人材紹介会社を起業するには 許認可の仕組みや受けられる融資、失敗しやすい点など

人材紹介会社を利用する求職者の数は、増加傾向にあります。
そのため、人材紹介事業を新たに始めようと考えている経営者の方も多いのではないでしょうか。

しかし人材紹介会社の起業にあたっては、様々な許認可の要件や禁止事項があります。
ここでは人材紹介会社の収益構造や起業に必要な準備、資本金など基本的な要素について解説していきます。

また、禁止事項や過去の裁判についても紹介しますので、起業を検討している人は役立ててください。

人材紹介会社への求職・求人は増加傾向

厚生労働省の統計によると、民間の有料職業紹介事業者への求職、求人の件数はともに増加傾向にあります(図1、2)。

図1 民営職業紹介事業所への新規求職申込み件数の推移
(出所:「令和元年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」厚生労働省)p3
図2 民営職業紹介事業所への求人数の推移
(出所:「令和元年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」厚生労働省)p6

転職志向や転職に関する意識の高まり、また、企業側からすると人材採用にあたってミスマッチを防ぎたいと考えていることが背景にあると考えられます。

人材紹介会社の収益構造や手数料基準

人材紹介(職業紹介)は求職者と求人企業の雇用契約をあっせんし、雇用契約の成立にあたって紹介手数料を得て、収益にする事業です(図3)。

図3 人材紹介(職業紹介)のしくみ
(出所:「職業紹介事業制度の概要」厚生労働省)

ただ、手数料という名義であれば誰からどのようにお金を受け取っても良いのではない、というのが大きな特徴です。

人材紹介会社が受け取れる手数料

有料職業紹介事業にあたっては、「求職者からは手数料を徴収してはならない(職業安定法第三十二条の三)」ことが定められています*1。「芸能家」「モデル」など一部の職業を除かれますが*2、これは大前提です。

よって、基本的な収入は求人企業からの手数料徴収です。

ですから、求職者を数多く集めれば良いとは一概には言えません。いかに企業からの求人案件を獲得し、速やかにマッチング・雇用契約にたどり着けるかがカギになります。

また、徴収できる紹介手数料には2種類あり、どちらを採用するかは事業者次第です。
1つは「上限手数料」と呼ばれるもので、厚生労働省が定める最高額をそのまま適用する方法です。
もう1つは「届出制手数料」です。厚生労働省に届け出た金額をそのまま手数料とするものです。

厚生労働省の「職業紹介事業の業務運営要領」の中には、一例としてこのような記載があります。

常用雇用契約については、当初の職業紹介から6箇月経過後1年経過時点までの間に支払われた賃金の一定割合(例えば 100 分の 30)に相当する額とする。

<引用:「職業紹介事業の業務運営要領」厚生労働省>p68

人材紹介業の手数料には具体的な根拠はないものの、慣例的に年収の30%程度が相場になっています*3。
これを成功報酬の形で受け取るのが一般的です。一部を前金として支払ってもらうという形もありますが、起業資金、運転資金については余裕を持った計画が必要です。

また手数料については、その請求方法について過去に裁判もありました。後述します。

人材紹介事業の許認可と資本要件

人材紹介会社を起業するにはまず厚生労働省に許可申請をしなければなりません。

また許可申請を出す前に、職業紹介責任者を事業所の職員50人あたり1人選任する必要があります*4。 そして、職業紹介責任者が厚生労働省の指定団体が主催する「職業紹介責任者講習会」を受講していなければ申請はできません*5。

その後、申請から許可まで概ね2〜3か月の期間がかかります。起業を決めたらまず講習会の日程を押さえましょう。

また、申請者の資本要件があります。

(1) 資産(繰延資産及び営業権を除く。)の総額から負債の総額を控除した額(以下「基準資産額」という。)が500万円に申請者が有料職業紹介事業を行おうとする事業所の数を乗じて得た額以上であること。
(2) 事業資金として自己名義の現金・預貯金の額が、150万円に申請者が有料職業紹介事業を行おうとする事業所の数から1を減じた数に60万円を乗じた額を加えて得た額以上となること。

