賞与(ボーナス)の条件、契約書にどう書く? トラブル防止の注意点を弁護士が解説

賞与(ボーナス)は基本的に、「会社の裁量によって支給の有無や金額を決められる」というイメージが広まっているように思います。

確かに、毎月の給与と比較すれば上記のような側面もありますが、賞与については労働基準法によってルールが決まっている部分もあります。また、求職者から見た労働条件の透明性を確保するためにも、賞与に関する条件を明確に伝えることは重要です。

今回は賞与に関して、労働契約書(雇用契約書)に明記すべき条件や記載例を紹介します。求職者とのトラブルを防止するため、企業の人事担当者・採用担当者の方はもちろん、転職エージェントの方も紹介する求人の賞与(ボーナス)条件をしっかり確認するようにしましょう。

労働基準法における賞与の位置づけ

労働基準法の規定に従うと、賞与については以下の考え方・ルールが適用されます。

賞与の支払いは会社の義務?

毎月支払う給与とは異なり、賞与の支給は、労働基準法によって会社に義務付けられたものではありません。ただし、労働契約において賞与の支給条件を定めた場合、会社はその条件に従って、労働者に賞与を支給する義務を負います。

つまり、契約の定めがなければ会社に賞与を支給する義務はないものの、契約の定めがあれば支給義務があるということです。

賞与の支払いに適用される3つの原則

会社が労働者に賞与を支給する場合、賞与は労働基準法上の「賃金」に該当します(同法11条)。そのため、通常の賃金と同様に、以下の3つの原則が適用されます(同法24条1項)。

①通貨払いの原則
賞与は原則として、円通貨で支払わなければなりません(法令・労働協約で別段の定めがある場合を除く)。

②直接払いの原則
賞与は、労働者に対して直接支払う必要があります。仲介者を通じて支払うことは認められません(同居の家族などの使者に支払う場合を除く)。

③全額払いの原則
賞与は、その全額を労働者に対して支払わなければなりません。何らかの債務と相殺したりすることは原則不可です(法令・労使協定で控除が定められている場合を除く)。

なお、「毎月払いの原則」と「一定期日払いの原則」は、賞与が臨時的な賃金であることを踏まえて適用されないことになっています(同条2項)。

賞与の条件は労働者への明示が必要|就業規則にも要記載

賞与は「賃金」であるため、労働契約の締結に当たっては、会社は賞与の条件を労働者に明示しなければなりません(労働基準法15条)。賞与条件の明示は、原則として書面で行う必要があります(労働基準法施行規則5条4項)。

契約書に賞与条件を記載するのが、もっともわかりやすい明示の方法です。
それ以外にも、契約書以外の書面(労働条件通知書など)によるほか、労働者が希望すればファクシミリや電子メールなどによる明示も認められます。

さらに、常時10人以上の労働者を使用する会社では、就業規則を作成し、その中で賞与に関する事項を記載する必要がある点にもご留意ください(労働基準法89条4号)。

契約書の中で、賞与の条件はどのように記載すべきか?

労働契約書で賞与の支給条件を定める場合、どのような記載をすればよいのでしょうか。

実務上よく見られるパターンを、条文の記載例とともに紹介します。

パターン①|賞与の支給額を記載する

一番わかりやすいのは、賞与の具体的な支給額を記載するパターンです。

(例)
「甲(会社)は乙(労働者)に対して、毎年6月●日と12月●日の年2回、賞与として金●万円をそれぞれ支払う。」

パターン②|賞与額の計算方法を記載する

賞与の計算方法(計算式など)を記載するパターンもあります。
月給などの実績値をベースに賞与額を算出する場合は、このパターンで記載するのがよいでしょう。

(例)
「甲(会社)は乙(労働者)に対して、毎年6月●日と12月●日の年2回、賞与として、当該年に係る基本給の●か月分をそれぞれ支払う。」

パターン③|賞与査定の考慮要素のみを記載する

賞与の具体的な金額や計算式などを明記せず、賞与査定の考慮要素のみを記載しておくパターンも、実務上よく見られます。
賞与査定について、会社の裁量を広く確保しておきたい場合に適した記載方法と言えるでしょう。

(例)
「甲(会社)は乙(労働者)に対して、毎年6月●日と12月●日の年2回、賞与を支払う。賞与の金額は、甲の事業実績並びに乙の能力、貢献度及び勤務実績その他の事情を考慮して、甲の裁量により定める。なお、甲の経営不振及び乙の勤務不良その他の事情に鑑み、甲の裁量によって賞与を支給しない場合もある。」

契約書に賞与の条件を規定する場合のチェックポイント

賞与の支給条件として、「支給日在籍要件」や「退職予定者に対する賞与の不支給」を定めるケースがあります。

これらの条件を定める場合には、以下に挙げるポイントにそれぞれご注意ください。

支給日在籍要件について

「支給日在籍要件」とは、賞与の支給日に在籍していなければ、賞与を一切支給しない旨を定めるルールです。

(例)
「甲(会社)は乙(労働者)に対して、毎年6月●日と12月●日(以下「賞与支給日」という)の年2回、賞与として金●万円をそれぞれ支払う。ただし、乙が賞与支給日において、従業員として甲に在籍していることを条件とする。」

支給日在籍要件そのものは、賞与の支給条件として不合理とは言えず、有効と解するのが判例の立場です(最高裁昭和57年10月7日判決など)。

ただし整理解雇など、労働者の責に帰すべき事由がないにもかかわらず、会社都合で退職を余儀なくされるケースもあります。
このような場合には、支給日在籍要件だけを理由とする賞与全額の不支給を不合理と判断し、賞与の支払いを命じた判決があるので注意が必要です(東京地裁平成24年4月10日判決など)。

退職予定者に対する賞与の不支給について

賞与支給日の時点で、近日中に退職することが決まっている労働者については、賞与を不支給または減額とする旨を定めるケースがあります。

(例)
「賞与支給日の時点で、乙(労働者)が甲(会社)を退職することが決定している場合、賞与の【全額、●割など】を不支給とする。」

賞与には、労働者の将来における貢献に期待する意味合いもあるため、退職予定者に対して支給する賞与の減額は、一定の限度で認めるのが裁判例の傾向です(東京地裁平成8年6月28日判決など)。

これに対して、退職予定者に賞与の全部または大部分を支給しないことは、労働契約上の債務不履行と評価される可能性があります。
賞与には過去の貢献に対する報奨、会社の利益の労働者に対する分配などの意味合いもあるところ、退職予定者であっても、これらの賞与支給の趣旨には当てはまるからです。

たとえば前掲・東京地裁の裁判例では、賞与支給日時点で退職予定の労働者(在職7か月)について、賞与の82%余りを減額する会社の主張を退け、減額幅を20%に限定する旨を判示しました。

このように、退職予定者に対する賞与を不支給または大幅減額とすると、後で労働者に訴訟などを起こされた場合に、会社の主張が覆されてしまうおそれがあるのでご注意ください。

まとめ

労働契約書で賞与に関する条件を明記しておくことは、労働基準法を遵守することに加えて、労働者とのトラブルを防止する観点から非常に重要です。

今後採用する労働者が、賞与を含めた労働条件につき正しく理解・納得して入社できるように、人事担当者・採用担当者の方は、労働契約書の内容を再確認することをお勧めいたします。
また転職エージェントの方も、クライアント企業と求職者の間で認識の齟齬が生じないように、労働契約書の内容を十分に確認したうえでサポートを行ってください。


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【著者】阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
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