かつて私は、コンサルティング会社に在籍し、様々な企業の経営課題について、経営者にお話をきいていました。
経営課題を聞き、その解決のための手助けをするのが、我々の仕事だったからです。
では、現場でコンサルタントは、どのように経営者に「経営課題」について、話を聞いているのでしょう。
例えば、以下のやり取りを見てください。
いかにもな感じですが、現実的には、下のようなやり取りは、まずありえません。
どのあたりが、まずありえない、のでしょうか。
コンサル「社長、今日は経営課題についてお伺いしたく。」
社長 「いまは、営業が課題だよ!今一つ新人の成長が遅いんだよね!」
コンサル 「もしかして、「ベテランが、新人にうまく教えられない」といった事象ですかね?」
社長 「わはは!そうそう!よくわかってるねー」
コンサル 「ウチ、お手伝いできますよ!」
社長 「どんな感じに手伝ってくれる?」
コンサル 「じゃ、提案書書きますね!」
社長 「よろしくー」
まず、最初のパートです。
現場を知らない新人に尋ねると、こんなにすぐ、課題が出てくることはあり得ない、という人が多いのです。
コンサル「社長、今日は経営課題についてお伺いしたく。」
社長 「いまは、営業が課題だよ!今一つ新人の成長が遅いんだよね!」
が、実はそうではありません。
「経営課題は何ですか?」という質問に対しては、社長・部長クラスであれば、ほとんどの人がスラスラと答えられます。
これは、「今年度の目標」や「重点取り組み項目」など、ある程度幹部クラスで毎年、議論されていることが多いからです。
ということで、このやり取りは「あり得ない」というほどではありません。
実は、問題なのは、次のやり取りです。
コンサル 「もしかして、「ベテランが、新人にうまく教えられない」といった事象ですかね?」
社長 「わはは!そうそう!よくわかってるねー」
このやり取り、現場を知る人からすると、かなり「あり得ない」やり取りです。
なぜでしょうか。
それは、コンサルタントが「課題」を指摘し、社長がそれに同意しているからです。
コンサルタントが課題を指摘するのは、普通じゃない?
と思う方もいるかもしれませんが、実は、普通ではないのです。
課題は他人に指摘されたくない
実は、経営者に限らず、人間は「課題」を人に指摘されることを非常に嫌います。
なので、コンサルが
コンサル 「もしかして、「ベテランが、新人にうまく教えられない」といった事象ですかね?」
と言ったら、社長はほぼ100%、「否定」します。
例えば、次のような返事が返ってくることが8割でしょう。
社長 「いやいや、それはないんだけどね。ただ、ベテランもなかなか時間が取れないようでね。」
「同じことじゃないか!」とツッコミたくなるかもしれませんが、とにかく、否定されます。
これは、言葉の使い方とか、課題の定義の仕方とか、そういう話ではありません。
課題を他者に指摘されると、ほとんどの人は反射的に、それを否定してしまうのです。
これは、純粋に感情的なものであるため、「中身が正しいかどうか」は、あまり気にされません。
私は腕利きコンサルタントの上司から、
「例外もあるけど、ほとんどの場合は、課題をストレートに指摘するな。絶対に否定されるから。相手を怒らせてしまう時もある。」
と教わりました。
課題は相手に気づかせる+言わせる
では、どうしたら良いのでしょうか。
私がコンサルティング会社でおそわったのは、「気づかせ術」という手法でした。
といっても、難しいものではありません。
やり方はとてもシンプルで、大きく4つのパートから成り立ちます。
1.褒める
2.質問する
3.エピソードで気づかせる
4.今やってることを聞く
5.要点をまとめて気づかせる
では、先ほどの会話に対して、「気づかせ術」を使って、アプローチするとどうなるでしょう。
具体例を見てください。
************
コンサル「社長、今日は経営課題についてお伺いしたく。」
社長 「いまは、営業が課題だよ!今一つ新人の成長が遅いんだよね!」
ーーーーー1.褒めるーーーーー
コンサル 「いやいや、社長のところには優秀な新人がそろってるじゃないですか。成長が遅い、というのはちょっと言い過ぎなんじゃないですか。」
