事業主と労働者とで負担する雇用保険料は、雇用に関する様々な給付等に充てられています。
その一つに「雇用保険二事業」があり、雇用安定事業と能力開発事業に分かれます。
今回は、雇用安定事業の一つである「助成金の支給」の中から、就職が特に困難な人を雇い入れる際に利用できる助成金=特定求職者雇用開発助成金を紹介します。
令和3年6月現在で6個のコースが設定されています。
自社での雇い入れの際に適用するコースがあれば、ぜひ積極的に利用して下さい。
- 特定就職困難者コース
- 生涯現役コース
- 被災者雇用開発コース
- 発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース
- 就職氷河期世代安定雇用実現コース
- 生活保護受給者等雇用開発コース
以下、それぞれのコースの概要を説明していきます。
目次
特定就職困難者コース
高年齢者(60歳以上65歳未満)や障害者、母子家庭の母など就職が特に困難な人で、雇い入れ日の満年齢が65歳未満の人が対象です。
ハローワーク等の紹介により、継続して雇用する労働者(雇用保険の一般被保険者)として雇い入れる事業主に対して助成されます。
対象となる労働者は以下です(図1)。
身体障害者・知的障害者の確認は、障害者手帳や療育手帳(東京都では愛の手帳)により行います。これらの手帳を所持していない場合は、照会結果資料や判定書、医師の意見書などにより審査されます。
さらに障害等級が1,2級相当の場合や、身体・知的障害者で45歳以上の人、そして精神障害者については「重度障害者等」となり、支給額と助成対象期間が異なります。
また、一週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満の短時間労働者についても異なります(図2)。
上記の助成額が支給対象期(6か月)ごとに支給されます。
補足として、入社後に対象労働者に該当することが判明しても当該コースは利用できません。よって、ハローワーク等からの紹介時点で対象労働者であることを確認する必要があります。
生涯現役コース
雇い入れ日の満年齢が65歳以上の離職者を、ハローワーク等の紹介により、1年以上継続して雇用することが確実な労働者(雇用保険の高年齢被保険者)として雇い入れる事業主に対して助成されます。
対象労働者の条件が年齢のみであるため、特定雇用開発助成金の中では使いやすいコースといえます。
助成額等は以下の通りで、支給対象期(6か月)ごとに支給されます(図3)。
被災者雇用開発コース
東日本大震災の被災地域における被災離職者および被災地求職者を、ハローワーク等の紹介により、1年以上継続して雇用することが確実な労働者(雇用保険の一般被保険者)として雇い入れる事業主に対して助成されます。
対象となる労働者は、震災発生時に原発事故に伴う警戒区域等(計画的避難区域・緊急避難準備区域等を含む)に居住していた人で、以下の1または2のいずれかに該当する人です(図4)。
助成額等は以下の通りで、支給対象期(6か月)ごとに支給されます(図5)。
さらに対象労働者を10人以上雇い入れ、1年以上継続雇用した場合、一事業主につき1回、助成金の上乗せとして60万円(中小企業以外の企業は50万円)が支給されます。
しかしながら震災から10年が経過し、この要件に該当する人はかなり少なくなっているというのが現状です。
発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース
発達障害や難病のある人で障害者手帳を所持しておらず、雇入れ日の満年齢が65歳未満の人を、ハローワーク等の紹介により継続して雇用する労働者(雇用保険の一般被保険者)として雇い入れる事業主に対して助成されます。
対象労働者となるのは以下の要件に該当する人です。
障害者手帳を所持していない人で、発達障害または難病のある人
▶発達障害の場合:発達障害者支援法第2条に規定する発達障害者(自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害など)
▶難病の場合:厚生労働大臣が定める特殊の疾病(難病)にかかっている人*1
助成額等は以下の通りで、支給対象期(6か月)ごとに支給されます(図6)。
当該コースの注意点として、労働者が発達障害や難病であることを伏せたまま入社し、後日判明した場合は助成対象となりません。あくまで、ハローワーク等から対象労働者として紹介された場合にのみ利用できる制度です。
