任天堂も導入し話題のパートナーシップ制度 目的は?採用への影響は?

現在、世界各国で導入が進められている、パートナーシップ制度。
日本でも地方自治体が導入を開始したことが話題となりました。

このような流れを受け、日本のグローバル企業の代表格である任天堂も、「パートナーシップ制度」の導入などダイバーシティ施策の強化を発表したのです。

任天堂(日本)は、どのような個性を持つ社員であっても、すべての社員一人ひとりがいきいきと気持ちよく働ける職場環境をつくりたいと考えています。この考え方に基づき、2021年3月に「パートナーシップ制度」を導入しました。

任天堂(日本)
パートナーシップ制度の導入

このような文章から始まる同社の発表では、要旨以下のようなことを宣言しています。

(1)さまざまな婚姻の価値観を社内制度化
同性パートナーのいる社員、あるいは事実婚のパートナーがいる異性カップルをともに、法律上の婚姻と同等の扱いとすることを社内制度化

(2)行動規範に「アウティングの禁止」を明文化
性的指向・性自認に関する差別的な発言の禁止に加え、「アウティング」行為の禁止を明文化。
なおアウティングとは、他人の性的指向や性自認を本人の了承なく第三者に公表することを指します。

(3)社長メッセージの掲載
上記方針再確認のため、社内ポータルサイトに社長メッセージを掲載。

このような取り組みを通じ、
「さまざまな個性を持つ社員一人ひとりが最大限に能力を発揮できる環境づくりを続ける」
ことを会社の価値観として明確に示したのです。*1

日本が誇るトップ企業が導入を進めたことは大きな変化と言えるでしょう。
ではなぜ今、任天堂はこのような取り組みを内外に向け宣言したのでしょうか。

国内外で始まる「ダイバーシティー・インクルージョン社会」実現のための取り組み

実は、このパートナーシップ制度をはじめとする「ダイバーシティ&インクルージョン」化は、国内外で取り組まなければならない課題です。

国連人権理事会は「ビジネスと人権に関する指導原則」をもとに職場の「ダイバーシティ&インクルージョン」についての議論が進んでおり、企業に更なる人権の尊重を求めています。*2
特にLGBTQについての動きが活発化しているのが現状です。

LGBTQとは、レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(心と身体の性の不一致を感じている人々)の頭文字をとったもので、性的志向(SO)や性自認(SI)に関して、社会的マイノリティに位置づけられる人々のことを指します。

EUでは性的志向、性自認等を理由とした処遇差別を禁止しており、ヨーロッパ各国では同性婚が合法化され、職場における差別禁止も法制化されるなど、厳罰化が進んでいます。

同じく米国もこの動きを受け、連邦最高裁判決で同性婚が認められ、全州で事実上合法化されました。
性志向に基づく職場内差別についても、複数の州で禁止されるなど、世界各国でLGBTQフリーの動きが加速しています。

これに伴い、経団連は、2017年にダイバーシティ・インクルージョン社会の実現に向けて、LGBTQに関する動向と取り組みの方向性を示しました。

一説では日本人の7.6%がLGBTQに該当するという調査もあり、身近な存在として理解し受容し得る社会を目指すことが重要とされているのです。

こうした背景から、日本でも多くの企業がLGBTQを含め、あらゆる人々が働きやすい環境を整える必要性を感じているようです。

図1 LGBTへの義業の取り組みに関するアンケート 調査結果
(引用)一般社団法人 日本経済団体連合会「ダイバーシティ・インクルージョン社会の実現に向けて【概要】」(2017)P.5

経団連の「LGBTへの企業取り組みに関するアンケート」によると、「企業による取り組みが必要だと思うか」という設問に対し、90%以上の企業が「必要である」と回答しています。

また4分の3の企業が何らかの取り組みを実施・検討しており、多くの企業がダイバーシティ・インクルージョン社会の実現、ひいてはLGBTフリー化に向けて動き続けているのです。(図1)

各企業の具体的な取り組み事例紹介

これまで、企業・経済界はダイバーシティ・インクルージョン社会を実現するために、様々な視点から取り組みを進めてきました。
しかし、社会的マイノリティに位置づけられるような、様々なセクシュアリティを持つ人々に対しては、まだ体制が整いきれていないのが現状です。

