外国人労働者受け入れの現状は?押さえておきたいそのポテンシャルと留意点

外国人労働者のイメージはどのようなものでしょうか。

外国人労働者とひと口にいっても、国籍や在留資格はさまざまで、従事する業種・職種も実に多様です。

これまでは人手不足の解消や企業におけるダイバシティに寄与するという文脈で語られることが多かった外国人労働者ですが、高度人材の登用にも注目が集まっています。

彼らを受け入れるための労働環境整備が職場全体のポテンシャル向上につながるという側面もあります。

そもそも外国人労働者とはどのような人たちで、今どのような状況に置かれているのでしょうか。彼らを採用するメリットと留意点は?

アフター・コロナを見据え、今こそ外国人労働者の雇用について考えてみましょう。

外国人労働者とはどのような人々か

就業可能な在留資格

まず、日本での就労に必要な在留資格についてみていきましょう(表1)。

表1 在留資格一覧

(引用) 法務省(2019)「在留資格一覧表」*1
https://www.pref.aichi.jp/uploaded/life/263536_905911_misc.pdf

表1では在留資格が4種類に大別されていますが、そのうち右下のオレンジの表「就労が認められない在留資格」以外は就労が可能です。

ただし、「就労が認められない在留資格」であっても、資格外活動の許可を得れば、条件つきで就労することが可能です *2。

外国人労働者数の推移

次に、外国人労働者数の推移をみてみましょう(図1)。

 図1 在留資格別外国人労働者数の推移    
(引用) 厚生労働省(2020)「外国人雇用状況の届出状況まとめ【本文】」 (2019年10月末現在) *3-1:p.2
https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/000590310.pdf

2019年10月時点の外国人労働者数は 1,658,804人でした。これは2007年に届出が義務化されて以降、過去最高でした *3-2:p.2。

ただ、コロナ禍の影響で雇用状況は悪化しています。2021年2月2日時点で解雇等見込み労働者数は86,551人に上っていることから *4、外国人労働者の雇用にもこうした影響が及んでいるとみていいでしょう。

外国人労働者をとりまく状況

多様な労働者

ここでは在留資格についてさらに詳しくみていきます(図2)。

図2 外国人労働者の在留資格別割合
(引用) 厚生労働省(2020)「外国人雇用状況の届出状況まとめ【本文】」 *3-1p.4
https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/000590310.pdf

最も割合が高いのは、「身分に基づく在留資格」で、次いで「技能実習」、「資格外活動」、「専門的・技術的分野の在留資格」 という順番になっています。

この在留資格と国籍を関連付けて、少し深掘りしてみます(表2)。           

表2 国籍別・在留資格別外国人労働者数

(引用) 厚生労働省(2020)「『外国人雇用状況』の届出状況表一覧」 [別表1]のデータを元に筆者作成 *3-2p.2
https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/000590311.pdf

入管法改定と「定住者」

ブラジルとペルー国籍は「身分に基づく在留資格」の割合が非常に高いのはなぜでしょうか *5。

1989年、いわゆる入管法が改定され翌1990年に施行されました。この改定によって在留資格「定住者」が新たに創設されました。

対象は、日系2世とその配偶者および子どもでしたが、2018年、条件つきで日系4世の受入れ制度も導入されています *6。

「定住者」には就労制限がなく、単純労働を含めてあらゆる職種に合法的に就労することができます。

その結果、就労目的の日系ブラジル人・ペルー人の来日が相次ぎ、人手不足が叫ばれる中、彼らは経済活動の一端を担ってきました。

技能実習生

2番目に割合の高い「技能実習」は、国籍別にみるとベトナムと中国が多いことがわかります。

もともと技能実習制度は、日本が先進国としての役割を果たすために、技能、技術または知識を開発途上国へ移転することによって開発途上国の経済発展に貢献しようとするものです*7。

つまり、国際貢献が目的の制度なのですが、実習生には労働基準関係法令が適用されています。

したがって、彼らは実質的な労働者でもあるのですが、「実習生」という立場から賃金は安く抑えられ、そのねじれ構造によってこれまでさまざまな問題が生じてきました。

最近、コロナ禍で職を失い、帰国することもままならない技能実習生の実態がマスメディアで頻繁に取り上げられています。

筆者はリーマンショック時に、日系ブラジル人・ペルー人が多く暮らす浜松の大学に勤務し、多文化共生に関わるプロジェクトに携わっていました。

当時、リーマンショックの煽りを受け、多くの日系人が派遣切りに遭い、職と住まいを同時に失いました。

彼らの相談に応じるためのワンストップ行政窓口には、朝早くから長い行列ができていました。目に焼き付いて忘れられない光景です。

そうした状況を目の当たりにした人々の間では、コロナ禍で、その当時の状況が再来するのではないかという危惧が囁かれていましたが、残念ながら現実のものとなってしまいました。

