雇用契約書は、労使間の権利義務を規定するきわめて重要な書面です。
労使間において雇用契約書がどのような意味を持つか、なぜ重要であるのかについて正確に理解しておくことは、転職エージェント経営者・営業担当の方にとっても、クライアント企業に対する貢献に繋がります。
この機会に、雇用契約書に関する労働法のルールや、重要な契約条項の内容について知っておきましょう。
中途採用に力を入れる企業は多い
上記のグラフは、2020年1月に実施された、企業の人事担当者向けの採用見通しに関する調査結果です。
企業全体についてのデータからは、中途採用の中でも、経験者採用に積極的な企業が計80.7%を占めていることがわかります。
未経験者採用のみを積極的に行う企業と合わせれば、全体の89.5%を占めており、多くの企業が中途採用に積極的であることが窺えます。
なお、中途採用市場にも、やはり新型コロナウイルス感染症の影響が生じていることは否定できません。
上記のグラフは、2020年7月から8月にかけて実施された、企業における人材の余剰感・不足感に関する調査結果を示しています。
このデータからは、緊急事態宣言前と比べて、宣言後は人材の余剰感を感じると回答した企業が増加していることがわかります。
しかし、緊急事態宣言後であっても、人材の不足感を感じている企業が「不足していると感じている」「とても不足していると感じている」を合わせて48.5%を占めています。
この点を考慮すると、新型コロナウイルス感染症の影響は多少あれども、依然として中途採用のニーズが高い状況が続いていることが読み取れます。
中途採用者の労働条件は多様|雇用契約書の内容が重要
労使間でどのような労働条件が設定されるかは、雇用契約書の内容によって決まります。
そのため、労使ともに雇用契約書の内容を十分チェックすべきといえます。
雇用契約書の中で、疑義のない文言によって労働条件を明示することにより、労使間のトラブル防止に繋がります。
また、労働者側の視点からすれば、自分にとって想定外に不利な内容が書き込まれていないかチェックすることも大切です。
特に中途採用者は、それまでの職歴・経験・専門性などが多種多様であるため、設定される労働条件も人によってかなり幅があります。
したがって、具体的な労働条件を定める雇用契約書の存在意義は、新卒採用の場合にも増して大きいといえるでしょう。
雇用契約書に定めるべき内容は?
雇用契約書に規定すべき内容は、労働基準法上、「絶対的明示事項」と「相対的明示事項」の2つに分かれます。
実際の労働条件が明示された内容と異なる場合には、労働者は即時に雇用契約を解除することが認められています(労働基準法15条2項)。
絶対的明示事項
絶対的明示事項とは、使用者が労働者に対して常に明示しなければならない以下の労働条件をいいます(労働基準法15条1項、同施行規則5条1号~4号)。
- 労働契約の期間
- (有期雇用の場合)労働契約を更新する場合の基準
- 就業場所
- 従事すべき業務
- 始業および終業の時刻
- 所定労働時間を超える労働の有無
- 休憩時間
- 休日
- 休暇
- (交代制を採用する場合)就業時転換に関する事項
- 賃金の決定、計算および支払の方法、賃金の締切りおよび支払の時期
- 昇給
- 退職(解雇の事由を含む)
上記の労働条件は別の書面により明示することも可能ですが、一覧性の観点から、雇用契約書に明記しておくのが一般的かつ適切です。
相対的明示事項
相対的明示事項とは、使用者が定めを置いている場合に限って、労働者に対して明示しなければならない以下の労働条件をいいます(労働基準法15条1項、同施行規則5条4号の2~11号)。
- 退職手当
- 臨時に支払われる賃金
- 賞与
- 精勤手当
- 勤続手当
- 奨励加給または能率手当
- 最低賃金額
- 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
- 安全および衛生に関する事項
- 職業訓練
- 災害補償および業務外の傷病扶助
- 表彰および制裁
- 休職
これらの労働条件について定めを置くかどうかは使用者の任意ですが、定めを置いた場合には、絶対的明示事項と同様に、雇用契約書に書き込んでおく必要があります。
雇用契約書の労働条件を変更する手続きは?
採用時に決定した労働条件を、その後の事情の変化によって変更したい場合には、どのような手続きをとる必要があるのでしょうか。
原則として使用者・労働者間の合意が必要
雇用契約書は、使用者と労働者が対等な立場で締結した契約です。
そのため、雇用契約書に基づく労働条件を変更する際には、原則として使用者・労働者間の合意によることが必要になります(労働契約法8条)。
就業規則によって労働条件が変更される場合がある
ただし例外的に、使用者が一方的に就業規則を変更することによる労働条件の変更が認められるケースが2つあります。
1つ目は、労働条件の変更が、労働者にとって有利な場合です。
この場合、雇用契約書のうち、就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める部分が無効となるため(労働契約法12条)、自動的に労働条件が上書きされることになります。
2つ目は、労働条件の不利益変更に当たり、かつ以下のすべての条件を満たす場合です。
- 変更後の就業規則を労働者に周知させたこと
- 就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであること
- 雇用契約書の中で、就業規則の変更によっては変更されない労働条件としての合意がないこと
上記の要件に鑑みると、経営難による賃金カットなども認められる可能性がありますが、労働組合と適切に交渉を行うなど、適正手続きを経る必要がある点に注意が必要です。
なお雇用契約書において、就業規則の変更による変更を許さない旨を規定しておけば、その労働条件を使用者が一方的に変更することはなくなります。
もし労働者側として譲れない労働条件がある場合には、雇用契約書における規定の調整を依頼するとよいでしょう。
クライアントの視点に立って労働法・契約の知識を身につけましょう
雇用契約書をきちんとした形で締結することは、当事者である使用者・労働者の双方にとって非常に重要な事柄です。
両者を仲介する立場の転職エージェントとしては、雇用契約書の位置づけや内容をしっかり理解したうえでマッチングのサポートを行うことが、クライアント企業に対する価値の提供に繋がります。
クライアント企業にとっては、人材を採用すること自体は目的ではなく、出発点に過ぎません。
転職エージェントの経営者・営業担当の方には、採用自体をゴール(=終わり)と捉えるのではなく、採用後の雇用関係を規律する労働法・契約の確かな知識を備えたうえで、クライアント企業をサポートするという姿勢を持っていただければ幸いです。
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【著者】阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。専門はベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
ホームページ:https://abeyura.com/
Twitter:@abeyuralaw