転職希望者を勧誘する誇大広告は法律違反の可能性も 注意すべき表現は?

人材紹介会社は、クライアント企業の求人広告を、自社運営のメディアやメールなどで無数に配信しています。
また、転職希望者の登録を募集する際には、新聞・テレビ・ウェブメディアなどに広告を掲載するケースもあるでしょう。

広告である以上、一定の脚色がなされることは仕方がありませんが、あまりにも実態とかけ離れた誇大広告は、景品表示法違反に該当する可能性があるので注意が必要です。

今回は、景品表示法の広告規制との関係で、人材紹介会社が注意すべき誇大広告の表現などについてまとめました。

誇大広告は景品表示法違反に当たる可能性あり

不当景品類及び不当表示防止法(略称:景品表示法)5条では、消費者を誤導するような広告表現を禁止しています。

景品表示法によって禁止される広告表現のうち、主なものは「優良誤認表示」と「有利誤認表示」の2つです。

①優良誤認表示
以下の表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのあるもの
・商品やサービスの品質・規格その他の内容が、実際の商品やサービスよりも著しく優良であると示す表示
・商品やサービスの品質・規格その他の内容が、事実に相違して、競合他社の商品やサービスよりも著しく優良であると示す表示

②有利誤認表示
以下の表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのあるもの
・商品やサービスの価格その他の取引条件が、実際の商品やサービスよりも著しく有利であると一般消費者に誤認される表示
・商品やサービスの価格その他の取引条件が、競合他社の商品やサービスよりも著しく有利であると一般消費者に誤認される表示

人材紹介会社においても、転職希望者を勧誘するための広告を行うケースがあるかと思います。
その際、ターゲットの転職希望者から見て、サービス内容や条件の実態とはかけ離れた誇大広告を打ってしまうと、景品表示法違反に該当するおそれがあるので要注意です。

優良誤認表示・有利誤認表示に当たるおそれのある広告表現の例

人材紹介会社が広告を行う際に、問題になりやすい優良誤認表示・有利誤認表示の表現例を紹介します。

優良誤認表示の広告表現の例

「担当者による24時間365日の充実サポート!」
転職希望者が24時間365日のサポートを実質的に利用できる体制が整っていない場合は、優良誤認表示に該当します。
サポートを受けられない時間帯や状況がある場合には、その例などを挙げた免責事項を記載しておくべきでしょう。

「有名上場企業への内定率は業界No.1!」
数値に基づく適正な比較をしていない場合には、優良誤認表示に該当します。
どのような比較を行ったうえで「No.1」と判断したのかを明らかにするため、具体的な統計データ等を示すべきでしょう。

有利誤認表示の広告表現の例

「月給40万円以上!超高待遇の希少求人」
採用されたら必ず月給40万円以上を受け取れるのでなければ、有利誤認表示に該当します。
たとえば「月給40万円以上も可能」などと修正したうえで、どのような条件を満たせば月給40万円に到達するのかを明示すべきでしょう。

「〇〇(求人サイト名)限定!有名上場企業Aの管理職ポジションの募集」
他サイトにも同様の求人が掲載されている場合には、有利誤認表示に当たります。
求人を行うクライアント企業との間で、独占的に求人広告を掲出する内容の契約を締結しているなどの事情がない限り、このような広告表現は避けるべきです。

景品表示法違反の誇大広告に対するペナルティ

優良誤認表示や有利誤認表示に当たる誇大広告は、消費者庁による「勧告・公表」「措置命令」「課徴金納付命令」の対象となります。
公表措置が行われた場合や、措置命令や課徴金納付命令が発出された場合、人材紹介事業の運営に大きな悪影響が生じるおそれがあるので、誇大広告には十分注意しなければなりません。

勧告・公表

事業者には、優良誤認表示や有利誤認表示を防止するための体制整備等が義務付けられています(景品表示法26条1項)。

事業者が正当な理由なく上記の措置を講じていない場合、内閣総理大臣の委任を受けた消費者庁は、事業者に対して必要な措置を講ずべき旨の勧告をすることができます(同法28条1項)。
事業者が勧告に従わない場合、その旨が事業者名称と併せて公表される可能性があるので注意が必要です(同条2項)。

措置命令による広告差止め

内閣総理大臣の委任を受けた消費者庁は、優良誤認表示や有利誤認表示に当たる広告を行った事業者に対して「措置命令」を行う権限を有します(景品表示法7条1項)。
措置命令の内容には、広告の差止めや再発防止策の実施などが含まれます。

措置命令に違反した者に対しては「2年以下の懲役または300万円以下の罰金」が科され、併科される場合もあります(同法36条1項、2項)。
また、法人の代表者・代理人・従業者のいずれかが措置命令に違反した場合、法人にも「3億円以下の罰金」が科されるので要注意です(同法38条1項1号)。

売り上げの3%に当たる課徴金納付命令

優良誤認表示や有利誤認表示に当たる誇大広告が発覚した場合、内閣総理大臣の委任を受けた消費者庁は、誇大広告を行った事業者に対して「課徴金納付命令」を発しなければなりません(景品表示法8条1項)。

課徴金額は、課徴金対象期間における売上の3%です。
課徴金対象期間は、誇大広告の掲載が開始された日から、掲載終了後6か月以内の最終取引日まで、最大3年間とされています(同条2項)。

なお、優良誤認表示や有利誤認表示に当たる広告を掲出した事実を、消費者庁に対して自発的に報告した場合には、課徴金が半分に減額されます(同法9条)。

誇大広告による景品表示法違反を犯さないための予防策

景品表示法に違反する誇大広告の掲出を未然に防ぐためには、掲出前の広告ドラフトにつき、ダブルチェック・トリプルチェックを行う体制を整備すべきです。
少なくとも、まず現場担当者レベルでチェックを行い、次に法務・コンプライアンス担当者がチェックを行う二段階の確認体制を整えましょう。
これらのチェックに加えて、顧問弁護士等による三段階目のチェックを経ることも考えられます。

また、景品表示法の広告規制に関する知識を社内に浸透させるため、従業員研修を実施することも効果的です。
特に、広告の掲出に関わる部署に所属する従業員に対しては、定期的に景品表示法に関する従業員研修を実施するとよいでしょう。

まとめ

人材紹介会社が、登録希望者に向けた勧誘広告や、クライアント企業の求人広告を行う際には、景品表示法違反の優良誤認表示や有利誤認表示に気を付けなければなりません。

景品表示法違反を犯すと、消費者庁から勧告・措置命令・課徴金納付命令等を受け、人材紹介事業の運営に多大な悪影響が生じるおそれがあるので要注意です。

広告表現に関する社内のチェック体制を充実させつつ、従業員研修等を通じた社内啓発の取り組みも行い、誇大広告によるトラブルの予防を図りましょう。


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【著者】阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
HP:https://abeyura.com/
Twitter:@abeyuralaw