コロナ禍の今、転職すべきか 転職市場動向や求人数を元に正しい判断と行動を!

コロナ禍で労働市場は大きく変化しました。

転職を考えている人にとっては求人数が減った、転職そのものを控えたほうが良いのではないかと思うようになった、などのネガティブなイメージがあるかもしれません。

しかし、全ての企業や業種で採用状況が悪化しているわけではなく、またコロナ禍においても順調に成長している企業は存在します。

そこで本コラムでは、コロナ禍の今、どのような業界が伸びているのか。コロナ禍での転職を成功させるために求められるものを検証し、紹介します。

有効求人倍率は持ち直しの動きも

厚生労働省が発表した令和2年11月の有効求人倍率(季節調整値)は1.06倍となり、前月を0.02ポイント上回りました。

有効求人数も前の月より増えていて、求人の状況はごくわずかながら持ち直しの動きを見せています(図1)。

図1 厚生労働省 有効求人倍率の推移「一般職業紹介状況(令和2年11月分)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000212893_00049.html

転職市場について探るために、これをもう少し詳しく見ていきましょう。

雇用形態別の各項目の増減幅は、令和2年11月分では以下のようになっています(図2)。

<雇用形態別常用職業紹介状況(新卒除く、カッコ内は前年同月比)>

図2 厚生労働省 雇用形態別職業紹介状況「一般職業紹介状況(令和2年11月分)」P3を元に筆者作成https://www.mhlw.go.jp/content/11602000/000707909.pdf

実際、月間有効求人数も新規求人数も前年に比べると(カッコ内の数字)、大きな落ち込みを見せていますが、いずれも、正社員よりもパートタイムのほうが大きく落ち込んでいるのが実情です。

一方で就職件数は、実数・減少率ともに正社員のほうが大きくなっています。

転職活動を控える動きがあることに加え、厳しい経済環境の中で、転職希望者と企業側のミスマッチが生じている可能性が考えられるでしょう。

世界のGDP成長率がリーマンショック時を下回るとまで予測されている*1局面ですので、求人数がある程度減少するのは当然のことです。

しかしそのような中でも、採用意欲のある企業や、成長・速やかに復調している業界があります。

まず、各業界の現状について知ることが転職成功の大きな鍵になります。

コロナ禍で注目したい業界

コロナ禍で注目したい業界と特徴を見ていきましょう。

(1)産業機械

日本工作機械工業会が毎月公表している「工作機械統計」によると、工作機械の受注には早くも回復の兆しが見えています(図1)。

2020年12月の受注額(速報)は11月に比べ10.5%のプラス、前年に比べても8.7%のプラスとコロナ前以上の水準にまで達しています*2。

図2 日本工作機械工業会 工作機械受注額の推移「工作機械統計」より筆者作成*3

2020年に入り、2月以降は落ち込みの傾向にあったものの、5月を底にして復調に転じています。中国向けの復調が早かったほか、国内需要も緩やかに回復に向かっています。

また、「5G」「省人化」といったテーマで活況を呈するメーカーもあります。

通信計測機の大手メーカーであるアンリツが発表した2021年3月期の第2四半期決算では、営業利益が前の年の同時期に比べて48.5%の増加と躍進しています*4。

また、自動倉庫など保管・搬送システム(マテリアルハンドリングシステム)で世界首位のダイフクの2021年3月期第2四半期決算では、営業利益が前の年の同時期に比べて13.8%の増加とコロナ禍でも順調を維持しました*5。

コロナでの通販の拡大や、ニューノーマルとしとしてなるべく人の手を介さない物流システムには今後も強いニーズがある、とダイフクは見込んでいます。

(2)建設業

コロナ禍においても求人数への影響が限定的な業種として、建設業があります。

2020年は他業種の新規求人増減率が軒並みマイナス2桁となる中で、プラスに転じる月もあります(図3)。

図3 厚生労働省 建設業の新規求人数増減・前年同月比(パートタイム除く一般)
「一般職業紹介状況」 より筆者作成*6

日経コンストラクションの調査によると、2020年4月入社の新卒採用でも、45%の企業が「予定数に満たなかった」と回答しています*7。

社会インフラや設備修繕の需要に大きな変わりはない一方で、建設業は慢性的な人手不足状態にあり、コロナ禍の今を採用の好機と捉える企業もあるようです。

(3)SaaS、スタートアップ、金融

米セールスフォース・ベンチャーズと、日本に拠点を置くベンチャーキャピタルファンドであるDNX Venturesが共同で実施したアンケート調査の結果が2020年10月に公表されています*8。

それによると、インターネットでソフトウェアを提供する、いわゆる「SaaS」、中でもB2Bスタートアップ企業の多くが、コロナ禍でのビジネスチャンスを見出し、自社にとっての追い風であると考えています*8。

