電通、タニタ 社員の個人事業主化、フリーランスへの切り替えをどう判断する?

個人と企業の関係に大きな変化が生まれつつあります。

電通が今年から中高年の一部の社員を「業務委託契約」に切り替え、個人事業主とする制度を始めました。社員の個人事業主化は健康機器メーカーのタニタでも導入され、話題になりました。

一方で4月から改正高年齢者雇用安定法の施行により、厚生労働省は企業に65歳までの雇用確保を義務づけるほか、70歳までの就業確保を努力義務としています。

相反するように見えるこれらの動きですが、働く人にとって個人事業主への転換はどのような意義を持つのでしょうか。

リストラなのか、生き残る道の提供なのか

電通とタニタ、社員の個人事業主化の様子を見てみましょう。

「社内にいてはできない仕事を受託できる」電通

電通が取り入れた個人事業主化のしくみはこのようなものです*1。

まず、対象になるのは以下の社員で、社内公募により約230人が決まっています。

  1. 新卒で入社した社員の場合は勤続20年以上で60歳未満
  2. 中途採用の場合は、勤続5年以上で40歳以上60歳未満

社員の個人事業主化に先立って、電通は個人事業主化をバックアップする子会社を2020年に設立しています。この子会社が個人事業主化した元社員と10年間の業務委託契約を結び、平均で社員時代の年収の50~60%相当の報酬になる仕事を確保されるといいます。

しかし逆に言えば、電通の仕事だけでは年収が大きく減るわけですから、個人事業主化した人は他のところで仕事を獲得していかなければなりません。電通の狙いはまさにそこにあるといいます。

電通の社員で発案者の一人でもある野澤友宏氏(ニューホライズン設立で転籍)らは独自の試みの狙いを「人生100年時代の新たな働き方を模索することや、これまで電通が受託していないような新たな仕事を探し事業創造につなげるきっかけにできたら」「社内にいてはできない仕事を受託できる面白さもある」と話す。人件費など電通のコストでは難しかった小さな仕事や地方自治体の業務受託などを掘り起こしていくということなのだろう。

<引用:「電通は230人を個人事業主化 シニア社員の生きる道」日本経済新聞>

働く人にとっては、大企業の枠組みではできなかった仕事に携われたりワークライフバランスを変えられたりというメリットもないとは言えません。

とはいえ電通の仕事を請け負える10年を過ぎたときにどのように仕事を継続できるのか、まさに個人次第となります。

「優秀な社員は、あえて囲い込まない」タニタ

一方、タニタが取り入れた社員の個人事業主化はこのようなしくみです*2。

個人事業主になった後、最低でも3年間はタニタの仕事を続けられるよう保障しつつ、その後は100%タニタの仕事を続けることも、他の仕事を請け負うのも自由です。

電通にしてもタニタにしても、自社の仕事を確約する「助走期間」がある点では共通していますが、谷田社長はその理由をはっきりと話しています。

最悪の事態に備えるという発想から生まれました。とりわけ重要なのは人です。組織に利益をもたらしているのは、優秀な2割の人であり、会社が危機に陥ると、その2割の人から辞めていくとよく言われます。であればリーダーとして、優秀な人に働き続けてもらえる仕組みを作ろうと考えました。
(中略)
優秀な社員であればあるほど、会社に『働かされている』のではなく、自由に主体的にやりたいと思える仕事に取り組めているかどうかも重視するはずです。

<引用:「デキる社員はフリーランスで タニタ式『働き方革命』」日経 出世ナビ>

「優秀な2割の社員」をあえて囲い込まず、自由を与えることで逆にタニタが危機に陥ったときは活躍して欲しい、という考えです。

フリーランスの現状

上記2つの会社の方針を、それぞれ皆さんはどう捉えるでしょうか。企業規模による考え方の違いもあるでしょう。

考え方は様々かと思います。また、特に若い人の場合は終身雇用への疑問もあるほか、年功序列の上に乗っかっている現在の幹部社員に対して不公平感を抱いていることも少なくありません。

一方で、不安定な時代だからこそ、一度入った会社にはずっといたい、と考える人もいることでしょう。

筆者自身もそうですが、個人事業主になると、「会社の規則や方針に縛られることなく、仕事の内容や量を調整できる」気楽さもありますし、一方で働けなくなったときや老後に向けての備えを自分でやらなければならないという不安もないわけではありません。

