転職エージェントはマラソンの伴走者である!トップエージェントの極意とは?

転職を希望する求職者と優秀な社員を獲得したい企業。その仲介をし、成約にまで導く人材紹介ビジネスは専門性が問われ、競争も激しい、厳しい業界として知られている。

その中にあって、求職者から圧倒的な信頼と支持を得、数々の輝かしい成果を上げ続けている転職エージェントがいる。

彼は求職者にどのように寄り添い、どのような取り組みをしているのだろうか。

株式会社VIVAインテリジェンスネットワークの伊藤諒真氏に、ビジネス哲学と仕事の流儀を伺った。

ターゲット層:第二新卒〜20代後半
平均進捗対応者数:25名
スカウト送信数:250通/月
返信率:10%
応募率:7%
決定率:5人に会って1人が決まるイメージ(20%程度)

大切な習慣

―まず、このお仕事に就かれたきっかけを教えていただけますでしょうか。

伊藤

入社後、自分の目の前にあった仕事がこの仕事だったいうことが大きなきっかけです。
実は、この仕事がしたいから今の会社に入ったというわけではなく、代表と一緒に仕事をしたくて入った会社だったので、仕事は選びませんでした。

―魅力的な代表なのですね?

伊藤

もともと自分はノリと勢いだけで生きているようなタイプでした。考えやその考えの根拠などは全く持たないまま生きていたのですが、そこに思考を入れてくれたといいますか、きちんと考えなければいないんだという衝撃を与えてくれました。
そういう意味で根本的な転換を与えてくれたのが代表です。

―このお仕事のために続けていらっしゃる習慣はありますか。

伊藤

2つあります。
まず1つ目ですが、前日までに翌日の動きを詳細に確定させておくということをずっと続けています。1日1ページの手帳を使って、毎晩、翌日のスケジュールを書き込み、それをする理由や目的まで書き留めておきます。
書き出すことで、翌日の自分の動きを前日の夜には確定させておきたいからです。そして、当日はそのとおりに動くだけです。
例えば、今インタビューをお受けしていますが、「インタビューが終わる頃にはおそらく〇〇さんからご連絡が入っているだろう。そうしたらまず〇〇さんにこういうお返事をして・・・」というように、すべて書いておきます。
インタビューが終わったらその通りに行動すればいいだけにしておくんです。

―それには、どのくらいのお時間をかけていらっしゃいますか。

伊藤

続けているうちに、短時間でもできるようになりました。今は15分もあれば充分です。そのノートは基本的にずっと開きっぱなしで、確認しながら仕事を進めています。

―どんなきっかけで始められたのでしょうか。

伊藤

この仕事はとにかくやるべきことがとても多いので、最初は行き当たりばったりの仕事をしていたんですが、この進め方だと仕事は溜まるばかりで、狙った通りの成果を残していくことができなかったんです。
それで、冷静に考えられる前日から準備を始めて、翌日の動きや戦略を確定しておくことが大切だと気づき、始めました。

―では、もう1つの習慣とは?

伊藤

誰とどんなやりとりをしたか、自分がどういう動きを何件したのかというログをつけています。
例えば、誰にどんな連絡をしたか、1日何通スカウトメールを送ったか、送ったメールの返信が何通あったかなどの数字をエクセルに入力してすべて管理しています。

自分のパフォーマンスが以前に比べて向上しているのか、低下しているのか、あるいは変化がないのかといったことをタイミング毎に振り返って、改善点がないか探しています。
また、そういう記録は、若手を指導したり助言したりするときの根拠にもなるので、役立っています。

正直なところ、はじめの頃は入力するのが面倒だと思ったこともありましたが、今となってはなくてはならない貴重なデータなので、数字を記録しておくことが当たり前の習慣になっています。

―そういう数字の中で一番、大切なものはなんでしょうか。

伊藤

成約のひとつ前の、見込み数です。見込み数から、そのうちのどのくらいが成約に至るかを推測します。見込みが全くないときには当然成約はありません。なので、成約を産み出す見込みの数を増やしていくことを意識しています。

それと入口の集客数ですね。その数字が少ないと、当然、その後に続く数字も少なくなります。
そのため、集客数が少ないときには、スカウトのための時間を最優先にしてスケジュールを立てています。この2つの数字が一番大切だと思っています。

求職者にはこうして寄り添う

―このお仕事で一番大変なことは何ですか。

伊藤

それは、今まで積み上げてきたことが、簡単にひっくり返ってしまうということですね。
この仕事はフローがとても多いんですね。ところが、長期間お付き合いして、信頼関係が築けていたと思っていたところが、急に態度を変えられてしまうということもあります。
人と接する仕事の難しさはこういうところにあるのかもしれません。

一心同体で進めていかないと、かなりのダメージを受けてしまいます。それが一番、大変ですね。
最近はそうならないようにいろいろ工夫しているので、自分がやれるだけやってそうなったら、もう仕方ないと思って、そういうときには、すぐに気持ちを切り替えます。

