【弁護士が解説】有料職業紹介事業に必要な資本金や許可申請の流れ・開業の準備とは

転職市場が引き続き活況を呈する中、人材紹介ビジネスへのニーズは高まり続けています。

新規に人材紹介ビジネスへ参入する場合には、職業安定法に基づく「有料職業紹介事業」の許可を得なければなりません。

これから人材紹介ビジネスへと参入しようとする事業者の方は、許可基準を踏まえて事前に必要となる準備の内容や、申請の流れを理解しておきましょう。

有料職業紹介事業とは?

人材紹介ビジネスは「有料職業紹介事業」として、職業安定法によって規制されています。

「有料職業紹介事業」とは、求人者と求職者の間における雇用関係成立のあっせんを、手数料または報酬を受けて行う事業をいいます(職業安定法4条3項)。

有料職業紹介事業を行うには、厚生労働大臣の許可を受ける必要があります(同法30条1項)。

もし無許可で有料職業紹介事業を行った場合、「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」(同法64条1号)に処される可能性があるため、人材紹介ビジネスを行う際には、必ず事前に有料職業紹介事業の許可を受けましょう。

有料職業紹介事業であっても取り扱えない業務

有料職業紹介事業を立ち上げたとしても、以下の業務については紹介できません。

・港湾運送業務
・建設業務


港湾運送業務の職業紹介は、「港湾労働法」という法律に基づいて公共職業安定所(ハローワーク)が行うことになっています。

また、建設業務については、「建設労働者の雇用の改善等に関する法律」に従って講じられている雇用改善等の措置に委ねるべきとの考え方から、有料職業紹介事業の対象から除外されています。

無料職業紹介事業との違い

「無料職業紹介事業」とは、求人者と求職者の間における雇用関係成立のあっせんを、手数料または報酬を受けないで行う事業をいいます。

学校や農協が無償で行う職業あっせんが、無料職業紹介事業の代表例です。
学校等や農協などの特別の法人が無料職業紹介事業を行う場合には厚生労働大臣への届出をする必要があります。
学校等や特別の法人に該当しない場合、厚生労働大臣の許可が必要になります。

届出と許可の違いがあるので注意が必要です。

無料職業紹介事業では先ほど紹介をした、
・港湾運送業務
・建設業務

の二つの業務についても、人材紹介を行うことができます。

有料職業紹介事業と労働者派遣の違い

有料職業紹介事業(人材紹介)と労働者派遣(人材派遣)の違いは、紹介・派遣を行う会社が、労働者との間で自ら雇用契約を締結しているか否かの点です。

有料職業紹介事業の場合、人材紹介会社はあくまでも労働者を紹介しているだけで、労働者を自ら雇用しているわけではありません。紹介した労働者の就職が決まった場合、雇用主となるのは実際に働く会社です。

これに対して労働者派遣の場合、人材派遣会社が自ら労働者を雇用した上で、その労働者を他社へ派遣して働かせます。

有料職業紹介事業の市場規模はどれくらい?

出典:「増加傾向が続く転職者の状況~2019年の転職者数は過去最多~」(総務省統計局、令和2年2月21日)

上記のグラフは、2002年以降2019年までの転職者数と、就業者に占める転職者の割合(転職者比率)を示したものです。

2008年のリーマン・ショックを機に転職者数は大幅に落ち込みましたが、それ以降は上昇・回復傾向を続け、2019年には2002年以降最多となる351万人を記録しています。

転職者比率についても、2019年には15~24歳(12.3%)・25~34歳(7.8%)のいずれも2008年以来の水準を記録しており、転職市場の活況を示すデータと言えるでしょう。

なお、新型コロナウイルス感染症による転職市場への影響が懸念されますが、企業の正社員予定数の減少は小幅にとどまっているというデータがあります(2019年12月→2020年4月で約14.6%の減少)。*1

今後の感染拡大状況やワクチン・特効薬の開発状況などにも左右されると考えられますが、現時点では新型コロナウイルス感染症による転職市場への影響は限定的といえるでしょう。

転職市場が拡大傾向にあることは、人材紹介ビジネスに対するニーズも高まり続けていることを意味しており、今後も人材紹介は注目度の高いビジネスである状況が続くと考えられます。

有料職業紹介事業に必要な許可とは?

有料職業紹介事業は許可制のため、許可の可否について厚生労働省の審査が行われます。したがって、許可申請を行う事業者は、許可基準の内容を十分に踏まえた事前準備を行うことが大切です。(*1)

有料職業紹介事業の許可申請の主な必要書類は、以下のとおりです。

1.有料職業紹介事業許可申請書
2.有料職業紹介事業計画書
3.有料職業紹介事業取扱職種範囲等届出書
4.届出制手数料届出書
5.添付書類
 ①定款
 ②法人登記簿
 ③代表者、役員の住民票、履歴書
 ④職業紹介責任者の住民票、履歴及び職業紹介責任者講習受講書の写し
 ⑤直近の事業年度における貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書
 ⑥法人税の納税(確定)申告書の写し
 ⑦法人税の納税証明書
 ⑧事業所の使用権を証明する書類
 ⑨業務運営に関する規程
 ⑩個人情報適正管理規程
 ⑪手数料に関する書類  
6.印紙
7.登録免許税に係る領収証書

