スペシャリストかジェネラリストか 「ポートフォリオワーカー」という働き方とは

「人生100年」と言われ、かつ多様な働き方が浸透している現代で、スペシャリストとして生きていくのかジェネラリストとして生きていくのか。

近年は「ジョブ型雇用」などスペシャリストとしての働き方が浸透しつつありますが、「ポートフォリオワーカー」という言葉が注目されています。

「ポートフォリオ」とは投資の世界でも使われる言葉ですが、ポートフォリオワーカーとはどのような働き方でしょうか。

現在、ポートフォリオワーカーである筆者がご紹介したいと思います。

副業とポートフォリオワーカーとの違い

複数の仕事を持つ働き方は、今ではそう珍しいことではなくなりました。

特にコロナ禍を機に副業に対する関心は高まり、財務省によると副業者の3割は、日本でコロナ感染拡大が始まった2020年2月以降に副業を始めたという調査結果が出ています(図1)。

図1 副業をはじめた時期
(出所:財務省「副業・兼業の現状と今後」)

副業もまた、複数の仕事を持つという働き方です。
ただ、最近注目されている「ポートフォリオワーカー」とは少し違います。

では、ポートフォリオワーカーとはどのようなものでしょうか。

金融用語で使われる「ポートフォリオ」

「ポートフォリオ」とは、投資の世界でも使われる言葉です。
ひとつの投資先に頼ってしまうと、その投資先の価格変動だけで自分の資産の増減が決まってしまうため、そのリスクを避けるために、投資先を複数に分けるという「分散投資」の世界で出てくる言葉です。
株式だけでなく債券や不動産にも投資先を分散させておくことでリスクヘッジをするという考え方です。

「ひとつの投資先に頼らない」とも言えるでしょう。

ポートフォリオワーカーの特徴

そして同様に、ポートフォリオワーカーと副業の違いは、以下のようなイメージです(図2)。

図2 副業とポートフォリオワーカーの違い
(出所:株式会社マイナビ「本業+副業はもう古い!?新しい働き方『ポートフォリオキャリア』とは」)

「本業プラス副業」ではなく、複数の働き場所を持ちながら、しかしどれが本業かという概念を持たずに収入を得るというのがポートフォリオワーカーの働き方です。

自分の持つ時間や体力といった「資産」を複数の企業に分散する働き方、とも言えるでしょう。

ポートフォリオワーカーのメリット・デメリット

筆者もポートフォリオワーカーの状態にあります。
筆者の場合は「ライター」という仕事を通じて、複数の取引先があります。

この場合、筆者の仕事はライターですが、特定の企業に縛られているわけでもありません。すべての取引先との仕事が「本業」と言える状態です。
ライターというのはあくまで筆者の「職種」であり、どこに属しているわけでもなければ、関係先の複数の企業全てに属しているとも言えます。

そして、自分の時間や体力を複数の取引先に分散している状態にあります。

分散の仕方は、発注の数であったり、企業によって異なる締切を優先したり、あまり表には出したくない本音ではありますが、やはり単価による優先順位も当然存在します。収入を得るためには当然のことです。

働く時間や場所を制限されにくい、かなり自由な働き方ではありますが、そこにはメリットもデメリットも存在します。

ポートフォリオワーカーのメリット

まず、メリットは先ほども触れた通り、働く時間や場所を自分で決めることができるという点です。
もちろん、仕事の内容によっては打ち合わせや取材が必要なものもあるので100%とはいきませんが、かなり自由度が高いのは事実です。
パソコンがあれば、旅先や移動中に仕事を進めることもできます。

次に、「嫌な人間関係を無理しなくて良い」という点があります。
特定の組織にだけ属し、そこ以外に収入源がないという場合、人間関係は避けては通れません。
しかしポートフォリオワーカーの場合、この企業の仕事はしたくないなと思うならば関わらない、という選択ができるのです(もちろん契約の範囲でのことですが)。

嫌な人間関係から解放される自由はかなり大きいものだ、と感じている人は多いのではないでしょうか。
極論、やりたくない仕事はやらなくて良いということもありますし、仕事の量も自分で決めることができます。趣味に時間を割きたいので仕事は控えめにしたい、あるいは稼げる月には多く稼いでおきたい、そのような調整も不可能ではありません。

そしてポートフォリオワーカーの最大の特徴は「分散」です。

ひとつの企業だけに収入源を頼っている場合、その企業の経営が万が一倒産してしまうと、自分も運命共同体となってしまいます。一方で複数企業での仕事を持っていれば、一社にトラブルがあっても、他からの収入があればゼロにはなりません。