そこで本稿では、先進的にLGBTQフレンドリーを打ち出し、具体的な取り組みを行っている企業の一例をご紹介します。
ぜひ参考にしてください。

NTTドコモ*3

NTTドコモでは、社員の同性パートナーに結婚休暇や祝金、忌引休暇、弔慰料などを適用できるよう人事制度を改定しました。
また同性パートナーシップ証明を取得したカップルに対し、ファミリー割引を適用しています。
人事担当者やトップ層に対するワークショップやセミナーへの参加、社員全員に対するeラーニング研修など継続的教育にも力を入れており、社内相談窓口だけでなく社外相談窓口も設けています。
また、CSR広告としてセクシュアルマイノリティにも言及した「For One’s」を展開し、NPO法人ReBitの「LGBT(性的マイノリティ)の子ども/若者のための自立就労支 援」に対して助成を実施するなど、社会貢献にも力を入れているのも特徴です。
このような多数の取り組みが評価され、PRIDE指標においてゴールド認定を受賞しました。

全日本空輸*4

全日本空輸では、「ダイバーシティ&インクルージョン宣言」でLGBTQ理解促進を含むD&Iを促進するよう、全社的に動いています。
会社所定の手続きを行った同性パートナーを配偶者として取り扱う旨を規則に明記するなど、規定も改訂しました。
社内セミナー等の開催だけでなく、理解啓発冊子配布、理解促進のサイト開設しています。
社内の相談窓口ではグループ社員も個別に相談できるうえ、LGBTQ当事者の社員が相談員として回答するなど、体制が整えられました。
また「だれでもトイレ」が増設されるなど、設備面でも配慮が行き届いてるのも特徴の一つです。
「ANAカードファミリーマイル」のファミリー会員登録および特典利用者登録において同性パートナーの登録が可能で、また空港各所にある多目的トイレがユニバーサルな施設のサイネージに変更されるなど、社内外に取り組みを広げたことが評価され、work with Pride2016にてゴールド受賞しました。

ソニー*5

ソニーグループ ダイバーシティステートメント(全世界共通)では、LGBTQ等の性的マイノリティに関する方針を明文化し、CSRレポートや当社ウェブサイト等で広く公開しています。

また、全社員を対象としたダイバーシティ研修にLGBTQ関連項目を追加し、啓発活動を継続的に実施するなど、社員教育にも力を入れています。
LGBTQ社員がより安心して能力を発揮できる職場環境整備を加速させるため、2017年からグローバルに「Proud LGBT Ally」活動を始動させています。
加えて、トランスジェンダー等には多目的トイレや希望する性のトイレの利用、通称名の利用など、本人の意向を確認の上、個別対応を実施しているのも特徴です。
採用活動においては、エントリーシートの性別欄は任意記載とし、性別記載を必須項目から除外しました。
2012年から work with Pride に参加しており、2013年には会場提供を行うなどイベント活動にも積極的です。
そのような取り組みが評価され、「Pride指標」にて2016年にソニーグループ(31社)がゴールド認定を受賞しました。
米国法人のSony Corporation of America、Sony Pictures Entertainment Inc.、Sony Electronics Inc.は、ヒューマンライツキャンペーン財団の2016年Corporate Equality Indexの全米企業の調査報告書にて、LGBTQ職場の平等に関して最高値である100パーセントを獲得するなど、国際的にも高い評価を受けています。

LGBTQフリーになることへの企業メリットとは

ここまでダイバーシティ・インクルージョン社会の実現の必要性を解説してきました。
では実際に、LGBTQフリーを目指すことは、企業にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。

下記の図をご覧ください。(図2)

図2 ①人材獲得力の効果
(引用)経済産業省 経済産業政策局 経済社会政策室「ダイバーシティ2.0 一歩先の競争戦略へ」(2020)P.5

ミレニアル世代と呼ばれる1980年~1995年生まれの男女にとったアンケートによると、
「多様性・受容性の方針は就職先を決めるうえで重要か?」
という設問に対し、女性が86%、男性は74%が「重要である」と答えました。
ミレニアル世代は「多様性や受容性のある会社」を選定する傾向にあり、女性の方が、この方針をより重要視する傾向にあります。

つまり、優秀な人材を幅広く獲得するためには、ダイバーシティ・インクルージョン社会の実現、ひいてはLGBTQフリーな企業を目指すことは必須といえます。

また、下記の図からも分かるように、採用力の強化だけでなく退職者を減らす効果も期待できるのです。
LGBT施策が全くない企業は「勤続意欲高」の層が58.7%という結果ですが、LGBT施策が5〜11個ある企業では86.5%と、およそ30%程もの差があります。
施策が多いほど勤続意欲が高い傾向にあるのは明らかです。

