一昔前、面接で、お金や待遇の話はしないほうがいい、というのが「常識」として扱われていた時代がありました。
ところが、年功序列が崩れ、定期的な昇給のない会社も増える中、収入を増やす手段として「転職」が大きな存在感を持つようになると、そのような常識もまた、徐々に変化します。
*
実際、「お金や待遇」を求めて転職する人が最も多いのは、統計的な事実です。
厚生労働省の「令和2年雇用動向調査」において、「定年・契約満了」を除けば、その他の理由は多い順から、
「給料等収入が少なかった」
「職場の人間関係が好ましくなかった」
「会社の将来が不安だった」
「労働時間・休日などの労働条件が悪かった」
となっています。*1
調査によれば、上位は「給与」「将来」「労働条件」など、ほとんどが待遇と職場環境の話であって、「能力を活かせない」とか「仕事の内容に興味を持てなかった」という人は、20代の若手ですら、「給料が低い」よりも数が少ないのです。
なお、このことから、私は転職者の面接をするときに、転職理由として「お金」の話をしない候補者に対しては、敢えて「収入はどの程度重要ですか」とこちらから聞くようにしています。
というのも、ビジネスにおいては相手に「察し」を求めてはならず、「お金の話を言わなければならないシーン」で、お金の話をしっかりできない人を雇ってしまうと、後から必ずもめるからです。
もちろん、中には「お金ではない理由」で転職する人もいます。
「能力を活かせない」とか「仕事の内容に興味を持てなかった」という人は、統計上、合わせて9%くらいの人が該当しますが、存在します。
でも、そういう「仕事好き」は、絶対数が少ない。
「給料が安いので転職を考えました」という志望動機を持っている人が大多数である以上、そうした話を面接でしないこと自体、不自然です。
目次
面接でお金の話をしたがらない企業はヤバいのではないか
とはいえ、転職相談などで未だに、旧態依然の「お金の話はしないほうが良い」というアドバイスが行われているのも、事実です。
なぜそんな話になっているのか。
実際に「ウチはカネが理由で転職してくる人はNGです」という会社の人事に
「なぜですか」と話を聞くと、次のようなことを言います。
- カネのことばかり気にして、熱意が足りないように見える
- どこで働いても良い、と言われたような気がする
- カネにしか興味がない人は、長続きしないのでは
しかしこれらに合理性はありません。
これらは見てわかるように、どちらかというと、見える、気がする、長続きしないと思う、といった、「気持ち」の問題です。
そもそも、カネのことを気にしている人は、熱意が足りない、長続きしないという話には、根拠がありませんし、「給与が高ければどこで働いてもいい」というのは多くの人の、偽らざる本音です。
ここをごまかしても、現状は何も変わりません。
思うに、本質的には「面接でカネの話をするな」という会社は、「ウチは給料が高くない。昇給もあまりない、特徴もない」という自覚を持っている会社です。
つまり、ダメ会社。
給与がもともと高く、従業員に十分な報酬を支払っている会社は、「カネが欲しくて応募しました」という人を、むしろ歓迎します。
「カネが欲しいです」
「おう、じゃしっかり働けよ」
という「頑張れば稼げる」という考え方が、浸透しているからです。
逆に「カネの話をするな」という会社は、そこにたいして、きちんと向き合っていないだけではないでしょうか。それを「熱意」「長続き」という言葉でごまかしているのです。
人事や新規事業の立ち上げなど、本音でやらねばならない仕事が、企業にはたくさんある。
本音と向き合わず、建前ばかりを重視する姿勢は問題です。
そう考えると、「お金の話をしたがらない企業」は、低収益か低成長の会社、あるいは建前や精神論ばかりを重視する会社、要するにダメ会社だと推測できるのです。
ただし「カネが欲しい」という発言は、自己アピールにはならない
したがって、転職する側としては、「面接でカネの話を嫌がらない」というのは、優良企業を見極める一つの手段だと認識してよいでしょう。
しかし、一つ注意点があります。
カネの話は入社前にしっかりやっておくべきですが、「カネが欲しい」という発言は、自己アピールにはならないという点です。
