人材紹介業を立ち上げる事業者数は近年増え続けており、未経験から立ち上げを検討する企業も増加傾向にあります。人材紹介事業において必要となる人材紹介契約書は、インターネット上に多くの雛形が用意されていますが、その内容や使い方について悩まれている方も多いのではないでしょうか。この記事では人材紹介の流れを解説するとともに、人材紹介契約書がどの時点で必要とされるのか、どのような内容を盛り込むべきなのかについて解説します。
目次
人材紹介業とは?
人材紹介とは、企業が人材を採用する方法のうちの一つです。人材紹介会社は、顧客である企業が求めている人材をヒアリングし、その人物像にマッチする人材を紹介することで企業の採用活動を支援します。要件に合った人材が見つかり、面接などの選考を通して採用が決定した場合、企業から手数料を受け取ることで収益を得ることになります。
人材紹介業(職業紹介事業)は、国の許認可事業であり、事業を行う場合には職業安定法の規制を受けることになります。事業者は職業安定法をよく理解し、同法に基づいた事業運営をすることが重要です。
よく似ている形態の事業としては人材派遣業が挙げられますが、こちらは労働者派遣法によって許認可されるものであり、本記事で解説する人材紹介とは大きく異なります。人材紹介事業は求職者と求人者のマッチングを行うことで雇用契約の斡旋をするものですが、派遣事業の場合、雇用契約は求職者と派遣会社の間で結ばれるものです。こうした雇用形態の観点から、両者は大きく異なる事業形態であり、各々で異なる事業運営が必要であることが分かります。
人材紹介の流れ
それでは、実際に人材紹介はどのような流れで行われるのでしょうか。企業により細部は異なるものの、大まかには以下のような流れで人材紹介は進行していきます。
1. 契約
2. 企業との打ち合わせ、募集開始
3. 選考実施、内定
4. 入社、報酬支払い
1. 契約
はじめに、顧客となる企業と契約を結びます。このタイミングで必要となるものが人材紹介契約書です。後に詳しく解説しますが、ここで紹介手数料や返金規定に関する条項における認識の擦り合わせを行います。事前の相談対応や見積もり依頼などの業務もこのタイミングで行うことが多いです。
2. 企業との打ち合わせ、募集開始
契約が完了すると、人材紹介会社と企業の間で求める人材像について打ち合わせを行います。両者の間に齟齬が生じてしまうと今後の採用活動に支障をきたす恐れがあるため、後述するヒアリングシートなどを用いて詳細に聞き取りを行うことが重要です。
ヒアリングの後、求人票を作成し人材の募集を開始します。人材紹介会社は自社データベースに登録されている人材の中から求人に沿った人材を見つけ、企業に紹介します。
3. 選考実施、内定
人材紹介会社は、企業と求職者の仲介に入り、書類選考の提出依頼や面接の日程調整などを行います。企業は、人材紹介会社から紹介された人材を実際に採用するかどうかを、書類選考や面接の実施により判断し、最終的に内定を出します。
4. 入社、報酬支払い
求職者が無事に入社したタイミングで、契約書で定めた通りの報酬を企業から受け取ります。入社後一定期間内は、求職者の早期退職などが発生した場合の返金もしくはフリーリプレイスメントによる対応を行う必要が出てくる可能性があります。
人材紹介事業で必要な書類
人材紹介事業を行う上では、人材紹介基本契約書を始めとする幾つかの書類が必要になります。ここでは必ず用意すべきもの、用意した方が良いものの二通りに分けてご紹介します。
必ず用意すべきもの
人材紹介契約書
本記事でも紹介する、人材紹介会社と企業が結ぶ契約が記載された書類です。この契約の締結をもって、人材紹介会社は企業に具体的な人材紹介に向けたサービスを提供します。
求人票
企業との打ち合わせによって得られた、求める人材要件をもとに作成し、求職者に必要な情報をコンパクトにまとめて提示します。この書類には、業務内容や契約期間、賃金など、職業安定法により定められた必須項目を網羅することが必要です。
内定通知書
内定が出た場合、企業から発行してもらう書類になります。後の支払請求を確実に行うために利用され、用意が必要です。
用意した方が良いもの
求人 / 求職者ヒアリングシート
