労働者派遣事業とは?規制の歴史・現在のルールの概要・メリットなどを弁護士が解説

人材紹介ビジネスを始めようとする場合、通常の人材紹介(仲介)とは別の選択肢として「労働者派遣事業」があります。

労働者派遣事業は「労働者派遣法」によって規制されており、通常の人材紹介とは異なるメリット・デメリットが存在します。
立ち上げる事業の形態を選択するにあたっては、労働者派遣事業の特性を正しく理解しておくことが大切です。

今回は、労働者派遣事業の仕組み・規制の歴史・現在のルールの概要や、通常の人材紹介と比較した場合のメリット・デメリットなどについて解説します。

労働者派遣事業の仕組み

労働者派遣事業は、派遣元事業主が雇用する派遣労働者を、自社とは別の派遣先で働かせることを内容としています。
雇用関係は派遣元事業主・派遣労働者間にありますが、派遣労働者は派遣先の指揮命令下に入るのが、労働者派遣事業の特徴です。

労働者派遣事業に関する規制の歴史

「労働者派遣」は、労働者の働き方を多様化させる一方で、事業者による派遣労働者に対する搾取の温床になりやすい側面があります。

そのため、1986年に労働者派遣法が施行され、労働者派遣事業が解禁されて以降、紆余曲折を経てさまざまな規制が行われてきました。

当初は、労働者派遣事業の有用性・働き方の多様化への貢献が評価され、以下のように規制緩和が行われました。

1986年
労働者派遣法施行、13業種について労働者派遣事業が解禁。同年16業種に変更。派遣期間の上限は、原則1年間。

1996年
対象業務を26業務に拡大。

1999年
派遣業種を原則自由化。従来の26業務は、派遣期間を3年間に延長。その他の業務(自由化業務)は、派遣期間1年間。

2000年
紹介予定派遣を解禁。
参考:紹介予定派遣とは?メリットとデメリットを把握し正しい選択肢として理解しよう|tameni

2004年
自由化業務の派遣期間を3年間に延長。26業務の派遣期間を無制限に。

2006年
医療関係業務の一部で労働者派遣事業を解禁

2007年
製造派遣の派遣期間を3年に延長

しかし、派遣労働者の労働環境が劣悪になりがちな点や、待遇が低く抑えられがちな点が問題視され、2012年以降は規制強化の流れに転換しています。

2012年
・日雇い派遣の原則廃止
・グループ企業内派遣の規制
・離職した労働者を1年以内に派遣労働者として受け入れることの禁止
・派遣料金と派遣賃金の差額(マージン)等に関する情報公開を義務化

2015年
・特定労働者派遣事業を廃止し、労働者派遣を一律許可制に
・すべての業務について、派遣期間を原則3年に制限
・派遣労働者の雇用安定措置を義務付け
・派遣労働者に対する教育訓練やキャリアコンサルティングの義務付け

2020年
・同一労働同一賃金の義務化
・派遣労働者を雇い入れる際の、労働条件に関する説明義務を強化

現在の労働者派遣法における主な規制内容

現行の労働者派遣法では、派遣元事業主・派遣先のそれぞれについて、さまざまな規制が行われています。

その中でも、主な規制の内容は以下のとおりです。

労働者派遣事業は許可制

2015年の法改正以降、すべての労働者派遣事業を行うに当たっては、厚生労働大臣の許可を得る必要があります(労働者派遣法5条1項)。

無許可で労働者派遣事業を営んだ場合、「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」に処される可能性があるので注意しましょう(同法59条2号)。

派遣3年ルール

派遣期間が無制限とされていた時期もありましたが、現行の労働者派遣法では、派遣期間の上限は3年間とされています(いわゆる「派遣3年ルール」。労働者派遣法35条の3)。

上限を超えて同一の事業場に労働者を派遣した場合、「30万円以下の罰金」に処される可能性があるので要注意です(同法61条3号)。

同一労働同一賃金

派遣元事業主は、派遣労働者が実際に働く派遣先の正社員と比較して、派遣労働者の待遇につき不合理な相違を設けることが禁止されています(労働者派遣法30条の3第1項)。
これを「同一労働同一賃金」といいます。

