転職をしたいけれど、会社に対して退職の意向をなかなか伝えることができない・・・
そのように考える人が、特に若手世代の間で増えています。
転職エージェントとしては、スムーズな転職を実現するために、候補者の退職についても可能な限りサポートしてあげたいところです。
候補者に対して退職代行サービスの利用を勧めるのも一つの選択肢ですが、退職代行には弁護士法との関係で注意すべき点があるので、エージェントとして正確な知識を備えておきましょう。
今回は、退職代行サービスと非弁行為の関係性を踏まえたうえで、転職エージェントが合法の退職代行業者を見極める際のポイントなどを解説します。
目次
退職代行サービスの利用者は増加傾向
上記のグラフは、2020年の転職者1500名(比較対象として、2019年の転職者1500名)を対象として行われた、退職代行サービスの利用に関するアンケート調査の結果を示しています。
同グラフによると、2020年の転職者全体に占める退職代行サービスの利用経験者の割合は8.7%で、2019年の5.0%から3.7ポイント増加しています。
年代別では、男性の20代・30代による積極的な利用が顕著です。
退職代行サービスを利用しようと思う理由としては、2020年の転職者全体で見ると、以下の4つが30%以上の回答を集めています。
- 上司に退職意向を伝えるのが億劫(50.7%)
- 会社に引き留められるのが面倒(41.8%)
- 会社・上司に伝えるのが怖い(39.5%)
- 会社に申し訳なくて言い出せない(31.8%)
これらの調査結果からは、退職について会社とコミュニケーションをとることを負担に感じている若手社員が、退職代行サービスを積極的に利用するようになってきたという傾向が見て取れます。
退職代行サービスの弁護士法上の問題点
退職代行サービスには、弁護士法72条に定められる「非弁行為の禁止」との関係で注意すべき点があります。
弁護士法で禁止される非弁行為とは?
「非弁行為」とは、弁護士または弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で、法律事件に関する法律事務を業として取り扱うことをいいます。
もし退職代行業者の行為が、上記の「法律事件に関する法律事務の取り扱い」に該当する場合には、非弁行為として違法となるので注意しなければなりません。
退職代行と非弁行為の関係性
弁護士または弁護士法人だけが取り扱うことのできる「法律事件に関する法律事務」とは、以下の2つの要件を満たす事務であると解するのが通説的な見解です。
①法的な争いが具体化または顕在化している事件に関係すること
②具体的な法律上の効果を発生、変更する事項の処理であること
退職代行の場面では、労働契約の終了に伴う潜在的な労使間トラブルのリスクが現に存在するため、①の「法的な争いが具体化または顕在化している事件に関係すること」の要件を満たすと考えられます。
このことを前提とすると、退職代行業者が取り扱うことのできる事務は、②の「具体的な法律上の効果を発生、変更する事項の処理であること」に当てはまらないものに限られます。
さらにかみ砕いて言えば、「退職希望者と会社の間での調整」をしていると見られる行為はすべて非弁行為であり、弁護士法違反に当たるのです。
退職代行業者は何ができる?何ができない?
非弁行為の禁止との関係で、退職代行業者は何ができて、何ができないのかについて、具体例を挙げて検討してみましょう。
なお、仮に転職エージェントが自ら退職代行の役割を担うことを想定している場合にも、考え方は同じなので、弁護士法上認められる業務範囲を常に意識して行動してください。
退職代行業者ができること
退職代行業者ができるのは、「退職希望者・会社間の意思の伝達」のみです。
たとえば、退職代行業者が以下の行為に限定して業務を行う場合には、非弁行為には当たらず、弁護士法に違反しないものと考えられます。
・退職届を持参して、会社の人事担当者などに届ける
・口頭、電話、メール、書面などで「従業員Xが退職したいとの意向を示している」と会社に伝える
・「会社が退職の段取りについて話し合いたいと言っている」と退職希望者に伝える
など
退職代行業者ができないこと
上記の内容からもわかるように、退職代行業者は、
「退職希望者の言っていることを、会社にそのまま伝えること」
または
「会社の言っていることを、退職希望者にそのまま伝えること」
のどちらかしかできません。
この限度を超えるような行為、たとえば以下のような行為については、弁護士法72条で禁止されている非弁行為に該当する可能性が高いでしょう。
・退職日の調整を行う
・未払い残業代の支払い交渉を行う
・退職条件に関する和解交渉を行う
など
違法な退職代行業者と提携することのリスク
近年ではコンプライアンスの重要性が盛んに議論されていますので、企業不祥事はとにかく世間の厳しい目に晒されがちです。
そのため、提携している退職代行業者が非弁行為によって摘発された場合、転職エージェントがクライアント企業・転職希望者の双方から信頼を失うことに繋がりかねません。
また、退職代行業者に対する捜査などの一環として、クライアント企業や転職希望者に対する事情聴取が行われるなど、具体的な迷惑をかけてしまうおそれもあります。
こうした事態を防ぐため、退職代行業者との提携を検討している転職エージェントの方は、退職代行業者の業務内容を事前にきちんと確認することが大切です。
状況により弁護士という手段も
退職代行に関する非弁行為の問題については、退職代行自体を弁護士に依頼するのが根本的な解決策になります。
弁護士には、単に会社に対して退職の意思を伝達することだけでなく、未払い残業代の請求や退職条件の交渉など、退職にまつわるさまざまな調整を併せて依頼できます。
シンプルに「すぐ辞めたい」「退職の意思を伝えてくれるだけでいい」という場合でも、弁護士によっては退職代行のみでの依頼を受け付けているケースもあるので、一度相談してみるとよいでしょう。
まとめ
退職の意思をなかなか会社に伝えられずに悩んでいる転職希望者に対して、転職エージェントがサポートできることは限られています。
どうしても退職の段取りが調わない場合には、せめてものサポートとして合法の退職代行業者や弁護士を紹介できるように、関連する業者とネットワークを構築しておくとよいでしょう。
特に、退職代行業者を転職希望者に対して紹介する際には、非弁行為に当たるような業務を行っていないかどうかを、コンプライアンスの観点から厳しくチェックしてください。
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【著者】阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。専門はベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
HP:https://abeyura.com/
Twitter:@abeyuralaw