フルリモートで本当に大丈夫?就職・転職前に確認すべきこと

働き方改革が進み、働き方の多様性を求める声は日々大きくなっている。

とくにここ数年はコロナ禍の影響でリモートワークの導入が進み、結果的に柔軟な働き方が広がったといえるだろう。

そんな時勢を踏まえ、「フルリモートOK!」なんて求人を目にすることも増えてきた。

転職を考える際、フルリモートはかなり魅力的だ。
企業の所在地を気にせずに応募できるから就職先の選択肢が増えるし、現在リモートワークであれば、ライフスタイルを変えずにそのまま働くことができる。

でもフルリモートって、実際どうなんだろう?
わたしは海外在住フリーランスとして完全リモートワークで働いているが、メリットが大きい反面、やっぱりむずかしいなぁ~と思う部分もある。

広がるリモートワーク、しかし廃止した企業も……

緊急事態宣言の発令もあり、2020年3月、東京商工会議所の会員企業のうちテレワークを実施している企業は67.3%にも上った。*1

数年前まで「日本は遅れている」「なにがなんでも出社させたがる」なんて言われていたことを考えると、大きな進歩だ。

転職サイトでも、リモート特集が組まれていたり、「完全在宅OK!」というタイトルで求人が出ていたりする。

フルリモートであれば、企業は全国(もっと言えば全世界)の人に対して応募の間口を広げられるし、オフィスの維持費も削減できる。

求職者からしても、企業の所在地にこだわらず自分のライフスタイルを優先して仕事を選べるから、win-winだ。

しかし、ご存じだろうか。
コロナ禍の前、時代に先んじてリモートワークを導入した大手企業たちが、こぞって廃止したことを……。

たとえば、リモートワークの先駆けとして先進的な試みを続けていたIBM。モデルケースとして注目されていたが、2017年にリモートをやめ、社員に出勤か退社を選ぶように迫り話題となった。

同じくリモートワークを導入していたアメリカのヤフーも、2013年に、一度リモートワークを廃止している。

コロナ禍でリモートワークが広まりはしたが、実はそれより前は、「リモートワークはやっぱりむずかしい」という結論が出つつあったのだ。

労働者にとっても企業にとっても問題はコミュニケーション不足

リモートワークのデメリットのなかでもよく言われるのが、コミュニケーション問題である。

労働者に対するテレワークのデメリットの調査を見てみると、「勤務時間とそれ以外の時間の区別がつけづらい」「運動不足になる」といった個人の問題に続き、「上司、同僚とのコミュニケーションが不足する」が37.6%となっている。*2

もっと具体的に見てみると、「上司から公平・公正に評価してもらえるか不安」が31.4%、「非対面のやりとりは相手の気持ちがわかりにくく不安」が32.2%、「上司や同僚から仕事をさぼっていると思われていないか不安」が30.2%と、さまざまな心配のタネがあるようだ。*3

企業側の課題でも、「ネットワーク環境の整備」「PC・スマホ等機器の確保」という物理的な問題と僅差で、「社内のコミュニケーション」が55.5%と続く。*4

いっしょにオフィスにいれば自然と起こりうる会話も、リモートワークではなかなか発生しない。机を並べていれば気づくような変化にも気づけないし、気を利かせて先輩が後輩に声をかける機会もぐっと減ってしまう。

そうすると、上司が部下の評価をきちんとできなかったり、プロジェクトメンバー同士の距離が縮まらず協力しづらかったり、困ってもだれにも言えずにひとりで抱え込んでしまったりするだろう。

事実、ヤフーがリモートワーク廃止の通知をするとき、当時のCEOは

最上の職場になるためには、コミュニケーションとコラボレーションが大事。ゆえに、私たちはサイド・バイ・サイドで(机をならべて)働く必要がある。社内にいることが肝要なのだ。*5

日本経済新聞「米ヤフーの在宅勤務禁止論争、日本の企業風土では?

