堅苦しい面接はもうイヤだ…ドイツで経験した「もてなされる面接」

「面接」というと、どんなイメージをお持ちだろうか。

わたしがまず思い浮かべるのは、真っ白い部屋だ。
ドアを開けたらぽつんとひとつパイプ椅子が置いてあって、奥に長テーブルがあり、3つくらいイスが並んでいる。

長テーブル側には、しかめっ面をしたスーツ姿のおじさんたちが並び、手前のパイプ椅子には、背筋をピンと伸ばし、緊張で声が震える学生が座っている。そんなイメージだ。

いや、イメージというより、過去の経験を思い出しているといったほうが正しいかもしれない。

面接というのはどうも堅苦しく、気が重い空間という印象が強い。
みなさんも、そういったイメージを持っているのではないだろうか。

でも改めて考えると、それは妙な話だとも思う。

だって今後一緒に働くのであれば、重苦しい空間より、明るく気楽な雰囲気で話したほうが、印象がいいに決まっているのだから。

採用担当者が「威圧的でない」から入社が36.6%の衝撃

わたしは学生時代、面接がとにかく嫌いだった。
緊張しいなので、面接となると前の日の夜から胃がキリキリするのだ。

答えを用意してきたのにいざ話すと頭が真っ白になって、自分がなにを言っているのかわからなくなる。
次の質問に移っているのに、前の質問で答えが悪かったんじゃないかと引きずって、気持ちが切り替えられない。
笑顔をつくっているつもりだが、うまく笑えてないどころか顔が引きつっている気がする。

とにかく緊張するし、パンプスのせいで足は痛いし、面接会場に入った時点から一挙一動を見張られているようで気が休まらない。だから、面接が大嫌い。

そもそも、なんで面接って堅苦しくてピリピリした雰囲気なんだろう。話しづらいじゃないか。

転職する際の入社決定に強く影響した要素として、選考にかかわった社員(採用担当者・面接官)が「威圧的でない、親しみやすい」の37.5%がトップ。「質問に丁寧に答えてくれる」の36.6%、「誠実、礼儀正しい」の30.2%が続く。

意外なことに、「仕事ができそう」は19.5%、「自社や自分の仕事に誇り・熱意がある」は18.5%しかいない。*1

つまり、「採用担当者が自分にとって良いロールモデルになるか」よりも、単純に「フレンドリーで礼儀正しい人か」のほうが大事で、それが入社決定に大きく影響しているのだ。

面接官が「威圧的じゃない」ことが入社理由のトップになるということは、それだけ「面接は威圧的な雰囲気で行われるのがふつう」と思われているわけで。

いったい、なぜこんなにも日本の面接は堅苦しいのだろう?

1時間、ロビーラウンジで雑談する「面接」

わたしがその疑問をもつきっかけになったのは、ドイツで就職のための面接を受けたことだ。

印象に残っているのは2つ。1つめはホテルで、2つめは旅行会社だった。

ホテルスタッフの面接を受けに行ったとき、まずはバックヤードで人事担当者と10分程度会話し、その後ロビーラウンジに案内された。

そして、人事担当者だけでなく、将来上司になりうる人と、なんだか偉いっぽい男性の4人で、コーヒーを飲むことになったのだ。

コーヒータイムを楽しむほかのお客さんたちと同じように丸いテーブルを囲み、「ドイツの生活はどうだい」「印象に残ったホテルはあった?」など、1時間くらいのんびり雑談。

面接=堅苦しくて緊張するイヤなもの、と認識していたわたしにとって、気楽にいろいろと話せる面接はとても新鮮で、かなりリラックスして話すことができた。

ゆるーい雰囲気のおかげで、「実はドイツ語力が心配なんですが大丈夫ですか」「夜勤ってどれくらいの頻度なんですか」といった、聞きづらいことも聞けた。

将来一緒に働くことになる上司と直接話せたのも、かなりよかったと思う。

面接官がコートをかけてくれるという衝撃体験

旅行会社に面接に行ったときは、またちがった意味で衝撃を受けた。

エントランスの受付で名前を伝え、エレベーターで指定された階へと向かう。エレベーターが開いてびっくり、なんと面接官の方が扉の前で待っていてくださったのだ!

面接室……というより、面接官である男性の個室に案内され、「コートを預かるよ」と言われ、わたしのコートを丁寧にハンガーにかけてくれた。

そのうえ、「紅茶とコーヒーどっちがいい?」と聞かれる。まるでお客様だ。

いっしょに紅茶を飲みながら、「将来のビジョンは?」「心配なことはある?」などいろいろ話し、そのあと「せっかくだから職場を見に行こうか」と社内見学まで。

ひととおり社内を案内していただいたあと、「じゃあ気を付けて」と、エレベーターホールまで送っていただいた。

え、これって面接だよね……?

