不採用理由を開示する義務はある? 不採用理由は何でもよい? 企業の注意点を弁護士が解説

採用活動を行う企業は、候補者から不採用理由の開示を請求されるケースがあります。

企業に不採用理由を開示する義務はありませんが、差別的な理由で候補者を不採用にすると、内部リークなどによってその事実が発覚する可能性が否めません。
企業としてのレピュテーションを守るためにも、採用活動におけるコンプライアンスの観点から、差別的な選考を行うことは避けてください。

今回は、

  • 不採用理由を開示する義務の有無
  • 差別的な理由で候補者を不採用とすることの問題点
  • 不採用理由の開示請求を受けた場合の対処法

などを、法的な観点からまとめました。

企業に不採用理由の開示義務はない

候補者から不採用理由の開示を求められたとしても、企業はその理由を開示する義務を負いません。

東京高裁昭和50年12月22日判決では、医療機関が求人への応募者を不採用とした理由につき、医療機関側の説明義務(開示義務)が否定されました。
その理由として、東京高裁は以下の各点を示しています。

・人員の採否の決定には極めて広い裁量判断の自由が認められるべきこと
・人員の採否を決定するに当たり、どのような要素を重視するかは原則として各企業等の自由に任されていると解されること
・上記自由のうちには採否決定の理由を明示、公開しない自由も含むこと

厚生労働省が公表している個人情報保護ガイドラインにおいても、人事評価や選考に関する個々人の情報は、保有個人データの開示請求の対象外とされています。
雇用管理分野における個人情報保護に関するガイドライン:事例集(p13)|厚生労働省

不採用理由は何でもよいのか?

企業は不採用理由の開示義務を負いませんが、候補者を不採用とする理由は、完全に「何でもよい」というわけではありません。
職業安定法3条に基づき、差別的な理由で候補者を不採用とした場合は、違法と判断されるおそれがあるので注意が必要です。

企業には採用の自由がある

企業が誰を、どのような条件で雇用するかについては、いわゆる「採用の自由」として、企業側の裁量が広く認められると解されています(最高裁昭和48年12月12日判決など)。

したがって、企業が候補者を不採用とする理由は、比較的幅広く認められるのが基本的な考え方です。

差別的な不採用理由は職業安定法違反の可能性あり

ただし職業安定法3条では、何人も以下の事項を理由として、職業紹介・職業指導等について差別的な取扱いを受けない旨が定められています。

・人種
・国籍
・信条
・性別
・社会的身分
・門地
・従前の職業
・労働組合の組合員であること
など

したがって、企業がこれらの理由で候補者を不採用とした場合、職業安定法違反に該当する可能性があります。
職業安定法違反に当たる候補者の不採用は、厚生労働大臣による指導・助言や、改善命令・公表等の行政処分の対象となるので要注意です(同法48条の2、48条の3)。

候補者から不採用理由の開示請求を受けたらどうすべき?

候補者の不採用理由は、個人情報保護法の適用を受ける個人データに該当します。
したがって、企業が候補者から不採用理由の開示請求を受けた場合は、個人情報保護法の規定に従って対応することが求められます。

不開示決定を候補者に通知する

本人から保有個人データの開示請求を受けた事業者が、その全部または一部について開示しない旨を決定した場合、本人に対して遅滞なくその旨を通知しなければなりません(個人情報保護法33条3項)。

なお「遅滞なく」とは、事務処理に要する実務上合理的な期間内に行うべき旨を意味します。不採用理由の不開示決定については、開示請求を受けてから1か月程度を目安に通知を行うのがよいでしょう。

不開示理由を説明することが望ましい

事業者が不採用理由の不開示決定を本人に通知する際には、併せて決定理由を本人に説明することが努力義務とされています(個人情報保護法36条)。

このとき、説明が求められるのは不開示決定の理由であり、不採用理由そのものではありません。事業者としては、個人情報保護法33条2項2号の規定に則り、以下のような限度で不開示決定の理由を説明するのがよいでしょう。

(不開示理由の説明の例)
貴殿より開示請求のあった当社の保有個人データにつきましては、当社の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがあるため、不開示とする旨を決定したことを通知いたします。

なお、不開示理由の説明は努力義務にとどまるため、説明しなかったとしても罰則などが課されることはありません。

開示請求に応じなければ、差別的な不採用理由が発覚することはないのか?

候補者からの開示請求を拒否すれば、たとえ差別的な理由で候補者を不採用にしても、その事実が発覚することはないように思われます。

しかし実際には、従業員や役員による内部リークがきっかけとなって、差別的な採用活動の実態が明るみに出てしまう可能性があるので要注意です。

内部リークにより、不採用理由が発覚することがある

差別的な理由によって候補者を不採用とすることは、職業安定法違反に該当し得る行為です。
たとえば、会社での待遇に不満を持っている従業員・役員や、すでに退職した元従業員・元役員などによって、職業安定法違反が横行している旨が行政機関や報道機関にリークされる可能性があります。

社会の企業に対する監視が強化され、コンプライアンスの重要性が高まっている昨今において、差別的な採用活動を行っていることが発覚すると、企業のレピュテーションに重大な悪影響を生じかねません。
企業が採用活動を行う際には、内部リークによって内情が判明するリスクにも十分に注意を払う必要があります。

職業安定法違反の違法行為は、公益通報の対象

事業者が職業安定法3条に違反して、差別的な理由により候補者を不採用とした事実は、公益通報者保護法に基づく通報対象事実に該当します(同法2条3項2号)。
職業安定法違反は、厚生労働大臣による改善命令等の理由となり(職業安定法48条の3)、改善命令等への違反は刑事罰の対象とされているからです(同法65条7号)。

職業安定法に関する公益通報を行った従業員に対しては、解雇その他の不利益な取扱いをすることが認められません(公益通報者保護法3条、5条)。
また、公益通報を行ったことを理由に役員を解任した事業者は、当該役員から損害賠償請求を受ける可能性があります(同法6条)。

さらに、公益通報を行ったことを理由として、事業者に損害が生じたとしても、事業者が公益通報者に対して損害賠償を請求することはできません(同法7条)。

事業者自身が内部通報窓口を設けていない場合でも、要件を満たせば、厚生労働省や報道機関などに対して公益通報を行うことが認められています。
事業者としては、「どうせバレないから」と差別的な理由で候補者を不採用とすることは避け、能力・適性に応じた選考を行うように努めるべきでしょう。


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【著者】阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
HP:https://abeyura.com/
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