人材紹介契約を締結する際の注意点は?主要な条項・職業安定法上の留意事項を弁護士が解説

転職エージェント(人材紹介会社)は、求人を行うクライアント企業との間で「人材紹介契約」を締結します。

転職エージェントが人材紹介契約を締結する際には、自社にとって不利な条項が含まれていないかを確認し、不適切な条項については修正を求めることが大切です。
また、人材紹介契約の条文を作成するに当たっては、職業安定法上の規制を踏まえた内容としなければなりません。

今回は、人材紹介契約の主要な条項や、職業安定法上の留意事項など、転職エージェントの立場から注意すべき事柄をまとめました。

人材紹介契約に規定すべき主な条項

人材紹介契約では、主に以下の事項が規定されます。各条項につき、転職エージェントにとって不当に不利な内容になっていないかを確認しましょう。

(1)人材紹介業務の内容

転職エージェントがクライアント企業に対して人材紹介を行う旨、対象となる職種、紹介する人材の特徴・属性などを規定します。

人材の特徴・属性などについては、人材紹介契約では細かく定めずに、個別の発注書などで指定することも可能です。

(2)手数料の発生条件・計算方法・支払方法

人材紹介手数料の発生・計算・支払いに関するルールを詳しく定めておきます。お金に関する重要なポイントなので、疑義のないように定めることが大切です。

手数料額は理論年収の27.5~38.5%(税込)程度が標準的ですが、後述するように、厚生労働大臣への届出が必要となります。
また、紹介した求職者が別ルートでクライアント企業に採用された場合にも、転職エージェントが手数料の支払いを受けられる「オーナーシップ」を定めることも多いようです(対象期間は、紹介後1年程度が標準的)。

(3)返戻金制度|短期間での退職時の手数料返還

雇用契約の締結後、短期間で労働者が退職してしまった場合、転職エージェントがクライアント企業に手数料を返還する旨を定めることがあります。これを「返戻金制度」と言います。

転職エージェントとしては、手数料の返還ルールを定めないか、定めるとしても緩やかなものにとどめることが望ましいでしょう。1か月以内の退職で手数料の70~80%、3か月以内の退職で手数料の50%、6か月以内の退職で手数料の30%を返還するといった水準が標準的と考えられます。

(4)直接取引の禁止

紹介した求職者を、クライアント企業が転職エージェントを通さずに採用してしまうと、転職エージェントは手数料を失ってしまうおそれがあります。

このような事態を防ぐため、クライアント企業の求職者に対する直接連絡を禁ずる規定を設けるのが一般的です。手数料のオーナーシップ規定を設けるとしても、二重の対策を施す観点から、直接取引の禁止を定めておくのがよいでしょう。

(5)その他

上記のほか、さまざまな契約に共通して規定される内容として、以下の条項を定めることが多くなっています。

・損害賠償
・秘密保持
・反社会的勢力の排除
・契約の解除
・準拠法
・合意管轄

また後述するように、職業安定法上の明示事項との関係で、以下の事項に関しても定めておきましょう。

・苦情の処理に関する事項
・求人者の情報および求職者の個人情報の取扱いに関する事項

人材紹介契約に関する職業安定法上の注意点

人材紹介契約の条文を作成する際には、職業安定法上のルールに沿っているかどうかを確認することも大切になります。

人材紹介契約との関係で問題となる、職業安定法上の主なルールは以下のとおりです。

職業安定法上明示すべき事項がある

転職エージェントはクライアント企業に対して、必ず以下の事項を明示しなければなりません(職業安定法32条の13、職業安定法施行規則24条の5第1項)。

・取扱職種の範囲等
・手数料に関する事項
・苦情の処理に関する事項
・求人者の情報および求職者の個人情報の取扱いに関する事項
・返戻金制度に関する事項

上記の事項の明示は、人材紹介契約の締結によって行うのが一般的です。そのため、少なくとも上記の事項につき、人材紹介契約において明確に規定されていることを確認しましょう。

手数料について規制が設けられている

転職エージェントの得る手数料(実費を含む)については、以下の規制が存在します(職業安定法32条の3)。
人材紹介契約の条文において、以下の規制と矛盾・抵触する内容が定められていないかを確認しましょう。

(1)一定金額を上回る手数料を得る場合、厚生労働大臣への事前届出が必要
厚生労働大臣への事前届出なしで収受できる手数料は、6か月間の賃金総額の11%(税込)が上限です※。
※ただし受付手数料として、課税事業者は1件当たり710円、免税事業者は1件当たり660円を受け取れます。

上記の金額を超えて手数料を受け取る場合、厚生労働大臣に対して、事前に手数料表を届け出なければなりません(職業安定法32条の3第1項、職業安定法施行規則20条1項、別表)。

(2)求職者からの手数料徴収は、原則として禁止
転職エージェントが、紹介する求職者本人から手数料を収受することは、以下の職業を除いて禁止です(職業安定法32条の3第2項)。
・芸能家
・モデル
・科学技術者
・経営管理者
・熟練技能者

就職お祝い金の支給は禁止されている

以前は、転職エージェントが転職を成功させた者に対して、「就職お祝い金」などの名目で金銭を支給するケースがありました。しかし現在では、職業安定法に基づく指針の改正により、転職エージェントによる就職お祝い金の支給は禁止されています。

参考:「就職お祝い金」などの名目で求職者に金銭等を提供して求職の申し込みの勧奨を行うことを禁止しました|厚生労働省

人材紹介契約では、雇用契約の成立等を条件として、就職お祝い金の全部または一部をクライアント企業に負担させる内容の条項が規定されることがありました。
しかし、就職お祝い金の支給が禁止されたことに伴い、このような条項を人材紹介契約に規定することには問題があります。

人材紹介契約を締結するに当たっては、就職お祝い金をクライアント企業に転嫁していると読める規定は削除しておきましょう。

まとめ

転職エージェントが人材紹介契約を締結する際には、自社にとって不利益な条項が含まれていないかどうかと、職業安定法の規制を遵守しているかどうかの2つの観点を意識する必要があります。

自社にとって不利益な条項を見落としてしまうと、クライアント企業との間でトラブルが発生した場合に、思わぬ大きな損害を被ってしまいかねません。
また、職業安定法の規制と矛盾した条項を見落とすと、厚生労働大臣の指導・助言・改善命令・公表、さらに刑事罰の対象となる可能性があるので要注意です。

転職エージェントが人材紹介事業を安定的に運営するためには、人材紹介契約の内容をきちんとチェックすることが大切です。必要に応じて顧問弁護士などのアドバイス・リーガルチェックを受けながら、内容を丁寧に確認したうえで人材紹介契約を締結してください。


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【著者】阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
HP:https://abeyura.com/
Twitter:@abeyuralaw