名前で判断しない、させない!エージェントが知っておきたいネーミングの影響とは

会社名や商品名、人の名前など、名前は多くのものの中から特定の対象を認識するために必要なものです。
「名は体を表す」という言葉もあるように、名前はその名前を持つものの性格を表すことも多くあります。

しかし、名前だけで判断してしまうというのは、よくないことです。
ちゃんと中身を見て判断したつもりでも、無意識のうちに名前の響きなどから影響を受けてしまうということもあります。

エージェントとして、どういった点に気をつけておけばいいのでしょうか。

名前はただの記号ではない

名前は、ある特定のものと他のものを区別するために必要になります。
そのため、一度決めると簡単に変更するというわけにはいきません。
名前を決める際に、なかなか決まらずに悩んでしまうという人も多いものです。

名前を聞いただけで、「何となくよさそう」や「なんだか嫌な感じがする」といった印象が生じることがありますが、それはなぜでしょうか。

人間は物事を認識する際に、無意識的、直感的に働く「システム1」と、意識的、論理的に働く「システム2」という二つの思考モードを使い分けているとされています。*1

なんとなく生じてくる印象は、システム1による思考の結果です。
システム1の思考は、無意識下で自動的に行われるため、自分でコントロールするのが難しいものです。

では、このシステム1の思考に影響を与える要素は、どのようなものがあるのでしょうか。

人は一般的に、慣れ親しんだものに好感を持つとされています。
この好感が生じる一連の流れを図で表すと、以下のようになります。

「ファスト&スロー」ダニエル・カーネマン著、P111の内容をもとに筆者が補足

この図で示したように、認知容易性が高いもの、つまり少ない労力で簡単に理解できるものほど、ポジティブな印象が生まれやすくなるのです。

逆に、今まで見聞きしたことがないものや、理解できないものに対しては、ネガティブな印象が生じやすくなります。

脳への負荷が小さい分かりやすいものや、慣れ親しんだものほど受け入れられやすいのです。
このように簡単に理解できるかどうかで、中身を十分確認しないまま良し悪しを決めつけてしまうという思考のバイアスが働いてしまいます。

読みづらい名前や分かりにくい名前の場合には、それだけで無意識的にネガティブな印象が生じやすくなってしまうということには注意が必要です。

名前が採用に影響を及ぼすことは考えられるのか

名前には、文字としての見た目の要素以外にも、発音したり聞き取ったりする際の音声としての要素もあります。
名前の響きが採用に影響を及ぼしてしまうなどということは、考えられるのでしょうか。

先ほどの認知容易性の観点からすると、脳内で情報処理がしやすいものほど好感を持ってもらいやすいということになります。

実際には、

  • 発音しやすい名前は好意度が高い
  • 弁護士を対象とする調査では発音しやすい名前の人が高い地位についていた

といった研究結果もあります。*2

名前の響きが脳の情報処理に影響を及ぼす要因としては、二つ挙げられます。

一つ目が、似た音がどれくらい含まれているのかという「項目内音韻類似性」です。
似た音からなる音の系列は、憶えにくく、言い間違いやすく、発音にも時間がかかるとされています。

もう一つが、普段使う言語(ここでは日本語)によく出てくる音や音の並びがどれくらい含まれているのかという「音素配列頻度」です。
普段使う言語によく出てくる音や音の並びからなる語は憶えやすく、言い間違いにくく、発音に要する時間も短いとされています。

これら二つの要因の影響を調べるために、ランダムに単語を作り出し、それを「今度職場にやってくることになった外国人の名前」だとして、どのような印象を受けるかというアンケート調査が行われました。
調査に使われた単語の一覧が、以下に示すものです。

「どうか名前で判断しないでくださいー名前の印象判断に項目内音韻類似性と音素配列頻度が与える影響」
中山真孝、齊藤智著、認知科学22(3),P462

調査の結果、音韻的に類似した名前が、また音素配列頻度の低い名前ほど、その名前を持つ人がネガティブに判断されるということが示されました。

この結果から分かるように、応募者の名前は、気づかぬうちに採用担当者やエージェントが受ける印象に影響を及ぼしてしまうのです。
そうなってくると採用にも影響が出てくると考えられるので、注意が必要です。

