職業紹介責任者とは?エージェントが設置すべき人材の要件・講習の内容を弁護士が解説

人材紹介ビジネスを行うにあたっては、職業安定法に基づく「有料職業紹介事業」の許可を取得する必要があります。

有料職業紹介事業の許可取得に当たっては、「職業紹介責任者」の設置が必須です。

特に講習の受講が遅れてしまうと、事業開始が遅れて機会損失が発生しかねないため、計画的な人材確保・講習の受講に努めましょう。

この記事では、転職エージェントが設置すべき「職業紹介責任者」とは何かについて、法令上の要件や講習の内容なども紹介しながら解説します。

職業紹介責任者とは?

「職業紹介責任者」とは、職業安定法に基づき「有料の職業紹介事業」を行う事業者に対して、設置が義務付けられている役職です(職業安定法32条の14)。

職業紹介責任者の設置が義務付けられているのは、適切に業務を行う資質を持つ人材に責任を与えて業務を統括させることにより、職業紹介事業が適正に実施されることを確保するためです。

具体的には、職業紹介責任者は以下の業務を行います。

①求人者または求職者からの苦情処理
個々の担当者に寄せられた苦情を吸い上げたうえで、会社としての意思決定を主導し、また業務改善に取り組む役割が求められます。
②求人者の情報および求職者の個人情報の管理
システム面や社員教育などの多様な観点から、情報セキュリティを徹底する役割が求められます。
③職業紹介業務の運営および改善
求人・求職の申込みの受理や、求人者・求職者に対する助言・指導をはじめとして、職業紹介業務に係る運営・改善全般について責任を負うことが求められます。
④職業安定機関との連絡調整
ハローワークとのやり取りの窓口になる役割が求められます。

職業紹介責任者の氏名および住所は、有料職業紹介事業の許可申請書の記載事項とされています(同法30条2項4号)。

また、職業紹介責任者として、許可基準に適合する者を選任することが、実務上許可の必須要件になっています(許可基準3(2))。

参考:有料職業紹介事業許可基準|厚生労働省

したがって、有料職業紹介事業を営もうとする転職エージェントは、職業安定法等の定めに従い、許可基準を満たすことのできるように職業紹介責任者を設置しなければなりません。

なお職業紹介責任者は、職業紹介業務に従事する者50名ごとに、1名以上設置する必要があります(職業安定法施行規則24条の6第1項第2号)。

職業紹介責任者が満たすべき要件

職業紹介責任者が満たすべき要件は、以下のとおりです(職業安定法32条の14、同法施行規則24条の6、許可基準3(2))。

①未成年者でないこと
②厚生労働大臣が定める講習を修了していること
③精神の機能障害により、認知・判断・意思疎通能力が不十分でないこと
④以下の欠格事由のいずれにも該当しないこと
・禁錮刑以上の前科があること
・労働法令、暴力団排除法令または社会保険関連法令への違反による罰金刑の前科があること
・破産手続開始の決定を受け、復権を得ていないこと
・職業紹介事業の許可を取り消され、または無料職業紹介事業の廃止を命じられてから5年を経過していないこと(法人の場合は、その役員も同様)
・暴力団員、または暴力団員でなくなった日から5年を経過していないこと
⑤許可基準で定められる追加の要件をすべて満たすこと
・(貸金業者・質屋の場合に限り)所定の登録・許可を受け、適正に業務を運営していること
・風俗営業、性風俗関連特殊営業、接客業務受託営業など、職業紹介事業との関係で不適当な営業の名義人または実質的な営業者でないこと
・(外国人の場合に限り)原則としていずれかの在留資格を有していること
・住所や居所が一定しないなど、生活根拠が不安定でないこと
・公衆衛生または公衆道徳上、有害な業務に就かせようとするおそれのないこと
・虚偽または不正な許可申請をしたり、許可の審査に必要な審査を拒否、妨害、忌避したりしていないこと
・(国外で職業紹介を行う場合に限り)相手先国の労働市場の状況や法制度を把握し、求人者や求職者と的確に意思疎通を図る能力を持っていること
・成年に達した後、3年以上の職業経験を有すること

このように、職業紹介責任者には多くの要件が定められています。

しかし、社会人として一般的なキャリアを歩んできた方であれば、「講習」さえ受講すれば要件を満たす可能性が高いでしょう。

職業紹介責任者が受講すべき「講習」とは?

