仕事ができる人はどんな人か、という話は巷に溢れています。
しかし、「できる」という評価は、絶対的なものではありません。
スタートアップでエース級の人材だった人が、大企業に籍を移した瞬間に、平凡なパフォーマンスしかあげることができなくなった、などという話は、枚挙にいとまがありません。
仕事は入試などと異なり、純粋な個人の力ではなく、組織の一員としての力が問われるからです。
そこが仕事の面白いところであり、怖いところでもあります。
とはいえ、そういう人たちの特性を知ることが全く無意味かというと、そうではありません。
どんな組織で、どんな特性が評価されるかを知っておけば、自分にとって有利な立ち回りをしたり、自分にあった組織を検討することもできます。
そこで本稿は、私がかつて在籍していたコンサルティング会社で、どのような人が評価されていたかを、書いてみたいと思います。
なお、これらは私の体験に基づく記述であり、「コンサルティング会社すべて」の話ではありませんので、ご了承願います。
コンサルティング会社の「実力主義」とは
コンサルティング会社は、一般的に実力主義、成果主義であると言われています。
私が在籍していた部署も、例外ではありませんでした。
いや、むしろかなりの実力主義であったと言って良かったです。
というのも、昇進、昇格できる条件が数値的にはっきり決まっていたからです。
例えば、クロスセル◯件以上、年間売上◯円以上、顧客からのアンケート平均◯点以上、など、昇進昇格の条件は、階層ごとに設定されていました。
そこには微塵も「お気持ち」の入る余地はなく、
ゼロかイチか、というまことにはっきりとした世界でした。
コンサルティング会社の階層は、おおむね役員であるパートナーを事業部門長として、シニアマネジャー(部長クラス)、マネジャー(課長クラス)、シニアコンサルタント(係長クラス)、コンサルタント(主任クラス)、アナリスト、の6階層になります。
新卒で入社すると、まずアナリストとして配属されますが、一般的には、コンサルタントに3年以内、シニアコンサルタントに6年以内に昇格するのが目標となります。
ただし、シニアコンサルタントまでは「ずば抜けて仕事ができる人」でなくても、一生懸命仕事をこなせば、ある程度は昇進可能です。
しかし、問題はマネジャークラスでした。
コンサルティング会社の「マネジャー」は、一般的には事業会社の課長クラスで、給与も1000万円を超える役職です。
また、仕事の成果が「ボーナス」に大きく反映されるのもこのクラスからで、ボーナスを含めれば、1500万円以上の給与を得ることも珍しくありません。
したがって、多くのコンサルタントは、まず「マネジャー」となることを目指すのです。
実際、「マネジャー」まで昇進したかどうかで、その後の市場価値、転職のしやすさも大きく変わり、結果として稼ぎも大きく変わってきます。
そして、一般的には、管理職は年配者が多いのですが、コンサルティング会社のマネジャーは、若い人の管理職が多いことが特徴です。
なぜなら、年功序列ではなく、実績さえあれば、昇進のスピードは、ある意味無制限だったからです。
特に優秀な人材は、マネジャーに20代で昇進し、20代で1000万どころか、1500万以上の、同世代の平均年収を大きく上回る稼ぎを得るのです。
コンサルティング会社で、若くしてマネジャーになっていた人はどんな人だったか
そんな、20代でマネジャーになる人は、どんな人だったか。
一言で言えば、「仕事を持ってこれる人物」が、マネジャーになっていました。
ポイントは、「仕事をこなす能力の高い人物」ではない点です。
基本的に、コンサルティング会社に入ってくる人材の多くは、処理能力は高い。
つまり、「人に言われたこと、人に指示をされたこと、人から任されたこと」は、そつなくこなす人物が殆どで、そこについては、あまり差がつきません。
では、何で差がつくのでしょうか。
差がつくのは、「顧客からの気に入られ度」です。これが「仕事を持ってこれるかどうか」に強く反映されるのです。
単純に言うと、クライアントの気持ちを察して、高飛車にならず、うまく自分の提案を差し込んで、彼らの一員であるか如く振る舞える、そんな芸当をできる人間が、「案件の継続」「クロスセル」「紹介による新規顧客開拓」を次々と獲得し、出世していきました。
ズバリ言えば、コンサルティング会社は、営業ができないと、マネジャー以上にはなれないのです。
だから、コンサルタントの階層の頂点である、「パートナー」は、一部の例外を除いて、ほぼ全員がスーパー営業でした。
コンサルタントは、地位が高くなればなるほど、営業的な性格を帯びていくというのは、「出世」の条件に、営業を重視する評価制度があるからです。
私が知る限りでは、年間で最低「2億から3億」程度のコンサルティング売上が作れれば、一人のパートナーが誕生する、というイメージです。
したがって、どんなに賢くとも、どんなにロジカルであっても、どんなに分析能力が優れていても、「営業ができない」という時点で、出世の道は絶たれていました。
マネジャーになることが出来なければ、せいぜい給与も高くて1000万円前後で止まります。しかも、自分より若い連中が、どんどんマネジャーになっていくのです。
そんな状況に耐えられなくなって、シニアコンサルタントになって、何年かすると、マネジャーになれなかった人々はやめていきます。
それが、アップorアウトと呼ばれる、コンサルティング会社のカルチャーでした。
会社は人をめったなことではクビにはしません、出世できなかった人が、勝手に辞めていくのです。
世の中全体を見ても「ビジネスを作れる」やつは出世する
しかし最近、これはコンサルティング会社に限らないのではないか、と思うようになりました。
というのも、近年では終身雇用の崩壊とともに、スタートアップは言うに及ばず、中堅中小企業や大企業においてももちろん、「ビジネスを作れる人物」が出世する傾向にあるからです。
別にこれは、新規事業の立ち上げにかぎりません。
商談をまとめ、利害関係者の要望をマネジメントし、ビジネスを作れる人物の価値はかぎりなく大きいのです。
これは、資本主義の根幹であり、「古き良き日本」では、年功序列にしたがって、長く会社に在籍している人物が出世していく、という流れがありましたが、今はそうではなくなってきています。
そういう意味で、コンサルティング会社でしばらく修行すると、他社のビジネスを見ながら、「ビジネスを自分で作る」という能力を身につけねばならない、という考え方になってきます。
結果的に、能力が高ければ高いほど、「コンサルティング会社にいる」という選択肢をとらず、「起業する」であったり、「スタートアップに転職する」という選択肢を取る人が多くなる傾向にあるように思います。
最近では、高学歴の方を中心に、コンサルティング会社への就職が人気であると聞きます。
しかし、本質的には「事業を作れる人」が上に上がる仕組みでできているのが、コンサルティング会社です。
「処理能力が高く、お行儀のいいコンサルタント」では、なかなか上に行けない、入社してからそう感じる人も多いのではないかと、推察します。
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【著者】安達 裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者(http://tinect.jp)/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。Twitter:安達裕哉