派遣会社を起業したい場合 違反にならないよう知っておかなければならない注意点

労働者派遣事業を起業するにあたっては、様々な手続きが必要であるだけでなく、許可要件が定められています。

また、派遣労働者との契約のあり方などについては最初のうちに徹底しておかなければなりません。トラブルが起きたときに「契約のずさんさ」を理由に裁判などで不利になる場合も出てきます。

責任者を立てることや就業規則の作成、保険資格の確認、派遣労働者との契約など、必要な実務について本コラムで解説していきます。

労働者派遣事業の起業許可要件

労働者派遣事業を起業するには、厚生労働大臣の許可が必要です。そして最初の有効期限は3年、その後の更新は5年単位となります(図1)。

図1 労働者派遣事業の許可までの流れ(出所:厚生労働省「労働者派遣事業の許可制について」)
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000633822.pdf p1

許可にあたっては「欠格事由」が存在します。

例えば刑法犯罪などで刑を受けてから5年を経過していない、過去に労働者派遣事業の許可取消の処分を受けている、などに該当すれば許可は下りません*1。

また、職業紹介予定派遣事業の場合は、これに加えて以下の要件を満たすことが追加されます。

  • 申請者が十分な財産的基盤を持っていること
    =負債総額を控除した資産総額が、1事業所あたり500万円
  • 個人情報管理のために必要な措置を講じること(求職者と求人者・求人企業の情報を個別に管理すること)
  • 申請者の適性

そして、職業紹介予定派遣をする場合もそうでない場合も、派遣労働者100人につき1人の派遣元責任者を選任しなければなりません。

もちろんこの責任者になるのにも、未成年者ではないことなど一定の要件があります。

労働者派遣事業を行うことができない業務もある

申請者が欠格事由に該当しなくても、以下の業務では労働者派遣をしてはならないことが法律で定められていますので注意してください。

  1. 港湾輸送業務
  2. 建設業務
  3. 警備業務
  4. 病院等における医療関係業務(障害者施設や老人ホームに設置された診療所は可)

違反件数の多い契約業務

さて、許可が下りたとしても、厚生労働省の調査では多くの労働者派遣事業所が違反状態になっていて、指導を受けた項目がいくつかあります。

厚生労働省が平成28年~30年度に指導監督をした労働者派遣事業所を無作為抽出し、違反内容とその割合をまとめたのが下の図です(図2)。

図2 労働者派遣事業所に対する指導状況(出所:厚生労働省「労働者派遣事業の許可制について」)
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000633822.pdf p7

違反理由で最も多いのは「就業条件等の明示」で、次いで「派遣元管理台帳」「派遣契約締結の際の記載事項」となっています。
なお、許可を得た労働者派遣事業所と職業紹介事業所の情報はすべて厚生労働省のサイト上で公開され、検索できるようになっています*2。

行政処分の内容も当然記載されます。

よって、違反で行政処分を受けることのないよう、細心の注意が必要です。

違反の多い項目について説明していきます。

就業条件等の明示

あらゆる労働契約について、就業条件の明示は最も重要と言えるでしょう。労働者派遣も同様です。

就業条件契約があいまいであったために、後にトラブルから訴訟に発展することは少なくありません。

労働者用の就業(労働)条件通知書の様式を厚生労働省が作成しています(図3)。

図3 労働条件通知書の様式 (出所:厚生労働省「労働者派遣事業関係業務取扱要領 様式集」)
https://www.mhlw.go.jp/general/seido/anteikyoku/jukyu/haken/youryou_2020/dl/15.pdf

契約期間、就業場所、始業・就業時刻や賃金の計算方法など、詳細を明示する必要があります。

そして、場所や就業場所を変更する場合には、かならず労働者の同意を得た上で、変更する旨の書面を発行しなければなりません。

コロナ禍で派遣先企業の意向を受けてテレワークとなる派遣労働者もいますが、その場合にも就業条件の変更手続きが必要です。

派遣先企業から時々残業を求められる、というようなことがある場合には、残業が発生する可能性がある旨、そして上限時間など詳細に記載しましょう。

残業代の支払いをめぐって訴訟、ということもありえます。明示しておかなければ、労働者派遣事業所側が不利になってしまいます。

また、近年では「同一労働同一賃金」が強調されています。留意しておきましょう。

なお、派遣元企業の取り分である「マージン率」の公開も義務になっています。そしてマージン率も事業所情報として、厚生労働省のサイト上で公開されます。

マージン率とは、このように計算されます。

(派遣料金の平均額 ー 派遣労働者の賃金の平均額)÷ 派遣料金の平均額

一般労働者派遣事業者のマージン率はこのように推移しています(図4)。参考にしてください。

図4 一般労働者派遣事業者のマージン率の推移 (出所:厚生労働省「マージン率等の情報提供について」)
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000634367.pdf p2

