縁故入社からリファラル採用へ…紹介で転職って実際どうなの?

「縁故採用」という言葉は、基本的にネガティブな意味で使われる。
「実力がないくせに」「親の七光り」「お偉いさんの息子だから叱れない」などなど……。

一方、「リファラル採用」という言葉が広まっているように、親族や知人からの紹介で入社することをポジティブに捉え、正式な制度として取り入れている企業もある。

さてさて、紹介で入社するのは「良い」ことなんだろうか、「悪い」ことなんだろうか。

半数以上の企業が取り入れているリファラル採用とは?

Googleで「縁故採用」と入力すると、サジェストワードのトップにくるのが「クズ」。さらに、「禁止」「コネ」「デメリット」などが並ぶ。縁故採用は、ネガティブなイメージとセットのようだ。

しかし「リファラル採用」で検索してみると、「報酬」「トラブル」「合格率」など、またちがったサジェストワードが表示される。このふたつは、似て非なるものらしい。

縁故採用、いわゆる「コネ入社」は、本人の能力や適性に関係なく、「この人が入れろっていうから採用」という採用方法だ。要は裏口入社、ねじ込みである。

一方のリファラル採用は「推薦」という側面をもち、自社で働いている人の推薦や紹介をもとに、ちゃんと採用手順を踏み、適していると思った人が内定を得る。その点で、コネ入社とちがう。

さてさてこのリファラル採用だが、いったいどれくらいの企業が実施しているのだろうか。

調べてみたところ、リファラル採用を導入している企業は、なんと56.1%。しかも、金銭や人事評価など、紹介者にインセンティブが支給する企業が4割もあるとのこと。

「中途採用状況調査(2021年版)」を発表 – 株式会社マイナビ (mynavi.jp)

人口減少により労働人口も減るなかで、よりよい人材を採りたいのはどの企業も同じ。

リファラル採用なら採用コストを減らせるし、仲介者を通してお互いのミスマッチも防ぎやすい。だから、報酬を用意し、積極的に取り入れている企業が多いのだろう。

……と聞くと、企業と求職者、Win-Winな理想的採用方法に思えるのだが。

知人や友人が在籍している企業に転職すると満足度が下がる!?

実は、転職先を決めた理由に「知人や友人が在籍している」を上げている人の仕事満足度が、転職前に比べて下がりやすいというマイナビのデータ転職動向調査2020年版(2019年)がある。

転職先への入社を決めた理由として「会社に将来性、安定性がある」が6.3%、「福利厚生が整っている」が4.7%、「会社の事業内容が魅力的である」が4.3%であることを踏まえると、「知人や友人が在籍している」の3.3%は、決して少なくない数字だ。

しかし、「知人や友人が在籍している」ことを理由に入社を決めた転職者の、なんと17%が「仕事の満足度が下がった」と答えている。

たとえば、「休日や残業時間が適正範囲内で生活にゆとりができる」ことを理由に入社した人の場合、14.4%が満足度が上がり、満足度が下がったのは3.5%だけ。

入社理由として「知人や友人が在籍している」と同割合の「経営者が魅力的である」(ともに3.3%)を見てみても、満足度が上がった人は5.4%、満足度が下がった人は4.3%。

「人間関係で入社先を決めた転職者」が、際立って「仕事の満足度が下がっている」のだ。

友人がいるぶんうまくやれそうなものだが……。
いったい、なぜ満足度が下がるのだろう。

紹介先が合わない、でも断れないジレンマ

理由はきっと、人間関係特有のあいまいさによるものだと思う。
「人脈」はある意味、「しがらみ」でもあるから。

わたし自身、以前ホテリエを目指していたとき、夫(当時の彼氏)の親族の方に高級ホテルのお試し勤務をセッティングしてもらったことがある。

数日間試しで働いて、問題がなければ見習いとして雇ってもらう、という流れだ。

ありがたいお話でウキウキして行ったのだが……1時間で、そのホテルへの印象が最悪になった。

わたしの最初の仕事は、ポーランド人の女性と客室の清掃をすること。しかし彼女はドイツ語をほとんど話せないし仕事も雑で、なにも教えてくれない。

そのうえ、通りがかるドイツ人の同僚は彼女にまったく挨拶せず、「ハロー」と声を掛け合うのは、同じく外国人の同僚だけ。

翌日キッチン担当になったときも同じで、デザートが余ったとき、分け合うのはドイツ人だけで、外国人は無言で皿洗いしていた。

ドイツ語が話せるわたしは、一応「ドイツ人コミュニティ」の一員としてデザートを分けてもらったけど、外国人であるわたしにとってすこぶる居心地が悪かった。

でも紹介されたしなぁ、断る理由が「人種差別っぽい雰囲気」はさすがに言っちゃまずいだろうし……。結局お断りしたが、かなり気まずかった。

「紹介されたから必ず採用する」わけではないように、「紹介されたから必ず入社したい」というわけでもない。

しかし紹介してもらった手前、率直に「働きたくない」とも言いづらいし、理由を素直にいうのもはばかられるし……だれかを介して仕事を見つけるというのは、相応の面倒くささもあるのだ。