就職氷河期世代安定雇用実現コース
いわゆる「就職氷河期」に就職の機会を逃したこと等により、十分なキャリア形成がなされなかったために正規雇用労働者としての就業が困難な人を、ハローワーク等の紹介により正規雇用労働者として雇い入れる事業主に対して助成されます。
対象となる労働者は以下の①~④すべてに該当する人です(図7)。
助成額等は以下の通りで、支給対象期(6か月)ごとに支給されます(図8)。
生活保護受給者等雇用開発コース
生活保護受給者や生活困窮者で、雇い入れ日の満年齢が65歳未満の人を、ハローワーク等の紹介により、継続して雇用する労働者(雇用保険の一般被保険者)として雇い入れる事業主に対して助成します。
対象となる労働者は、雇い入れ日において3カ月を超えて以下の①~③のいずれかの支援を受けている、生活保護受給者または生活困窮者です。
- 地方公共団体からの支援要請に基づくハローワークにおける支援
- 地方公共団体における被保護者就労支援事業による支援
- 地方公共団体における生活困窮者自立相談支援事業による就労支援
助成額等は以下の通りで、支給対象期(6か月)ごとに支給されます(図9)。
当該コースは、入社後に生活保護受給者であることが判明した場合は助成対象となりません。また、生活保護の申請段階の人や、過去に生活保護を受給していた人は含みません。
対象労働者の詳細がやや分かりにくいため、利用を検討する際はハローワークへご相談ください。
各助成金に共通の要件
特定雇用開発助成金を受給するには、各コースの要件に該当する必要がありますが、事業主として以下の1~3をすべて満たすことも必要です(図10)。
さらに事業主や役員が暴力団と関わりのある場合は受給できません。その他にも、
- 過去に不正受給による不支給決定や支給決定の取り消しを受け、5年を経過していない事業主
- 過年度の労働保険料を納入していない事業主
- 性風俗関連営業、接待を伴う飲食等営業またはこれらの営業の一部を受託する営業を行う事業主
などは受給できない可能性があります*2。
なお各コースの説明の中で「中小企業」という表現が登場しますが、特定雇用開発助成金では以下のような区分で中小企業と中小企業以外に分けられます(図11)。
原則として、上記表の「資本金の額・出資の総額」か「常時雇用する労働者の数」のいずれかを満たす企業が中小企業に該当します。
支給申請での注意点
対象労働者を雇用する際は、ハローワークや民間の職業紹介事業者等の紹介が必要なため、雇い入れ時点で助成金対象労働者であることが分かります。
申請までの流れとして、支給対象期(主に6か月)ごとに、支給対象期の末日の翌日から起算して2か月以内に、支給申請書と必要書類を添えて、管轄のハローワーク又は労働局へ申請します。申請書類や添付書類は助成金ごとに異なるため、ハローワークの指示に従います。
申請後は労働局による審査を経て、支給決定されると指定口座へ助成金が振り込まれます。しかし最近では支給決定に1年近くかかるケースも見受けられるので、入金までには申請から少なくとも半年、対象労働者の入社からは1年を覚悟しておく方が無難でしょう。
また、申請書類や添付資料の写し等は、支給決定された時から5年間の保存義務があります。労働局による事後調査もあるため、後から不正受給が発覚すると受給した助成金の全額返還に加え、延滞金と罰金相当を請求されます。
助成金は法令順守が原則です。この機会に、自社におけるコンプライアンスチェックも行ってみるといいでしょう。
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【エビデンス】
*1参照:発達障害・難治性疾患患者雇用開発コースのご案内/厚生労働省_p3,4
https://www.mhlw.go.jp/content/000575747.pdf
*2参考:各雇用関係助成金に共通の要件等/厚生労働省_p9
https://www.mhlw.go.jp/content/000497181.pdf
【著者】浦辺 里香(うらべりか)
ライター/特定社会保険労務士/ブラジリアン柔術紫帯
早稲田大学卒業後、日本財団、東京中日スポーツ新聞社を経て社労士として開業。
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