派遣元管理台帳とは

次に多かった違反である「派遣元管理台帳」についてです。

派遣元企業は派遣労働者1人ごとに作成し3年間保存しなければなりません。

派遣労働者それぞれについて、契約期間や就業日、就業時間、業務の種類や責任程度などについて詳細に管理しなければならないというものです(図5)。

また、派遣労働者からの苦情が出た場合はその内容とどう対処したかなども書き加えていかなければなりません。

図5 派遣元管理台帳の例 (出所:厚生労働省「派遣元管理台帳(例)」
https://www.mhlw.go.jp/content/000594088.pdf

派遣契約締結の際の記載事項

労働者派遣事業所が派遣労働者との間に交わすのは労働契約です。一方で派遣元企業と派遣先企業の間では労働者派遣契約を結ぶことになりますが、上記厚生労働省の調査では、その内容の不備という違反も多いようです。

労働者派遣契約では就業時間や業務の内容、派遣料金を明確にするだけでなく、以下の項目についても取り決めが必要です。

  • 安全、衛生に関する事項
  • 損害賠償規定
  • 機密保持
  • 契約解除規定
  • 遅延損害金

などがあります。詳しくは厚生労働省のサイトに掲載されています*3。

この契約内容にあいまいさがあると、派遣先企業から一方的に契約を解除されたり、業務上の過失について不当な損害賠償を求められることに繋がってしまいます。

派遣労働者を保護する観点からも、可能な限り詰めた協議をしておく必要があります。

就業規則と社会保険・労働保険

さて、許可が下り、就業条件、管理台帳、派遣契約と進めてきて次に必要なのは「就業規則」と「保険加入資格の有無の確認」です。

就業規則

10人以上の労働者を有する企業には就業規則を定め、労働基準監督署に届出をすることが義務づけられています。労働者派遣事業所も同じです。

また、就業規則の作成・変更にあたっては労働者の過半数を代表する者の意見を聞かなければならない、とも規定されています。

とはいえ、派遣労働者の場合、業務などの取り決めが派遣先企業によって異なります。

よって、派遣労働者との労働契約、派遣先企業との派遣契約どちらとも矛盾しない就業規則を作らなければなりません。

厚生労働省の「モデル就業規則」を参考に作成していくのが良いでしょう*4。

逆に言えば、労働契約と労働者派遣契約は、就業規則を上回る詳細さが必要です。

社会保険の被保険者資格を確認

社会保険は基本的には、派遣労働者であっても強制加入です。

ただし、以下の場合を除きます*5。

  • 2か月以内の期間を定めて使用される者(契約更新により引き続き雇用される場合は除く)
  • 日々雇い入れられる者
  • 季節的業務に使用される者
  • 臨時的事業の事業所に使用される者
  • 国民健康保険の事業所に使用される者

上記の期間を超えて、かつ所定労働時間が派遣元企業の社員の約3/4以上になるときは、派遣元企業で社会保険の加入手続きが必要になります。

本人が加入するかしないかを選べるのではなく、強制加入である点に注意が必要です。

また、社会保険の被保険者資格があるかどうかを、派遣先企業に通知しなければなりません。

労働保険の被保険者資格を確認

労働保険には、労災保険と雇用保険があります。

労災保険は、1人でも社員がいれば適用事業所となり、派遣元企業がその保険料を全額負担しなければなりません。

また、雇用保険の場合は、

  • 1週間の所定労働時間が20時間以上 かつ
  • 31日以上引き続き雇用されていることが見込まれる

場合には、被保険者となります。

雇用保険の保険料の負担は、労働者派遣事業所と派遣労働者で1/2ずつとなります。

契約更新のあり方によっては被保険者となるかどうかが異なりますので、最寄りのハローワークに相談すると良いでしょう。

まとめ

ここまで、派遣会社を起業するに当たっての基礎知識を紹介してきました。

派遣会社は派遣労働者なくして成立しませんし、派遣先企業なくしても成立しません。双方に対し誠実でかつ詳細な取り決めが必要です。

実際の運用の場では、片方を立てれば片方が立たず、ということが出てくるのは珍しいことではありませんが、どちらかだけの言いなりになるわけにもいきません。

また双方への対応力が低い場合、直接雇用のアルバイトにした方が良い、とそれぞれに考えられてしまい、事業が成り立たないということもあるでしょう。

加えて、法改正ごとに開示しなければならない情報の範囲や、守らなければならないことが漸時増えています。

多くの手続きがありますが、最新の法に照らして違反とならないよう注意してください。


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【エビデンス】

*1 厚生労働省「労働者派遣事業を適正に実施するために-許可・更新等手続マニュアル- 05欠格事由」
https://www.mhlw.go.jp/content/000738709.pdf

*2 厚生労働省「人材サービス総合サイト」
https://jinzai.hellowork.mhlw.go.jp/JinzaiWeb/GICB101010.do?screenId=GICB101010&action=initDisp

*3 厚生労働省「労働者派遣契約」
https://www.mhlw.go.jp/general/seido/anteikyoku/jukyu/haken/youryou/dl/7.pdf

*4 厚生労働省「モデル就業規則について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/model/index.html

*5 e-GOV法令検索「厚生年金保険法」第十二条
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=329AC0000000115


【著者】清水 沙矢香
2002年京都大学理学部卒業後、TBS報道記者として勤務。
社会部記者として事件・事故、科学・教育行政その後、経済部記者として主に世界情勢とマーケットの関係を研究。欧米、アジアなどでの取材にもあたる。
ライターに転向して以降は、各種統計の分析や各種ヒアリングを通じて、多岐に渡る分野を横断的に見渡す視点からの社会調査を行っている。
Twitter:@M6Sayaka