インターンから就職するも、話が違うと困惑

実は夫にも、似たような経験がある。

夫は大学在学中の夏休みにインターンした企業にそのままバイトとして残り、卒業後もそこで働く流れになった。

しかし夫が所属していたチームには希望するポストがなく、「別のチームでなら採用したいんだがどうだろう」と打診されたとのこと。

つまり、インターンからずっと在籍していたチームのボスが、人が足りていない別チームのボスに、夫を紹介するという話である。

別チームの人をまったく知らないうえ、バイトで経験した仕事内容とも少しちがう。

でもある程度慣れた仕事場だし、お世話になったボスが仲介してくれるのであれば、そこでもいいかもしれない。第一、就活しなくて済むし。

そう思って、夫は別チームで正規に働き始めた。

しかし、夫は元チームのボスに、「その分野での経験は少ないからまずは勉強させてくれ」と言ったにもかかわらず、新チームは夫のことを、「自力ですべてできる即戦力」だと思って受け入れたらしいのだ。

ふだん仕事の愚痴をほとんど言わない夫だが、そのときばかりは、かなり精神的に参っていた。

「話がちがう」と強く言えば紹介してくれた元チームのボスの顔をつぶすことになるし、かといってすぐに辞めるのもキャリア的によくないし……。

「人間関係」をきっかけに採用・入社を決めると、当然ながら、「人間関係」で悩みやすい。そのリスク・デメリットを理解したうえで、入社すべきなのだ。

リファラル採用に「トラブル」がつきものなのも納得

紹介による採用は「ミスマッチが起こりづらそう」というイメージだったが、実際やってみると、お互い遠慮して正直に話せないことも多い。

恋愛に例えると、イメージしやすいかもしれない。

友だちに紹介されて会ってはみたけど正直微妙……。友だちがいろいろセッティングしてくれて、みんなでディズニーに行くらしいんだけど乗り気じゃない……。でも空気を悪くしたくないし、悪い人ではないから断るのもなぁ……というような。

その結果、モヤモヤしたまま付き合ってしまったり、ずるずるとデートを続けてしまったりすることは、だれにでもありうると思う。

紹介による転職も、それと同じだ。

正直乗り気じゃなかったり、労働条件でハッキリさせたい部分があったりしても、紹介者との関係性を踏まえてなんとなーく流されて働き始めてしまう。でもやっぱり自分とは合わない。

リファラル採用を実施している企業が多くとも、あまり大々的に広まっていないのは、こういったしがらみ問題によるものなのかもしれない。

事実、「リファラル採用」のサジェストワードに「トラブル」が出ているしね。

自分の性格に合った採用方法で転職先を決めるべし

中途採用は職歴や特定の能力が募集要項に含まれることが多いから、条件がマッチするのであれば、紹介は非常に有効でどちらにとってもラクな採用方法だ。

しかししがらみというのは時に、そのメリットを無に帰すほどの面倒くさい事態を引き起こす。

仕事は仕事だと割り切って合理的判断を下せるのであれば、リファラル採用はとても便利だろう。

でも遠慮しがちで自分の意見を主張できない、紹介してくれた人に恩義があって断れない、気になることがあるけど採用前提の雰囲気で聞けない、単純に流されやすい……なんて性格の人には、向いていない。高確率で、後悔することになる。

そうなるくらいなら、転職サイトや転職サービスを使って、ちゃんと条件が合う企業を探したほうがいいと思う。

しがらみがなければ、率直な意見をいえるし、自分の将来を考えて入社を決められる。採用活動・転職活動なんてのは、後腐れないのが一番。

今後長く働くことを考えて、自分に一番合った方法で、転職先を決めること。これが大事だ。

というわけで、わたしは面倒くさがりなので、人間関係ベースのリファラル採用より、すっきり割り切れる転職サービス推しである。


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【著者】雨宮 紫苑
ドイツ在住フリーライター。Yahoo!ニュースや東洋経済オンライン、現代ビジネス、ハフィントンポストなどに寄稿。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。
twitter:@amamiya9901