採用コストの削減や採用後のミスマッチ防止は、企業と企業に寄り添うエージェントにとって、とても大きな課題です。
そしてそのような課題解決のためには、「トライアル雇用」という制度の利用を検討することも、ひとつの大きな選択肢になるかも知れません。
採用後のミスマッチを防止できる可能性が上がるだけでなく、最長3か月間の助成金も受給できるので、採用コストの削減も期待できるでしょう。
今回はそのトライアル雇用の特徴と、メリット・デメリットについて解説していきます。
トライアル雇用とは
トライアル雇用制度は、就職が困難な求職者の早期就職を実現することを通じ、雇用機会の創出を図ることを目的につくられた制度です。
就業経験不足や就労期間のブランクがある、病気や障がいがある人、といった幅広い人を対象にしています。
トライアル雇用の特徴は3つあります。

①対象者が決まっている
トライアル雇用の対象者は厚生労働省によって下記のように定められています。*1
以下の要件のいずれかを満たす求職者が対象です。
・紹介日の前日から過去2年以内に、2回以上離職や転職を繰り返している人
・ 紹介日の前日時点で、離職している期間が1年を超えている人
・ 妊娠、出産・育児を理由に離職し、紹介日の前日時点で、安定した職業に就いていな
い期間が1年を超えている人
・ 紹介日時点で、ニートやフリーター等で45歳未満の人
・ 紹介日時点で、就職の援助を行うに当たって、特別な配慮を要する人
生活保護受給者、母子家庭の母等、父子家庭の父、日雇労働者、季節労働者、中国残留邦人等永住帰国者、ホームレス、住居喪失不安定就労者、生活困窮者
➁原則3か月のトライアル雇用期間がある
トライアル雇用は原則3か月と定められています。
企業はこの3か月の間に求職者が採用基準を満たしているかを検討することができます。
3か月間が過ぎて採用基準を満たさない場合には、契約終了です。
トライアル雇用期間満了後、企業に採用の義務はありません。
この点が、トライアル雇用と試用期間の大きな違いです。
一般的な試用期間の場合は、採用時にあらかじめ期間の定めのない契約を結んでいます。
万が一、適性やスキルなどがマッチせず、解雇をしなければならなくなってしまった場合には「なぜ試用期間で解雇をすることになったのか」を具体的に示すことが必要です。
しかしトライアル雇用にはその必要がないため、解雇へのハードルが低くなります。

③企業に助成金が支給される
トライアル雇用の趣旨を理解し、受け入れた企業には「一人当たり最大12万円」が国より助成されます。
助成金を受け取るためには、企業がハローワーク・職業紹介事業者に「トライアル雇用求人」を提出し、これらの紹介により、対象者を原則3か月の有期雇用で雇い入れ、一定の要件を満たすことが必要です。*2
そしてトライアル雇用終了後2か月以内に管轄の労働局に「受給申請書」を提出することで、助成金を受給できます。

https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000497220.pdf
トライアル雇用助成金とは
トライアル雇用の実施により企業が国から受け取れる「トライアル雇用助成金」について説明していきます。
トライアル雇用助成金には「一般トライアルコース」「障害者トライアルコース」「障害者短時間トライアルコース」の3種類がありました。
さらに現在は「新型コロナウイルス感染症対応トライアルコース」「新型コロナウイルス感染症対応短時間トライアルコース」が創設されています。
一般トライアルコース
一般トライアルコースは、障がい者を除き一定期間の就労ブランクがある労働者、紹介日時点でニートやフリーターなどの45歳未満の人、特別な配慮を要する人などを対象に支払われる助成金です。*2
基本的に対象者1人当たり月額最大4万円、最長3か月間支給されます。
対象者が母子家庭の母等又は父子家庭の父の場合は、1人当たり月額5万円、最長3か月間です。
障害者トライアルコース
障害者トライアルコースは、障がい者を対象にトライアル雇用を実施した際に支払われる助成金です。*3
対象者は「障害者の雇用の促進等に関する法律 第2条第1号」に定める障害者に該当する方が対象になります。障害の原因や障害の種類は問いません。
対象者1人当たり月額最大4万円で、最長3か月間支給されます。
ただし精神障害者を雇用する場合は、月額最大8万円を3か月間、その後月額最大4万円を3か月間の支給です。つまり、最大6か月間で36万円となります。
障害者短時間トライアルコース
障害者短時間トライアルコースは、週の所定労働時間を10時間以上20時間未満とし、障害者の職場適応状況や体調等に応じて、同期間中にこれを20時間以上とすることを目指すものをいいます。*3
障害者短時間トライアル雇用制度を理解した上で、障害者短時間トライアル雇用による雇入れを希望している、精神障害者または発達障害者が対象です。
支給対象者1人当たり月額最大4万円で、最長12か月間支給されます。
新型コロナウイルス感染症対応トライアルコース
新型コロナウイルス感染症対応トライアルコース、新型コロナウイルス感染症対応短時間トライアルコースは、新型コロナの影響により離職を余儀なくされた労働者を対象としています。
離職期間が3か月を超え、かつ就労経験のない職業に就くことを希望する求職者を、無期雇用契約へ移行することを前提に、トライアル雇用する事業主に対し、助成金が支給されるというものです。*4

