個人事業を法人化すべきタイミングは?税金・保険料から見たシミュレーションを弁護士が解説

個人事業が軌道に乗り、売り上げが増えてきた場合、法人化のメリットが大きくなってきます。

法人化を検討する際には、多様な観点からメリット・デメリットを比較する必要がありますが、とりわけ節税などの経済的な観点からのメリットに注目する方が多いのではないでしょうか。

そこで今回は、法人化のメリット・デメリットを大まかにご紹介したうえで、税金・保険料の観点から経済的なシミュレーションを行い、個人事業を法人化するボーダーラインを探ってみたいと思います。

なお、具体的な税額・保険料額の検討については、税理士その他の専門家にご相談ください。

個人事業を法人化するメリット・デメリット

まずは、個人事業を法人化するメリットとデメリットについて、大まかに解説します。

<法人化のメリット>
①事業の信用力が向上する
銀行などの金融機関や、取引先からは、個人事業よりも法人の方が信用を得やすいメリットがあります。
特に事業を急速に展開したい場合には、融資が受けやすくなる・大口の取引先を獲得しやすいといった点で、早期に法人化をするメリットが大きいでしょう。

②節税等に繋がる場合がある
売り上げが一定のボーダーラインを超えると、税金・保険料などの経済的な観点から、法人が個人事業よりも有利になります。
詳しくは後述のシミュレーションをご参照ください。

③間接有限責任により、オーナーの責任が限定される
株式会社または合同会社であれば、会社の債務はあくまでも会社だけが負担し、原則としてオーナーが会社の債務を支払う必要はありません。
仮に取引先から巨額の損害賠償を請求された場合でも、個人事業を法人化していれば、オーナーは出資額の限度でのみ損失を被るにとどめられます。

<法人化のデメリット>
①会計事務が煩雑になる
法人の決算は、個人の確定申告とは別に行う必要があります。
作成すべき書類の種類も増えるので、会計事務が煩雑になってしまう点はデメリットといえるでしょう。

②税務調査の可能性が上がる
個人事業に比べて、法人は税務署による税務調査が行われる可能性・頻度が上がることが知られています。
もちろん、クリーンな会計・税務処理を心がけていれば問題ありませんが、税務調査への対応自体にも労力がかかるため、デメリットの一つといえます。

③設立コストや法人住民税がかかる
法人を設立する際には、登記費用・定款作成費用などのコストがかかります。
また、赤字であっても法人住民税の均等割(7万円)が発生するなど、個人事業よりも経済的に不利になる場合があります。
ただし、長期的に見れば法人の方が有利になるケースも多いので、総合的なシミュレーションを行うことが大切です。

経済的な観点から考える法人化のタイミング

法人化をするかどうかは、多様な観点からメリット・デメリットを比較して判断すべきです。

しかし、実際には節税などの経済的なメリットを理由に、法人化を検討している方が多いかと思います。

そこで、以下の設例を用いて、個人事業を法人化すべきタイミングについて考えてみましょう。

<設例>
・東京都北区在住
・35歳(介護保険は加入不要)
・扶養家族なし
・年間所得(売上-経費)1,200万円
・iDeCo加入(月額6万8,000円)
・青色申告する(電子申告により、青色申告特別控除65万円)
(上記以外の所得控除等はないと仮定)
・個人事業税の課税なし(法定業種非該当)
・国民年金第1号被保険者
・東京都北区の国民健康保険加入(前年の総所得金額等は、本年と同じと仮定)

個人事業の場合の税金・保険料シミュレーション

まずは、法人化前の個人事業の段階における、各種税金・保険料の金額を試算してみましょう。

①所得税+復興所得税
{(1,200万円-48万円-81万6,000円-65万円)×33%-153万6,000円}×1.021
=181万9,238円
参考:
所得税の税率|国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm
※48万円は所得税の基礎控除

②住民税
(1,200万円-43万円-81万6,000円-65万円)×10%+5,000円
=101万5,400円
参考:
特別区民税・都民税(住民税)|東京都北区
https://www.city.kita.tokyo.jp/kurashi/zekin/jumin/index.html
※43万円は住民税の基礎控除

③国民年金保険料
1万6,610円×12か月
=19万9,320円
参考:
国民年金保険料|日本年金機構
https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/hokenryo/20150313-02.html

