「面接でカネの話はタブー」という会社は、ダメ会社だよね。

一昔前、面接で、お金や待遇の話はしないほうがいい、というのが「常識」として扱われていた時代がありました。

ところが、年功序列が崩れ、定期的な昇給のない会社も増える中、収入を増やす手段として「転職」が大きな存在感を持つようになると、そのような常識もまた、徐々に変化します。

実際、「お金や待遇」を求めて転職する人が最も多いのは、統計的な事実です。
厚生労働省の「令和2年雇用動向調査」において、「定年・契約満了」を除けば、その他の理由は多い順から、

「給料等収入が少なかった」
「職場の人間関係が好ましくなかった」
「会社の将来が不安だった」
「労働時間・休日などの労働条件が悪かった」

となっています。*1

調査によれば、上位は「給与」「将来」「労働条件」など、ほとんどが待遇と職場環境の話であって、「能力を活かせない」とか「仕事の内容に興味を持てなかった」という人は、20代の若手ですら、「給料が低い」よりも数が少ないのです。

なお、このことから、私は転職者の面接をするときに、転職理由として「お金」の話をしない候補者に対しては、敢えて「収入はどの程度重要ですか」とこちらから聞くようにしています。

というのも、ビジネスにおいては相手に「察し」を求めてはならず、「お金の話を言わなければならないシーン」で、お金の話をしっかりできない人を雇ってしまうと、後から必ずもめるからです。

もちろん、中には「お金ではない理由」で転職する人もいます。
「能力を活かせない」とか「仕事の内容に興味を持てなかった」という人は、統計上、合わせて9%くらいの人が該当しますが、存在します。

でも、そういう「仕事好き」は、絶対数が少ない。
「給料が安いので転職を考えました」という志望動機を持っている人が大多数である以上、そうした話を面接でしないこと自体、不自然です。

面接でお金の話をしたがらない企業はヤバいのではないか

とはいえ、転職相談などで未だに、旧態依然の「お金の話はしないほうが良い」というアドバイスが行われているのも、事実です。

なぜそんな話になっているのか。

実際に「ウチはカネが理由で転職してくる人はNGです」という会社の人事に
「なぜですか」と話を聞くと、次のようなことを言います。

  • カネのことばかり気にして、熱意が足りないように見える
  • どこで働いても良い、と言われたような気がする
  • カネにしか興味がない人は、長続きしないのでは

しかしこれらに合理性はありません。
これらは見てわかるように、どちらかというと、見える、気がする、長続きしないと思う、といった、「気持ち」の問題です。

そもそも、カネのことを気にしている人は、熱意が足りない、長続きしないという話には、根拠がありませんし、「給与が高ければどこで働いてもいい」というのは多くの人の、偽らざる本音です。

ここをごまかしても、現状は何も変わりません。

思うに、本質的には「面接でカネの話をするな」という会社は、「ウチは給料が高くない。昇給もあまりない、特徴もない」という自覚を持っている会社です。
つまり、ダメ会社。

給与がもともと高く、従業員に十分な報酬を支払っている会社は、「カネが欲しくて応募しました」という人を、むしろ歓迎します。

「カネが欲しいです」
「おう、じゃしっかり働けよ」

という「頑張れば稼げる」という考え方が、浸透しているからです。

逆に「カネの話をするな」という会社は、そこにたいして、きちんと向き合っていないだけではないでしょうか。それを「熱意」「長続き」という言葉でごまかしているのです。

人事や新規事業の立ち上げなど、本音でやらねばならない仕事が、企業にはたくさんある。
本音と向き合わず、建前ばかりを重視する姿勢は問題です。

そう考えると、「お金の話をしたがらない企業」は、低収益か低成長の会社、あるいは建前や精神論ばかりを重視する会社、要するにダメ会社だと推測できるのです。

ただし「カネが欲しい」という発言は、自己アピールにはならない

したがって、転職する側としては、「面接でカネの話を嫌がらない」というのは、優良企業を見極める一つの手段だと認識してよいでしょう。

しかし、一つ注意点があります。
カネの話は入社前にしっかりやっておくべきですが、「カネが欲しい」という発言は、自己アピールにはならないという点です。

「カネが欲しい」というのは、あくまでも自分の話であって、「私を雇うと、何のメリットがあるか」という、相手にとっての話ではありません。

「志望動機は何ですか」というテンプレ的質問に対して、「カネが欲しかったから」という
返事をするだけでは、「え、それって別にうちにあなたを雇うメリットがないじゃない」と思わせてしまうだけの可能性もあります。

つまり「志望動機は何ですか(うちにもメリットのある話をしてよね)」
というのが、面接官の本音なわけですが、面接官が無能だと、テンプレ的な質問で済ませてしまうことも多く、本当に聞きたいことは言外にある、という状況になりがちです。

つまり、面接官の無能のせいで
「志望動機は何ですか」
「カネです」
というやり取りになってしまうのです。
もちろん、この不毛なやり取りの責任は、面接官にあるのですが、
実際には「聞きたいことが聞けなかった」という面接結果は、面接官ではなく応募者の責任となります。

これはお互いに大変不毛ですので、応募者としては、こうした面接官の無能を先回りして答える必要がある、というのも事実でしょう。

「自分がしたい話の前に、相手が聞きたい話をしなさい」という原則を適用すれば、結果として「お金以外の話をしなさい」というアドバイスになります。

「志望動機は何ですか」というテンプレ質問に込められた意図に先回りする

日本企業(だけではないかもしれませんが)の面接の欠点は、面接官が「質問のプロではない」という点です。

したがって、「志望動機は何ですか」という質問には、字面以上の含みがあると考えて、応募者は先回りした回答をせねば、「不利な状況」となりかねません。

実際、面接官が「志望動機」という質問で、応募者から聞きだしたいのは、

  • すぐに辞めないかどうか
  • 待遇に文句を言わなさそうか
  • この人を雇うメリットは何か

の3点ですから、「カネです」とだけ答えず、月並みですが、次のように回答すると良いと思います。

「最大の理由は、収入を増やしたいからです。(ちゃんとカネの話をする)
加えて、私の経験が御社で活かせそうだから、という事もあります。例えば~(自分を雇うメリットを述べる)」

こうして、自己アピールを差し込めば、「カネ」と「自己アピール」の両方の話ができるので、こちらの要望も伝えながら、面接官の要望も満たすことが可能です。

「採用したい人」だけに許されるカネの話。

ただ、厳しい話ですが、本質的には、「カネの話」が許されるのは、企業が「採用したい」と思った人に対してだけです。
本人の性格や能力・スキルと、企業の求めるものがマッチしない場合は、門前払い、すなわちカネの話以前の問題、と言えます。

そういった事情もあり、転職サイトやアドバイザーの「カネの話は避けたほうがいい」という無難な提言につながるのでしょう。

結局のところ、面接では
企業側は「買い手」として。「どうやって貢献してもらえるのか」が知りたい。
応募者は「売り手」として。「良い待遇が得られるか」が知りたい。

お互いに必要な情報を、十分に出し合うことが、必要なのであって、
どちらか一方の都合を一方的に押し付ける場ではない、といえます。


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【エビデンス】
*1 厚生労働省「令和2年雇用動向調査結果の概要」p2


著者】安達 裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者(http://tinect.jp)/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
Twitter:安達裕哉