実際、フリーランスの暮らしぶりについて、政府の調査結果をいくつか紹介していきましょう。

まず、フリーランスの年齢構成です(図1)。

図1 フリーランスの年齢構成
(出所:「フリーランス実態調査結果」内閣府) p2

40代以上のミドル・シニア層が全体の7割を占めています。

そして、フリーランスを選択した理由は以下のようになっています(図2)。

図2 フリーランスという働き方を選択した理由
(出所:「フリーランス実態調査結果」内閣府) p3

この2つのデータから考えられるのは、フリーランスとして働けているのはある程度の経験を積んだ世代以降の人であること、また、ワークライフバランスにはさして寄与していないということです。

次に、収入面を見てみましょう(図3)。

図3 フリーランスとしての年収
(出所:「フリーランス実態調査結果」内閣府) p6

収入を見れば、実は、雇用者とそう大きくは変わらない、という結果です。

ただ、厚生年金や雇用保険などがありませんので、実質的には低くなりますし、退職金もありませんので、備えは会社員以上に必要です。

長期で見た賃金についての考え方

とはいえ、政府の方針どおり70歳まで会社に勤めるのが良いのか?ある時点で個人事業主になるのが良いのか?といった選択は、そう単純なものではありません。

「やりがい」だけで仕事の選択は割り切れるものではありませんし、ある程度の収入の確保は誰もが望むことかと思います。しかし、定年まで会社勤めをしていれば必ずしも良い収入になるかというと、実はそうとも言い切れない事情があります。

というのは、長く会社に勤めていたとしても、同じ会社で勤めきるのにあたって2つの壁があるからです。

ひとつは「役職定年」、もうひとつは「定年後再雇用」です。

この2つの局面において、会社員であっても収入が大幅ダウンします。

まず、役職定年についてです。

役職定年後の給与はこのように変化しています(図4)。

図4 役職定年後の年収の変化
(出所:「50代・60代の働き方に関する調査 報告書」ダイヤ高齢社会研究財団、2018年)  p5

ほとんどの人が役職定年後に給与が下がっていることがわかります。半減という人も少なくありません。

この減少幅をどう捉えるのかや、この年齢になってからの転職の難しさなどを考えると、定年まで会社に残ることが良いかどうかは一概にくくれなくなってしまいます。

また、定年後再雇用の賃金の変化はこのようになっています(図5)。

図5 定年後継続雇用による給与水準の変化(平成26年)
(出所:「高年齢者の雇用・就業の現状と課題Ⅱ」厚生労働省) p9

こちらも現実として捉えておく必要があります。

キャリアの長期プランが求められる時代で

ところで、サントリーHDの新浪剛史社長が、コロナ後の日本経済の活性化について、「45歳定年制を敷き、個人は会社に頼らない仕組みが必要だ」と発言したことが話題になりました。

新浪社長はその後「定年という言葉を使ったのはまずかったかもしれない」と釈明していますが、批判ばかりはできないのではないでしょうか。

「終身雇用の崩壊」という言葉が躍りますが、実際のところ完全消滅するようには見えません。

しかし一方で、「年功序列」には大きな変化が生まれつつあるのは間違いないようです。

スキルを蓄積し、ある程度でフリーランスとして社外に可能性を求めるのか、給与の大幅減少を覚悟して長く会社に残るのか。

自分が何歳まで働くのか、資産形成をどうしていくかなど、長期プランに応じた判断が必要と言えるでしょう。


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【エビデンス】
*1「電通は230人を個人事業主化 シニア社員の生きる道」日本経済新聞 2021年1月13日
*2「デキる社員はフリーランスで タニタ式『働き方革命』」日経 出世ナビ 2019年7月25日


【著者】清水 沙矢香
2002年京都大学理学部卒業後、TBS報道記者として勤務。
社会部記者として事件・事故、科学・教育行政その後、経済部記者として主に世界情勢とマーケットの関係を研究。欧米、アジアなどでの取材にもあたる。ライターに転向して以降は、各種統計の分析や各種ヒアリングを通じて、多岐に渡る分野を横断的に見渡す視点からの社会調査を行っている。

Twitter:@M6Sayaka