どこで明暗がつく? 転職を繰り返しキャリアアップする女性と、条件を悪くし続ける女性の場合

子供が生まれてからの数年間を専業主婦として過ごした由里子は、経済的な理由から再び働き始め、5年足らずの間に4度も転職を重ねた。

転職を繰り返すたび、勤務地は自宅から遠くなっていく。

北陸の田舎町で育った由里子は、大学はアメリカへ留学し、帰国後は日本の大手保険会社に入社した。総合職として働いたが、同僚や上司からのマタハラがひどく、入社から2年も経たないうちに辞表を出すことになったそうだ。

住んでいた地域が保活激戦区だったので、当分は子育てに専念するつもりでいたのだが、夫の収入が激減し、悠長なことは言っていられなくなってしまった。

手始めに、由里子は駅前のハンバーガーショップでパートを始めた。その店では子育て中の主婦の事情を考慮してシフトを組んでくれたので、子供を保育園に入れられなくても働くことができたのだ。

ファストフード店で働くのは30年の人生で初めての経験だったが、働き始めた当初の由里子は上機嫌だった。入店早々から店長に美貌と笑顔を讃えられ、接客係として高い評価を得たという。

来店するたび必ず彼女のレジに並ぶ常連の男性客も少なくないのだと、彼女は得意げに語っていた。しかし、楽しそうだったのは最初だけで、次第に不満を漏らすようになる。

バイトリーダーをしている20代後半の女性から、執拗な嫌がらせを受けるようになったそうだ。

その女性と店長はデキており、店長が美人で仕事のできる由里子を何かと目にかけるため、嫉妬されているのだと憤った。

「彼女は仕事もプライベートも自分のポジションを私に奪われると思って、焦ってるの。だから私を追い出そうと躍起になってるんだよね。こないだなんか制服を隠されたんだから」