企業、あるいは求職者との打ち合わせや聞き取りを通して得られた情報をまとめた書類です。いずれも用意するかどうかは任意となりますが、ここで得た情報の解像度がマッチングの成功に直結しますので、必要な情報を網羅できるような形式のものを用意しておくことが推奨されます。
見積書
契約を締結する前に、企業から見積もりを求められた場合に使用する書類です。企業にサービスの概要や料金形態を理解してもらい、顧客獲得に繋げるためにも、用意しておくことが推奨されます。
人材紹介契約書の雛形
人材紹介契約書は定められた特定のフォーマットが存在する訳ではありませんが、人材紹介契約書の雛形は人材紹介会社のホームページなどから様々なものを入手することが可能です。以下に一例を示しますので、ぜひ参考にしてください。
【弁護士監修】職業紹介契約書テンプレート|株式会社マネーフォワード
ひな形_人材紹介契約書|株式会社LegalOn Technologies
人材紹介契約書の内容
それでは、契約書の記載内容について詳しく見ていきましょう。前に述べた通り、人材紹介契約書は人材紹介を行う上で必須のものであり、記載しなくてはいけない事項が多くあります。各項目についてしっかりと理解した上で運用できるよう、知識を整理しておくことが必要です。
人材紹介契約書に記載が必要な事項は、主に以下の通りです。ここでは、職業安定法上記載が必要な事項と、その他記載が必要な事項の二つに分けてご紹介します。
職業安定法上記載が必要な事項
取扱職種の範囲等に関する事項
取り扱う職種に関して記載します。職種の範囲、および取り扱う地域に関して明示が必要です。全職種・国内、のような形で規定します。
紹介手数料の算出方法および発生条件に関する事項
人材紹介にかかる手数料を規定します。ほとんどの人材紹介会社では理論年収の30〜35%として設定しています。理論年収とは新年度から年度末までに勤務した場合に想定される年収のことを指し、求人票における想定年収、賞与の合計額として算出することが多いようです。
例えば理論年収600万円の人材を紹介した場合、その報酬は180〜210万円が相場となります。人材紹介会社によってこの設定は異なりますが、一般に紹介する人材のスキルや専門性が高くなるほど手数料率が高くなる傾向にあるようです。また、この手数料率はいくらでも高くできるわけではなく、50%が上限として定められています。
この紹介手数料がいつ発生するかについても、同様に記載が必要です。前述の通り、手数料の支払タイミングは入社日、発生タイミングは採用決定時とするのが一般的です。
手数料返還に関する事項
紹介した人材が早期で退職した場合に返金する手数料に関して規定します。一般的には、退職に至るまでの期間が長いほど返金率が下がるように設定し、保証期間は3ヶ月程度である場合が多いようです。具体的には、入社後1ヶ月未満の場合は紹介手数料の80%、3ヶ月未満の場合は紹介手数料の50%を返金する、といったような記載になります。
また、返金による補償ではなく、代わりの人材を手数料なしで紹介するフリーリプレイスメントを採用する場合もあります。
苦情処理に関する事項
求人者および求職者から苦情があった場合の責任者を記載します。この場合、責任者にあたる人物は厚生労働大臣に届出を行っている職業紹介責任者です。
求人者および求職者の個人情報の取扱いに関する事項
人材紹介は事業を行う上で求人者、求職者からの個人情報を扱うことになるため、個人情報漏洩の防止にかかる管理に関して規定します。職業安定法においても厳格な規制がなされており、遵守が必要です。
その他記載が必要な事項
直接取引の制限に関する事項
前述の通り、人材紹介事業は求職者と求人者を仲介し、雇用契約が成立するまでのフローを支援することで報酬を得る事業です。ここで発生する報酬は決して安いものではないため、紹介会社を通さずに紹介した人材にアプローチし直接雇用契約を結ぶことで支払いを回避しようとする事例も発生する可能性があり、この場合の罰則について規定する必要があります。
人材紹介会社を介さず、直接契約をした場合にも手数料相当の請求が発生すると規定する場合が多いです。
秘密保持に関する事項
人材紹介会社および求人者である企業は、人材紹介の業務を通して互いに営業秘密に関わる情報を共有する場合があります。そのため、そうした情報に関する守秘義務について定めておく必要があります。
