「IQ」より「EQ」?転職での環境変化に対応するために「心の知能指数」を鍛えよう

ビジネスで成功するための要素のひとつに、「EQ」という考え方があります。

IQが「知能指数」であるのに対して、「EQ」を「心の知能指数」と呼ぶ人もいます。自分や他人の感情を知覚し、コントロールする能力のことで、一般的なコミュニケーションを超えて人間関係の機微を感じ取る能力とも言えます。

IQと異なり、テストで点数化できるものではありませんが、世の中が変化し、多様性も広がる現代においてビジネスで成功を収めるためには必要な要素です。具体的にはどのようなものかをご紹介します。

職場では私生活で生まれた感情を出すべき?隠すべき?

「私生活で困った状況にあることを同僚に気づかれたら、幸せなふりをすべきか?それとも困っていることを認めるべきか?」

興味深い研究結果があります。

気づかれてしまったとはいえ感情を出してしまうと周囲に気を遣わせてしまいそうですし、一方で幸せなふりをするのはウソをついているような気分になってしまいます。どちらが正しいのでしょうか。

実験は、このように行われました。

被験者はマネージャー役を演じなければなりません。そして、質問に対する従業員の回答を見て、どの従業員に仕事を割り振るかを決めなければならないというものです。質問は、従業員が悲しみや苦しみの感情を人と共有するタイプかどうかが分かる内容になっています。

結果はこのようなものでした。

被験者がマネージャー役を演じる実験では、被験者は前向きな回答をした従業員に仕事を与える可能性がはるかに高かったというのです。

追加実験の結果、研究者たちはこのような結論に至っています。

幸せであることを装うことができるのは、その人が有能であるからだと見なされるのが主な理由であることがわかった。それは、レジリエンス(再起力)と仕事上の目標へのコミットメントを示すものだというわけである。

<引用>「職場では感情を隠すべきか」ハーバード・ビジネス・レビュー 2021年2月号 p10

一方で、他の実験ではこのような結果が出ています。

職場でつらい状況にあることを打ち明ける同僚、あるいは外に出さないことを選ぶ同僚にどう対応するかを尋ねた。後者の場合、幸福なふりをすることは、信頼を高めたり、有能さを示したりすることにはならず、単に不誠実の証と見なされた。

<引用>「職場では感情を隠すべきか」ハーバード・ビジネス・レビュー 2021年2月号 p10

私生活で起きたことで生じているネガティブな感情をどうするか。これは人によって異なることでしょう。自分の感情をどう制御するかという、まさに「心の知能指数」が問われる場面なのです。

しかし、これらの実験は相反する結果を導き出しています。研究者らはこう記しています。

「個人個人が共通の仕事を発展させるという目標がある仕事の場では、幸せであることを示すとプラスに働く可能性がある。個人個人が親密になって結び付くことを目標とするプライベートな環境で、見せかけの幸福を演じると、信頼は築かれそうにない」

<引用>「職場では感情を隠すべきか」ハーバード・ビジネス・レビュー 2021年2月号 p10

感情の取り扱いはなかなか難しいことがわかります。

「EQ」を構成する5つの要素

「EQ(EI=Emotional Intelligence Quotient)」は、心理学者のダニエル・ゴールマン氏が1995年に出版した「EQーこころの知能指数」という本がベストセラーになったことで広く注目されるようになりました。

また、「EQ」の提唱者であるメイヤー、サロヴェイ両博士はEQを情動的知能とも呼び、「自分自身や他人の感情、欲求を正確に理解し、適切に対応する能力」と定義しています*1。

その上で両博士は「ビジネスで成功した人は、例外なく対人関係能力に優れている」としています*2。

仕事上の専門的な「スキル」だけでなく、ビジネスシーンではこのような「感情に関するスキル」が欠かせないということです。

ゴールマン氏は、EQ(EI)の要素を5つ挙げています*3。

  1. 自己認識
  2. 自己規制
  3. 動機づけ
  4. 共感
  5. 社会的技術

まず自分の感情を冷静に理解し、長所と短所を客観的に認識することです。その上で感情をコントロールする、強い達成意欲を自ら持つ。
さらには、人を型にはめようとせずに他人の視点に立つこと、他者の感情や集団心理に対処する能力が必要というわけです。

