誹謗中傷を受けた場合の対処法|違法性の判断基準・利用できる法的手続きを弁護士が解説

転職エージェントがサポートしても、すべての求職者の転職がうまくいくとは限りません。思い通りに転職できなかった人は、SNSや口コミサイトなどを通じて、転職エージェントに対する誹謗中傷を投稿するケースがあります。

転職エージェントに対するネガティブな投稿のすべてが、違法な誹謗中傷に当たるわけではありません。しかし、もし違法な誹謗中傷に当たるとすれば、投稿の削除などを求めて適切な対応をとることが大切です。

今回は、転職エージェントが誹謗中傷を受けた場合の対処法につき、違法性の判断基準や利用できる法的手続きなどと併せて解説します。

違法な「誹謗中傷」と正当な「批判」の違いは?

法律上、被害者の名誉権を侵害する違法な「誹謗中傷」は禁止されています。その一方で、正当な「批判」については、表現の自由(日本国憲法21条1項)によって保護されています。

違法な誹謗中傷と正当な批判は、どのように区別されるのでしょうか?

「誹謗中傷」の違法性|名誉毀損罪・侮辱罪・信用毀損罪・不法行為

転職エージェントに対するネガティブな投稿が違法な誹謗中傷となるのは、名誉毀損罪・侮辱罪・信用毀損罪のうち、いずれかの犯罪が成立する場合です。

①名誉毀損罪(刑法230条1項)
公然と事実を摘示して、他人の社会的評価を下げるような言動を行った場合に成立します。

名誉毀損罪が成立する場合、「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」が科されます。

②侮辱罪(刑法231条)
事実を摘示せずに、公然と他人の社会的評価を下げるような言動を行った場合に成立します。

侮辱罪が成立する場合、「拘留または科料」が課されます。

③信用毀損罪(刑法233条前段)
虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて、他人の信用を毀損した場合に成立します。
商品・サービスの品質に関する悪評を流す行為も、信用毀損罪による処罰の対象です。

信用毀損罪が成立する場合、「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」が科されます。

また、上記の各犯罪が成立する場合には、損害賠償請求の対象となる「不法行為」(民法709条)も成立します。

正当な「批判」は保護されるべき|名誉権と表現の自由の調整が必要

他人に対する批判をすべて誹謗中傷として違法化すると、言論への甚だしい萎縮効果が生じてしまいます。表現の自由との関係では、合理的な理由・根拠のある正当な批判は保護されるべきです。

何らかの事実を摘示して行われる批判的な言動については、名誉毀損罪・信用毀損罪との関係で、以下のとおり名誉権と表現の自由の間で調整がなされています。

①名誉毀損罪|公共の利害に関する場合の特例
以下の3つの要件をすべて満たす場合には、名誉毀損罪が不成立となります(刑法230条の2)。
・言動が公共の利害に関する事実に係ること
・言動の目的が、専ら公益を図ることにあったと認められること
・言動において摘示した事実につき、真実である証明があったこと

なお、客観的に真実でない事実を摘示した場合でも、確実な資料・根拠に照らして誤信に相当の理由がある場合には、犯罪の故意が否定されるため、名誉毀損罪は成立しません(最高裁 昭和44年6月25日判決)。

②信用毀損罪
「虚偽の風説を流布」または「偽計」が構成要件であるため、客観的真実に沿った内容の言動であれば、信用毀損罪は成立しません。

違法な誹謗中傷を受けた場合の対処法|利用できる法的手続きは?

転職エージェントに対する誹謗中傷を放置していると、社会的評判の低下や、ひいては顧客からの信頼失墜に繋がってしまいます。

もし自社に対する誹謗中傷を発見した場合は、法的に以下の対応をとることが可能です。必要に応じて弁護士にご相談のうえ、法的手続きを講じてください。

誹謗中傷投稿の削除を求める

誹謗中傷投稿による風評被害を食い止めるには、1日も早く投稿を削除してもらう必要があります。

SNSや匿名掲示板サイトでは、誹謗中傷投稿の削除に関するガイドラインやポリシーを設けていることが多いようです。まずはその内容を踏まえたうえで、投稿を削除すべき理由を詳しく記載して削除申請を行いましょう。

もしサイト管理者が投稿の削除に応じない場合には、裁判所に対して投稿削除の仮処分を申し立てることも考えられます(民事保全法23条2項)。
被害者に著しい損害または急迫の危険が生じるおそれがあることを疎明すれば、裁判所が仮処分命令を発令します。仮処分命令を得られれば、サイト管理者も速やかに投稿の削除に応じるでしょう。

投稿者に対して損害賠償を請求する

違法な誹謗中傷は「不法行為」に該当し、被害者は投稿者に対して損害賠償を請求できます(民法709条)。

損害賠償請求を行う際には、まず内容証明郵便によって、投稿者宛に請求の理由や金額などを通知するのが一般的です。その後、投稿者から返信があれば、損害賠償に関する示談交渉を行います。

もし投稿者が損害賠償に応じない場合には、裁判所に対して訴状を提出し、投稿者を相手に民事訴訟を提起することも考えられます。誹謗中傷投稿が不法行為に該当することや、被害者に生じた損害額などを立証すれば、損害賠償請求を認容する裁判所の判決を得られます。

判決が確定した後、依然として投稿者が損害賠償金を支払わなければ、投稿者の財産に対する強制執行を申し立てることも可能です。

投稿者を刑事告訴する

名誉毀損罪・侮辱罪・信用毀損罪のいずれかの成立が疑われる場合、誹謗中傷の投稿者を刑事告訴することも考えられます。刑事告訴は、最寄りの警察署などで行うことができます。

刑事告訴を受けた警察は、検察と連携して犯罪捜査を行います。その結果、犯罪の嫌疑が固まり、かつ投稿者を処罰すべきと検察官が判断した場合には、投稿者に対する公訴提起(起訴)が行われます。

公訴提起がなされた後、刑事裁判で有罪判決が確定すれば、投稿者は刑事罰に服することになります。

誹謗中傷の匿名投稿者を特定するには?

誹謗中傷投稿が匿名で行われた場合、「発信者情報開示請求」(プロバイダ責任制限法4条1項)を行えば、投稿者を特定できる可能性があります。

発信者情報開示請求は、裁判所に対する仮処分申立てを通じて行うのが一般的です。投稿が違法な誹謗中傷に当たることが明らかであり、かつ申立人が加害者に対する損害賠償請求を予定している場合には、裁判所はサイト管理者やインターネット接続業者に対して、投稿者の個人情報を開示するよう命令します。

なお、2022年10月までには、プロバイダ責任制限法の改正によって「発信者情報開示命令」の制度が導入され、誹謗中傷投稿者の特定がさらに円滑化される予定です。

匿名投稿者から誹謗中傷を受けた場合には、プロバイダ責任制限法に基づく法的措置によって投稿者を特定し、損害賠償請求や刑事告訴に繋げましょう。

まとめ

違法な誹謗中傷に対しては、社会的な問題意識の高まりが近年顕著に見られます。

転職エージェントとしても、自社に対する誹謗中傷に屈しない姿勢を見せることは、顧客を含む社会全体からの信頼を獲得するために重要です。状況に合わせた法的手続きを講じることで、誹謗中傷に対して毅然と立ち向かいましょう。


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【著者】阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
HP:https://abeyura.com/
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