<引用:「職業紹介事業の業務運営要領」厚生労働省>p13

そして、事業所の面積や構造などについても規定があります*6。
個室やパーティションの設置により、求職者、求人者のプライバシー保護ができる事業所であることが必要というものです。

こうした構造が難しい場合は、

・予約制や近隣の貸部屋を利用するなどして他の求職者、求人者と同室にならないようにすること
・インターネットの利用で、対面を伴わない職業紹介を行うこと
・事業所の面積がおおむね20㎡以上であること

で解決することも了承されていますが、適切な広さのオフィスを確保する必要があります。

人材紹介会社を起業する際の流れ

人材紹介会社を起業する際は、厚生労働省が定める許可要件に沿って資産とオフィスを用意し、有料職業紹介事業の許可を取得する必要があります。

①資産の準備

有料職業紹介事業の許可を受けるには、以下の要件をいずれも満たす財産的基礎を備える必要があります。

① 資産(繰延資産及び営業権を除く)-負債≧500万円×事業所数
② 自己名義の現金・預金の額≧150万円 +(60万円×(事業所数―1))

<引用:「有料職業紹介事業 許可要件(概要)」 厚生労働省>

上記①において資産から控除される「負債」とは、例えば借入れなど自己資金ではないものを指します。そのため、借入れは資産にカウントされない点に注意しましょう。

②オフィスの準備

有料職業紹介事業の許可要件では、事業所(オフィス)についても以下の要件を満たすことが求められています。

・職業紹介の適正な実施に必要な構造・設備(個室の設置、パーティション等での区分)を有す    
 ること。
・他の求職者又は求人者と同室にならずに対面の職業紹介を行うことができるような措置(予約
 制、貸部屋の確保等)を講ずること。

<引用:「職業紹介事業の許可基準の改正」の概要について 厚生労働省>

ただし、事業用面積がおおむね20㎡以上あれば、上記の要件は免除されます。

上記に加えて、駅のアクセスやオフィスの清潔感、プライバシーが考慮された面談スペースの確保など、求職者が利用しやすいオフィス環境にも気を配るようにしましょう。

なお、バーチャルオフィスによる人材紹介業の開業は認められません。バーチャルオフィスの扱いについては、こちらの記事を参考にしてください。

③その他の申請準備

資産・オフィスのほか、有料職業紹介事業の許可要件に従い、以下の準備を整える必要があります。

・職業紹介責任者を適正に選任する(3年以上の職業経験、5年以内の講習受講が必要)
・個人情報保護の措置を講じる(個人情報適正管理規程、適正管理体制の整備)
・業務運営規程の整備
・手数料表の作成

④人材紹介の許可手続き

資産やオフィスなどの準備が完了したら、有料職業紹介事業の許可申請書類を準備しましょう。書類が準備できたら近くの労働局へ行き、申請を行います。

申請には許可申請書と事業計画書の他にも、
 ・住民票
 ・履歴書
 ・定款
 ・登記簿謄本
 ・貸借対照表及び損益計算書
 ・残高証明書
 ・事務所の賃貸借又は使用貸借契約書
などが必要です*7。

有料職業紹介事業の許可取得については以下の記事で詳しく解説しているので、参考にしてください。

人材紹介会社を起業する際に利用できる融資・助成金

人材紹介会社を起業する際にまとまった資金を用意するのが難しい場合は、以下のような融資・補助金を活用する方法もあります。

新創業融資制度

新創業融資制度は、日本政策金融公庫による融資制度です。条件を満たせば、無担保かつ無保証で借り入れができます。

図4 新創業融資制度の概要
(出所:「新創業融資制度」 日本政策金融公庫)

通常であれば融資審査に2~3か月ほどかかる期間が、新創業融資制度では1か月半程度で融資が実行されるので、素早く資金を調達できます。無担保かつ無保証であるため、申請のハードルも低いです。