具体的には、

・「コロナ環境下で、自社の新たな収益機会を見出した」=71.8%

・「コロナがDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させ、自社の事業にとって追い風になると考えている」=97.4%

といった具合です。

DXについては、経済産業省が「2025年の崖」問題を指摘して以降話題になっていますが、コロナで非接触が求められるようになった今、各企業の関心はさらに高まっています。

「2025年の崖」問題とは、経済産業省が「このまま日本企業のDXが進まなければ、2025年以降最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性がある」と指摘しているものです*9。

その詳細を記した「DXレポート」が2018年に公表されています。

IT業界も慢性的な人手不足にありますが、エンジニアに限らず、企画力のある人材であれば幅広い業界の経験者を求めています。

また、ITが本業というわけでもない企業でも、自社内の専門家を強く求めている業界があります。

金融業界がその一例です。キャッシュレスなどFinTech事業の拡大という時代ニーズを背景に、関連知識を持つ人材の求人意欲は旺盛なままです。

コロナ禍での転職活動を成功に導くために

ここまで、コロナ禍での転職にあたって注目したい業界とその背景を紹介してきました。

ただ、注意しておきたい点があります。

業績を伸ばしている、あるいは採用意欲のある業界とはいえ、市場は全体として明らかに変化しているため、これまでの「売り手市場」の感覚で考えていてはいけないということです。

今をチャンスと捉えて積極採用に踏み切る企業は確かに、そう少ないわけではありません。

しかし世界全体の景気が良いとは言えない状況の中では、どの企業も「即戦力」を求める色合いがより濃くなっていることには注意が必要です。

不況の中での転職をリスクと考える人も多いと思われますが、それは

「スキルや経験に基づいた確たるキャリアアップ計画」

が、自分の中で形成し切れてないことの現れという可能性があります。

コロナ禍の中、自社の体制に不満を持ったことで転職に関心が向いた人もいるかも知れません。

しかし新卒採用にも影響が出ている中で、転職者が「ポテンシャル」だけで臨むのはミスマッチとなる可能性がありますので、十分に考える必要があります。

これまで、転職の準備を十分にしてきたと思っている人の場合でも、この点を意識しましょう。

特に、「未経験」の領域に飛び込むことは以前よりは難しくなっていると考えた方が良さそうです。

未経験やスキルに自信があまりない、という人は、この時期の過ごし方には慎重さも求められます。

早めの準備が損になることはありません。

日立製作所人財統括本部の進藤武揚氏は、ダイヤモンド社のインタビューに対し、”大きな変革期をポジティブに受け止められる人材に期待したい”という考えを示しています*10。

これはどの企業にも言えることでしょう。

現状を分析し、まずは時代の変化、この先に訪れる社会について考察し、その中で自分の能力や強みをどこに見定めるのかを、従来以上に強く意識して下さい。

様々な情報に触れ、必要な学びを蓄積する期間と考えるのも有意義な過ごし方です。

業界の事情と背景を研究すれば、今後伸びる企業や求められる人材について見えてくることでしょう。


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【エビデンス】
*1 経済産業省「新型コロナウイルスの影響を踏まえた経済産業政策の在り方について」P4
*2 日本工作機械工業会「工作機械統計」 より「受注統計速報 2020年12月分
*3 日本工作機械工業会「工作機械統計」工数機械受注額の推移より作成
https://www.jmtba.or.jp/wp-content/uploads/syuyoutoukei2011.pdf
https://www.jmtba.or.jp/wp-content/uploads/sokuhou2012rvjk.pdf
*4 アンリツ「2021年3月期 第2四半期決算短信
*5 ダイフク「2021年3月期 第2四半期決算短信
*6 e-Stat 政府統計の総合窓口「一般職業紹介状況」の第20表「産業・事業所規模別新規求人数」を用いて作成
*7 日経クロステック「逆風の今こそ人材確保 高い需要見込み積極雇用を変えず」2020年9月14日
*8 PR TIMES「DNX Ventures、Salesforce Ventures共同、新型コロナウイルスのSaaS企業への影響に関する実態調査
*9 経済産業省「DXレポート サマリー
*10 ダイヤモンド社「息子・娘を入れたい会社2021」P17


【著者】清水 沙矢香
2002年京都大学理学部卒業後、TBS報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、科学・教育行政その後、経済部記者として主に世界情勢とマーケットの関係を研究。欧米、アジアなどでの取材にもあたる。ライターに転向して以降は、各種統計の分析や各種ヒアリングを通じて、多岐に渡る分野を横断的に見渡す視点からの社会調査を行っている。
Twitter:@M6Sayaka