離職率が低い理由は?2020年の大企業ランキングを参考に転職活動のポイントを研究しよう

新型コロナの影響もあり、希望・早期退職者を募集する企業が増加しています。

その一方で、離職者の少ない企業上位101社の離職率はわずか1.8%。

それはなぜでしょうか。離職者の少ない大企業ランキングとその特徴についてわかりやすく解説し、それらの企業を目指して転職活動を行う場合に有益な情報を提供します。

離職者が少ない大企業ランキング

離職者が少ない大企業ランキングをみる前に、現在の厳しい雇用状況をみてましょう。

2020年希望・早期退職者募集状況

新型コロナウイルスの影響は深刻で、多くの企業が業績悪化に陥っています。*1

2020年12月7日までに早期・希望退職者を募集した上場企業は90社に達しました。これはリーマン・ショック直後の2009年の191社に次ぐ高水準です。

募集人数は、判明しているだけで1万7,697人と、2012年の通年1万7,705人とほぼ並び、こちらも通年で2009年に次ぐ水準です。(図1)

図1 希望・早期退職者を募集した主な上場企業の状況
(出典)東京商工リサーチ[2020]「今年の上場企業『早期・希望退職』90社に リーマン・ショック後2番目の高水準」*1
https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20201209_02.html

希望・早期退職者を募集している企業の業績は、直近の本決算での赤字が50社で、全体に占める割合は55.5%に達しています。

さらに、2021年に募集を開始する上場企業は、2020年12月9日時点で既に9社判明していて、募集人数は判明しているだけで1,950人に上るという深刻な状況です。

コロナ禍が長引く中、状況は好転せず、余剰人員を抱える企業が増えています。

最近では社員シェアリングとして、ノジマが全日本空輸(ANA)や日本航空(JAL)から300人を受け入れました。

トヨタグループのトヨタ車体が、三菱重工業の従業員数百人を2021年2月から受入れることも決まっています。*2

離職者が少ない大企業ランキング トップ30

こうした深刻な状況にもかかわらず、離職者が少ない企業もあります。

ここで、「離職者が少ない大企業100社ランキング」のうち、上位15社をみてみましょう。(表1)

表1 離職者が少ない大企業ランキング 上位15社(従業員1,000人以上規模)
(出典)東洋経済ONLINE[2020]「『離職する人が少ない大企業』100社ランキング 上位101社の平均離職率は1.8%」
P3「離職者が少ない大手企業ランキング(1~50位)」より筆者抜粋 *3-1
https://toyokeizai.net/articles/-/361957?page=3

離職者が少ない企業の特徴

「離職者の少なさ」はこれまで働きやすい職場の条件の1つと捉えられてきました。*3-2

ここで、「離職者が少ない大企業」ランキング上位101社に関するデータをもっと詳しくみたいと思います。

これらの大企業の平均値は、離職率1.8%、平均年齢42.2歳、勤続年数17.5年です。*3-3 このうち、離職率1.8%は「健全な会社の目安」として、就職活動の際に参考にすることができます。

では、離職率が低い企業の特徴はどのようなものでしょうか。

まず、なんといっても業績が安定していることです。そのため、待遇がよく、従業員が働きやすい各種制度が導入されているという特徴があります。

次に、長期雇用を重視する「日本的経営」と呼ばれる経営形態の企業が多いということです。

ただ、こうした企業は平均年齢が高くなる傾向があり、活力不足になるおそれがあることから、今後、一定の入れ替えが必要になる可能性があります。

また、最近は大企業を中心にジョブ型を導入する企業も増えてきています。

就職活動の際にはこうした情報も参考にする必要があるでしょう。

ランキング上位企業の特徴と転職活動のポイント

ここでは、ランキング上位企業のうち、中途採用を行っているトップ2社と9位の企業(2019年発表の同ランキングで2位)に絞ってその特徴をより詳しくみた上で、就職活動のポイントを押さえたいと思います。*3-3

ランキング上位企業の特徴

ランキング1位:株式会社北川鉄工所

離職者は10名で、離職率は0.8%でした。*3-3

ちなみに、厚生労働省による全国規模の調査「平成30年雇用動向調査」では、個人的理由による離職率は10.4%に上っています。この調査は同ランキングとは定義や対象者が異なるため単純比較はできませんが、0.8%という離職率は非常に低い割合だと捉えていいでしょう。

この企業は、自動車などの部品鋳造、工作機械器具、建機などの多角経営を行っています。

関連会社がイギリス、ドイツ、アメリカ、タイ、中国、メキシコにあり、グローバルに事業活動を展開中です。*4-1

企業ビジョンは4つの要素によって構成されていますが、そのうちの1つが「社員満足」です。(図2)

図2 株式会社北川鉄工所の企業ビジョン
(出典)株式会社北川鉄工所「企業ビジョン」*4-2
https://www.kiw.co.jp/company/vision.html

2018年の女性社員は174名で全社員に占める割合は12.8%、そのうち最も多い年代は40歳代で47名でした。

こうした状況から、半日・時間単位の有給休暇や短時間勤務制度、企画・専門業務型の裁量労働制度などワークライフバランスのための各種制度が充実しています。*3-3

さらに、通信教育中心の自己啓発支援も行われています。

ランキング2位:三井不動産株式会社

離職者11名で、離職率は0.7%でした。*3-3 この離職率は1位の北川鉄工所よりさらに低く、ランキング中、最も低い割合です。

三井不動産は三菱地所とともに総合不動産の双璧を担う企業です。

特徴は、働き方改革の専門部署である「働き方企画推進室」を中心に、働き方の質を向上するさまざまな取り組みをしていることです。(図3)

