未経験者OKの中途採用が減少…副業で経歴づくりを

コロナ禍で、わたしたちの働き方は変わった。

いままでデジタル化に乗り気じゃなかった人たちも、この状況ではそうは言ってられず、なんやかんやリモートワークを取り入れたんじゃないだろうか。

さてさて、そんななかで、転職市場はどうなったのだろうか。

刻一刻と変化する転職市場の動きのなかでもとくに注目したいのは、「未経験可」の転職募集がずいぶん減ったことだ。

「未経験だけど異業種に飛び込んでみよう!」と思っていた人にとって、これは悲報だろう。

もうこの業種では働きたくない、もっと手広くいろんな仕事を手掛けたい、コロナ禍をきっかけに自分のキャリアを見直したい……そんな人たちは、経験者ばかりの募集を片手に、途方に暮れているかもしれない。

そこでおすすめしたいのが、「経験者」になるための「副業」だ。

コロナ禍で未経験OKの中途採用募集が17.9ポイント減少

まず、コロナ禍における転職市場の変化を見てみよう。

「経験者・未経験者ともに中途採用に積極的」な企業は、コロナ禍前の2018年は47.5%だったのに比べ、2021年は29.6%まで大きく落ち込んでいる。

一方、「経験者採用は積極的だが、未経験者採用は消極的」なのは、2018年では37.7%だったが、2021年は45.9%と上昇。*1

いままでは半数の企業が、「経験者でも未経験者でも積極的に中途採用」していたのに、コロナ禍によって、「経験者は採用するけど未経験者の中途採用はちょっと……」という状況になっているのだ。

理由はいくつか考えられるが、やはり大きいのは、未経験中途採用者の育成がむずかしいことだと思う。

リモートワークが推奨される現在、同時に全員を研修できる新卒社員ならともかく、年齢や経歴がちがう中途採用者を、ひとりひとりケアして育てるのはむずかしい。「では経験者を」となるのは、自然な流れだ。

また、コロナ禍で先行きが不透明ななか、即戦力な人に期待したい気持ちもわかる。

事実、転職者より新卒者の採用を優先したい事業所が12.3%なのに対し、転職者の採用を優先したい事業所は35.7%。

事業所規模が小さいほど転職者を優先したい割合が高くなっていることからも、「即戦力がほしい」という傾向が見て取れる。*2

しかし2020年、転職者のうち同業種に転職したのは51.2%で、異業種に転職したのは、なんと48.8%。実は、異業種転職と同業種転職の割合は、同じくらいなのだ。*3

異業種に転職した人がみんな未経験だとはかぎらないが、同業種転職者に比べたら、経験がない・浅い人は多いと思う。その「異業種転職」が、48.8%と約半数を占めるわけだ。

でも転職市場では、「経験がある転職者」がモテるのが現実で、「未経験転職者」にはなかなか声がかからない……。

いままでのように、「未経験で飛び込む」「異業種でチャレンジ」というのは、このご時世、少しむずかしくなっているらしい。

経験を積んでからキャリアスタートはいろんな面で有利

そんななか、転職を成功させるためになにができるのか。
そこでおすすめしたいのが、「経歴づくりの副業」だ。

2018年に副業が解禁されたことで、巷ではにわかに副業ブーム。

経験者優遇の転職市場、副業の浸透・推進を踏まえると、未経験可の数少ない募集を探すより、まず副業でアピールポイントをつくってから転職するのがいいのではないだろうか。

厚生労働省による副業ガイドラインでも、副業・兼業のメリットとして、「本業を続けつつ、よりリスクの小さい形で将来の起業・転職に向けた準備・試行ができる」と、転職準備の側面を挙げているし。*4

