求職者の経歴詐称、転職エージェントが取り得る予防策を弁護士が解説

クライアント企業に紹介した求職者の経歴詐称が発覚した場合、転職エージェントの信用問題になりかねません。
そればかりでなく、手数料の返還や損害賠償などを巡って、クライアント企業との間で紛争に発展する可能性もあるので要注意です。

転職エージェントとしては、求職者の経歴詐称を見抜けるように努めるとともに、クライアント企業との人材紹介契約において、経歴詐称のリスクを適切に分散しておくことが大切です。

今回は、転職活動において経歴を詐称することの法的な問題点や、経歴詐称の問題に対する転職エージェントの予防策や対処法などをまとめました。

求職者にありがちな経歴詐称の例

求職者は、応募先企業からの印象を良くするため、主に以下の経歴詐称を行うケースがあります。

① 学歴の詐称
卒業した大学・大学院や、留学経験などを詐称することがあります。

② 職歴の詐称
前職の会社や、担当していた業務などを詐称することがあります。

③ 前科の隠蔽
刑事裁判で有罪判決を受けたことを、応募先企業から確認されたにもかかわらず隠ぺいすることがあります。

転職活動で経歴を詐称することの法的な問題点

転職活動で経歴を詐称することは、各種の犯罪に該当し得るほか、内定取り消しや解雇の対象となる可能性があります。

各種犯罪に当たる可能性あり

転職活動における経歴詐称は、以下の犯罪に該当する可能性があります

① 軽犯罪法違反
学位や官公職の職歴を詐称した場合、軽犯罪法違反によって「拘留または科料」に処されます(軽犯罪法1条15号)。

② 文書偽造罪
経歴詐称のために、応募先企業に対して提出する書類を偽造した場合、公文書偽造罪(刑法155条1項)または私文書偽造罪(刑法159条1項)が成立します。
※公文書の例:国公立学校の卒業証明書
※私文書の例:私立学校の卒業証明書

法定刑はそれぞれ、公文書偽造罪が「1年以上10年以下の懲役」、私文書偽造罪が「3か月以上5年以下の懲役」です。

③ 詐欺罪
資格や職歴を詐称して、本来は受給資格がない資格手当や職能手当などを受給した場合、詐欺罪(刑法246条1項)に当たる可能性があります。
詐欺罪の法定刑は「10年以下の懲役」です。

内定取り消し・解雇の対象となる

入社前の段階で経歴詐称が発覚した場合、内定取り消しの対象になります。
最高裁昭和54年7月20日判決(大日本印刷事件)では、内定取り消しの要件を以下のとおり示しているところ、経歴詐称は要件を満たす可能性が高いからです。

① 採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であること

② 採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができること

また入社後の段階でも、経歴詐称が懲戒事由または解雇事由に該当する場合には、それぞれ懲戒解雇・普通解雇の対象となります。

ただし、経歴詐称が重大なものでない場合には、内定取り消し・解雇が認められないことがあります。

転職エージェントは経歴詐称の調査義務を負うのか?

転職エージェントの立場としては、たくさんいる求職者が経歴詐称をしていないかどうか、逐一確認するのは難しいケースが多いでしょう。

転職エージェントが経歴詐称の調査義務を負うかどうかは、クライアント企業との間の人材紹介契約の内容次第です。一般的には、そこまで突っ込んだ調査が義務付けられるケースは少ないと考えられます。

ただし、調査が契約上義務付けられているかどうかは別として、求職者の経歴詐称が発覚した場合、転職エージェントはクライアント企業からの信頼を失ってしまう可能性があります。
また、経歴詐称によって紹介した転職者が短期間で解雇された場合、人材紹介契約の規定に基づき、手数料の一部を返還しなければならないケースが多いでしょう。

結局、求職者の経歴詐称が発覚すると、クライアント企業との間でトラブルの原因になることは避けられません。
そのため転職エージェントとしては、経歴詐称によるトラブルを見据えて、できる限りの予防策を講じておくべきでしょう。

経歴詐称のトラブルを回避するため、転職エージェントが取り得る予防策

求職者の経歴詐称を完全に見抜くことは、転職エージェントにとって困難と言わざるを得ません。

そのため、一定の確率で経歴詐称は起こり得ることを前提に、クライアント企業の間で深刻なトラブルになることを回避するため、以下の予防策を講じておくことをお勧めいたします。

求職者にチェックリストを提出してもらう

転職エージェントが求職者の経歴等を確認する際には、単に口頭で確認するだけでなく、確認内容を書面やデータに残しておきましょう。
特に、経歴詐称が問題になりやすい以下の事項については、求職者自身に記載してもらったうえで、本人が記載したことの証拠を残しておくことが大切です。

・学歴
・職歴
・前科の有無 など

経歴に関する確認を行ったことの証拠が存在すれば、転職エージェントとしても、人材紹介契約上求められる水準の調査を尽くしたと説明しやすくなります。

クライアント企業との人材紹介契約を見直す

人材紹介契約上、経歴詐称に関して、転職エージェントに過度な調査義務が課されている場合には、契約内容を見直す必要があるかもしれません。

自社で利用している人材紹介契約のひな形を改定するとともに、見直し後の内容で契約の新規締結や更新ができるように、クライアント企業との間で交渉を行いましょう。

経歴詐称のトラブルに発展した場合、転職エージェントが取るべき対応

万が一、紹介した求職者との間で経歴詐称が発覚し、クライアント企業との間でトラブルに発展してしまった場合には、落ち着いて以下の対応を取りましょう。
調整・対応が難しい場合には、弁護士を代理人とすることも一つの選択肢です。

クライアント企業と和解協議を行う

求職者の経歴詐称に関して、クライアント企業からは、手数料の返還や損害賠償の請求を受けることが想定されます。

転職エージェントとしては、自社が法的にどこまでの義務を負うかを分析したうえで、クライアント企業との継続的な関係性を踏まえつつ、適切な和解案を模索する必要があります。
クライアント企業の反応も見ながら、できる限り穏便な解決の実現を目指しましょう。

必要に応じて法的手続きを利用する

経歴詐称問題の解決に関して、転職エージェントとクライアント企業の主張が乖離している場合には、民事調停や訴訟などの法的手続きの利用も検討すべきです。

① 民事調停
客観的な立場にある調停委員の仲介の下、和解を目指す手続きです。裁判官が提示する調停案に両当事者が同意すれば、調停成立となります。

② 訴訟
公開法廷で両当事者が主張・立証を尽くし、裁判所が判決によって結論を示す手続きです。あまりにも両当事者の主張がかけ離れており、和解が見通せない場合に利用するのがよいでしょう。

ただし、調停や訴訟に発展した場合、クライアント企業との取引を継続できる可能性は低くなってしまうでしょう。
転職エージェントとしては、どのような対応が自社にとって最善であるかを、中長期的なビジネスの観点から適切にご判断ください。


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【著者】阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
HP:https://abeyura.com/
Twitter:@abeyuralaw