人材紹介会社が「就職お祝い金」を支払うことは禁止!職業安定法指針の変更点を弁護士が解説

人材紹介会社(転職エージェント)が、内定・就職の際に「就職お祝い金」を支給することを謳って転職希望者を募集する例が、以前はよく見受けられました。

しかし、2021年4月1日から職業安定法に基づく指針が改正され、「就職お祝い金」の支給が原則禁止となりました。
人材紹介会社は、「就職お祝い金」の支給禁止に関する指針改正の内容を踏まえて、自社の広告などに関する取り扱いを見直しましょう。

今回は、職業安定法指針の改正に基づく、「就職お祝い金」支給の禁止に関するルールの概要を解説します。

「就職お祝い金」とは?

「就職お祝い金」とは、転職先が決まった人に対して、人材紹介会社からお祝い金等の名目で支払われる金銭などのことです。

人材紹介会社が「就職お祝い金」を支払うのはなぜ?

人材紹介会社が転職者に対して「就職お祝い金」を支払うのは、自社に仲介を依頼する転職希望者を増やして、手数料収入をアップさせるためです。

人材紹介会社(職業紹介事業者)には、求職者と会社(求人者)の間で雇用契約が成立した時点で、会社(求人者)から紹介手数料が支払われます。
紹介手数料の水準はまちまちですが、おおむね額面年収の25~35%程度となるケースが多いようです。

たとえば、年収400万円の条件で雇用契約が成立した場合、人材紹介会社の受け取る紹介手数料は100万円~140万円程度になります。
そのうちの一部、たとえば10万円~20万円程度を求職者にキックバックするというのが、「就職お祝い金」の本質です。

求職者から見れば「就職お祝い金をもらえて嬉しい」となるかもしれませんが、その裏では、人材紹介会社がさらに大きな利益を上げることができます。
「就職お祝い金」は、いわば人材紹介会社の広告宣伝費として、自社の売上をアップさせる目的で求職者に支払われる実態がありました。

2021年4月1日から「就職お祝い金」の支給が原則禁止に

しかし、2021年4月1日に職業安定法に基づく指針が改正され、「就職お祝い金」の支給が原則として禁止されました。
考:職業安定法に基づく指針|厚生労働省

「就職お祝い金」の支給が禁止される理由は?

職業安定法に基づく指針によって、「就職お祝い金」の支給が禁止されるに至った理由としては、主に以下の2点が挙げられます。

①職業紹介事業の質を向上させるため
人材紹介会社には、求人を行う会社と求職者のマッチング技術を高めるなどして、職業紹介事業の質を向上させることが求められます。

求職者に対して登録を勧誘する際にも、本来であれば、自社のサービスの質の高さをアピールすべきところです。
しかし「就職お祝い金」など、いわばお金で求職者を釣るようなやり方をしていては、サービスを向上させて求職者を集める取り組みは期待できなくなってしまいます。

「就職お祝い金」が原則禁止とされた背景には、人材紹介会社が正しい経営努力を行い、サービスを向上させることを促す目的が存在します。

②人材紹介会社と求職者が結託して、転職を繰り返すことを防ぐため
人材紹介会社は、仲介によって雇用契約を成立させるたびに、求人を行う会社から紹介手数料を受け取ることができます。
このことを利用して、「就職お祝い金」を支給することを誘い文句に、1人の求職者を短期間で何度も転職させ、その回数分紹介手数料を受け取るビジネスモデルが、一部に見受けられていました。

このような人材紹介会社の行為は、求人を行う会社に対するモラルハザードであるのと同時に、労働市場における需給調整機能を歪め、労働者の雇用の安定を阻害する悪質なものであると言えます。
「就職お祝い金」の支給が原則禁止とされた理由の一つには、こうした不正行為の温床となるおそれがあることも挙げられます。

禁止される「就職お祝い金」の支給に該当する行為の例

職業安定法に基づく指針によって支給が禁止されるのは、社会通念上相当と認められる程度を超える金銭等です。

「就職お祝い金」という名目に限らず、たとえば「交通費」などの名目で金銭が支給された場合についても、指針違反に該当する可能性があります。

また金銭以外に、図書カード・プリペイドカード・決済アプリの残高などについても、支給が禁止される「金銭等」に該当する可能性があるので注意が必要です。

「社会通念上相当と認められる程度」とは?

職業安定法に基づく指針の規定によると、「社会通念上相当と認められる程度」であれば、「就職お祝い金」を支給しても問題ないように読み取れます。

しかし、「社会通念上相当と認められる程度」が具体的にいくらなのかについては、明確な基準が存在しないのが実情です。
「5万円程度ならよい」「10万円程度ならよい」などという見解が聞かれることもありますが、俗説なので鵜呑みにしてはいけません。

今回の指針改正の趣旨に照らすと、たとえ少額であったとしても、求職者に対して金品を支給すること自体が、黒に近いグレーであると言うべきです。
人材紹介会社としては、コンプライアンスの観点から、求職者に対する金品の支給は、一切避けた方が無難でしょう。

指針に違反して「就職お祝い金」を支給したらどうなる?罰則は?

職業安定法に基づく指針に違反して「就職お祝い金」を支給した場合、厚生労働大臣による指導および助言を受ける可能性があります(職業安定法48条の2)。

しかし、改善命令・勧告・公表措置(同法48条の3)まで認められると解するのは、条文解釈上困難と思われます。

また、厚生労働大臣や都道府県労働局による報告要求(同法50条1項)や立入検査(同条2項)については、条文上実施される可能性があるものの、実際に行われるかどうかは現時点では不明です。

刑事罰については、報告要求や立入検査を拒否した場合などに科される可能性がありますが(30万円以下の罰金。同法66条7号、8号)、その他の罰則規定は適用されないものと考えられます。

このように、「就職お祝い金」の不正支給に対しては、厚生労働大臣による指導・助言を除くと、どのような規制が行われるかは不透明な状況となっています。
したがって、今後の実務の運用を注視する必要がありますが、思わぬ形で行政上のペナルティを受けることを予防するためにも、「就職お祝い金」の支給禁止に関するルールの遵守をお勧めいたします。

まとめ

「就職お祝い金」の支給を禁止する指針改正に対応して、各求人サイトでも「就職お祝い金」を謳った求人広告の掲載が停止されています。

人材紹介会社が、健全かつ安定的に事業を成長させていくためには、今回の指針改正の内容を含めて、職業安定法関連規制のアップデートに対応していくことが必要です。

法改正等の動向についてアンテナを張りつつ、コンプライアンスに留意して人材紹介ビジネスを運営していきましょう。


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【著者】阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
HP:https://abeyura.com/
Twitter:@abeyuralaw