待遇の良さから、入社を希望する人が多い大手企業。
しかし、大手であっても、様々な理由で離職する人がいます。
例えば、「大きな組織の歯車である感覚がいやだった」という人もいれば、
「仕事が合わなかった」「出世できそうになかった」という人もいるでしょう。
中には「ルールやしがらみが多すぎて、自分のやりたいことができなかった」
という人も居ます。
そして長い目で見れば、「辞める人」のほうが多数派です。
事実、上場企業であれば、有価証券報告書を見れば、平均勤続年数を調べることができますが、例えばメガバンクなどであっても、平均勤続年数は十数年。
「40年勤めあげる」なんて人は、ほとんどいないのです。
では、大手企業を離れた人はどこに行くのでしょう。
もちろん、大手企業を渡り歩く人も数多くいるでしょうが、中小・ベンチャー・スタートアップに転職する人も居ます。
事実、中小企業庁の統計によれば、大企業から中小企業に転職した人は、2017年時点で約50万人とされています。*1
(ただしこの調査は「300人以上」を大企業と定義しているので、例えば「1000名以上の会社」からそれ以下の人数の会社に転職した人はもっと多いでしょう)
ところがこの「大手企業から中小企業」に転職した時に、問題が発生することがあります。
それまで「普通だった」と思っていたことが、全く普通ではなかったことに気づいて、落胆してしまうことも。
それについて、私が一つ、よく覚えている出来事があります。
*
かつて私が在籍していたコンサルティング会社の一部門は、人員数30名程度、まだ立ち上げたばかりで、ルールや社内の仕組みも整っていない状態でした。
スタートアップのような雰囲気、といえばよいでしょうか。
私は新人研修を2か月ほどで終え、そこに配属されました。
そして初出勤の日、朝8時45分ごろに、メールで指示されたオフィスに行くと、そこには1、2名の事務職の方以外、誰もいませんでした。
皆、客先に出払っていたのです。
仕方がないので、空いている席に座ってしばらく待つと、私と同じような立場に見える人が、2名ほど入ってきました。私は新卒でしたが、年齢からして彼らは中途採用のようでした。
3人で横並びに座り、「どうしたらいいんですかね」といったような表情をお互いにしていたと思います。
9時ぎりぎりになって、オフィスに人が増えてきたのですが、9時を過ぎても、誰も私たちに気を配る人はいませんでした。
「どうしたものかな」
と思い、私はメールに書かれていた担当者の名前を見返しました。
西さん(仮名)という方でした。
私は近くにいた事務員の方に、「今日からここに来るように言われたのですが、西さんという方の席はどこですか」と聞きました。
事務員の方は「新人さん?」と私に言いました。
「そうです。」
「あ、西さんね。」
私は西さんの席まで案内されました。
「おはようございます。」
「安達さん?」
「そうです。」
「えー、どうしようかな、ひとまず座席だよね。空いているとこ、とりあえず座っといて。PCは自分でセットアップできる?」
「はい。」
「じゃよろしく。」
そういって、西さんは自分の仕事に戻りました。
ひとまず、座席周りのことからやるか、と思い、先ほどの事務員さんに私は
「LANケーブルありますか?」と聞きました。
事務員さんは、「たぶんあのキャビネットの中にあると思います。見てみてください。あと、文具もあの辺りにあります。」と教えてくれました。
そして彼女も、仕事に戻っていったのです。
取り残された私は、PCのセットアップと机の掃除をひたすらやりました。
そしてようやく、昼の時間になって、西さんから声がかかりました。
「お昼にいこう」と。
私と一緒に入社した(らしい)2人の中途採用の方も、午前中は放置されていたらしいのですが、私は自分のことで手いっぱいで、気にも留めていませんでした。
そして午後、西さんから簡単なオリエンテーションがあり、
「今日は何もないから、本でも読んでて」と言われました。
そして翌日。
9時にオフィスに行くと、今日もやることはありませんでした。
西さんに声をかけると、「考えときます」とのこと。
少し不安になりましたが、今日はオフィスに昨日よりも人がいたので、「あいさつ回りでもするか」と、挨拶して回りました。
これが良かったようで、翌日から「頼まれごと」が、無事、来ました。
といっても、競合のカタログを見て、ひたすら価格を調査してエクセルに打ち込む、といった
単純作業でしたが。
ところが。
後から分かったのですが、昨日来ていた2人のうちの一人は、二度と会社に来ませんでした。
入社の翌日に辞めてしまったのです。
「入社当日に放置されて、不安になった」という話でした。
*
この出来事。
どのような感想を持ちましたでしょうか。
「ひどい会社だ」とか「受け入れの仕組みが整ってない」とか、いろいろな批判があるでしょう。
しかし、私はあらためて思ったのです。
「何もしなければ、無視されるだけ。仕事は自分から取りにいかねば、何もない。」
ということに。
これを、配属1週間で知ることができたのは、非常に良い経験でした。
……というより、私が世間知らずで、疑問に思わなかっただけなのかもしれませんが。
一方で、初日に辞めてしまった、あの人。
おそらく、不安でいっぱいだった初日に、放っておかれたという状況に、かなり悩んだのでしょう。
彼は「大手」の出身でした。
大手企業で、私たちが経験したような状況は、ほぼあり得ないと思います。
初日にはきちんとしたオリエンテーションがあり、担当もついて、慣れるまではしっかりとフォローしてくれるのでしょう。
自分から「何すればいいですか?」と聞きに行く必要もなく、周りが面倒を見てくれるのだと思います。
そんな彼が、意を決して実行した転職が、期待と大きく違ったことに大きなショックを受けたことは、想像に難くありません。
しかし、コンサルタントとして、多くの中小・ベンチャー・スタートアップを回って見た経験から言えば、
「そういうことはよくある」
としか言えないのです。
中小企業というのは、そもそも「自分から取りに行く」というのが原則であり、前述したとおり、「何もしなければ、何もない。」のです。
雑用も、誰も代わりにやってくれません。
自分でPCのセットアップをし、文房具をそろえ、机の掃除をし、足りないものがあれば聞きに行く。そういう状況に誰も疑問を持ちません。
この記事の表題は
「大企業から中小・ベンチャー・スタートアップに転職した人が気を付けなければならないこと」でした。
そうなのです。
大手と中小・ベンチャー・スタートアップの本質的な違いは、ここにあります。
自分の面倒は自分で見なさい。
聞きたいことがあったら聞きに来なさい。
社内営業をしなさい。
手を動かしなさい。
こういった原則を知らないと、本当に「自分は無視されているのではないか」と不安になると思います。
でもそれは無視をしているのではありません。
リソースの少ない中小というのは、それが「普通」なのです。
大手から出るという意思決定をするときは、そういうことも含めて、今後を考えていったほうが、良いでしょう。
健闘を祈ります。
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【エビデンス】
*1 中小企業庁「2020年版 小規模企業白書」
【著者】安達 裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者(http://tinect.jp)/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。Twitter:安達裕哉