「おとり求人」とは? 違法性・ペナルティ・採用活動時の注意点を弁護士が解説

求人掲載サイトなどでは、実態のない「おとり求人」が掲載されていることがあります。

おとり求人を掲載した企業や転職エージェントは、社会的な評判を低下させるおそれがあるほか、職業安定法や景品表示法の違反により刑事罰や行政処分を受けるリスクを負います。コンプライアンスの観点から、おとり求人の出稿・掲載を避けるように努めてください。

今回はいわゆる「おとり求人」について、違法性・ペナルティ・事業者側の注意点などを解説します。

おとり求人とは?

「おとり求人」とは、人材募集の実態がないにもかかわらず、求人掲載サイトなどに掲載されている求人広告のことです。

たとえば、以下のような求人広告がおとり広告に該当します。

・すでに採用する人が決まり、募集が終わっているにもかかわらず、引き続き掲載されている求人広告
・求人を掲載する企業が募集を取りやめたものの、サイト運営者(転職エージェント)に募集取りやめの連絡をしていないため、引き続き掲載されている求人広告
・転職エージェントが、対象企業に無断で掲載している求人広告

おとり求人を行う主な目的

おとり求人は、求人の対象企業よりも、求人掲載サイトを運営する転職エージェントの都合で掲載されるケースが多いと考えられます。なぜなら、おとり求人は主に以下の目的で行われることが多いからです。

・求人掲載サイトのアクセス数や登録者数を増やす
・おとり求人を入り口にして転職希望者を集め、別の求人に誘導する
・知名度の高い企業のおとり求人を広告塔として、求人掲載サイトの知名度や信頼度を高める
など

このように、求人掲載サイトの価値を高めるための「道具」として、おとり求人が掲載される例がしばしば見受けられます。
求人の対象企業は、サイト運営者(転職エージェント)との関係性を考慮して、おとり求人の掲載を承認しているケースもあります。その一方で、対象企業が全く認識していないところで、サイト運営者が勝手におとり求人を掲載しているケースも存在するようです。

おとり求人の主な特徴

求人掲載サイトに掲載されている求人広告が「おとり求人」かどうかは、一見しただけでは判断が難しいケースが多くなっています。

一般論としては、求人掲載サイトの広告塔にする目的があることを踏まえると、おとり求人には以下のような特徴があると考えられます。

・対象企業の知名度がきわめて高い
・年収などの条件が非常に良い
・応募資格などの制限がなく、幅広い転職希望者を対象としている
など

また、おとり求人には実態がないため、求人掲載サイトを通じて転職エージェントに連絡を取ると、すぐに求人が終了したことを伝えられ、別の求人への応募を促される可能性が高いと考えられます。

おとり求人の弊害

おとり求人には実態がなく、応募しても対象企業の転職内定を得ることはできません。そのため、転職希望者にとって、おとり求人の閲覧・応募などは時間の無駄になってしまいます。
また、同じサイトに掲載された実態のある求人広告は、おとり求人よりも条件が悪いケースが大半です。転職希望者にとっては、おとり求人に釣られて求人掲載サイトに登録してしまうと、希望する条件による転職がかえって遠のいてしまうリスクがあります。

おとり求人の対象企業にとっても、掲載期間が長引き、掲載サイト数が増えるにつれて、転職市場において「おとり求人を掲載している企業」というイメージが付いてしまうことになりかねません。
そうなると、本当に採用したい優秀な人材からも敬遠されてしまい、採用活動が難航するおそれがあるでしょう。

おとり求人は違法?

おとり求人は、職業安定法および景品表示法との関係で違法となる可能性があります。

職業安定法違反の可能性あり

職業安定法では、実態がない求人広告や、虚偽の条件を提示した求人広告を行うことを禁止する罰則規定を定めています。

第六十五条 次の各号のいずれかに該当する者は、これを六月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
八 虚偽の広告をなし、又は虚偽の条件を提示して、職業紹介、労働者の募集若しくは労働者の供給を行った者又はこれらに従事した者

(職業安定法65条8号)

求人掲載サイトの運営者(転職エージェント)が主導して行うおとり求人については、上記の罰則規定に基づき、転職エージェントが刑事罰を受ける可能性があります。

なお、従業員が勝手におとり求人を掲載した場合であっても、転職エージェント会社にも30万円以下の罰金が科されるのでご注意ください。

第六十七条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、第六十三条から前条までの違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。

(職業安定法67条)

また、おとり求人の対象企業についても、転職エージェントによるおとり求人の掲載を承諾していた場合には、共同正犯(刑法60条)または幇助犯(刑法62条)として処罰される可能性があるので注意が必要です。

景品表示法違反の可能性あり

景品表示法※では、いわゆる「おとり広告」が禁止されています。
※正式名称:不当景品類及び不当表示防止法

(不当な表示の禁止)
第五条 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
三 前二号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの

(景品表示法5条3号)

一般消費者に商品を販売し、又は役務を提供することを業とする者が、自己の供給する商
品又は役務の取引(不動産に関する取引を除く。)に顧客を誘引する手段として行う次の各号の一に掲げる表示
一 取引の申出に係る商品又は役務について、取引を行うための準備がなされていない場合その他実際には取引に応じることができない場合のその商品又は役務についての表示
二・三 略
四 取引の申出に係る商品又は役務について、合理的理由がないのに取引の成立を妨げる行為が行われる場合その他実際には取引する意思がない場合のその商品又は役務についての表示

(おとり高校に関する表示(告示))

実態のないおとり求人についても、「取引を行うための準備がなされていない」または「実際には取引する意思がない」ものとして、景品表示法違反のおとり広告に該当する可能性があります。

おとり求人を行った転職エージェント・企業が負うリスク

おとり求人を掲載した転職エージェントや、それを承諾した求人の対象企業は、職業安定法違反により刑事罰を受けるリスクがあります。
また、景品表示法違反により措置命令や勧告を受けたり、違反の事実を公表されたりする可能性もあります。

おとり求人について刑事罰や行政処分を受けると、転職エージェントや企業の社会的評判は失墜してしまうでしょう。

転職エージェントとしては、掲載中の求人の実態があるかどうかについて、定期的に対象企業に確認し、募集が終了したものについては掲載を取り下げるべきです。

一方、求人を行う企業としては、転職エージェントからおとり求人の申出があっても、決して承諾してはいけません。
また、自社のおとり求人が掲載されているという情報が寄せられた場合には、求人掲載サイトの運営者に対して抗議し、おとり求人の掲載を速やかに取り下げるよう求めましょう。


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【著者】阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
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