人材採用に当たって不当な差別はNG|職業安定法に違反する行為・事業者の注意点を弁護士が解説

職業安定法では、本人の適性や能力とは関係のない事柄によって、人材採用の選考上差別的な取扱いをすることが禁じられています。企業に対する社会の監視が強まる中で、差別を禁ずる職業安定法のルール・考え方を理解しておくことは、事業者にとって非常に重要です。

今回は、職業安定法に違反する不当な差別行為の例や、事業者が職業安定法違反を犯さないための注意点などをまとめました。

職業安定法における「均等待遇」のルール

職業安定法3条は、職業紹介や職業指導などについての差別的な取扱いを禁止しています。禁止されている差別の例としては、以下の事項を理由とする場合が挙げられています。

・人種
・国籍
・信条
・性別
・社会的身分
・門地
・従前の職業
・労働組合の組合員であること
など

それ以外にも、本人の適性や能力とは関係がない事柄により、採用選考上不利益に取り扱う行為は職業安定法違反です。

採用選考等において、職業安定法に違反する差別的な取扱いを行った場合、厚生労働大臣による指導・助言・改善命令・公表措置の対象となります(同法48条の2、48条の3)。

差別的な質問はNG|不適切な採用選考の実態とは?

厚生労働省では、ハローワークの把握している採用選考の実態に関して、上記の円グラフを公表しています。

同円グラフによると、2020年度に採用応募者から「適性・能力以外の事項を把握された」と指摘があった797件のうち、家族に関することを質問された例が46.9%を占めています。
それ以外にも、思想・住宅状況・本籍や出生地に関する質問を受けた例が多数あったとのことです。

これらの事例は氷山の一角であり、実際にはさらに多くの不適切・差別的な質問が、採用選考の場で行われているものと考えられます。

採用選考において行うべきでない不適切な質問の例

以下に挙げる質問は、本人の適性や能力と関係がなく、採用選考における不当な差別に繋がり得るものです。
そのため、採用選考を行う事業者は、このような質問を差し控えるように努めなければなりません。

①本籍や出身地などに関する質問
本籍・出身地・居住地歴などに関する質問は、いわゆる「部落差別」などに繋がるおそれがあるため不適切と言えます。

②住居や周辺環境に関する質問
住んでいる場所によって、本人の経済状況や「育ち」などをある程度推測できることがあります。しかしこのような事柄は、仕事に関する本人の適性や能力とは関係がないため不適切な質問です。

③家族に関する質問
家族の職業・収入・家庭の雰囲気・家族関係などに関する質問は、仕事に関する本人の適性や能力とは全く関係がありません。

④資産に関する質問
自宅が持ち家かどうか、所有する不動産などに関する質問は、本人の努力によって解決できない問題について回答を求めることに繋がるため、不適切と言えます。

⑤思想・信条などに関する質問
座右の銘・宗教・支持政党・尊敬する人物・社会の在り方に対する意見・愛読書・加入団体などに関する質問も行うべきではありません。
これらの質問は、憲法で保障されている自由に属する事柄であり、採用選考の材料とすることは不適切だからです。

⑥性差別に繋がる質問
特に女性に対して、結婚・出産後の退職予定を質問したり、それに関連して交際相手や結婚予定の有無を確認したりすることは、性差別に繋がるため不適切です。

性別・学歴・職歴・年齢で応募者を限定するのはOK?

求人広告の中には、性別・学歴・職歴・年齢などによって、応募者の範囲を限定しているものが見られます。

このような求人広告は、内容や目的によっては職業安定法に違反するおそれがあるので要注意です。

性別で区別を設ける求人|区別の合理性がポイント

「男性限定」「女性限定」と性別によって応募者の範囲を限定する求人は、性別による区別に合理性がなければ職業安定法違反となります。

性別による区別が認められる場合としては、以下の例が挙げられます。

・芸能や芸術に関連して、男女いずれかに限って従事させる必要がある場合
・防犯上の理由から、男性に従事させる必要がある場合
・宗教上の教義やスポーツのルールなどとの関係で、男女いずれかに限って従事させる必要がある場合
・職場における男女比率を改善するため、女性に限定して求人を行う場合(ポジティブ・アクション)

学歴・職歴を限定する求人|比較的広く認められる

学歴・職歴によって応募者の範囲を限定する求人は、比較的広く認められると考えられます。

学歴は、本人の努力や能力を推測するための判断材料になります。また職歴は、仕事に関する本人の経験値を推測するために参考となります。

学歴・職歴のいずれも、本人の適性や能力を推測させる判断材料であるため、採用選考において考慮することは問題ない場合が多いです。ただし、学歴や職歴が適性や能力に大きな影響を与えない職種については、学歴・職歴を限定せずに幅広く求人を行うことが望ましいでしょう。

年齢を限定する求人|原則不可、ただし例外あり

労働者の求人を行う際には、原則として年齢を不問としなければなりません(労働施策総合推進法9条)。ただし、以下のいずれかに該当する場合には、求人の年齢制限を設けることが認められます(同法施行規則1条の3第1項)。

①定年を下回ることを条件とする場合

②法令によって就業等が禁止・制限される年齢の者を除外する場合

③長期的な能力開発・向上を目的として、一定年齢以下に応募者を限定する場合(無期労働契約に限る)

④技術やノウハウを継承する観点から、担い手が少ない年齢層に応募者を限定する場合(無期労働契約に限る)

⑤芸術・芸能の分野において、表現の真実性を確保するなどの要請がある場合

⑥高年齢者の雇用促進を目的として、60歳以上の者に限定して求人を行う場合

なお、やむを得ない理由により求人の年齢制限を設ける場合には、求職者に対してその理由を明示しなければなりません(高年齢者雇用安定法20条1項)。

職業安定法違反の差別を犯さないための注意点

事業者が採用活動を行う際に、職業安定法に違反する差別を犯さないようにするためには、以下の対策を講じることが効果的と考えられます。

①採用担当者の研修を徹底する
実際に採用活動を担当する従業員に対して、面接における不適切な質問内容などに関する研修を、定期的に実施することが考えられます。

②求人広告の内容は二重・三重に確認する
求人広告に差別的な表現などが含まれていないかにつき、人事担当者や法務・コンプライアンス担当者などがダブルチェック・トリプルチェックを行うことが大切です。

③人材採用に関する社内規程を策定する
採用活動における会社の方針や遵守事項などを定めた社内規程(ガイドライン)を策定し、職業安定法の規制や社会情勢などを踏まえて、定期的にアップデートを行いましょう。

採用活動におけるコンプライアンスを徹底するため、職業安定法のルールを正しく理解したうえで、社内全体への浸透を図ってください。


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【著者】阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
HP:https://abeyura.com/
Twitter:https://twitter.com/abeyuralaw