「新しい働き方」が浸透するにしたがって、注目されているのが「バーチャルオフィス」です。
バーチャルオフィスは「仮想空間のオフィス」であり、インターネット上で仕事を進められるため、今まで働くことができなかった有能な人材が活躍できる場としても有効活用されています。ただ、一方でバーチャルオフィスならではの問題が存在するのも事実です。
そこで今回は、バーチャルオフィスを利用しても問題なくビジネスができるように、特徴や問題点などについて詳しく解説をします。
バーチャルオフィスを利用したビジネスにご興味がある方は、ぜひ参考にしてください。
バーチャルオフィスとは
ここでは、バーチャルオフィスの特徴やレンタルオフィスとの違いについて解説をします。
①実際の業務スペースがない仮想事務所
バーチャルオフィスとは、実際の事務所を持たずに、「住所・電話番号・郵便」をレンタルして利用する仮想事務所のことです。つまり、実際の事務所スペースはありません。仕事をするときには別の場所を用意する必要があります。
郵便や電話の転送サービスなどが提供されており、「自宅の住所を公開したくない人」「都心の住所や電話番号をリーズナブルに利用したい人」に人気のオフィス形態です。
チームで仕事をするときは仮想オフィスツールを使用すれば、インターネット上でフロアマップやアバターなどが表示された臨場感のあるオフィスを作成できます。(下図1)
メンバー同士がリアルタイムでコミュニケーションできるので、まるで実際のオフィスで一緒に働いているかのように、連携しながら業務を進めていくことが可能です。
バーチャルオフィスでは「自席」のほかに「自由席」「会議室」「応接室」等、自由にカスタマイズできるので、仮想空間でつくられたお互いのフロアを社員が自由に行き来し、作業や打ち合わせを楽しみながら行えます。*1
②レンタルオフィスとの違い
バーチャルオフィスとレンタルオフィスとの違いは、「オフィス設備・ワークスペースの有無」です。レンタルオフィスにはコピー機やデスクなどのオフィス設備が備わり、ワークスペースがありますが、バーチャルオフィスは仮想空間のため、実際の事務所は存在しません。
バーチャルオフィスの場合は自宅などで作業することが多いのですが、レンタルオフィスはデスクや電話などビジネスに必要な設備が完備されている個室スペースで仕事をします。
したがって、「コストが増えても自分のオフィスをつくりたい」「会議室や商談スペースが必要」な場合はレンタルオフィスのほうが適しています。
③バーチャルオフィスの住所・電話番号を使用してビジネスをすることは可能
バーチャルオフィスでも、レンタルした住所と電話番号を使用してビジネスをすることは可能です。
ただし、以下のような業種の場合は特定商取引法に基づき、住所及び電話番号について要件が満たされる場合においては、バーチャルオフィスの住所・電話番号を使用してビジネスをすることができるとされています。*2
【特定商取引法の対象となる業種の例】
- 訪問販売(消費者の自宅等に訪問して、商品などを販売)
- 通信販売(インターネットや雑誌、新聞などで広告を出し、通信手段で申し込みを受ける ※ネットショップなど)
- 電話勧誘販売(事業者が電話で勧誘し、申込みを受ける取引)
- 訪問購入(消費者の自宅等を訪問して、物品の購入を行う ※着物の買取りなど)
- 特定継続的役務提供(高額な対価かつ長期・継続的な役務の提供を約束する取引 ※ エステティックサロン、語学教室など) *3
なお、法人登記が可能な場合もありますが、サービス提供者によって違いがあるので確認が必要です。
バーチャルオフィスで考えられる問題
バーチャルオフィスは一般的なオフィスよりコストが低いのがメリットです。
しかし、物理的に存在するオフィスではないため、いくつかの問題も存在します。
ここでは、バーチャルオフィスで考えられる問題についてご紹介をします。
①事務所として使用していないため信用度が低い
バーチャルオフィスは「物理的には存在していない事務所」のため、実際にそこで仕事をするわけではありません。そのため、実際に事務所として使っていないので、信用に劣る面があります。
バーチャルオフィスの代表的なサービスが「郵便物受取サービス」ですが、バーチャルオフィスやレンタルスペースを提供している業者が55.0%と最も多く参入しています。(下図2)
信用度が低い理由の一つが、かつて詐欺的投資勧誘など犯罪に利用されるケースがあったからです。返済する意思のない社債を販売していた業者が、バーチャルオフィスを本店の所在地にしていましたが、内容証明を送達する直前にオフィス契約を解約していたなど悪用された過去があります。*4
また、郵便物受取サービスがマネー・ローンダリングに悪用された事例も少なくありません。