図3 LGBT施策の数×勤続意欲(LGBT)
(引用) 認定NPO法人 虹色ダイバーシティ、国際基督教⼤学ジェンダー研究センター
niji VOICE 2020~LGBTも働きやすい職場づくり、生きやすい社会づくりのための「声」集め~」(2020)P.47

また性的マイノリティを理解し支援する考え方にALLY(アライ)というものがあります。
そしてこのALLY(アライ)を持つ人の存在も、勤続意欲に大きな影響を及ぼすという結果が見て取れるのです。(図4、図5)

図4 アライの有無×勤続意欲(LGBT)
(引用) 認定NPO法人 虹色ダイバーシティ、国際基督教⼤学ジェンダー研究センター
niji VOICE 2020~LGBTも働きやすい職場づくり、生きやすい社会づくりのための「声」集め~」(2020)P.49

職場に「ALLY(アライ)がいない」と答えた層の勤続意欲が51.8%なのに対し、「ALLY(アライ)がいる」と答えた層は76.8%と、高い勤続意欲があることが分かります。

図5 アライの有無×心理的安全性(LGBT)
(引用) 認定NPO法人 虹色ダイバーシティ、国際基督教⼤学ジェンダー研究センター
niji VOICE 2020~LGBTも働きやすい職場づくり、生きやすい社会づくりのための「声」集め~」(2020)P.50

心理的安全性についても、ALLY(アライ)の存在は大きく関わっています。
職場に「ALLY(アライ)がいない」と答えた層は「心理的安全性高」の割合が19.7%と極端に低い結果でした。
その一方で、「ALLY(アライ)がいる」と答えた層の66.5%と比較するとかなり大きな差が開いています。
職場に味方がいないと感じているLGBTは、常に不安を抱えながら仕事に取り組んでおり、勤続意欲も低くなるのです。

上記のことから分かるように、LGBTQフリーを実現し、従業員が性的マイノリティを支援できる環境を作ることは、優秀な人材を獲得しやすく、離職しにくい企業体制を整えることに繋がります。
これはLGBTQに限らず、あらゆる人々に言えることでしょう。

「ダイバーシティー・インクルージョン社会」実現へ向けて

令和の時代、企業(採用側)が人を一方的に選ぶという価値観はすでに過去のものになりつつあります。
そのような時代、働く人が求めているのは「安心して働き続けられる企業」なのではないでしょうか。

自分らしく生きることは、人にとって最も重要なことであると言えます。
性的マイノリティだけではなく、あらゆる人が自分らしく生きられる社会の実現を目指すためには、まず企業がダイバーシティ・インクルージョン化を進めることが大切なのかもしれません。
本記事がそのヒントとなりましたら幸いです。

本日もお読みいただき、ありがとうございました。


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【エビデンス】
*1 任天堂「社員|社員一人ひとりが力を発揮できる環境づくりに努めます。|CSR情報
*2 (引用)一般社団法人 日本経済団体連合会「ダイバーシティ・インクルージョン社会の実現に向けて【概要】 Ⅱ.LGBTに関する動向と取り組みの方向性」(2017)
P.3
*3 企業が実施している具体的な取り組み事例の一覧(95社、2017年8月28日現在)
(引用)一般社団法人 日本経済団体連合会「ダイバーシティ・インクルージョン社会の実現に向けて」(2017)P.20
*4 企業が実施している具体的な取り組み事例の一覧(95社、2017年8月28日現在)
(引用)一般社団法人 日本経済団体連合会「ダイバーシティ・インクルージョン社会の実現に向けて」(2017)P.25
*5 企業が実施している具体的な取り組み事例の一覧(95社、2017年8月28日現在)
(引用)一般社団法人 日本経済団体連合会「ダイバーシティ・インクルージョン社会の実現に向けて」(2017)P.26


【著者】FPかぴさん
プロフィール:フリーランスのライターとして活動中。
得意分野は保険と保険に関わる社会保障制度について。
自身でも「FPかぴさんのお金のはなし」というブログを運営中。
https://fp-kapisan.com/
複数のメディアでコラムを執筆する2児の母。FP上位資格のAFP取得済み。