なお、新創業融資制度の資金の使い道は、新たに事業を始めるための資金か事業開始後の運転資金に限られます。運転資金は融資限度額のうち1500万円までに設定されているので、多くの運用資金が必要な方は注意が必要です。

各地域の創業助成金

各地域ごとに設けている創業助成金制度を活用する方法もあります。

例えば、東京都と連携して中小企業向けに幅広いサービスを提供している公益財団法人東京都中小企業振興公社では、都内で創業を予定されている方や創業して5年未満の中小企業者等の方に、従業員人件費、賃借料、広告費等、創業初期に必要な経費の一部を助成しています。

図5 創業助成金(東京都中小企業振興公社)
 (出所:「創業助成金」 東京都中小企業振興公社)

詳しくは、起業しようとしている地域における各自治体の助成金要項を確認してみてください。

人材紹介事業での禁止事項と違反事例

人材紹介事業のおもな禁止事項は以下のようなものです。

取り扱えない職業と摘発の多い項目

有料職業紹介事業を行うことができる職業からは、次の2つが除外されています*8。

・港湾運送業務に就く職業
・建設業務に就く職業

そして、東京労働局の発表によると、令和元年度に指導監督を受けた職業紹介事業者は699件あり、前の年度より5割も増加しています*9。

なお、違反事例として多かったのは以下のようなものです(図4)。

図6 職業紹介事業者への指導内容
(出所:「民間人材ビジネスに対する指導監督状況をとりまとめました」東京労働局)p3

気をつけたいポイントです。

また、事業報告の遅れによって業務停止処分を受けるケースも見られます。

職業紹介事業の許可の未更新

有料職業紹介事業の許可の更新には、以下のようなルールがあります。

・新規許可の有効期間は取得した日から起算して3年、更新前の許可の有効期間が満了する日の
 翌日から起算して5年
・無料職業紹介事業の許可の更新は、新規・更新ともに有効期限は5年
・引き続き職業紹介事業を行おうとする場合は、許可の有効期間の満了する日の3か月前までに
 「職業紹介事業許可有効期間更新申請書(様式第1号)」を、管轄都道府県労働局を経由して厚
 生労働大臣に提出

<参考:「事業許可までのプロセス」  厚生労働省>

未更新の場合は違反行為とみなされ、罰則の対象になります*10。うっかり忘れて違反にならないよう、余裕をもって更新申請を行いましょう。

手数料をめぐる裁判事例

2015年に宇都宮地裁大田原支部でこのような裁判がありました。人材紹介会社から従業員の紹介を受けたホテルが、不当な手数料を取られたとして過払い分の手数料の返還を求め、ホテル側が全面勝訴したというものです*11。

この人材紹介会社は、ホテルへの人材紹介を「日々雇用」の契約にし、毎日の労働契約成立ごとにホテルから手数料を受け取っていました。しかし実態は、最初の紹介以外にはあっせん行為の実態がないうえ、ホテル側も紹介された従業員のシフト表を作成するなど、「日々雇用」の労働関係ではありえない仕組みで、実態は常用雇用よのようになっていました。

そこで、職業安定法上の手数料との差額約3800万円の支払いを人材紹介会社に請求、裁判所がこれを全面的に認めた形です。

「就職お祝い金」の禁止

また、令和3年4月1日から、「就職お祝い金」などの名目で金銭を支給することが禁止されました(図4)。

図7 求職者への金銭等の提供の禁止
(出所:「『就職お祝い金』などの名目で求職者に金銭等を提供して
求職の申し込みの勧奨を行うことを禁止しました
」厚生労働省)

人材紹介会社間の競争が激化する中で設けられた禁止事項と考えられます。

人材紹介会社の起業でよくある失敗

人材紹介会社の起業は売り上げ単価が高く初期コストを少なくおさえられるので、比較的参入しやすい職種です。しかし、参入コストが低いからこそ、失敗した際のリスクも考慮しておかなければなりません。