「カネが欲しい」というのは、あくまでも自分の話であって、「私を雇うと、何のメリットがあるか」という、相手にとっての話ではありません。
「志望動機は何ですか」というテンプレ的質問に対して、「カネが欲しかったから」という
返事をするだけでは、「え、それって別にうちにあなたを雇うメリットがないじゃない」と思わせてしまうだけの可能性もあります。
つまり「志望動機は何ですか(うちにもメリットのある話をしてよね)」
というのが、面接官の本音なわけですが、面接官が無能だと、テンプレ的な質問で済ませてしまうことも多く、本当に聞きたいことは言外にある、という状況になりがちです。
つまり、面接官の無能のせいで
「志望動機は何ですか」
「カネです」
というやり取りになってしまうのです。
もちろん、この不毛なやり取りの責任は、面接官にあるのですが、
実際には「聞きたいことが聞けなかった」という面接結果は、面接官ではなく応募者の責任となります。
これはお互いに大変不毛ですので、応募者としては、こうした面接官の無能を先回りして答える必要がある、というのも事実でしょう。
「自分がしたい話の前に、相手が聞きたい話をしなさい」という原則を適用すれば、結果として「お金以外の話をしなさい」というアドバイスになります。
「志望動機は何ですか」というテンプレ質問に込められた意図に先回りする
日本企業(だけではないかもしれませんが)の面接の欠点は、面接官が「質問のプロではない」という点です。
したがって、「志望動機は何ですか」という質問には、字面以上の含みがあると考えて、応募者は先回りした回答をせねば、「不利な状況」となりかねません。
実際、面接官が「志望動機」という質問で、応募者から聞きだしたいのは、
- すぐに辞めないかどうか
- 待遇に文句を言わなさそうか
- この人を雇うメリットは何か
の3点ですから、「カネです」とだけ答えず、月並みですが、次のように回答すると良いと思います。
「最大の理由は、収入を増やしたいからです。(ちゃんとカネの話をする)
加えて、私の経験が御社で活かせそうだから、という事もあります。例えば~(自分を雇うメリットを述べる)」
こうして、自己アピールを差し込めば、「カネ」と「自己アピール」の両方の話ができるので、こちらの要望も伝えながら、面接官の要望も満たすことが可能です。
「採用したい人」だけに許されるカネの話。
ただ、厳しい話ですが、本質的には、「カネの話」が許されるのは、企業が「採用したい」と思った人に対してだけです。
本人の性格や能力・スキルと、企業の求めるものがマッチしない場合は、門前払い、すなわちカネの話以前の問題、と言えます。
そういった事情もあり、転職サイトやアドバイザーの「カネの話は避けたほうがいい」という無難な提言につながるのでしょう。
結局のところ、面接では
企業側は「買い手」として。「どうやって貢献してもらえるのか」が知りたい。
応募者は「売り手」として。「良い待遇が得られるか」が知りたい。
お互いに必要な情報を、十分に出し合うことが、必要なのであって、
どちらか一方の都合を一方的に押し付ける場ではない、といえます。
【無料】人材紹介事業者向けセミナーのアーカイブ配信
現在、人材紹介事業を行っている方はもちろん、
人材紹介事業の起業を検討中の方向けの動画もご用意しております。
求職者集客から求人開拓まで、幅広いテーマを揃えていますので、お気軽にご視聴ください!
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
視聴料 :無料
視聴手順:
①下記ボタンをクリック
②気になるセミナー動画を選ぶ
③リンク先にて、動画視聴お申込みフォームにご登録
④アーカイブ配信視聴用URLをメールにてご送付
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
【エビデンス】
*1 厚生労働省「令和2年雇用動向調査結果の概要」p2
【著者】安達 裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者(http://tinect.jp)/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
Twitter:安達裕哉