副業OKで定着率アップ?政府も後押しする「副業容認」は中途採用の大きなチャンスに

「副業を容認すると離職率が低下する」
これを聞いて驚く人もいるでしょう。副業を認めるとスキルを身に付けて転職したり、より良い環境を求めたりなど離職に繋がると考える人事担当者も多いためです。

しかし、政府による副業の後押しや、コロナ禍で職を失うことの危機感から、従業員は複数の収入源を持つことに対する意識が強まっています。
この流れに逆らって副業を禁止すると、副業を認めている企業よりも離職率が高まる傾向があることが判明しました。

この記事では、副業と定着率の関係、会社が副業を容認するときに気を付けるべき点を解説します。

副業と定着率の関係

会社が副業を認めると、そのまま得たスキルを活かして離職に繋がると考える企業は多いようです。
しかし東京都産業労働局の調査によると、副業による効果として「人材の定着」が38.1%と最も多かったことが判明しました*1。

「人材の定着」に次ぐ効果としては「従業員のモチベーション向上」が32.6%と続きました。

この調査結果からも分かる通り、副業は従業員の離職に繋がるどころか、定着の向上効果があると会社側は実感しています。

副業が離職理由を補う理由

なぜ副業が定着の向上に繋がるのでしょうか。近年の主な離職理由から、その効果を解説します。

厚生労働省の調査によると、令和2年度の「定年や契約期間満了」以外で転職入職者が前職を辞めた理由は
「給料収入が少なかった」
「会社の将来が不安だった」
「能力・資格を活かせなかった」
などです*2。

それぞれの理由に対してなぜ副業が効果的であるかを見ていきましょう。

「給料収入が少なかった」
この理由に対しては、副業で収入を補うことができるからと言えます。
実際に副業を行っている人の平均収入は1ヵ月あたり約6万円です*3。
これは一年間に換算すると約72万円となり、とても大きな収入となります。なぜなら、給料収入が500万円である場合、約14.4%にあたるため、職位を上げない限り一年でこの額の昇給を見込むことは難しいからです。
したがって、副業で収入を得ることは給料収入を上げるより、時間的にも金額的にも効果が見込めるため、給料収入が少ないという理由を補うことができます。

「会社の将来が不安だった」
コロナ禍において多くの会社が廃業や人員削減を行ったことで、従業員として働くリスクが浮き彫りになりました。
今後、今の会社で働き続けることができるのかという不安に対して、副業はその不安を和らげる効果が期待できます。

例えばコロナ関連で最も倒産が多かった「飲食店」*4で働いているとします。
飲食店で働き続けたいとしても、今後の経済状況は読めないため、飲食店運営で培った広告戦略を活かしてPRコンサルとして副業を行うことが考えられます。
この副業で収入を得ることができれば、いざという時も収入源を確保できるので安心です。
このように副業は会社が倒産した際のリスクヘッジにもなるので、会社の将来へ対する不安という理由で離職することを防げます。

「能力・資格を活かせなかった」
いざ就職をすると希望部署と異なる配属となったり、考えていた業務と異なったりするケースがあります。
その結果、モチベーションが上がらず転職する人が多いようです。副業はこの理由による離職も防ぐことができます。

例えば、語学力を活かしたくて商社の海外営業部に就職したとしましょう。
しかし、実際の担当顧客が国内であったり、海外の日本人駐在員とのやり取りばかりであったりと語学力を活かす機会がないとモチベーションを保つことは難しいのです。
この時に翻訳や通訳という副業をしていれば、副業において能力を活かすことができるため、自分の不満をためることがなくなります。
したがって、能力を活かせないという理由での離職を防ぐことができます。

以上のように、主な離職理由を考えた際、副業はその理由を補うことができる有効な手段であると言えます。

副業を容認する際に会社が気を付けること

副業が定着率向上に繋がるからといって、ただ副業OKとするだけではいけません。
会社としても、副業を認めるにあたって気を付けるべき点が2つあります。
それらは、「従業員の労働時間管理」と「会社の機密情報の管理」です。

東京都産業労働局の調査によると副業に関する課題や問題点として
「従業員の健康管理上の問題」
「社内業務への支障」
「従業員の労務管理上の問題」
などの労働時間に関する課題がトップ3を占めています。また、それに次ぐのは「会社のノウハウや機密情報の流出」です*5。

基本的に従業員が労働時間外をどのように利用するかは自由であるとされていますが、厚生労働省が発表したモデル就業規則には
(1)労務提供上の支障がある場合
(2)企業秘密が漏洩する場合
(3)会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
(4)競業により、企業の利益を害する場合
において副業の制限や禁止をすることができると記載されています*6。

したがって、会社が自由に副業を認めるのではなく、従業員がどのような副業を行うのかを事前に話しておくことが重要です。
厚生労働省のホームページには副業に関する届出書や労働時間に関する取扱いの書式があるので、それらを活用することもできます*7。

使用者は労働安全衛生法第66条等に基づいて、健康診断や長時間労働者には指導やストレスチェックを行わないといけません。労働時間の過多による健康面の問題は、これらを活用することも有効です。

政府も副業を後押ししている

ここまで、副業が定着率向上に繋がることや、副業OKとする際に気を付けるべき点を解説してきました。副業の効果については理解できたが、政府は副業を禁止としていなかったかと考える人もいるでしょう。

しかし、政府は2017年3月に
「労働者の健康確保に留意しつつ、原則副業・兼業を認める方向で普及促進を図る」
という閣議決定を下しました。つまり、現在は政府も副業を後押ししている状況となっています*8。
なぜなら、リモートワークと副業を掛け合わせることで都市と地方で働き、地方創生・東京一極集中を是正できると考えているからです。また、人生100年時代において、定年まで同じ会社で勤める以外の、多様な働き方を求める人が増えていることも理由として挙げられます*8。
厚生労働省が発表している「副業・兼業の促進に関するガイドライン」においても、会社側が副業・兼業を容認しているか否か公表することが望ましいと表記されています*9。

この方針から、会社としても副業を容認することはまったく問題ありません。

まとめ

今回は副業と定着率の関係を解説しました。一見、副業を容認すると会社にとってマイナスの影響を及ぼすと考えるかもしれません。
しかし、実際は離職率の低下に繋がったり、優秀な人材を確保できたりといったメリットの方が大きいことが判明しています。
「複業」という言葉もあるように、働き方の多様化は進んでいます。政府も副業を後押ししているため、会社としても時代に沿って、従業員が高いモチベーションで働ける環境を整えていきましょう。


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【エビデンス】
*1 東京都産業労働局 都内企業における兼業・副業に関する実態調査p.10
*2 厚生労働省 令和2年雇用動向調査結果の概況p.16
*3 マイナビ転職 副業の平均月収は「5万9,782円」。希望と実態のギャップは「7万2,764円」で半分に届かず
*4 帝国データバンク 新型コロナウイルス関連倒産
*5 東京都産業労働局 都内企業における兼業・副業に関する実態調査p.11
*6 厚生労働省 モデル就業規則p.86
*7 厚生労働省 副業・兼業 副業・兼業に関する各種様式例
*8 経団連 副業・兼業の促進p.6
*9 厚生労働省 副業・兼業の促進に関するガイドラインp.17


【著者】田中凌平
FP2級、AFP、証券外務員一種保持。
副業で金融系ライターとして活動し、読者のマネーリテラシー向上に努める。
一般的な税金の知識から、経済ネタ、住宅関係など幅広く発信。