戦略を立てずに事業を始める

戦略を立てずに事業を始めてしまうと自社の強みが発揮できず、資金繰りにも苦労するため、最悪の場合倒産に追い込まれる可能性があります。とくに人材業界は、他業界に比べて競合が多く、マーケットの移り変わりも激しい業界です。

「どのような顧客を相手にするのか」「自社の強みは何か」など、事前に綿密な戦略を立てる作業が必要でしょう。

短期の売り上げにこだわり過ぎる

人材紹介業は成果報酬型のビジネスモデルなので、短期の売り上げにこだわり過ぎると思ったような結果が得られません。通常企業と求職者のマッチングは、求人を提示してから数か月の期間を要します。

起業初期は集客モデルの確立や顧客の獲得を優先し、長期的に大きな売り上げを見込める土台づくりが大切です。

顧客ターゲットを絞らずスタートする

起業初期は多くの顧客を獲得したい思いからターゲットを絞れず、結果として顧客を獲得できないケースが多くみられます。とくに小規模会社や個人事業主は扱える求人が少ないので、幅広いジャンルを扱うと大手企業との競争に負けやすいです。

例えば自社の強みが技術職の求人ならば、一般求人よりエンジニアやデザイナーなど、特定の分野に注力した方が他社との差別化を図れます。

まずは自社の強みを明確にし、どのような顧客に刺さるサービスを提供できるか考えて起業しましょう。

まとめ〜信頼関係が成功のカギに

ここまで人材紹介事業を始めるにあたっての基礎知識を紹介してきました。

職業安定法に照らした注意項目は多岐にわたりますが、需要の増加と共に競争も激化している中で気をつけるべき基本は「信頼関係」に尽きます。求職者、求人企業両方からの信頼を得ることがなによりも重要でしょう。

近年では「同一労働同一賃金」の導入もあり、人材紹介にとっても労働者の「差別的な取り扱い」について行政からの目は厳しくなっています。

性別を理由に求職者を絞り込んだり求人先の紹介を変えることはもとより、仮に求職者自身にスキル不足があったとしても、明らかに向かない・希望から大きく外れる職業ばかりを紹介していては悪評が立つようになります。

また、雇用関係成立後に短期間で労働者が退職してしまったり、解雇されたりする事態があると人材紹介会社にとっては信頼を損ねるマイナス要素になります。
求職者が紹介先に就職した後も、労働者、求人企業にとってのコンサルタントであり続けるという姿勢が大切です。

そのためにも、いきなり大風呂敷を広げてしまうと苦戦するでしょう。
最初は人脈のある職種に絞る、求人企業の年収で絞り込む、など、堅実な方法を模索するなど工夫をして下さい。

「労働力の需給調整に関与する」という、社会性の高い仕事であることも意識しておく必要があります。


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【エビデンス】
*1「職業安定法」e-GOV法令検索
*2「職業紹介事業の業務運営要領」厚生労働省
*3「人材紹介の仕事がよくわかる本」日本実業出版社 p16
*4、5、6「職業紹介事業の業務運営要領」厚生労働省p34、p15
*7「事業許可までのプロセス」 厚生労働省
*8「職業紹介事業制度の概要」厚生労働省
*9「民間人材ビジネスに対する指導監督状況をとりまとめました」東京労働局
p2
*10「第14違法行為による罰則、行政処分」 厚生労働省
*11「労働判例ジャーナル38号」労働開発研究会 p2


【著者】清水 沙矢香
2002年京都大学理学部卒業後、TBS報道記者として勤務。
社会部記者として事件・事故、科学・教育行政その後、経済部記者として主に世界情勢とマーケットの関係を研究。欧米、アジアなどでの取材にもあたる。ライターに転向して以降は、各種統計の分析や各種ヒアリングを通じて、多岐に渡る分野を横断的に見渡す視点からの社会調査を行っている。
Twitter:@M6Sayaka