社長 「(顔が緩む)いやいや、まだまだですよ。確かにいい人たちが入ってきてくれてるのは確かなんだけどねー。」
コンサル 「先日の話でも、早速商談を持ってきてくれた……と仰っていませんでしたっけ。」
社長 「一人、優秀なのがいてね。彼はできるよー。採用が頑張ってくれたからねー。」
ーーーーー2.質問するーーーーー
コンサル 「いやー、うらやましい話です……それでも新人の成長が遅い、っていうのは、どういうことなんでしょう?」
社長 「ベテランを新人につけてるんだけどね、成長のスピードが、人によって結構まちまちなんだよね。ミスが目立つ人もいるし、何とか全員、早く受注させてあげたくてね。」
ーーーーー3.エピソードで気づかせるーーーーー
コンサル 「それ、ウチと全く同じですよ。一社目の受注が早い人と、遅い人で半年以上も違ってくるんで、遅い人が自信を失っちゃうことがあるんですよね……」
社長 「おー、それそれ。そうなんだよー。ウチでもなかなか受注できない人が、落ち込んじゃって、フォローが大変と現場が言ってるんですよ。受注は水物なんで、気にしなくていい、って言ってるんだけどね。」
ーーーーー4.今やってることを聞くーーーーー
コンサル 「なるほど……今の段階で、具体的に何か、それに対して動いていることはありますか?」
社長 「悩みを聞いてほしい、とベテランと新人の面談を、週1回、設定してるんだけどね、面談も結構難しいようなんだよね。」
ーーーーー5.要点をまとめて気づかせるーーーーー
コンサル 「ということは、社長が抱えている課題は、「ベテランの面談力」という事になりますかね……いかがでしょう?」
社長 「うん、言われてみたらそうだね。ベテランだからといって、面談がウマいわけじゃないからね……面談も今年からの試みなんでね。まだ手探りですよ。」
コンサル 「つい先日も、ウチで、「面談」についての研修やりましたけど、興味ございますか?」
社長 「どんなやつ?」
************
上の会話は、もちろん一つの例に過ぎませんので、各パートのやり取りはもっと長くなることもあります。
が、概ね「相手の課題」についての話は、上のような流れで、相手に「気づいてもらう」というアプローチを、コンサルタントは使います。
中でも重要なのは1.の褒めるパートです。
相手が「課題なんだよ」といっていることに対して、相手を褒めて返してあげることで、「課題」を吟味する余裕を、相手の心に作ってあげるのです。
人は十分にほめられた後でなければ、自分の課題に対して、正面から向き合うことはできません。
そういう意味で、1.には一番時間を割いてもよいくらいです。
社内の評価面談も全く同じ
もちろん、「気づかせ術」は、営業だけに適用される技術ではありませんでした。
特に、プライドの高い人が多い、コンサルタントの評価面談には、「気づかせ術」を使うことが義務付けられていました。
その人の課題、直してほしいところ、出来なかったことから評価面談を始めると、どうしても上司は、「敵」の扱いになります。
そして一度「敵」と認識されてしまうと、そのあとの話を受け付けてもらえません。
結果的に、面談は失敗、ということになります。
そうではなく、良くできたこと、うまくいったこと、得意なことの話から始めることで、彼の業績を褒める。
そのうえで、もっと業績を伸ばすためには何が必要かを、一緒に議論しましょう、という態度で面談に臨めば、建設的な時間が期待できます。
なお、上の社長については、まさに「気づかせ術」の研修を提案しました。
喜んでもらえた記憶があります。
皆様もぜひお試しを。
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【著者】安達 裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者(http://tinect.jp)/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
Twitter:安達裕哉