離職・転職に関する実態データ
上記のグラフは、厚生労働省による主要産業向けの入職・離職に関する調査において得られた、パートタイム労働者・一般労働者のそれぞれについての入職率・離職率を示しています。
このグラフからは、直近十数年でパートタイム労働者の離職率は25%前後、一般労働者の離職率は11%前後で推移しており、毎年かなりの割合の労働者が離職・転職を経験していることがわかります。
また上記の表は、同じ調査において得られた、平成30年(2018年)中の転職者が前職を退職した理由についての、性別・年代別の割合を示しています。
この表のデータでは、「定年・契約期間の満了」を除くと、男女通じて「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」が多数を占めるほか(男性10.0%、女性13.4%)、男性では「給料等収入が少なかった」が10.2%、女性では「職場の人間関係が好ましくなかった」が11.8%と高い割合を示しています。
しかし全体的に割合は分散しており、退職者はそれぞれ、さまざまな事情によって退職を決断したことが窺えます。
退職交渉を始めるべきタイミングは?
転職のめどが立ち、現職の会社を退職したい場合、どのタイミングから退職交渉を始めるのがよいのでしょうか。
退職の通知時期に関する法律上のルールはあるものの、円満な退職を実現するためには、もう少し余裕を持った退職交渉を行う方が望ましいでしょう。
法的には2週間前に通知すればOK
労働者側が退職を希望する場合、法的には、会社に対して2週間前にその旨を通知すれば退職が認められます(民法627条1項)。
そのため、法的な観点に限って言えば、労働者側で退職日を一方的に決め、その2週間以上前に会社に対して通知を行えば、会社を退職すること自体は可能です。
円満な退職のためには引継ぎ・調整期間が必要|1か月~3か月前には相談を
ただし、労働者が会社を退職する場合には、会社側としては、後任者への引継ぎや、退職により生じる穴をカバーするための配置転換などに関する調整に時間を要します。
円満な退職を実現したい場合には、労働者側としても、このような引継ぎ・調整に協力すべきでしょう。
担当している業務の内容や社風などにもよりますが、円滑に引継ぎ・調整を行うには、おおむね1か月から3か月程度の期間が必要と考えられます。
過去に退職した元同僚の話を聞くなどして、引継ぎ・調整に必要な期間が確保できるようなタイミングで退職交渉を始めるとよいでしょう。
転職先からのオファーが確定するまでは退職交渉を開始しない
会社側の引継ぎ・調整の都合に協力することも大切ですが、転職先からのオファーが確定していない段階で退職交渉を始めることは、万が一転職が実現しなかった場合に会社での立場が悪くなる可能性があるので避けましょう。
会社側としては、労働者から退職の話を切り出された場合、その労働者を「いつでもやめる可能性がある従業員」として見るようになり、昇進や待遇などの面で悪影響が生じてしまうおそれがあります。
転職先を決めるタイミングは人それぞれです。
しかし在職中に転職先を決めたい人の場合、少なくとも、転職先から具体的なオファーを受け、それを承諾してから、退職交渉を始めましょう。
現職の会社との関係で退職日が流動的になりそうであれば、転職先に対して、入社日については別途協議させてもらいたい旨を伝えておけばOKです。
円満な退職を実現するための退職交渉のポイント
転職先のオファーを受諾した場合でも、その後も現職の上司や同僚たちと人間関係が続いていくことを考えると、できる限り円満な形で会社を退職するに越したことはありません。
円満な退職を実現するには、以下のポイントに留意して退職交渉を行うとよいでしょう。
引継ぎに関する具体的なプラン・スケジュールを提案する
労働者が退職する場合、会社にとっての一番の懸念事項は、担当業務の引継ぎや後任人事が適切に行われるかどうかという点です。
転職予定の労働者としては、担当業務の円滑な引継ぎに協力するため、引継ぎに関する具体的なプランやスケジュールを提案するとよいでしょう。
具体的には、以下の事項を心がけて実行することで、「立つ鳥跡を濁さず」という好印象を会社側に与えられる可能性が高まります。
- 自分が抱えているタスクをリストアップして上司に報告する
- 引継ぐべき作業に関するマニュアルや注意事項のまとめ(引継ぎ書)を作成し、後任担当者がスムーズに業務を引継げるようにサポートする
- 引継ぎ作業にかかる時間や工程をスケジュール表にまとめ、退職日までに間に合うように計画的に引継ぎを進める
ネガティブな退職理由は伝えない
退職理由は退職者によってさまざまであり、場合によっては現職の会社に関するネガティブな事情が退職理由となっているケースもあるでしょう。
しかし、退職交渉の際には、現職の会社に対して退職理由を正直に伝える必要は必ずしもありません。
もしネガティブな理由から退職を決断した場合でも、「一身上の都合」などとして詳細な理由説明を避けた方が無難です。
仮に退職理由の説明を求められたとしても、現職の会社の問題点を指摘することは極力控えた方がよいでしょう。
退職交渉で会社とトラブルになってしまった場合の対処法は?
会社に対して退職を切り出した際に、「今やめられては困る」「突然やめるとは何事だ」などと反発され、トラブルに発展してしまった場合には、どのように対処すればよいのでしょうか。
現職の会社との関係性がどの程度大切かを考慮して対処方針を決める
できる限り円満退職を実現すべきなのは、現職の会社との良好な関係を維持しておいた方が、将来のキャリアを含めた今後の人生にとってプラスになる可能性があるからです。
しかし、全く別の業界に転職する場合などには、仮に現職の会社と喧嘩別れのような形になったとしても、将来のキャリアに与える影響は小さいと考えられます。
また、会社自体とは円満に別れることができなかったとしても、周囲の同僚からは退職に関する理解を得られる可能性もあります。
結局、円満退職を実現することがどの程度重要なのかは、現職の会社との関係性を維持することがどの程度大切かによって変わるので、ケースバイケースで対処方針を決める必要があるでしょう。
会社を辞めることは労働者の自由|最終的には自分の将来を優先しましょう
前述のとおり法律上は、退職の2週間前に会社に対して通知を行えば、会社を退職することは労働者の自由です。
前職の会社との関係性を重視するあまり、転職の時期を逃してしまっては、労働者本人にとって大きな機会損失に繋がりかねません。
あくまでも大切なのはご自身のキャリア・将来であると考えて、最終的にはご自身のキャリアにとって何がプラスであるかを基準として、きっぱりと転職を実行することをお勧めいたします。
まとめ
退職交渉は、転職を予定する労働者の方にとって気が重い作業ですが、業務の引継ぎ・調整に最大限協力することにより、円満な退職を実現できる可能性が高まります。
しかし、仮に会社とトラブルになってしまい、円満な退職が難しくなった場合には、ご自身のキャリア・人生にとってプラスになる歩みを止めないように、割り切った行動をすることも必要です。
いずれにしても、会社側の態度をよく観察しながら、柔軟な考え方をもって退職交渉に臨んでください。
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【著者】阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。専門はベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
ホームページ:https://abeyura.com/
Twitter:@abeyuralaw