EQを向上させるポイント

上記のように見るととても複雑なスキルが必要なように感じてしまうかもしれませんが、話をシンプルに捉えるとこのようになります。

必要なのは、相手や周囲の感情を知ろうという強い意識です。自分自身も感情を隠したり、瞬発的に感情に関係のない行動を取ってしまったりすることがあるように、相手にもそのようなことがあるのだと考え、見た目にとらわれない深い洞察力を持つようにすることです。

そして、2つの重要なルールが紹介されています。

ここで重要なことは、「自分がしてほしいことを、まず相手にしてあげる」という、人間関係の黄金律(ゴールデン・ルール)です。まず自分から与えるという視点です。
(中略)
ただ、自分がしてほしいことが必ずしも相手も同じとは限りません。そこで、より進化させた関わりとして、『相手がしてもらいたいことを、相手にしてあげる』という白金律(プラチナ・ルール)があるので、こちらもぜひ意識してみてください。

<引用:「職場のコミュニケーション力」独立行政法人福祉医療機構>https://www.wam.go.jp/content/wamnet/pcpub/top/column/communicationskills/communicationskills016.html

基本に立ち返るとシンプルなことでもあります。

人間関係のストレスを最小限に乗り切るために

人間関係は職場で感じるストレスの中でももっとも大きな部類に入ることでしょう。

そのストレスを軽減し、前向きに仕事に対する達成意欲やコミットメントを向上させる、これがビジネスで成功するコツになるのは言うまでもありません。

そのためには「相手の立場で物事を考える」ということになりますが、ここで、冒頭の実験について振り返ってみましょう。

ひとつは、マネージャー役を演じる被験者は、アンケートに前向きな回答をした従業員に仕事を振り分ける傾向があったということについてです。

確かに、「何があったかは知らないが、何か嫌なことがあったらしく、辛そうな部下がいる」という状況では、仕事を振り分ける側としては「負担をかけたら悪いかな」と遠慮してしまいます。

また、ビジネスの目的はあくまで「チームでひとつの目標を達成する」ことですから、あまり個人的な事情に構っていられないという現実もあるでしょう。

そして、飲み会などで本心を隠してしまう同僚を「不誠実」と感じてしまうという結果についてです。

「同僚」という、社内でも他の立場の人より近しい立場にある、あるいは少なくとも相手はそう思っている場合には、「自分は信頼されていないのかな」「普段からごまかされていたのだろうか」と疑念を抱いてしまうことも無理はありません。

自分に置き換えてみたとき、そのように感じてしまうことではないでしょうか。

また、相手の立場になってみるのと同じように大切なことがあると考えます。

それは、まず自己肯定感を持つことです。

自分の長所、短所を客観的に見つめたとき、どうしても短所に意識が行ってしまうこともあるかもしれません。

しかし、完璧な人間はいませんし、「自分を客観視できる」ことはひとつの大きなスキルです。

そのように、長所と短所を「わきまえている」ことの強みは、ビジネスだけでなく生活の様々なシーンで役立つことでしょう。


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【エビデンス】
*1 「情動的知能と職業」労働政策研究・研修機構
*2 「職場のコミュニケーション力」独立行政法人福祉医療機構
*3 「ダニエル・ゴールマン 心の知能指数」ダイヤモンド・オンライン


【著者】清水 沙矢香
2002年京都大学理学部卒業後、TBS報道記者として勤務。
社会部記者として事件・事故、科学・教育行政その後、経済部記者として主に世界情勢とマーケットの関係を研究。欧米、アジアなどでの取材にもあたる。
ライターに転向して以降は、各種統計の分析や各種ヒアリングを通じて、多岐に渡る分野を横断的に見渡す視点からの社会調査を行っている。
Twitter:@M6Sayaka