―求職者の方と接するときに一番心がけているのは、どのようなことですか。

伊藤

否定しない、この1点です。
私が接する求職者の方は、初めての転職の方が多いんですね。それで、お話を伺っていると、正直それは無謀だと思うことも結構あります。
でも、求職者の方は真剣に考えているので、それを否定するのではなく、「〇〇さんが目指しているのは、こういうことですね。今、いきなりそこに行くには少し飛躍がありますが、こういうプロセスを踏んでいけば、そこにたどりつけますよ」という道筋を示すようにしています。

否定するのは簡単ですが、そうすると求職者の方は心を閉ざしてしまいます。それで、遠回りになるかもしれませんが、プロセスを提示して、納得していただくようにしています。

―否定しないというのは、カウンセリングの手法と同じですね。
それは、どうやって身につけられたのでしょうか。

伊藤

エージェントとして右も左もわからなかった頃には、求職者の方が伝えてくれたことを否定して、自分の思う方向性にもっていくということをしがちでした。
でも、求職者の方と接している自分をモニタリングしたときに、そういう自分は求職者の方にとってイヤな人間だなと思ったんです。そういうことはしたくない、と。
それからは、求職者の方のお立場に立つということを常に心がけてきました。

―求職者の方が迷ったり悩んだりしているとき、どのように寄り添っていますか。

伊藤

そもそもその方が迷っているのか、というところからみていきます。
中には、ご自分の中ではもう結論が出ていて、今一つ決断に踏みきれない方もいます。そういう方の場合は、話を聞いてちょっと後押ししてあげるだけでよかったりします。

悩んでいる場合ですが、そういうときでも、紙に書きだすだけで解決の糸口が見えることが結構あります。それで、私が紙に書き出して、整理して話すと、納得されることが多いですね。

それから、例えば、求職者の方がA社かB社かで迷ったときに、私の中では絶対A社だと直感したとしても、直感だけではその方は納得できないので、その直感を分析して、根拠までお伝えすることができれば、その方は納得して、いい方向に進むことができます。
お相手あっての仕事なので、そういうプロセスも必要だと思います。

―印象に残るエピソードをお聞かせください。

伊藤

非常に心に残る出来事がありました。

社会人1年目の方から転職したいというご連絡をいただいたことがあります。
でも、その時点でのご経験や成果では転職が難しいという事情がありました。
そこで、「これからこういうことに取り組んでこういう成果が出せれば、こういう転職につなげられます。今の会社でそういう成果が出せるようにがんばってみませんか」というアドバイスをさせていただきました。

すると、そのお話の直後から、その方は会社でずっと営業成績1位を取り続けられました。あまりに目覚ましい成果だったので、その方のやり方が注目されて、その会社でのスタンダードになったほどです。

その方は、そうした成果を残された段階で、改めて転職のご相談をもちかけてくださり、結局、望まれるとおりの転職を果たされました。
その方とは、転職が決まるまでだいたい1年くらいお付き合いさせていただき、今でも連絡をとっていますが、非常に印象的な経験でした。

この経験から、考え方ひとつ、取り組み方ひとつで、得られる成果がここまで違うのだということに改めて気づかされました。能力差というより、考え方、視点なのですね。

成果を産み出すものとは

―お仕事に必要なリサーチなどはどのようになさっていますか。

伊藤

転職活動は、その人の人生を左右する活動なので、その活動を支援するこの仕事に必要な情報は、実に幅広いです。
私は生きた情報が欲しいので、目の前の求職者の方の考え方や現在取り組まれているお仕事の内容や、何がそのお仕事の成果につながっているかなどを聞かせていただいて、情報を集めています。
そこで集められた生きた情報を、新しく出会う求職者の方との面談に活用させて頂いてます。

もちろん、普段疑問に思う点、気になる点、興味が湧く点などが出てきたら、それらの点について改めてネットで調べたりしますが、ネットで調べられる情報というのは、誰でもアクセスできる情報ですから、それを私が調べてそのままお伝えすることにはあまり意味がないと思っています。

なので、そのような情報に対しては、求職者の方が持っていないであろう新しい視点の解釈を付け加えた上で提供して、転職に対しての視野を広げられるようにしてます。

―今までのご経験の中で考え方に変化が生じたことはありましたか。

伊藤

「やりたいこと」をはじめから設定してそれに拘るより、目の前のことに愚直に取り組んで成果を出し続けることの方が、いい結果につながると考えるようになりました。
特に20代の方とお話しすると、ほとんどの方が転職理由として「思っていたのと違った」と言われます。「自分はそういうことをやりたかったわけではなくて、こういうことがやりたかった」と。

でも、それだと、「これがやりたいことだ」と思って別の会社に入ったとしても、いい成果が出せなければ、「思ったことと違う」とまた思うかもしれません。そういうケースが結構あります。
私も元々はそういうタイプだったのですが、実は目の前のことに取り組んで成果を出していけば、いい評価が得られて、またいいお仕事がいただけて、それが自分のやりたい仕事になっていくという経験をしてきました。