同一労働同一賃金は、基本給のみならず、賞与・福利厚生・教育訓練などを含む、あらゆる待遇に適用されます。

事業者は厚生労働大臣の監督を受ける

派遣元事業主および派遣先は、労働者派遣に関して、厚生労働大臣の監督を受けることになります。

厚生労働大臣による監督内容の一例は、以下のとおりです。

<派遣元事業主>
・事業所ごとに事業報告書および収支決算書を提出(労働者派遣法23条1項)
・関係派遣先への派遣割合を報告(同条3項)
・派遣労働者を海外派遣する際の届出(同条4項)
・派遣労働者の数等に関する情報提供(同条5項)

<派遣元事業主・派遣先共通>
・事業の適正化等に関する指導、助言(同法48条1項)、指示(同条3項)
・労働力需給調整のための、事業の目的および内容の変更勧告(同条2項)
・違反行為に対する業務改善命令(同法49条1項)、業務停止命令(同条2項)
・違反行為等に対する勧告(同法49条の2第1項)、公表措置(同条2項)
・違反行為に関する派遣労働者による申告(同法49条の3第1項)
・報告要求(同法50条)
・立入検査(同法51条1項)

なお、派遣元事業主は「派遣元指針」を、派遣先は「派遣先指針」を、それぞれ遵守することが求められています。

参考:派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針|厚生労働省
参考:派遣先が講ずべき措置に関する指針|厚生労働省

派遣元事業主から見た労働者派遣事業のメリット・デメリット

人材紹介ビジネスの開始を検討する場合、労働者派遣事業は、通常の人材紹介事業と並んで、事業形態の選択肢に上がるでしょう。

派遣元事業主として労働者派遣事業を営む場合のメリット・デメリットをよく理解したうえで、状況に合わせて事業形態を選択してください。

メリット|性格・能力をよく知っている派遣労働者を派遣できる

労働者派遣事業のメリットは、派遣労働者を自社で雇用しているため、性格や能力を熟知した派遣労働者をクライアント(派遣先)に紹介・派遣できる点にあります。

クライアントにとっては、通常の人材紹介に比べて、派遣元事業主の側でスクリーニングをしてくれる安心感があるといえるでしょう。

デメリット|自社雇用に伴うコストとリスクが発生する

その一方で、自ら派遣労働者を雇用しなければならないため、派遣元事業主は大きなコストとリスクを背負います。

たとえば、派遣労働者が社会保険への加入対象である場合には、社会保険料の事業主負担が発生します。
また、派遣先が見つかるかどうかにかかわらず、派遣労働者への賃金支払いは発生しますので、派遣先が見つからない場合は赤字を覚悟しなければなりません。

さらに、派遣元事業主が派遣労働者を解雇することは、「解雇権濫用の法理」によって厳しく制限されることにも要注意です(労働契約法16条)。
特に無期雇用で派遣労働者を雇い入れる場合には、十分に適性を見極めることが大切になります。

このように、労働者派遣事業は、派遣元事業主にとっては「重い」事業になりますので、それなりの覚悟をもってスタートすべきでしょう。

まとめ

労働者派遣事業の開始を検討する際には、労働者派遣法の規制に加えて、通常の人材紹介と比較した場合のメリット・デメリットを十分に理解する必要があります。

事業者の方は、ご自身の目指す事業のビジョンや、コスト・リスクなどを総合的に考慮したうえで、置かれた状況の下で最善の事業スキームを構築してください。


【無料】人材紹介事業立ち上げ 起業準備セミナーのアーカイブ配信

<内容>
1. 人材紹介会社の設立準備について
2. 開業後に必要な「求職者集客」「求人案件開拓」「実務スキル」について

<登壇者>
1.ライストン税理士事務所 石塚 友紀 氏
2.株式会社マイナビ エージェントサクセス事業部
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
視聴料 :無料
視聴手順:
①下記ボタンをクリック
②リンク先にて、動画視聴お申込みフォームにご登録
③アーカイブ配信視聴用URLをメールにてご送付
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –


【著者】阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
HP:https://abeyura.com/
Twitter:@abeyuralaw