図3 三井不動産株式会社の働き方改革
(出典)三井不動産株式会社「働き方改革」*5-1
https://www.mitsuifudosan.co.jp/corporate/hrm/change.html

この企業はワークライフバランスに配慮し、男女を問わず家庭と仕事の両立を支援しています。*5-2、*5-3

具体的には、育児・介護にかかわる従業員を対象とした在宅勤務制度や事業所内保育所の設置、法定を超える最長3年の育児休業期間、育児に関する費用補助制度等などです。

こうした取り組みによって、過去20年以上にわたって育児休業からの復帰率100%を達成しています。

この他、人事部が毎年、非正規を含む全従業者と面談して個別の状況を把握し、従業員の満足度向上を目指しています。*3-3

さらに、各種研修制度も充実しています。*5-4

ランキング9位:エフ シー シー株式会社

離職者15名で、離職率1.2%でした。(表1)

ちなみに、この企業は2019年6月発表の同ランキングでは第2位で、離職率0.8%でした。

浜松に本社をおく企業で、主な事業はクラッチ製造です。

海外拠点が10か国14社と、グローバルなネットワークをもち、海外売上収益比率は90.3%、二輪車のクラッチシェアは世界No.1です。

有給休暇取得率は3年平均で17.9日、月残業平均時間は11.1時間と働きやすい労働環境が整備されています。*6:P28

子育て支援にも力を入れていて、育児休業取得率は女性100%、男性7%です。この取得率は静岡県内事業所185,519社のうち、上位86社にあたり、「子育てサポート企業」として厚生労働大臣の認定を受けています。*6:P29

これまで「離職者の少ない大企業ランキング」上位の企業についてその特徴をみてきました。次に、これまでの情報をふまえ、転職活動にあたって押さえておくべきポイントを把握したいと思います。

離職者の少ない会社を選択すべき理由と押さえておくべきポイント

転職にあたっては、まず離職した理由を振り返り、なぜその企業をやめたのかを再確認しましょう。その上で、転職の目的や転職先の企業に対する希望を明確にすることが大切です。

次にいくつかの企業を選び、企業分析を行いますが、その際、離職者の少ない会社の特徴は大きなメリットになるはずです。

だからこそ、その企業で働き続けたいという社員が多く、その結果、離職者が少ないのですから。

もし、そのような企業に魅力を感じたら、離職者の少ない企業の中から候補を絞りますが、ポイントは、希望する業種や職種、待遇、さらに各種制度など、一般的な就職活動と同じです。

候補をいくつか選んだら、いよいよ最終的なターゲットを選定します。その際、社員の口コミなどお役立ちサイトを参考にするのも有益です。

困ったときや迷ったときには、転職エージェントや公共機関の相談窓口を活用するのもいいでしょう。

先ほどみたように、離職者の少ない企業は、業績が安定しています。

また、働きやすい環境を整えるためにさまざまな制度を整備して成果を上げています。

転職先を探すひとつの情報として、企業の離職率を確認してみるのもよいかもしれません。


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【エビデンス】

*1 東京商工リサーチ[2020]「今年の上場企業『早期・希望退職』90社に リーマン・ショック後2番目の高水準」(2020年12月9日)
https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20201209_02.html
*2 日本経済新聞[2021]「トヨタグループ、三菱重工などの人員数百人受け入れ」(2021年1月23日 16:56)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFD231VP0T20C21A1000000
*3-1 東洋経済ONLINE[2020]「『離職する人が少ない大企業』100社ランキング 上位101社の平均離職率は1.8%」(2020年7月10日)3ページ目
https://toyokeizai.net/articles/-/361957?page=3
*3-2 同1ページ目
https://toyokeizai.net/articles/-/361957
*3-3 同2ページ目
https://toyokeizai.net/articles/-/361957?page=2
*4-1 株式会社北川鉄工所「グループ企業一覧」
https://www.kiw.co.jp/company/group.html
*4-2 株式会社北川鉄工所「企業ビジョン」
https://www.kiw.co.jp/company/vision.html
*5-1 三井不動産株式会社「働き方改革」
https://www.mitsuifudosan.co.jp/corporate/hrm/change.html
*5-2 三井不動産株式会社「働きやすい職場づくり」
https://www.mitsuifudosan.co.jp/corporate/hrm/workplace.html
*5-3 三井不動産株式会社「両立支援(育児・介護)」
https://www.mitsuifudosan.co.jp/corporate/hrm/care.html
*5-4 三井不動産株式会社「人材育成施策/育成・研修」
https://www.mitsuifudosan.co.jp/corporate/hrm/training.html
*6 株式会社エフ・シー・シー[2020]「株式会社エフ・シー・シーへの入社検討中の皆様へ」
https://www.fcc-net.co.jp/recruiting/image/index/panf_2020_01.pdf


【著者】横内 美保子(よこうち みほこ)

博士(文学)。元大学教授。大学における「ビジネス・ジャパニーズ」クラス、厚生労働省「外国人就労・定着支援研修」、文化庁「『生活者としての外国人』のための日本語教育事業」、セイコーエプソンにおける外国人社員研修、ボランティア日本語教室での活動などを通じ、外国人労働者への支援に取り組む。Webライターとしては、主にエコロジー、ビジネス、社会問題に関連したテーマで執筆、関連企業に寄稿している。