結果としてわたしは落ちたわけだが、自分が言いたいことをちゃんと伝え、知りたいことを教えてもらい、職場まで見せていただいたうえでの結果なので、「いい面接だった」といまでも思っている。

そして、その企業への印象もとても良くなった。落ちたけど。

偉そうな面接官は、応募者から落とされるご時世

ドイツの面接は、面接官が応募者をふるいにかけるのではなく、「交渉の場」という印象が強い。

お互い選び・選ばれる。だからお互いがアピールし、腹を割って話し、相手のことを理解しようとする。対等な交渉の場なので、面接官が偉そうにふるまったり、堅苦しい雰囲気で問い詰めるようなことは基本しない。

空気をピリピリさせても、交渉におけるメリットはひとつもないからね。

しかし日本の面接は、「企業が選ぶ」という形式になりがちだ。
だからなのか、率直に言って、面接官が偉そうにしていることが多い。

圧迫面接というほどではなくとも、たとえば求職者にはテーブルも用意されずパイプ椅子なのに、面接官はテーブルの上に肘をついて書類を見ていたり、スーツの前を開けている人がいたりする。

実際に応募者がそれをやったら、「マナー違反」として落とすだろう。

でもそれを「失礼なこと」と認識しているのなら、面接官である自分だってやるべきじゃないはずだ。それなのに、面接官側だと、なぜか許される(と思っている)。

面接官だって、選ばれる側なのに。

2022年5月の有効求人倍率は、全国で平均1.24。千葉県、神奈川県、兵庫県、沖縄県以外は1を上回っている。*2

さらに、年々減少しているとはいえ、面接の無断キャンセル率は2019年で16.1%、2021年で7.6%。転職希望者の内定辞退率は、2019年は22.1%、2021年は11%。

たとえ応募した人がいても、10人にひとりくらいは面接に来ないし、それ以上の確率で内定辞退するのだ。*3

企業側が「みんななにがなんでも我が社に入りたいのだろう。必死にアピールしてるなぁ」なんて思っていたら、足元をすくわれる。

10人にひとり以上が内定辞退する現状で、丁寧に受け答えするだけでなく、面接自体をいい雰囲気にしようと努力している面接官って、どれくらいいるのだろう。

面接はお互い選び・選ばれる交渉の場

そもそも面接は、ゴールではない。
その後長く一緒に働く仲間を探す、スタートだ。

お互いが腹を割って話し、相手に期待することを伝え、相手の期待に応えられることをアピールする。その「交渉」の場が、「面接」なのだ。

統計でも、転職の入社決定に影響した選考フローの要素として、「応募・面接後の返信・対応が早い」の34.3%に並び、「会社・業務についての説明がある」の33.8%、「入社日の希望を聞いてくれる」の32.5%が続いている。*4

面接官が一方的に質問を投げかけるのではなく、自分に誠実で親切か、応募者はちゃんと見ているのだ。

労働人口が減り続ける日本は、今後どの分野でも人材確保がむずかしくなるだろう。

現に、2020年は61.9%、2021年は47.6%の人事担当者が「正社員が足りていない」と感じているようだ(コロナ禍なので転職市場は刻々と変化しているが)。*5

そんななか、いままでのような、「企業様が選ぶ堅苦しい面接」では、貴重な戦力たちの心はつかめない。

だれだって、偉そうにふんぞり返って肘ついて話を聞く人より、コーヒーを入れてくれて楽しそうに話を聞いてくれる人といっしょに働きたいと思うものだからね。

なんなら、面接官の態度が悪かったら、転職サイトや企業レビューで低評価がつけられるし、圧迫面接としてSNSで炎上でもすれば、応募辞退が相次いでもおかしくない。

企業にとってだれを採用するかはもちろん大事だが、応募者にとって転職は、自分の人生設計に関わる一大事。当然、かなりシビアに考える。人手不足のところが多いのだから、選び放題だ。

そんななか、緊張するだけの堅苦しい面接は求められていないし、それでは人材を確保できない。

面接を「企業が選ぶ一方的な審査」ではなく、「お互いを理解する交渉の場」と思えるかどうか。今後の人材確保では、そこも大事になりそうだ。


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【エビデンス】
*1 マイナビ「転職動向調査2020年版(2019年)」p17
*2 労働政策研究・研修機構「職業紹介ー都道府県別有効求人倍率
*3 マイナビ「中途採用状況調査2022年版(2021年実績)」p53
*4 マイナビ「転職動向調査2020年版(2019年)」p17
*5 マイナビ「中途採用状況調査2022年版(2021年実績)


【著者】雨宮 紫苑
ドイツ在住フリーライター。Yahoo!ニュースや東洋経済オンライン、現代ビジネス、ハフィントンポストなどに寄稿。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。
twitter:@amamiya9901