労働者派遣法とは?違反となるポイントや法律の趣旨を弁護士がわかりやすく解説

労働者派遣事業を営む会社(派遣元事業主)にとって、「労働者派遣法」は最重要というべき法律です。

労働者派遣法のルールを遵守することは、派遣労働者とのトラブルを回避するうえで非常に大切になります。
労働者派遣事業を営む経営者または担当者の方は、直近の改正内容を含めて、労働者派遣法の内容を再確認しておきましょう。

この記事では、労働者派遣法の目的・主なルール・最近の改正点などについて解説します。

労働者派遣法とは?

労働者派遣法は、正式名称を「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」といいます。

労働者派遣法の目的|派遣労働者の保護

労働者派遣法の目的は、「派遣労働者の雇用の安定その他福祉の増進に資すること」とされています(労働者派遣法1条)。

派遣労働者は、期間限定で派遣される、派遣元事業主がマージンを取得するなどの理由から、雇用が不安定となり、また待遇も低く抑えられがちです。

引用:派遣社員WEBアンケート調査|一般社団法人日本人材派遣協会 3頁
https://www.jassa.or.jp/employee/enquete/210119web-enquete_press.pdf

上記は、2020年9月から11月にかけて、派遣労働者に対して行われたアンケート調査の結果です。
このデータによると、派遣労働者のうち77.6%を有期雇用労働者が占め、さらにそのうち79.6%は契約期間が3か月以下であり、派遣労働者の雇用が不安定であることが窺えます。

引用:派遣社員WEBアンケート調査|一般社団法人日本人材派遣協会 4頁
https://www.jassa.or.jp/employee/enquete/210119web-enquete_press.pdf
引用:派遣社員WEBアンケート調査|一般社団法人日本人材派遣協会 5頁
https://www.jassa.or.jp/employee/enquete/210119web-enquete_press.pdf

また、同じアンケート調査において得られた上記の賃金データでは、派遣労働者の大半が時給制であり、2020年の東京都・愛知県・大阪府の平均時給は1,566円、それ以外の地域の平均時給は1,261円であったことがわかっています。
この平均時給により、1日8時間、1年間で240日労働したと仮定した場合、それぞれの地域における年収は以下のとおりとなります。

<東京都・愛知県・大阪府>
1,566円×8×240=300万6,720円

<それ以外の地域>
1,261円×8×240=242万1,120円

このように、賃金の面から見ても、派遣労働者の待遇は総じて低く抑えられていることが見て取れます。

このような派遣労働者の労働環境を改善・確保するため、労働者派遣法によって派遣元事業主・派遣先事業主の義務・責務等に関するルールが定められ、さらに法改正により年々アップデートが重ねられているのです。

労働者派遣法の歴史|規制緩和から規制強化へ

1986年に制定された労働者派遣法は、もともと労働者派遣事業に関する規制緩和を目的としていました。

同法制定以前は、職業安定法44条の労働者供給禁止の規定との関係で、労働者派遣事業を自由に行うことができませんでした。
しかし、人材派遣に関する社会的なニーズの高まりを受けて、1986年に労働者派遣法が制定され、労働者派遣事業が解禁されました。
その後、対象業種の拡大・紹介予定派遣の解禁・派遣期間の延長などにより、労働者派遣事業に関する規制緩和が段階的に進められました。

その一方で、派遣労働者の劣悪な労働環境や待遇などが問題化し、派遣労働者保護の必要性が社会的に強調されるようになりました。
このような社会の潮流を踏まえて、2012年以降は規制強化に舵を切り、派遣元事業主・派遣先事業主の義務・責務などが段階的に強化されました。
現在でも、労働者派遣法における規制強化の流れは続いており、後述する一連の法令改正も、規制強化の一つとして位置づけられます。

労働者派遣法の主なルール

現行の労働者派遣法では、派遣労働者を保護するための各規定が主要な位置づけを占めています。
派遣労働者保護のルールは多岐にわたりますが、その中でも主なルールは以下のとおりです。