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/newpage_16286.html
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000733802.pdf
トライアル雇用を行うメリットとデメリット
企業がトライアル雇用を利用するときのメリットとデメリットを説明していきます。
トライアル雇用のメリット
トライアル雇用を行うと、企業には3つのメリットがあります。

①求職者の能力や適性を見極められる
履歴書や面接では判断しづらい求職者の適性や能力を事前に見極められることができるのが、トライアル雇用の最大のメリットです。
書類や面接では職務との相性が良いように見えても、実際は合わなかったというケースが考えられます。
逆に就業経験はないものの、呑み込みが早く戦力になるケースもあります。
トライアル雇用の3か月間で、求職者の適性や能力を判断してから正規雇用に繋げられるため、ミスマッチを防ぐことができます。
②人材を確保しやすい
トライアル雇用の場合、企業に期間満了後の採用の義務はなく、さらに助成金が支給されるので、採用に対するハードルを下げることができます。
対象者を経験者だけでなく、未経験者も含めれば、応募者の人数を増やしながら、求職者が自社に適しているかをしっかり見極めてから採用することができるでしょう。
③採用コストを抑えられる
トライアル雇用を導入すると、国から助成金が支給されます。
一般的な採用活動では、広報活動や説明会実施など、多くの支出が発生します。
しかしトライアル雇用では助成金があることで、採用コストを大幅に削減できます。
トライアル雇用のデメリット
トライアル雇用のデメリットはこちらの2つです。

①申請書類の準備に時間と手間がかかる
トライアル雇用を導入するには、所定の手続きを行う必要があります。
計画書類や助成金申請書類の準備が必要となるため、一般求人よりも時間を取られてしまいます。
②人材育成の時間がかかる
トライアル雇用の要件を満たす求職者は、就業経験が少ない人や長期ブランクがある人が対象です。
つまり未経験者の応募も多くなるので、教育や育成に時間がかかる可能性があります。
即戦力を採用する中途採用とは異なる点です。
まとめ
今回はトライアル雇用の特徴と、メリット・デメリットについて解説してきました。
トライアル雇用では、期間中に企業・求職者の相互理解を深めることができます。
未経験採用では、採用コストを抑え、自社にマッチする人材を探すことができるでしょう。
しかし、求める人物像やスキルなどが明確になっている場合には、トライアル雇用だけに絞って採用活動をするのは、必ずしも効果的とは言えません。
企業の求める人材を明確にしたうえで、一番最適な採用方法を探してみてください。
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【エビデンス】
*1厚生労働省「平成31年4月1日から「トライアル雇用制度」 の 対象者を変更しました」
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000642818.pdf
*2厚生労働省「トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)のご案内」
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000497220.pdf
*3厚生労働省「障害者トライアルコース・障害者短時間トライアルコース」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/shougai_trial.html
*4厚生労働省「新型コロナウイルス感染症対応トライアルコース・新型コロナウイルス感染症対応短時間トライアルコース」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/newpage_16286.html

【著者】髙橋 めぐみ
求人情報メディア・人材紹介等の総合的な人材サービスを提供する一部上場企業に勤務。在職中に250社以上の企業を取材し、求人広告の作成等に携わる。その後、教育業界に転職。現在はこれまでの経験を活かし、人材や教育に関する記事を中心にフリーライターとして活動中。