これらの書類は、事業所を設置する都道府県の労働局に提出します。

各書類の入手方法

1〜4の書類は厚生労働省のサイトで雛形をダウンロードできます。
厚生労働省「令和4年12月27日から適用される職業紹介事業の業務運営要領」※第13様式集を参照

5の添付書類のうち、公的書類については市区町村役場や税務署などで入手できます。社内規程については、労働局に相談すればモデル例などの案内を受けられる場合があります。
6の印紙については平日に郵便局や法務局などで購入することができます。

7の登録免許税(*2)に係る領収証書については、

①登録免許税の納付書を税務署で入手
②日本銀行、日本銀行歳入代理店で納付
③領収書を受け取る

以上の手順で入手可能です。

必要な費用

有料職業紹介事業の許可申請を行うに当たっては、印紙代と登録免許税が必要になります。

6.印紙代:5万円(事業所が一つ増えるごとに+1万8千円)
7.登録免許税:9万円

事業所を1つとする場合にかかる金額は14万円となります。

*1(参照)厚生労働省 福岡労働局有料職業紹介事業許可申請に必要な書類(法人用) 
*2(参照)厚生労働省 東京労働局登録免許税の記載例

有料職業紹介事業の許可申請を受ける手順・スケジュール

有料職業紹介事業の許可申請を行う場合、事業開始までの大まかな流れは以下のとおりです。

申請準備|都道府県労働局との事前折衝等

所要期間:2ヶ月〜3ヶ月
必要書類の準備に数週間程度+労働局での確認に1~2ヶ月程度かかります。
申請の準備段階では、都道府県労働局に対して事業計画やその他の必要書類の草案を提示し、許可要件を満たすための修正指示などを受けることになります。

都道府県労働局側での確認作業には期間を要するうえ、何往復かやり取りが行われるため、申請準備の期間だけで数ヶ月はかかることを見込んでおきましょう。

申請書類の準備と並行して、職業紹介責任者のリクルートや事業所の確保を進めます。
なお、職業紹介責任者になろうとする人は、申請前に職業紹介責任者講習を受講することが必要です(職業安定法施行規則24条の6第2項)。

本申請|厚生労働省における審査

所要期間:2ヶ月〜3ヶ月
厚生労働省での審査に2~3ヶ月程度かかります。
都道府県労働局から本申請のゴーサインが出たら、必要書類を揃えて実際に許可申請を行います。
都道府県労働局では、本申請書類を受理し、最終確認が完了次第、厚生労働省の本省に回付します。

厚生労働省では、労働政策審議会への諮問、および審議会での厚生労働大臣への答申を経て、許可または不許可の決定を行います。

本省の審査のプロセスでは、申請書類について追加修正のリクエストが行われることもありますので、その場合は本省の指示に従って対応しましょう。
申請から許可決定が行われるまでの期間は、おおむね2~3ヶ月とされています。

許可証の交付・事業開始

厚生労働大臣による有料職業紹介事業の許可決定が行われた場合、事業者に対して事業所数に対応する通数の許可証が交付されます(職業安定法32条の4第1項)。

許可証の交付を受けたら、有料職業紹介事業を開始することができるようになります。
なお許可証は、有料職業紹介事業を行う各事業所に備え付けておくことが必要です(同条2項)。

全体のスケジュールの目安としては

1.必要書類の準備に数週間
2.労働局での確認に1~2ヶ月
3.厚生労働省での審査に2~3ヶ月


となります。 許可が出るまで3ヶ月~6ヶ月はかかるので、遅くとも事業開始予定の6ヶ月前から準備を始めましょう。

有料職業紹介事業の許可を受けるための要件

有料職業紹介事業の許可基準は、職業安定法31条1項および厚生労働省が定める業務運営要領によって定められています。*2

許可基準は以下の3点です。

①申請者が、有料職業紹介事業を健全に遂行するに足りる財産的基礎を有すること。
②個人情報を適正に管理し、及び求人者、求職者等の秘密を守るために必要な措置が講じられていること。
③ ①②のほか、申請者が有料職業紹介事業を適正に遂行することができる能力(職業紹介責任者を立てることができる等)を有すること。

職業紹介責任者の選び方について詳しくはこちら

これらの内容について詳しく見ていきましょう。

①申請者が、有料職業紹介事業を健全に遂行するに足りる財産的基礎を有すること。
・資産(繰延資産および営業権を除く)の総額から負債の総額を控除した額が「500万円×有料職業紹介事業を行おうとする事業所数」以上であること
・事業資金である自己名義の現金、預貯金の額が「150万円+(有料職業紹介事業を行おうとする事業所数-1)×60万円」以上であること

