気にする必要はないので、吃音の出にくい話し方をするようにしましょう。
なお、不安が強い場合は緊張を和らげるような薬を医師に処方してもらうのもおすすめです。
言葉の「言い換え」を用意しておく
一般的に、吃音は機能語(助詞、助動詞、代名詞、接続詞など)より内容語(名詞、形容詞、動詞、副詞)であらわれやすく、特に名詞で発生頻度が高くなります2。模擬面接などを受けて吃音の出やすい言葉に気付いた場合は、言い換える言葉をあらかじめ用意しておくとあわてなくて済むでしょう4。
吃音が出たときの対処法を決めておく
吃音が出たときの対処法も、あらかじめ決めておきましょう。息を吸う・唾を飲む・声の調子を少し変える・言い直すなど*4、自分のやりやすい方法を見つけておくことがポイントです。普段の生活の中で取り入れている方法がある場合は、面接の場面でも同じ方法で対処するとよいでしょう。
面接時の吃音対策
★話し方の工夫 ・ゆっくり話す。 ・唇や舌に力を入れ過ぎない。 ・やわらかな発声を心がける。 ・わざと軽く吃る。 など |
★「言い換え」の用意 ・吃音の出やすい言葉がある場合は、言い換える言葉を用意しておく。 |
★対処法を決めておく ・息を吸う。 ・唾を飲む。 ・声の調子を変える。 ・言い直す。 など |
吃音があっても大丈夫!吃音に理解のある企業への入社を目指しましょう
全人口に対する吃音者の割合は100人に1人程度といわれており、けっして少なくはありません。しかし就職・転職活動にあたり、吃音者であることを告白するのはとても勇気のいることです。
もっとも、企業が求めているのは「自社に利益をもたらす人材」であって「吃音のない人」ではありません。つまり、真に優れた人材を求めている企業であれば、吃音だからといってすぐに不採用になるわけではないのです。
吃音を理由に就職・転職に後ろ向きになる必要はありません。吃音で不採用になることをおそれるのではなく、吃音を受け入れてくれる企業への入社を目指しましょう。
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【エビデンス】
*1 飯村大智「吃音者の就労と合理的配慮に関する実態調査」音声言語医学.2017,58(3),p.205-215
*2 セラピストプラス「キャリア>PTOTST国試過去問ドリル>知っておきたい吃音の基礎と臨床」
*3 国立障害者リハビリテーションセンター研究所「研究所>感覚機能系障害研究部>吃音について>吃音の指導(治療)」
*4 森浩一「吃音 (どもり) の評価と対応」日本耳鼻咽喉科学会会報.2020,123(9),p.1153-1160 表1
【著者】中西 真理
公立大学薬学部卒。薬剤師。薬学修士。医薬品卸にて一般の方や医療従事者向けの情報作成に従事。その後、調剤薬局に勤務。現在は、フリーライターとして主に病気や薬に関する記事を執筆。