ひどい話もあるものだと、私は同情を寄せた。

結局、バイトリーダーからの嫌がらせに音を上げて、由里子は娘が幼稚園を卒園するタイミングでパートを辞めた。

小学校では学童保育に娘を預けられるので、再び会社勤めができる。定時で帰れる事務の仕事を紹介してもらうため、彼女は派遣会社に登録した。

結婚前に勤めていた会社では営業職で、事務の経験は無かった彼女が一番最初に紹介されたのは、短期の仕事だった。

3ヶ月後に閉鎖が決まっているオフィスで、事務作業を含めた片付け全般が彼女の仕事だ。

久しぶりにパンプスを履いてスーツを着る仕事は楽しかったらしい。

「初めてのパソコン業務に戸惑うことも多いけど、私は飲み込みが早いから大丈夫。いい人が来てくれて良かったって、重宝されているわ。

それにね、職場にAさんて男性社員がいるんだけど、どうも私のことが好きみたいなんだよね」

と、満面の笑みで話していたのも束の間、今度も得意な気持ちは長続きしなかった。

「もう閉めることが分かってる事務所なんて、働いてる人達にやる気が無くて、職場に活気がない。仕事も雑用ばかりでつまらない。

あと、Bさんて前からいる女性の事務員さんは、私が来てから面白くないみたい。私が目立っちゃって、男性社員にちやほやされるから嫉妬してるんだと思うわ」

そんな不満を並べるようになったが、どうにか契約満了まで働くと、次はもっとやり甲斐のある仕事がしたいと担当者に訴えた。

そこで紹介されたのが、アメリカ系IT企業の事務だ。

そのオフィスならアメリカ人社員も多く由里子の英語力が活かせるのと、多忙な職場なので、やり甲斐を重視する由里子にはぴったりだろうと勧めてくれたのだ。

新しい職場は自宅からは遠くなるが、都心には近い。

まるでドラマに出てくるような外資系企業のオフィスは、由里子の自尊心を十分に満足させたようだった。

「隣の部署のアメリカ人男性社員が、わざわざ私と話しに来るのよ。

それにね、私が作成した書類はオリジナルの工夫がしてあるから、他の人が作るよりも読みやすいの」

などと鼻高々だったのは、やはり初めのうちだけだった。顔が曇ることの多くなった由里子に事情を聞くと、社内でイジメにあっているという。

今度の職場では、由里子の他に女性事務員が3人居たのだが、いつからか休憩時間に仲間外れになり、今では仕事中もあからさまに存在を無視されるようになったそうだ。

全く仕事を割り振って貰えず、毎日居た堪れないと嘆いた。

「外資系で忙しいから、基本的にみんなピリピリしていて職場の雰囲気が悪い上に、私が有能で目立つから嫉妬されたの。本当に女の嫉妬って醜いよね」

職場の上司と派遣元の担当者にイジメの被害を訴えたものの、状況は改善されず、由里子は半年も経たないうちにそこも辞めることになった。

次は日系の大企業で働きたいと注文をつけた彼女に紹介されたのは、誰もが知っている一部上場企業のコールセンターだ。そこならば由里子と同じような家庭の主婦が多いので、和気あいあいと働けるだろうとの配慮だった。

有名企業の現場で働けるとあって、研修を受ける由里子は張り切り、次こそは自分の実力を発揮するのだと意気込んでいた。

しかし、又してもその意気込みは空振りに終わる。

その現場で求められたのは、誰でもできるマニュアル通りの電話応対であり、由里子が発揮したがっていた高いスキルは求められていなかったのである。同僚たちは「楽でいいじゃない」と仕事に満足していたが、由里子は不満だった。

それでも、正社員登用を目論む彼女は1年間我慢して、業務改善の提案をするなど職場で様々なアピールを続けたが、真面目に相手にしてもらえないと分かると、

「私はこんなところで埋もれていい人間じゃない」

と訴え、1年も経たずに辞めてしまった。

「派遣会社の担当者さんは、私のことを高く買ってくれているの。『由里子さんのような方はなかなかいらっしゃらないです』って言われてるんだよね」

と、由里子が自慢げに語っていた話は、果たして彼女が言う通りの意味だったのだろうか。

ここまで来ると、さすがに私も由里子の言葉を額面通りには受け取れなくなっていた。

どこへ行っても数ヶ月で人間関係がこじれるのは、職場ではなく彼女の方に問題があるに違いない。

「私は有能だから重宝される。一目置かれている」

という言葉が本当ならば、何故どこからも「社員にならないか?」と声がかからないのだろう。せめて辞意を伝える際に、少しは慰留されても良いはずなのに。

「同僚の女性社員たちに嫉妬されて、意地悪をされる」

と訴えるが、働いている女性たちは小学生ではない。内心いけすかないと思っていても、仕事は協力するはずだ。

にも関わらず由里子が同僚たちから浮いてしまうのは、彼女がその職場内で確立されている仕事のやり方を無視して我流を通そうとしたり、日々の業務をつまらないとバカにしたり、男性社員とのお喋りにやたら熱心な様子が顰蹙を買うからではないだろうか。

実は、私には由里子の他にもう一人、呆れるほど頻繁に転職を繰り返す友人がいた。

志穂さんというその友人は、事務員として働いていた点では由里子と同じだったが、仕事に対する姿勢が真逆だった。

志穂さんは職場に多くを期待しない。

彼女の生きがいは踊ることであり、仕事はあくまで生活費を稼ぐための手段でしかなかった。

志穂さんは20代の終わりに最初の結婚をしたが、新婚早々に夫の不貞行為が明るみとなり、関係にヒビが入って離婚した。

長年の交際を実らせて結婚したパートナーだったが、幸せが崩れるのはあっという間のことだった。

彼女も北国の出身で我慢強く、それまでずっと真面目に生きてきた。

それなのに、やっと夢見た結婚をしたと思ったら、30歳を過ぎて家も仕事も子供も無く独身に戻るハメになり、もう何もかもがバカバカしくなったのだ。

ならばいっそ、とことん弾けてみようとラテンダンス教室の門を叩いた。

彼女が最初にハマったのは、官能的な踊りで知られるアルゼンチン・タンゴだ。

支出を切り詰め、慎ましい生活をしながら、志穂さんは稼いだ給料のほとんどをタンゴのレッスンに注ぎ込む生活を始めた。

再就職にあたって事務の仕事を選んだのは、カレンダー通りに休めて定時に帰れるため、平日の夜と日曜祝日をダンスに費せるからだ。

志穂さんも同じ職場に長く居つかなかった。せっかく再就職しても1〜2年おきに転職エージェントに登録し直して、より良い給料と条件を求めて転職を繰り返した。少しでもダンスに使うお金と時間を増やすためだったそうだ。