資産要件は、純資産とキャッシュの2つの面から審査されます。
資産要件を満たしていない場合には、追加出資などで対応することも考えられるでしょう。

②個人情報を適正に管理し、及び求人者、求職者等の秘密を守るために必要な措置が講じられていること。
・求職者等の個人情報を取り扱う職員の範囲を明確化していること
・個人情報漏えい防止の職員教育が実施されていること
・個人情報の開示、訂正に関する規定を定め、当該規定について求職者等に周知していること
・個人情報の取り扱いに関する苦情処理体制が明確化、整備されていること
・個人情報を目的に応じて必要な範囲で正確かつ最新のものに保つための措置が講じられていること
・個人情報の漏えい等を防止するための措置が講じられていること
・個人情報を取り扱う職員以外の者が個人情報へアクセスすることを防止するための措置が講じられていること
・不要となった個人情報を破棄、削除するための措置が講じられていること
など

個人情報保護体制の整備は、個人情報保護法に従って適切に行う必要があります。
可能であれば、個人情報の管理に専念する担当者を複数設置して、情報管理や苦情処理などに関する強固な体制を築くことが望ましいでしょう。
さらに、個人データへのアクセス権・パスワードの設定などを通じて、十分な個人情報漏えい対策を実施していることを説明できるようにしておくことが大切です。

③ ①②のほか、申請者が有料職業紹介事業を適正に遂行することができる能力を有すること。
・適格要件を満たし、かつ知識と経験を有する職業紹介責任者を設置していること
・事業所の位置、面積、構造、設備が職業紹介事業を行うために適切であること
・申請者の社内規程の整備
など

有料職業紹介事業の許可申請を行うに当たっては、職業紹介責任者となる人材の確保・事業所の確保・社内規程の整備も大きなポイントとなります。
人材確保と事業所の確保は一朝一夕には成り立たないので、事業開始までのスケジュールを見据えて計画的に進めることが大切です。社内規程の整備については、弁護士などのサポートを得ながら進めるとよいでしょう。

有料職業紹介事業の許可を受けずに職業紹介をした場合の罰則

有料職業紹介事業の許可を受けないと、手数料や報酬を受けて雇用関係成立のあっせんを行うことができません。仮に無許可で有料の職業紹介を行った場合は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科せられます(職業安定法64条1号)。

有料職業紹介業許可の有効期限・更新時期・変更申請

  • 有料職業紹介業許可の有効期限について

有料職業紹介業の有効期限は、新規で許可された場合は3年(新規の場合は有効期限が短いので注意)、更新後の場合は5年となります。

更新申請は、遅くとも有効期限が切れる3ヶ月前までに行う必要があります。3ヶ月前に更新手続きをしなければ、期間満了をもって有料職業紹介事業の許可が失効するので要注意です。(*3)

更新時には、手数料として[1万8千円×職業紹介事業を行う事業所の数]の収入印紙を貼付する必要があります。
許可の更新手続きや要件は、新規許可の際と基本的に同じです。事業を行う中で許可要件を満たさなくなった場合には、更新が認められないのでご注意ください。

有料職業紹介業許可の更新申請に当たっては、初回申請をした労働局に
・職業紹介事業許可有効期間更新申請書  
・事業計画書
・その他添付書類
を提出する必要があります。

職業紹介事業許可有効期間更新申請書・事業計画書については、厚生労働省ウェブサイトに様式が掲載されています。
添付書類の詳細については、山梨県労働局が掲載しているリストを参照するほか、提出先の労働局にご確認ください。

参考:山梨県労働局「職業紹介事業許可有効期間更新申請に必要な書類

  • 有料職業紹介業許可の変更申請について

また以下の事項を変更する場合は、都道府県労働局に対して変更の届出を行わなければいけません(職業安定法32条の7第1項)。(*4)

1.事業者の氏名または名称
2.事業所の住所
3.法人代表者の氏名
4.法人の役員の氏名
5.法人の役員の住所
6.事業所の名称
7.事業所の所在地
8.職業紹介責任者の氏名
9.職業紹介責任者の住所
10.事業所の新設(事業所における職業紹介事業の開始)
11.事業所の廃止(事業所における職業紹介事業の廃止)
12.他に行っている事業の種類および内容
13.取次機関の名称、住所および事業内容

変更届出の期限は、当該変更の発生日の翌日から10日以内です。
必要書類については厚生労働省の「2 申請、届出の手続き等」を参照してください。

まとめ

有料職業紹介事業の許可を得るためには、長期間の準備作業や都道府県労働局との折衝が必要になります。
できるだけ早い段階で人材紹介ビジネスを開始できるようにするためにも、許可基準の内容を踏まえてスムーズに許可申請の準備を整え、都道府県労働局への相談を開始しましょう。

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【エビデンス】
*1 「「新型コロナウイルスが転職市場に及ぼす影響」を発表」マイナビ
*2 「令和3年4月1日から適用される職業紹介事業の業務運営要領>第3 許可基準」厚生労働省
*3 「都道府県労働局 職業紹介事業の許可更新の申請期限が早まります。」厚生労働省
*4 「職業紹介事業パンフレット―許可・更新等マニュアル―>2 申請、届出の手続き等」厚生労働省



【著者】阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。専門はベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
公式ホームページ:https://abeyura.com/
Twitter:@abeyuralaw