高度外国人材と留学生

在留資格で3番目に割合の高いのは「資格外活動」ですが、その約85%を占めるのが大学生のアルバイトで、トップ3はベトナム、中国、ネパールです *3-2:p.2。

これは、4番目の「専門的・技術的分野の在留資格」にも関連することですが、高度な知識や技能をもつ「高度人材」をめぐっては、国境を越えた獲得競争が生じています。

今後、海外とのビジネスや研究開発を通じたイノベーションの創発など、さまざまな分野での活躍が期待される「高度外国人材」の獲得に向けて、政府も積極的な姿勢をみせています。

ここで、「高度外国人材」の定義を押さえておきましょう *8。

こうした外国人材の採用に向けて、留学生のインターンシップやアルバイトなどを通じて「青田買い」を進める企業もあります。

なお、2019年4月に創設された在留資格「特定技能」も「専門的・技術的分野の在留資格」に含まれ、実質的な移民にあたるとして話題になりましたが、同年10月末、その数は520人に留まっています *3-2:p.10。

以上、みてきたように、一口に外国人労働者といっても、そのバックグラウンドも従事する労働も実に多様です。

外国人労働者採用のメリット

ここでは、外国人労働者採用のメリットを把握したいと思います。

人手不足の解消

今後、日本は深刻な人手不足に陥ることが指摘されています *9。

「経済成長と労働参加が適切に進まない」場合は、2030年の就業者数は2014年と比べて790万人減少すると推計されていますが、「経済成長と労働参加が適切に進む」場合ではそれよりも約610万人就業者が多く、2014年と比べて182万人の減少にとどまる見込みです(図3)。

図3 日本の就業者数のシミュレーション
出典:*9 厚生労働省HP(2018)職業安定局「雇用を取り巻く環境と諸課題について」 p.8
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11601000-Shokugyouanteikyoku-Soumuka/0000062121_1.pdf

こうした状況の中、性別・国籍・年齢などの属性によらず、多様な人材を積極的に雇用していくことが日本経済に強く求められています *10。

外国人労働者の確保は人手不足を解消するために不可欠な方策なのです。

高度人材のポテンシャル

経済産業省は高度外国人材獲得のために、調査を行っています。

その調査結果によると、外国人社員の採用ルートは、「国内の留学生の新卒採用」が42.0%、「国内における外国人のキャリア採用」が18.1%、「海外の外国人学生の新卒採用」が11.5%、「海外における外国人のキャリア採用」が5.9%となっています *11:p.26。

留学生は日本での生活や日本の教育機関での勉学を通じて日本語や日本文化への理解を深め、専攻分野での専門性も身につけています。また、母語はもちろん、複数の言語に堪能な人も多くいます。

筆者は大学で留学生の教育に携わっていますが、文系・理系を問わず日本企業への就職を希望する留学生が多く、彼らと企業とのマッチングがうまくいけば、双方にとってメリットが大きいのではないかと考えます。

そのメリットを具体的にみてみましょう(図4)。

図4 外国人留学生の採用目的(従業員規模別)
(引用) 内閣府(2018)規制改革推進会議 保育・雇用ワーキング・グループ「留学生・高度外国人材の受け入れの実態と課題」 *11p.20
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/suishin/meeting/wg/hoiku/20180129/180129hoiku01.pdf

企業が外国人留学生を採用する目的は最も割合が高いものから順に「優秀な人材を確保するため」「外国人としての感性・強みの発揮」「海外の取引先に関する業務を行 うため」「語学力を必要とする業務を行うため」「日本人社員への影響も含めた社内活性」となっています。

このように、外国人留学生のポテンシャルは高く、高度外国人材は企業にさまざまなメリットをもたらします。

外国人労働者採用の留意点

最後に外国人労働者を採用する際の留意点について考えてみたいと思います。

まず、雇用契約を明確にしておくことが大切です。

先ほどみたように、外国人労働者は多様です。いわゆる単純労働に従事する人も技能実習生も高度人材と呼ばれる人もいますが、いずれにも労働基準関係法令が適用され、労働者として日本人と同等の権利が認められています。