有料職業紹介事業について職業紹介責任者に就任するためには、厚生労働大臣所定の「講習」を受けることが必須になります。

事業開始のスケジュールに遅れが生じないように、全就任予定者が計画的に受講してください。

職業紹介責任者講習の内容

職業紹介責任者講習は、基本的に座学の講義形式で行われます。

講義カリキュラムは以下のとおりです(どこの実施機関で受講しても同じです)。

・民営職業紹介事業制度の概要について
・職業安定法および関係法令について
・職業紹介責任者の責務、職務遂行上の留意点および具体的な事業運営について
・個人情報の保護の取扱いに係る職業安定法の遵守と公正な採用選考の推進について
・理解度確認試験
・民営職業紹介事業の運営状況

講習の受講証明書の交付を受けるには、講義の達成度を確認する「理解度確認試験」において、合格点を獲得しなければなりません。

講習は朝から夕方までの長丁場となりますが、一回の受講で済むように、集中して講義に臨むことが大切です。

職業紹介責任者講習の受講先

職業紹介責任者講習を受講できる実施機関は、厚生労働大臣によって指定されています。

以下の厚生労働省HPから実施機関を確認できますので、会場やスケジュールを確認したうえで、都合のよい講習に申し込みましょう(なお、最近はオンライン受講を認める実施機関も増えています)。

参考:職業紹介責任者講習の実施機関等について|厚生労働省

講習の有効期限は5年間

職業紹介責任者講習は、5年ごとに再度受講する必要があります(職業安定法施行規則24条の6第2項第1号)。

講習の有効期限が過ぎた者を職業紹介責任者に据え置くことは職業安定法違反であり、厚生労働大臣による指導・助言等(同法48条の2等)の対象になり得るので要注意です。

職業紹介責任者全員について、期限内に講習を受け直すように促しましょう。

人材紹介業の職業紹介責任者になれる人・なれない人

一般の方(犯罪歴等がなく、反社会的勢力との繋がりもない日本人の方)であれば、以下の全てを満たせば職業紹介責任者になれる可能性が高いです。

①18歳を超えていること
②職業紹介責任者講習を受け、受講証明書を交付されていること
③3年以上の就業経験があること
更に
④事業場の専属(常勤)であること
⑤自社の労働者または役員であること

が必要です(職業安定法施行規則24条の6第1項第1号)。

業務委託先のフリーランスや、他社と兼業している労働者などを職業紹介責任者とすることはできません。

その他欠格事由(資格を与える上でふさわしくないとされる行動や事柄)についてはこの記事の2番目の項目、「職業紹介責任者が満たすべき要件」の項目をご確認ください。

職業紹介責任者にする人の選び方

職業紹介責任者は、苦情処理・情報管理・業務の運営や改善・ハローワークとの連絡調整など、有料職業紹介事業に関してさまざまな重要な役割を担います。

重大な不手際によって世間や企業からの信頼を失うことがないように、職業紹介責任者には適任者を選任しなければなりません。

職業紹介責任者が備えるべき資質の例としては、以下の4つが挙げられます。職業紹介責任者を選任する際には、これらの資質を備えているかどうかに注目するとよいでしょう。

①実務経験がある
②コミュニケーション能力が高い
③誠実さ・正直さがある
④プライバシー保護に対する意識が高い

①実務経験がある

職業紹介事業に関する実務経験があれば、業界動向や求人情報のトレンド、職業紹介事業に関する法律等の規制に精通しているため、職業紹介責任者として安定感のある業務遂行が期待できます。求職者や企業に対して適切なアドバイスを行うためには、最低5年程度の実務経験を有することが望ましいでしょう。

②コミュニケーション能力が高い

職業紹介責任者には、求職者や企業とのコミュニケーション能力が求められます。求職者や企業に対して的確なアドバイスや提案を行うためには、適切なコミュニケーションによって多様なニーズを把握できる能力が必要不可欠です。

③誠実さ・正直さがある

職業紹介責任者には、求職者や企業からの信頼を得るために、誠実で正直な対応が求められます。

④プライバシー保護に対する意識が高い

求職者や企業からは、プライバシーに関わる情報や機密情報が提供される場合があります。職業紹介責任者には、これらの情報を適切に管理し、情報漏えい等を防ぐことに関する高い意識を保持することが求められます。

まとめ

職業紹介責任者として有能な人材を置くことは、単に業務上の許認可を取得する目的にとどまらず、人材紹介ビジネスを円滑に運営していくうえできわめて重要です。

起業当初の段階では、代表者が職業紹介責任者を兼ねることも考えられるでしょう。

しかし、会社の規模が拡大すると、複数の職業紹介責任者を設置する必要が生じるケースもあるので、計画的な人材育成に努めてください。


【無料】人材紹介事業者向けセミナーのアーカイブ配信

現在、人材紹介事業を行っている方はもちろん、
人材紹介事業の起業を検討中の方向けの動画もご用意しております。
求職者集客から求人開拓まで、幅広いテーマを揃えていますので、お気軽にご視聴ください!
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
視聴料 :無料
視聴手順:
①下記ボタンをクリック
②気になるセミナー動画を選ぶ
③リンク先にて、動画視聴お申込みフォームにご登録
④アーカイブ配信視聴用URLをメールにてご送付
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –


【著者】阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。専門はベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
HP:https://abeyura.com/
Twitter:@abeyuralaw