わたしの場合、「転職」「副業」とはちょっとちがうが、「経験を積んでからキャリアスタート」の一例として、体験談を少し語ることはできる。

現在ライターとして仕事をしてはいるが、最初は当然、完全なる未経験。
出版者に勤めた経験もなければ、学生時代にフリーペーパーで執筆をした経験もない。

でも文章を書くのは好きだったから、あるとき、ヒマつぶしがてら個人ブログをはじめた。そのときはまだ、ライターとして生計を立てるだなんて思惑はまったくなかったけど。

だんだんと多くの人にブログを読んでもらえるようになり、「もしかして向いてるのかも?」と調子に乗り、投げ銭で友人ブロガーたちのブログに寄稿。

そのうちのいくつかの記事がバズり、それらがわたしの最初の「経歴」となった。

有名サイトに掲載されたり、インフルエンサーに拡散されたりしたら、それだけ営業武器が増える。

それらの経歴をもとに、いくつかのメディアに「記事を書かせてください」と連絡し、そこから少しずつお仕事をいただけるようになったのだ。

ちなみに、投げ銭寄稿と平行して、クラウドソーシングを使って雀の涙ほどの報酬で記事を量産し、「大手サイトでまとめ記事を執筆した」という経歴も一応手に入れておいた。

労働時間に対して低賃金ではあったけど、「このサイトで月100記事書いた」という経験は「たくさん書ける」アピールの武器になったので、やっておいてよかったと思う。

一番最初の完全未経験のわたしでは、ライターとして仕事を受け、それなりの報酬をいただくことはむずかしかっただろう。

でも個人ブログで少しずつ読者を獲得し、投げ銭とはいえ個人ブログに有償で寄稿し、外部ニュースメディアなどに転載され、大手サイトで記事を量産したことで、「(多少なりとも)経験者」として営業できた。

ただ経歴を手に入れただけでなく、自分の書くスピードや得意ジャンルも把握できたし、なによりこの仕事が天職だという確信を得られたのも大きい。

わたしの場合はフリーランスとしての経歴づくりだったけど、これは、転職でも変わらないはずだ。

仕事を探すなら、アピールポイントは多いほうが当然いいし、経験はあるに越したことはない。

そして、「転職するためのアピールポイント」として、副業は最適だと思うのだ。

転職するなら、まず副業で経験するのがおすすめ

副業解禁以降、副業している人はどんどん増えている。

副業実施者は、14年前である2007年の8.1%に比べ、現在は22.1%と右肩上がり。今後も増加が続くだろう。*5

事実、「ダブルワークにぴったり」「隙間時間でできる」といった仕事の募集もよく見かけるようになったしね。

企業としても、「フルタイムで雇うほどの予算はないが、ちょっと手伝ってほしいことがある」というときに、副業希望者はぴったりなのだろう。

しかし、副業する理由は、「収入を増やしたいから」が56.6%と圧倒的で、「転職したいから」はたったの2.3%。*6

いまのところ副業は、「収入のため」というポジションらしい。

でもコロナ禍による転職市場の変化を鑑みると、今後は「転職準備のための副業」という側面も強まっていくんじゃないかと思う。

少しでも経験があったほうが待遇がよくなる可能性が高いし、「完全未経験? 副業などで一度この職種の仕事をやってみようと思わなかったのですか?」と言われる可能性もなくはない。

完全未経験のまま飛び込むより、まず副業などで試してみることで、「本当にやりたいのか」「自分の実力が通用するのか」などを見極められるメリットもある。

もしかしたら、副業を通して自分がもっと楽しいと思える仕事に出会えるかもしれないし、自分に足りない知識や経験を自覚するかもしれない。

転職「後」楽しく働くためにも、完全未経験より、副業などで準備しておくほうが、うまくいく可能性が高いと思う。

やってみて合わなかった、ということも考えられるし。

収入のための副業であればさまざまな条件が気になるが、経歴のための副業であれば、とりあえずいろいろと手を出して経験してみるだけでも十分だろう。

場合によっては、副業がきっかけで転職の道が拓けるかもしれないしね。それならラッキー。

経験者への需要が高まっている転職市場に飛び込むのであれば、実務経験のアピールはかなり重要だ。

いまは完全未経験でも、転職準備として副業を積極的に利用して、「経験者」として転職活動するのは、おおいに「アリ」なんじゃないだろうか。


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【エビデンス】
*1 マイナビ「中途採用状況調査2022年版(2021年実績)
*2 厚生労働省「令和2年転職者実態調査の概況」p13
*3 マイナビ「転職動向調査2021年版
*4 厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」p3
*5 マイナビ「副業希望は本当に増えているのか~過去調査との2時点比較~
*6 厚生労働省「副業・兼業に係る実態把握の内容等について」p10


【著者】雨宮 紫苑
ドイツ在住フリーライター。Yahoo!ニュースや東洋経済オンライン、現代ビジネス、ハフィントンポストなどに寄稿。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。
twitter:@amamiya9901