・派遣労働者の労働条件に関する法定の事項を、労働者派遣契約の中で明記すること(26条)
・派遣先事業主が、派遣労働者の国籍、信条、性別、社会的身分、正当な行為などを理由として、労働者派遣契約を解除することは認められないこと(27条)
・派遣先事業主が、労働者派遣契約を解除する場合、派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置を講じること(29条の2)
・「同一労働同一賃金」(30条の3。後述)
・派遣元事業主が派遣労働者を雇用する際、賃金の額の見込みなど、待遇に関する事項等を説明すること(31条の2)
・派遣元事業主は、同一の派遣先に対して、同一の派遣労働者を3年以上派遣してはならないこと(35条の3、40条の3。いわゆる「3年ルール」)
・派遣先事業主は、派遣労働者からの苦情処理・教育訓練・福利厚生施設の利用などを通じて、適正な派遣就業の確保を行うこと(40条)
など

労働者派遣法に関する最近の法令改正ポイント

労働者派遣法に関しては、派遣労働者に関する実態や社会背景などを踏まえて、年々法令改正が行われています。
以下では、最近の重要な改正事項である2020年4月施行の「同一労働同一賃金」について解説するとともに、2021年に順次施行された省令・指針の改正内容を紹介します。

【2020年4月1日施行】同一労働同一賃金

「同一労働同一賃金」とは、いわゆる「正社員」(無期雇用・フルタイム労働者)と、そうでない労働者の間の不合理な待遇差を禁止するという考え方です。

2020年4月1日に各種の労働関係法令の改正法が一斉に施行され、以下の労働者について、同一労働同一賃金による保護が明文化されました。

・パートタイム労働者(パート・アルバイトなど)
・有期雇用労働者(契約社員など)
・派遣労働者

同一労働同一賃金の考え方は、基本給のみならず、賞与・退職金・手当・福利厚生・教育訓練などのあらゆる待遇に対して適用されます。

派遣労働者の待遇は、派遣先の正社員の待遇に合わせて決定されるのが原則です(労働者派遣法30条の3第1項)。
派遣先の正社員との間で不合理な待遇差が生じている場合には、派遣労働者は派遣元事業主に対して、待遇差の是正(賃金の補填など)を請求できます。

【2021年1月1日・4月1日施行】省令・指針の各種改正

2021年には、派遣法施行規則その他の省令や、派遣元事業主・派遣先事業主を規制する各種の指針において、いくつかの改正が施行されました。

いずれも細目的な事項ですので、ここでは改正の概要を簡単に紹介するにとどめます。

<2021年1月1日施行>
①教育訓練およびキャリアコンサルティングの内容について、派遣元事業主が派遣労働者に対して、雇い入れ時に説明することが義務付けられた(労働者派遣法施行規則25条の14第2項)

②労働者派遣契約を、書面の代わりに電磁的記録により作成することが認められた(e-文書省令※別表2)
※厚生労働省の所管する法令の規定に基づく民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する省令(平成17年厚生労働省令第44号)

③派遣先事業主が派遣労働者の苦情を処理する際には、既存の裁判例や中央労働委員会命令の内容に留意し、特に労働関係法令上の義務に関する苦情については、派遣先事業主が主体的に対応すべきことが明記された(派遣先指針※第2の7)
※派遣先が講ずべき措置に関する指針(平成11年労働省告示第138号)

④日雇派遣において、労働者の責に帰すべき事由以外の事由によって労働者派遣契約が解除されたとき、派遣元事業主は、新たな就業機会を確保できない場合でも、休業等により雇用の維持を図り、かつ休業手当の支払いなどの労働基準法上の責任を果たすべきことが明記された(日雇指針※第2の5)
※日雇派遣労働者の雇用の安定等を図るために派遣元事業主及び派遣先が講ずべき措置に関する指針(平成20年厚生労働省告示第36号)

<2021年4月1日施行>
⑤派遣元事業主が雇用安定措置を講ずる際、派遣労働者の希望を聴取し、その結果を派遣元管理台帳に記載することが義務付けられた(労働者派遣法施行規則25条の2第3項、31条)

⑥マージン率など、派遣元事業主から派遣労働者に提供することが義務付けられている情報について、インターネットの利用その他の適切な方法により情報提供することが義務付けられた(労働者派遣法施行規則18条の2第1項、派遣元指針※第2の16)
※派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針(平成11年労働省告示第137号)

まとめ

労働者派遣事業を営む場合、労働者派遣法における規制内容を正しく理解することが不可欠です。

労働者派遣法のルールに関する理解に漏れがあると、派遣労働者との間でトラブルを生じる原因になりかねません。
今一度、労働者派遣事業に適用される法令上のルールを再確認し、法令に沿った形で安定した事業運営が行われるように努めましょう。


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【著者】阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。専門はベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
公式ホームページ:https://abeyura.com/
Twitter:@abeyuralaw