ネーミングはどれくらい影響があるものなのか

名前から受ける印象が意思決定に影響を及ぼすというのは、なかなか理解しづらいかもしれません。
名前よりも中身こそが重要だと感じる人も多いのではないでしょうか。

実際には、商品やサービスの名前が意思決定に影響を与え、売上を大きく左右することもあります。

その実例の一つが、伊藤園の「お~いお茶」です。
売り出された当初、この商品は、「缶入り煎茶」という名称でした。
世界初の缶入り緑茶飲料であったにも関わらず、多くの消費者には「煎茶」という言葉が馴染みが無かったという理由で、販売実績も鳴かず飛ばずの状態が続きました。*3

そこで、当時テレビCMで使われていた「お~いお茶」というフレーズをそのまま商品名にし、家庭的な雰囲気が出るような工夫が行われました。
その結果、売り上げは名称を変更した初年度で6倍に跳ね上がりました。
馴染みのあるフレーズが商品名に使われていたことで認知容易性が高まり、好感を持たれるようになったことが要因の一つとして考えられます。
名前による影響がいかに大きいのかが分かります。

音の響きによる印象だけでなく、その名前が慣れ親しんだものであるのかや、すんなり理解できるようなものであるのかといったことも重要になってきます。

認知容易性の高さは、意思決定に大きな影響を及ぼすのです。

エージェントとして注意しておきたい「名前」

エージェントとして思わぬ判断ミスやトラブルにならないようにするために、名前とどう向き合っていけばいいのでしょうか。
ここでは、特に気をつけておきたいポイントとして、3つのケースをご紹介します。

まず一つ目に、採用活動に関して、外国人労働者の紹介があります。

近年では、少子化の影響を受けて、外国人労働者が日本で働くということも増えてきています。
音素配列頻度は日本語の名前の間では分散は少ないものの、日本語ではない外国人の名前では分散が大きくなり、バイアスの影響が大きくなることも想定されます。*2

外国人の名前は、日本語の中ではあまり見られない音の並びが多く、日本人が発音しづらいものが少なくありません。
そうなると、脳の情報処理の負荷がそれだけ大きくなり、ネガティブな印象が生じやすくなります。
そのことも考慮したうえで、応募者の能力が適切に評価されるように注意する必要があるでしょう。

二つ目に、求人への応募者が日本人である場合には、キラキラネームにも注意が必要です。

人には、慣れ親しんだものに好意を抱きやすいという認知容易性があります。キラキラネームを見慣れている人は、まだまだ少ないものです。そのため脳への情報処理の負荷は、慣れていない分だけ大きくなってしまいます。
そのことによりネガティブな印象が生じてしまい、採用担当者やエージェント自身に抵抗感が出てきてしまうことが考えられます。
エージェントとしては、差別的な扱いにつながってしまわないように、バイアスによる影響を考慮したうえで適切に能力を評価することが大事です。

そして三つ目が、自社名やサービス名のネーミングの問題です。

先ほどもご紹介したとおり、ネーミング一つで売上が大きく変わるというケースがあります。
それゆえに、その名前を見た人がどう感じるのかということは、しっかりと意識しておく必要があります。
多くの人は、まず名前による印象で判断し、興味を持ったら中身について確認します。
ネーミングで問題があると、中身が良くても敬遠されてしまうということになりかねません。
名前は、少しでも多くの人に認知してもらうための重要な要素です。
名前を見た人、聞いた人がどのような印象を受けるのかを十分考慮して決めるようにしましょう。


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【エビデンス】
*1 「ファスト&スロー」ダニエル・カーネマン著、P41
*2 「どうか名前で判断しないでくださいー名前の印象判断に項目内音韻類似性と音素配列頻度が与える影響」、中山真孝、齊藤智著、認知科学22(3),P456-462
*3 売り上げ急上昇にはワケがある。シンプルだけど示唆に富む「お~いお茶」の物語と今後


【著者】黒田 貴晴
キャリア系マーケター、心理カウンセラー
脳科学や心理学に強いマーケターとして、主にキャリアに関する分野で活動しているほか、心理カウンセラーとしても、コミュニケーションに問題を抱えた方へのサポートも行っています。就職・転職系のメディアやビジネス心理学のメディアでの執筆実績多数。