そのことを認識し、できる限り雇用契約書を作成しておくなどの対応が有益です。

文化や習慣、宗教、日本語能力によって生じる齟齬や衝突が深刻なトラブルに発展することもあります。

そうしたトラブルを避けるためには、彼らを理解し、人材に合わせた労働環境の整備が必要です。

たとえば、その労働者の日本語力が低い場合には、まず標語や張り紙など日本語で書かれた大切なメッセージが理解できるかどうかを確認します。これは安全に関わる問題です。

筆者がボランティア教室などで出会った外国人の中には、20年以上も日本で生活し働いていながら、挨拶程度しか日本語ができず、文字も漢字どころかひらがなやカタカナの読み書きさえ全くできない人も珍しくありませんでした。

2019年に「日本語教育の推進に関する法律」が公布・施行され、これを受けて2020年に、この法律に付随した基本的な方針が閣議決定されています *12。

これまで公的な日本語学習機会を得られなかった在留外国人にとっては画期的な法律ですが、この中に事業主の責務が明記されています。

事業主は外国人とその家族に対する日本語学習機会の提供をサポートする努力義務があります。

文化や習慣、宗教の違いが思わぬ衝突につながることもあります。

たとえば、ある国では、人に何かしてもらってもお礼を言う習慣がありません。感謝の気持ちがあっても、それはお互いさまで、相手が困っていたら今度は自分がその人になにかしてあげる、そんな気持ちから、言葉に出してお礼をいうのは、かえって失礼な振る舞いだというのです。

でも、その習慣が災いして、職場で誤解され、礼儀知らずの失礼な人だというレッテルを貼られてしまったと嘆いている人を知っています。

外国人労働者と接してもし違和感を覚えたら、それはもしかしたら文化や習慣、宗教の違いからきているのかもしれないと考えてみることが必要ではないでしょうか。

もし可能なら、多文化共生に理解があるメンターをつけるのも有益だと考えます。

以上、ポイントを絞って留意点をみてきましたが、彼らを受け入れるための労働環境整備は誰にとっても快適な職場を実現するという意味で、職場全体のポテンシャル向上につながります。

コロナ禍における雇用状況の変化は、優秀な外国人労働者を確保するチャンスだと捉えることもできます。

アフターコロナでは、慢性的な人手不足により日本の労働市場はますます厳しさを増すことが予想されます。

一方で、多様で優秀な外国人労働者が増えている現状もあります。

今後は、国籍を問わず企業に合った人材を紹介するというスタイルが増えていくかもしれません。

そのためにも、エージェントは外国人労働者を正しく理解することが必要です。

彼らの能力やスキルを見い出し引き出すことはできないかと考える一方で、企業に対しては国籍にこだわらずに職場にメリットをもたらす人材を紹介するなどの柔軟な姿勢をもつこうした方向性がこれからの職業紹介にあたって重要といえるのではないのでしょうか。


【エビデンス】
*1 法務省(2019)「在留資格一覧表
*2 経済産業省「外国人の方を雇い入れる際には、就労が認められるかどうかを確認してください。
*3-1 厚生労働省(2020)「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ【本文】」 (2019年10月末現在)
*3-2 厚生労働省(2020)「『外国人雇用状況』の届出状況表一覧」(令和元年10月末現在)
*4 厚生労働省(2021)「新型コロナウイルス感染症に起因する雇用への影響に関する情報について(2月5日現在集計分)
*5 明石純一(2009)「『入管行政』から『移民政策』への転換―現代日本における外国人労働者政策の分析―
*6 法務省 出入国在留管理庁「日系四世の更なる受入れ制度が始まります!
*7 厚生労働省「外国人技能実習制度について
*8 JETRO日本貿易振興機構「高度外国人材活躍推進ポータル 高度外国人材とは
*9厚生労働省HP(2018)職業安定局「雇用を取り巻く環境と諸課題について
*10内閣府(2020)「令和元年度 年次経済財政報告 第2章 第1節 多様の人材が労働参加する背景
*11内閣府(2018)規制改革推進会議 保育・雇用ワーキング・グループ「留学生・高度外国人材の受け入れの実態と課題」(2018年1月29日)
*12文化庁(2019)「日本語教育の推進に関する施策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針 【概 要】


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【著者】横内 美保子(よこうち みほこ)
博士(文学)。元大学教授。大学における「ビジネス・ジャパニーズ」クラス、厚生労働省「外国人就労・定着支援研修」、文化庁「『生活者としての外国人』のための日本語教育事業」、セイコーエプソンにおける外国人社員研修、ボランティア日本語教室での活動などを通じ、外国人労働者への支援に取り組む。
Webライターとしては、主にエコロジー、ビジネス、社会問題に関連したテーマで執筆、関連企業に寄稿している。
Twitter:@mibogon