固定電話番号を使用した電話転送サービスを提供する事例も指摘されており、バーチャルオフィスへの制度を適⽤する際には、拠点の確認等を明確にするなど厳格化されています。*5
②銀行口座の開設・金融機関からの融資が受けにくい可能性がある
実態のないオフィスのため、銀行口座の開設や金融機関からの融資が受けにくい可能性もあります。その理由は、金融機関の審査が厳しいからです。
警察が平成23年に、利殖勧誘事犯に利用された疑いがあるとして凍結を求めた口座の法人名義人の約2割の事務所の所在地が、郵便物受取サービス等を提供するバーチャルオフィスのものでした。
バーチャルオフィスは都心一等地の住所のレンタルサービスを提供していますが、悪用していた事務所の多くも一等地の住所だったのです。顧客に信用してもらうために、都心の一等地に本社を設置しているように装うため、バーチャルオフィスが利用されていました。
このような悪質なケースが後を絶たないため、金融機関における法人口座の開設審査が厳格化されています。*6
③許認可が必要な業種は利用できない
許認可が必要な業種は、バーチャルオフィスでは開業することができません。
例えば、以下のような業種が挙げられます。
- 古物商
- 人材紹介業、人材派遣業
- 一部の士業
- 建設業
- 廃棄物処理業
- 不動産業
- 貸金業
許認可が必要な事務所は、オフィスに設備や面積を求められるため、バーチャルオフィスでは認可がおりません。
例えば、人材紹介業の場合は、20平方メートル以上の事務所であることが必要です。
加えて、厚生労働省が定める職業紹介事業の業務運営要領においては求職者のプライバシーを守るために、個室の設置やパーテーションなどで区分する構造であることも要件の一つとされています。*7
したがって、業種によってはレンタルオフィスなど、実際に存在する事務所を借りる必要があります。
気を付けておきたいバーチャルオフィスのトラブル
コストを抑えられるバーチャルオフィスは、スタートアップ企業など始めたばかりの会社にとっては負担をかけず効率的にビジネスができます。一方で、気をつけておきたいトラブルもいくつか考えられます。
ここでは、バーチャルオフィスならではのトラブルについてご紹介しましょう。
①バーチャルオフィス運営会社が倒産
バーチャルオフィス運営会社が、ある日、突然倒産してしまうというリスクが考えられます。
一般的にバーチャルオフィスは都心の一等地に設置されていることが多いので、家賃が高額です。運営コストもかかるので、経営状態が良くなければ閉鎖や倒産の可能性があります。
バーチャルオフィスを借りる場合は、月額の利用料だけでなく、サービス事業者の規模や信頼度をしっかり調査してから契約しましょう。
②他の会社と住所が重複することがある
バーチャルオフィスでは、複数の会社が同じ住所を利用することが少なくありません。
そのため、インターネットで住所を検索すると、自社以外に他の会社が表示される可能性があります。住所は会社の所在地を表す重要な情報です。他社と住所を重複したくない場合は一般的なレンタルオフィスを借りることをおすすめします。
③郵便物をすぐに受け取れない
バーチャルオフィスでは郵便物転送サービスを行っていますが、利用者に届いた郵便物を転送するのは基本的に週1回のところが多いため、郵便物をすぐに受け取れないのがデメリットです。
転送料はA4サイズの書類なら何通でも無料で転送するところもありますが、転送するたびに手数料がかかる場合もあるので、各サービス事業者に確認してください。
まとめ
バーチャルオフィスは、一般的なレンタルオフィスよりコストがかからないのがメリットですが、「信用度が低い」「金融機関からの融資が受けにくい」などさまざまな問題も存在します。
ただ、事業主や社員にしてみると、通勤の手間が省け、自宅にいながら効率よく働けるというのも魅力の一つです。
自社が行うビジネスの形態にマッチする場合は、バーチャルオフィスを上手く活用するのもよいでしょう。
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【エビデンス】
*1 厚生労働省「テレワークを通じて社会を変えていきたいと考えています」
*2 消費者庁「特定商取引ガイド」
*3 消費者庁「特定商取引法とは」
*4 内閣府「詐欺的投資勧誘に係る実態調査 」p24
*5 総務省「電気通信番号に関する最近の動向」p4
*6 警察庁「悪質商法、ヤミ金融事犯等」
*7 厚生労働省「職業紹介事業の業務運営要領:許可基準」P15
【著者】矢口 美加子
ライター・宅地建物取引士・整理収納アドバイザー。宅建・整理収納アドバイザー1級、福祉住環境コーディネーター2級の資格を取得済みです。不動産・リフォーム・不動産投資・転職・整理収納関連の記事を複数のメディアで執筆。ライター業の他に、家族が経営する投資用物件の入居者管理もこなしています。