なので、自分がやりたいことに拘るのではなくて、自分ができること、目の前にあることに愚直に取り組んで成果を出す。そうすることによって「自分のやりたいことはこれだった」ということに気づく。そんな方向性の方が大切ではないか、と考え方が変化しました。

―伊藤さんはこれまで輝かしい実績を残していらっしゃいます。
なにがそこに結びついたとお考えでしょうか。

伊藤

コツコツとやり続けることでしょうか。この仕事はやるべきことをしっかりとやり続けないといけない仕事だと思います。数を回していく仕事なので、どこかで力を入れたり、あるいは逆に抜いたりというパフォーマンスのブレが、成果のブレにつながってしまう。

そのため、数字の管理や求職者の方との面談の細かい準備など、当たり前のことを毎日、コツコツ続けていくことが大切だと考えています。

それから、離脱を防ぐという意味では、お相手の期待以上のことをご提供することですね。期待している以上のことを準備してお渡しする、それが大切だと考えています。

転職エージェントを一言でいうと? そして、同業者へのメッセージ

―このお仕事のやりがいは何でしょうか。

伊藤

工夫する余地がたくさんあることです。

弊社の場合、転職に至るプロセスでは、まず転職を希望される方にスカウト・メールを送らせていただいて、スカウトから応募があったら、一度電話面談をします。その上で求人企業をご紹介して、次に企業様に推薦させていただいて、一次面接、二次面接、そして内定というように、たくさんのフローがあります。

そうしたフロー毎に数字がずらっと並んでいて、改善できる箇所がたくさんあるんですね。つまり、自分自身のクリエイティビリティ―が発揮できる多くの機会が用意されているということです。そして、実際に改善できたときにやりがいを感じます。それと同じように、目の前の求職者の方も面接対策などを通して、工夫と改善を繰り返していくと、通過率がだんだんよくなっていきます。そんなふうに一連の改善経験をご提供できるというところにもやりがいを感じます。

目の前の方の人生やキャリアを、少しでも好転させることが出来ているかもしれない、という実感にやりがいを感じているんだと思います。

それから、以前転職をお手伝いさせていただいた方が、お知り合いの方を紹介してくださることがあるんですが、それは私を信頼してくださってのことなので、大変嬉しいですね。

―天職でいらっしゃいますね。
転職エージェントのお仕事を一言で表すとしたら、どうなりますか。

伊藤

坂本雄次さんという方をご存知でしょうか。
チャリティー番組のマラソンで、タレントさんに伴走している方です。

あのマラソンでは、タレントさんは24時間走り続けます。しかも、初めての体験で、どういうタイミングでどういう体の不調が起こるのか、どこで休むのがいいのか、どういうコース取りをして、どういう走り方をしたらいいのか未経験です。そこで、坂本さんは、サポートし続けているんですね。
求職活動をそのマラソンに喩えると、求職者の方はタレントさんで、転職エージェントの自分は坂本雄次さんなのかな、と思います。

主役はあくまで求職者の方で、私の役割はその方の少し後ろを走るサポーターのようなもの。給水ポイントできちんと給水ができるように、あるいは道を間違えやすいポイントに差し掛かかったらナビゲートしたり、私はあなたの伴走者ですよ、という姿勢、スタンスですね。

なので、この仕事を一言で表すとしたら、「坂本雄次さん」です(笑)

―ありがとうございます。大変、明確なイメージが描けました。
最後に、悩み多き転職エージェントの方もいらっしゃると思います。
そのような方々にアドバイスとエールを送っていただけますでしょうか。

伊藤

私の口から何かをお伝えするのはおこがましいのですが、その上で申し上げるとしたら、武道でいうところの「心・技・体」は、転職エージェントの場合、「回転数」・「求人」・「知識」の3つではないかと思います。

やるべきことが多いがゆえに、悩みの幅も広いと思いますが、それをブロックに分けていくと、この3つに集約されると思うんです。その3つの中で、自分は今何に悩んでいるのかをつきとめることができれば、解決に向けて動くことができます。
そうすれば、状況は少しずつよくなります。それは私自身がやり続けてきたことです。

皆さん、一緒にがんばっていきましょう!


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【インタビュアー】横内美保子(よこうち みほこ)
博士(文学)。元大学教授。大学における「ビジネス・ジャパニーズ」クラス、厚生労働省「外国人就労・定着支援研修」、文化庁「『生活者としての外国人』のための日本語教育事業」、セイコーエプソンにおける外国人社員研修、ボランティア日本語教室での活動などを通じ、外国人労働者への支援に取り組む。
Webライターとしては、主にエコロジー、ビジネス、社会問題に関連したテーマで執筆、関連企業に寄稿している。

Twitter:@mibogon