介護休暇・介護休業|超高齢社会の事業主・転職エージェントが気を付けるべきことを弁護士が解説

2021年9月15日時点の推計値で、日本における65歳以上の高齢者人口は3640万人で、全人口の29.1%を占めています。高齢者割合は年々増加しており、その傾向は今後も長らく続くことが予想されます。
出典:高齢者の人口|総務省統計局

超高齢社会では、就職・転職先の企業を決めるに当たっても、親の介護と両立できるかどうかを懸念する方が多くなります。
そのため、介護休暇・介護休業の制度が充実しているかどうかは、労働者から「選ばれる企業」になれるかどうかの大きなポイントとなるでしょう。

今回は介護休暇・介護休業につき、育児・介護休業法※の規定を踏まえて、制度の概要や事業主・転職エージェントが注意すべき事項をまとめました。
※正式名称:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律

介護休暇・介護休業とは

育児・介護休業法では、労働者が家族の介護へ従事し、職業生活と家庭生活を両立することを容易にするため、「介護休暇」と「介護休業」の制度をそれぞれ設けています。

介護休暇|半日単位で取得

「介護休暇」は、スポット的に家族の介護が必要となった場合に、半日単位で取得できる短期間の休暇です。

労働者は、原則として4月1日から翌年3月31日の間に、5日を限度として介護休暇を取得できます(育児介護休業法第16条の5第1項、同施行規則第40条第1項)。ただし事業主は、年度の期間を別に定めることも可能です。

なお、要介護状態の対象家族(後述)が複数存在する場合、介護休暇は年度当たり10日まで取得できます。

介護休業|長期間にわたり取得

「介護休業」は、要介護状態の対象家族を介護するため、まとまった期間にわたり取得できる休業です。

労働者は、要介護状態の対象家族1人につき、通算93日まで、最大3回に分けて介護休業を取得できます(育児・介護休業法11条2項)。

介護休暇・介護休業を取得できる場合・できない場合

介護休暇・介護休業を取得できるのは、対象家族が要介護状態にある労働者です。

ただし、要介護状態の対象家族がいる場合でも、介護休暇・介護休業を取得できない労働者が一部存在する点にご注意ください。

介護休暇・介護休業の取得には、「対象家族」の「要介護状態」が必要

介護休暇・介護休業の申出は、対象家族が要介護状態にあることを明らかにして行う必要があります(育児・介護休業法11条3項、17条3項)。

①「対象家族」とは
対象家族とは、以下の家族を意味します(同法2条4号、同法施行規則3条)

・配偶者(内縁を含む)
・父母
・子
・祖父母
・兄弟姉妹
・孫
・配偶者の父母

②「要介護状態」とは
要介護状態とは、負傷・疾病・身体上または精神上の障害により、2週間以上常時介護を必要とする状態を意味します(同法2条3号、同法施行規則2条)。
常時介護を必要とする状態にあるかどうかは、厚生労働省の基準に従って判断されます。

参考:常時介護を必要とする状態に関する判断基準|厚生労働省

介護休暇・介護休業を取得できない場合

要介護状態の対象家族がいても、以下のいずれかに該当する労働者は、介護休暇・介護休業を取得できません。

<介護休暇を取得できない労働者>
・日雇い労働者
・雇用期間が6か月未満の労働者
・1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
・半日単位での介護休暇の取得が困難な業務に従事している労働者(半日単位で介護休暇を取得しようとする場合)

<介護休業を取得できない労働者>
・日雇い労働者
・雇用期間が1年未満の労働者
・介護休業開始予定日から起算して93日を経過する日から6か月を経過する日までに、労働契約が満了することが明らかな労働者
・1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
・労使協定で定められた労働者

介護休暇・介護休業に関する事業主の注意点

事業主には、育児・介護休業法の規定を正しく理解したうえで、介護休暇・介護休業の制度を適切に整備することが求められます。具体的には以下のポイントに留意したうえで制度設計を行いましょう。

育児・介護休業法は最低ライン|事業主は遵守が必要

育児・介護休業法で定められた介護休暇・介護休業は、事業主が労働者に認めなければならない最低ラインです。

独自の制度を定めていなくても、育児・介護休業法に基づく介護休暇・介護休業の取得申出があれば、事業主はそれを受け入れなければなりません。

事業主としては、育児・介護休業法の規定を踏まえて、適時に介護休暇・介護休業を与えられるような体制を整えましょう。

介護休暇・介護休業の期間を事業主が指定することは原則不可

介護休暇・介護休業は、基本的に労働者が指定する時期に与える必要があります(育児・介護休業法11条3項、12条1項、16条の5第3項、16条の6第1項)。
有給休暇について認められている「時季変更権」は、介護休暇・介護休業については認められていません。

ただし、介護休業については、労働者から申出があった日の翌日から2週間を経過する日まで、事業主が開始日をずらすことができます(同法12条3項)。これは、介護休業が長期間に及ぶことから、事業主に配置調整などの準備期間を与えるためです。

なお、介護休暇は短期間であるため、介護休業のような取得日・期間の変更は認められていません。

介護休暇・介護休業を見越して人員を配置すべき

事業主は、雇用する労働者から、いつ介護休暇・介護休業の取得申出を受けてもおかしくありません。

よって、介護休暇・介護休業によって人員が欠けることを見越して、余裕のある人員配置を行っておくべきでしょう。
その際、労働者のプライバシーに配慮しつつ、任意回答を前提として、介護休暇・介護休業の取得見込みをヒアリングしておくことも考えられます。

介護を懸念する求職者を担当する際、転職エージェントが取るべき対応

転職エージェントの立場では、担当する求職者から、現在および将来における家族の介護が心配である旨を伝えられるケースも想定されます。

介護休暇・介護休業に関する取り組み内容は、企業によってかなり幅があるのが実情です。
育児・介護休業法の最低ラインすら守れていない企業もあれば、独自の制度を設けて、充実した介護休暇・介護休業を保障している企業もあります。

転職エージェントとしては、介護休暇・介護休業制度の充実した企業を紹介し、求職者と企業のニーズのマッチングを図るべきでしょう。そのためには、介護に関する制度の充実した企業をあらかじめ把握しておくなど、日頃から情報収集に努めることが肝要です。

まとめ

要件を満たす労働者に介護休暇・介護休業を与えることは、事業主の法律上の義務です。育児・介護休業法に対する正しい理解の下、労働者にとって魅力的な介護休暇・介護休業の制度を整えましょう。

転職エージェントとしても、介護休暇・介護休業の充実したクライアント企業を把握しておけば、超高齢社会における求職者のニーズに対し、的確に応えられる可能性が高まります。
介護に関する取り組みを含めて、クライアント企業の特徴を深く理解し、より良い人材紹介に繋げてください。


【無料】人材紹介事業立ち上げ 起業準備セミナーのアーカイブ配信

<内容>
1. 人材紹介会社の設立準備について
2. 開業後に必要な「求職者集客」「求人案件開拓」「実務スキル」について

<登壇者>
1.ライストン税理士事務所 石塚 友紀 氏
2.株式会社マイナビ エージェントサクセス事業部
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
視聴料 :無料
視聴手順:
①下記ボタンをクリック
②リンク先にて、動画視聴お申込みフォームにご登録
③アーカイブ配信視聴用URLをメールにてご送付
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –


【著者】阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
HP:https://abeyura.com/
Twitter:https://twitter.com/abeyuralaw