反社会的勢力の排除に関する事項
反社会的勢力により企業が被害に遭うことを防止するため、そうした勢力の排除に関して規定しておきます。
合意管轄
人材紹介契約に関して、人材紹介会社と求人者の間に訴訟が発生した場合、どこの裁判所が管轄するかを定めておく必要があります。
電子文書による契約の場合の補足
近年では業務効率化を目的として、電子署名による契約を行うケースが増えてきました。この場合、署名捺印や契約書の保管方法について、電子署名に即した形式で取扱に関する規定をしておくことが推奨されます。
理解しておくべき職業安定法のルール
これまでにも述べたように、人材紹介契約書は職業安定法の規制に即した形で必要事項を網羅する必要があります。契約を結ぶ上で、職業安定法の観点からどのような注意が必要なのか理解しておくことが重要です。ここでは特に重要となる事項をピックアップして紹介していきます。
また、ここでの記載は2023年5月現在の内容であり、今後の法改正により理解すべき事項が増える可能性も十分にあります。法改正におけるポイントを抑え、柔軟に対応していくことも事業を行う上では重要です。
手数料に関する規制
手数料の算出や条件に関する規定は契約書の内容でも紹介しましたが、この手数料の徴収においては事前届出制となっているため、契約書で定めた手数料を厚生労働大臣に届け出る必要があります。また、ここまでは求人者が人材紹介会社に支払う手数料に関わる規定であり、求職者から手数料を徴収することは一部例外を除いて原則禁止されています。
紹介可能な職種に関する規制
契約書で取扱職種の範囲に関する記載をすることについてご紹介しましたが、人材紹介会社は初めからすべての職種について人材紹介を行えるわけではありません。人材紹介事業(有料職業紹介事業)を行うには、厚生労働大臣の許可を受ける必要があります。(同法30条1項)また、事業を立ち上げたとしても湾港運送業務、建設業務は紹介できません。
紹介可能な職種の許可に関しては、以下の記事でより詳細に取り扱っております。ぜひご覧ください。
求人者・求職者に明示すべき事項
人材紹介会社は求人者・求職者に向けて明示すべき内容が定められています。具体的には前述の通りですが、
①取扱職種の範囲
②手数料に関する事項
③苦情処理に関する事項
④個人情報取り扱いに関する事項
⑤返戻金に関する事項
の5点です。
人材紹介契約書の雛形を使用する際の要注意事項
インターネット上で公開されている人材紹介契約書の雛形を使用する場合には、実際に使用する前に注意すべき点があります。ここでは大きく二点に絞ってご紹介します。
収入印紙の貼付は必要か?
結論から言えば、人材紹介契約書では収入印紙の貼付は不要です。
収入印紙とは租税や手数料等の徴収のために政府が発行している証票のことで、貼付が必要になるかどうかは国税庁の判断に依ります。ここで、人材紹介業において収入印紙が必要になるケースは請負に関する契約書になります。
人材紹介契約書では人材を紹介し採用に至るまでのプロセスを確約するものではなく、あくまでそれを支援するサービス提供に関して結ぶ契約にあたるため、請負には該当せず、収入印紙の貼付は不要になります。
より詳しく知るためには以下の記事が有用です。ぜひご覧ください。
リーガルチェックを事前に行う
本記事で紹介したもの以外にも、検索すると様々な雛形が見つかります。これらを利用する場合は、必ず顧問弁護士にこのフォーマットを使用して問題がないかを相談しておきましょう。場合によっては雛形の記載事項が不十分である等の理由から法令違反の契約書を使用してしまうというリスクがあります。作成時点では問題なかったものも、法改正などの影響で現在は使用できなくなっている可能性もあるため、使用においては慎重な判断が必要です。
まとめ
本記事では、人材紹介事業を行う上で使用することになる人材紹介契約書の雛形について解説してきました。
人材紹介は職業安定法の規制を受けるため、同法で定められた事項に即した契約書を用意することが重要になります。どのような事項を記載すべきかをしっかりと理解し、適切なリーガルチェックの手続きを踏んだ上で、自社に合った契約書を用意しましょう。
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