こうした意味では、ポートフォリオワーカーが注目されるのは、不安定で先を見通しにくい現代という背景があることでしょう。

ポートフォリオワーカーのデメリット

もちろん、メリットだらけの夢の世界ではないのも事実です。

ある程度安定してくるまでは、収入は当然不安定です。筆者もライターとして生活が成り立つまでは、日雇いのアルバイトで収入を補おうと考えていました。
結果的にそうはなっていませんが、そのような生活もまた、ポートフォリオワーカーの姿といえます。
ライターの仕事をしていると自宅での座り仕事が極端に多いので、ときには体を動かすアルバイトを取り入れるのも良いことかもしれない、と考えるときもあります。

そして、例えばフリーランスの自営という形をとる場合、当然ながら厚生年金や退職金はありません。企業が社会保険料の半額を支払うという一般的な恩恵にもあずかれませんので、自己負担する保険料は割高になってしまいます。

そして、やはり「出来高制」がつきまとうことです。実力主義の色はどうしても濃くなります。

ポートフォリオワーカーに向くのはスペシャリスト?ジェネラリスト?

さて、筆者の場合、ポートフォリオワーカーのなかでも、ライターという「スペシャリスト」の部類に入ります。
働き方としては狭い、とも言えます。

近年「ジョブ型雇用」などスペシャリストを求める風潮において、確かにスペシャリストはポートフォリオワーカーになりやすい部分もあると感じています。

しかし、筆者の知人にはこのような人もいます。

ひとことに「音楽」といっても、その仕事は多岐にわたります。
その知人は、自ら楽器のレッスンをしながらも、ミュージックスタジオの経営、音楽イベントの主催、といった幅広い仕事を展開し、複数の仕事から収入を得ているのです。ジェネラリスト的なポートフォリオワーカーといえるでしょう。

ですから、狭義のスキルに特化しなくても、幅を広げていくことは可能です。

ポートフォリオワーカーになるには?

メリット・デメリット双方あるポートフォリオワーカーとしての働き方ですが、実際にこの働き方を実現していくためには必要なことがいくつかあると筆者は考えています。少なくとも以下の3つです。

1)なぜポートフォリオワーカーになりたいのか、明確な目的を持つこと
「なんとなく楽そうだから」では、熱意を注ぐことができず、結果として何も得られない可能性があります。「趣味を大事にしたい」「得意なことを極めたい」「自分の幅を広げたい」といった明確な目的が必要です。

2)移行に向けての経済的計画性
ある日突然ポートフォリオワーカーになれるわけではありません。生活できるレベルになるには一定の時間がかかります。それまでの間どうやって金銭的に凌いでいくのかはシビアに考える必要があります。

3)自分の「得意」を正しく見極めること
「二兎を追う者は一兎をも得ず」とならないように気をつけなければなりません。ひとつの企業に長くいると、いろいろな部署を経験することも多くあるでしょう。そのうちに、自分はあれも得意、これもやってみたらできたからこれも得意なのかもしれない、と考えてしまいがちです。
しかし、得意を収入にしなければならない世界ですから、客観的な目でも自分の「得意」を見極める必要があります。
まずは「得意」で収入を確保し、幅を広げるのはそれから、と考えると良いでしょう。
その際に、「好き」=「得意」とは限らない点にも注意が必要です。

まずは客観的な自己認識から

ここまでご紹介してきたように、ポートフォリオワーカーになるために重要なのは「自分が何によって評価されているか」を知ることです。自分の市場価値ともいえます。

そして、市場価値を決めるのは自分ではありません。自分にお金を支払ってくれる会社や取引先です。

プロフェッショナルとしてポートフォリオワーカーになるには、自分の「スキル偏差値」を見極める必要がありますし、ジェネラリストとしてポートフォリオワーカーになるには、自分が持つ複数の「得意」に相乗効果があるかどうか見極めることが重要です。

ただ、ひとつの企業の評価方法だけで自分の価値が埋もれない、というのもポートフォリオワーカーの特徴です。

不安定、福利厚生が薄いということは否定できませんが、ひとつの組織に縛られないというメリットを得るには、まず飛び込んでみる勇気が必要です。


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【著者】清水 沙矢香
2002年京都大学理学部卒業後、TBS報道記者として勤務。
社会部記者として事件・事故、科学など、その後経済部記者として主に世界情勢とマーケットの関係を研究。欧米、アジアなどでの取材にもあたる。
ライターに転向して以降は、各種統計の分析や各種ヒアリングを通じて、多岐に渡る分野を横断的に見渡す視点からの社会調査を行っている。

Twitter:https://twitter.com/M6Sayaka