と書き綴ったという。

一方的にクビ!?担当者といい関係を築けなかった結果

実際わたしも、ドイツに住みながら日本の企業からお仕事をいただき、フルリモートで働いている。そしてリモートワークするなかで、コミュニケーション問題に幾度となく直面した。

一番印象的だったのは、一方的にクビを言い渡されたことだろうか。

ライティングのお仕事で納得のいかないことがあり、話し合いの結果、「基本的に記事タイトルはライターがつけるが、わたしは例外的に免除、編集者がタイトルをつける」という約束になった。

その後担当者が代わり、「なんでタイトルをつけていないんですか」と言われたので、「前担当者の方と話がついている」と言ったら、「でもライターの仕事ですよ」とのこと。

その後の話し合いで、引継ぎがまったくされておらずこちらの手間が増えていること、1か月で3人も担当が代わり不信感があることなど、せっかくだから率直な意見をぶつけた。

そうしたら突然「責任者」を名乗る人がチャットルームに入室してきて、「あなたにもう仕事は依頼しません」とクビ宣告。

こっちからしたら、向こうの担当替えがどういうものであったかわからないし、担当者も責任者も知らない人だし、まともな説明もなくクビ宣言なんて、当然納得がいかない。しかもその後、すぐにチャットルームから追い出され話し合いも強制終了。

対面だったら、前担当者から引継ぎの連絡があり、後任から挨拶があり、おしゃべりしながらお互いのことを理解して、うまいことやれたような気がするんだけどなぁ……。

自由出勤なのに出社を選んだのは「面倒だから」

わたしの例はクライアント相手の話だが、コロナの影響で完全リモートワークになった夫も、「しんどい」と言っていた。

最初は「出勤しなくていいの楽だわ~」と上機嫌だったのに、
「メールが面倒でみんな電話するからしょっちゅう携帯が鳴って集中できない」
「気分転換がしたくて、1度電話するとやたらと雑談が長くなる」
「前は決定の過程をある程度把握していたけど、いまは決定してから事後連絡になった」
などなど、少しずつ仕事へのモチベが低下。

その後感染者数を踏まえて自由出勤になり、一部の人は出勤をはじめたが、車通勤できない夫は移動での感染リスクを減らすため、リモートを続けた。

しかし、チーム会議で5人とも同じオフィスにいるのに自分だけリモートだからオンライン会議になったり、新しい上司と直接顔を合わせたことがなくてやりづらかったり、となんだか居心地が悪そう。

結局、新しく入ったインターンの学生がことあるごとに確認の電話をかけてくるため、「面倒くさい」と出勤するようになった。

リモートワークの良さはたくさんあるが、コミュニケーションに限っていえば、対面とは別のむずかしさがあるのだ。

コミュニケーション問題への取り組み=企業の本気度

リモートワークは働き方の選択肢のひとつであり、選択肢は多いに越したことはない。

その選択肢があるからこそ、わたしは海外で日本のクライアントの方々とお仕事できるし、自分のペースで働けているわけだしね。

ただその性質上、どうしてもコミュニケーション問題は起こりがちだ。

わたしはメールに「好きなゲームの発売日なんですよ」とか「犬が太っちゃいました」なんて一言を付け加えたり、「〇〇してくださってありがとうございます」と小さいことにもお礼をいうようにしたり、と自分なりに気を付けているけども。

フルリモートの職場に中途で申し込むのであれば、コミュニケーションをどうとっていくかは、まさに死活問題だろう。

オフィスのように、「ちょっととなりの人に聞く」「コーヒーブレイク中に相談に乗ってもらう」ということができないのだから。

とはいえそれはどの企業も把握しているはずなので、それぞれ対策を講じていると思う。

定期的に上司と面談をするとか、進捗状況を細かくチャットするとか、オンライン会議ではカメラをonにするとか……。

この対策にどれだけ本気かで、その企業が社員たちの働きやすさをどれだけ重視しているか測ることができる、とも言えるかもしれない。

フルリモートOKの転職をするときは、コミュニケーションは普段どのように取っているのか、会話不足にならないためにどんな工夫をしているのか、相談があったら気軽に連絡することは可能なのか……といった部分を、ちゃんと確認しておくといいだろう。

それを聞いて答えに納得しなければ、サテライトオフィスがある企業やリモートワークも出勤も可能な職場を探すなど、また別の選択肢を考慮するのも一つの手だ。

とはいえわたしはいつでも愛犬をモフモフできるリモートワークが大好きなので、コミュニケーション問題が起こらないように留意しつつ、今後も在宅を続けていく所存である。


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【エビデンス】
*1 東京商工会議所「『テレワークの実施状況に関する緊急アンケート』調査結果」p3
*2 日本労働組合総連合会「テレワークに関する調査2020」p14
*3 パーソナル総合研究所「第三回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」p34
*4 東京商工会議所「『テレワークの実施状況に関する緊急アンケート』調査結果」p8
*5 日本経済新聞「米ヤフーの在宅勤務禁止論争、日本の企業風土では?


【著者】雨宮 紫苑
ドイツ在住フリーライター。Yahoo!ニュースや東洋経済オンライン、現代ビジネス、ハフィントンポストなどに寄稿。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。
Twitter:@amamiya9901