彼女は事務員として優秀だったのだろう。由里子と違って退職を願い出るたびに職場から引き止められていたし、転職のたびに給料と条件は良くなっていった。努力家なので、転職活動で有利になるよう仕事面でもスキルアップを続けていたのだ。

仕事は生活とダンスのためと割り切っているため、職場では出過ぎた真似をせず、早く帰るために与えられた業務は効率よくこなす。

社内の人間関係にも気を配り、職場の男性に色目を使ったりもしない。

一緒にタンゴを踊れない男には興味が無かったからだが、彼女はダンス教室でパートナーを組んだ年上の男性と交際を始めていた。

元々が真面目な性格の彼女は、思い込んだら一直線に、ひたすらタンゴのレッスンに打ち込み、再婚を意識していた彼氏にもとことん尽くした。

励んだ甲斐あって、5年も経つ頃には高難度の技も習得し、カップルで様々なショーにも出演するようになっていた。

だが、ここがタンゴダンサーとしての自分の限界であり、ついでに彼氏との関係も限界だと見定めると、あれほど没頭していたタンゴをあっさりやめて、何年付き合っても態度の煮え切らない男とも縁を切った。

そして、ダンス教室の代わりにサルサクラブに通い始め、今度は夜な夜なサルサに興じるようになる。

人生が行き詰まった時には、世界を変えてみると道が開けるものだ。

志穂さんは、サルサクラブで出会ったハンサムな年下の外国人男性と意気投合し、2年かけて愛を育んだ末、言葉と文化の違いを乗り越えて再婚した。

「人生って弾けてみるものだね。こんなことになるなんて思ってもみなかった。

数年前の自分に今の自分を見せてあげたいわ」

再びウェディングドレスに袖を通した志穂さんからは、幸せが溢れ出していた。

その後も、志穂さんは淡々と働き、夫との日常と趣味の時間を充実させつつも、現在は貯蓄に励む日々を過ごしている。

将来は夫の母国に家を建てて、夫婦で移住するそうだ。

一方、こじらせた承認欲求を職場に持ち込む由里子は、やがて正社員としての就職を希望して転職エージェントにも登録したが、派遣時代と同じことの繰り返しだった。

仕事に励むよりも自分の魅力と能力の高さを周囲に認めさせることにばかり懸命になるため、どの職場でも人間関係につまずいて長続きしないのだ。

長らく不仲だった夫とは離婚し、新しいパートナーを求めたが交際はいつも長続きせず、やがて生き辛さからスピリチュアルに傾倒し始める。

彼女のような人間は、人生が上手くいかない原因が自分にあるとは決して考えない。あくまで自分を理解し評価しようとしない他者と、自分の長所や個性を否定してくる社会にこそ問題があると考えるのだ。

他人の意見には決して耳を傾けようとしない代わりに、何か神秘的なものの声を聞こうと必死になるのは何故なのだろう。

10年前のあの頃、

「私は東京の中心にあるオフィスで、最先端の仕事をする人たちと一緒に働きたいんです。そういう場所とそういう人たちこそが、自分には似合っていると思う」

と主張し、転職エージェントを困らせていた由里子は、現在はスピリチュアル仲間との神社仏閣巡りを趣味にし、独身のままスピリチュアルカウンセラーとなって、都会の片隅で細々と生きている。


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【著者】マダムユキ
ネットウォッチャー。最高月間PV40万のブログ「Flat 9 〜マダムユキの部屋」管理人。
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