④国民健康保険料
63万円+19万円
=82万円(上限)
参考:
保険料の試算と計算方法(国民健康保険)|東京都北区
http://www.city.kita.tokyo.jp/kokuhonenkin/kurashi/hoken/kokuminnhoken/nofu/kesan.html

総額:385万3,958円

上記はシンプルなケースですが、個人としての税金や保険料を計算するだけでも、たくさんの前提を置いて複雑な計算をしなければなりません。

実際には民間の保険や小規模企業共済へ加入していたり、ふるさと納税をしていたりするケースもあるでしょうから、その場合はさらに計算が複雑になります。

法人化した場合の税金・保険料シミュレーション

次に、個人事業を法人化した場合の税金・保険料を試算してみます。

その前提として、以下の各点について追加・変更します。

・年間所得1200万円を、個人600万円・法人600万円に分散
・iDeCoの掛金を月額2万3,000円に変更(国民年金第2号被保険者の上限)
・国民年金第2号被保険者に変更(厚生年金・社会保険)
・個人としての事業所得はなし(役員報酬は給与所得扱い)
・法人は青色申告する(電子申告により、青色申告特別控除65万円)
・法人は東京都北区に本店を有する、資本金300万円の株式会社とする

法人化による節税メリットを得るには、個人・法人間で所得を分散することが必須になります。
また、iDeCoや公的保険への加入についても、取り扱いが変更になるので注意しましょう。

①所得税・復興所得税
{(600万円-48万円-164万円-27万6,000円)×20%-42万7,500円}×1.021
=29万9,459円
※個人事業所得はないため、青色申告特別控除は受けられない
※164万円は給与所得控除
参考:
給与所得控除|国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1410.htm

②住民税
(600万円-43万円-164万円-27万6,000円)×10%+5,000円
=37万0400円

③厚生年金保険料(個人・会社の負担額を合計)
9万1,500円×12か月
=109万8,000円
※標準報酬月額は50万円
参考:
令和3年度保険料額表(令和3年3月分から)|全国健康保険協会
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/shared/hokenryouritu/r3/ippan/r30213tokyo.pdf

④健康保険料(個人・会社の負担額を合計)
4万9,200円×12か月
=59万0400円
※標準報酬月額は50万円
参考:
令和3年度保険料額表(令和3年3月分から)|全国健康保険協会
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/shared/hokenryouritu/r3/ippan/r30213tokyo.pdf

⑤法人税
(600万円-65万円)×15%
=80万2,500円
参考:
法人税の税率|国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm

⑥法人事業税
400万円×3.5%+(600万円-65万円-400万円)×5.3%
=21万1,550円
参考:
【法人事業税】2 税率は|東京都主税局
https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/kazei/houjinji.html#ho_02_02

⑦法人住民税
(600万円-65万円)×7%+7万円
=44万4,500円
参考:
【法人都民税】2 税率は|東京都主税局
https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/kazei/houjinji.html#ho_03_02

総額:381万6,809円

このシミュレーションでは、法人化により給与所得控除が得られ、さらに個人・法人間の所得分散によって実効税率が下がるなどのメリットが生じました。

しかし、社会保険料が50万円以上増額となり、またiDeCoの掛金上限が減ったため、結果的には個人事業よりも4万円弱の節税等にとどまりました。

したがって、経済的な観点のみに着目した場合、個人事業を役員1人で法人化する前提であれば、粗利益1200万円程度がボーダーラインになると考えられます。

ただし、個人事業を法人化すると、家族を役員として役員報酬を支給するなど、さらなる節税策を講じることができるようになります。

こうした節税策を駆使すれば、法人化のボーダーラインはもう少し下がることになるでしょう。

まとめ

個人事業を法人化するかどうかは、事業主の方にとって大きな選択となります。

節税などの経済的な観点については、税理士などの専門家に相談しながら、個々の状況に応じて適切にシミュレーションを行ってください。
また、それ以外にも法人化に当たって検討すべきポイントは存在するため、法人化を経験した経営者仲間などに話を聞いてみることも有効です。

ご自身が納得できる選択・判断ができるように、柔軟な視点で法人化のメリット・デメリットを検討しましょう。


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【著者】阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。専門はベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
HP:https://abeyura.com/
Twitter:@abeyuralaw