【弁護士が解説】裁量労働制は残業代を貰えないって本当?計算方法は?

労働基準法で認められている「裁量労働制」には3種類が存在し、それぞれ採用できる職種や残業代計算の考え方が異なります。

裁量労働制が採用されている職種に応募する際には、労働基準法のルールを踏まえたうえで、適正な求人条件が設定されているかどうかを見極めましょう。

今回は、3つの裁量労働制の概要・職種・残業代に関する考え方などをまとめました。

労働基準法で認められた、3つの裁量労働制の概要

労働基準法では、以下の3つの裁量労働制が認められています。

①事業場外裁量労働制(同法38条の2)
オフィスや店舗などの外で労働する職種について、労働時間の算定が難しい場合に採用されます。

②専門業務型裁量労働制(同法38条の3)
高度な専門性が要求され、業務の遂行方法を労働者の裁量に委ねるべき職種につき、労使協定に基づいて導入されることがあります。

③企画業務型裁量労働制(同法38条の4)
企画・立案・調査・分析の業務を取り扱う職種につき、労使委員会決議に基づいて導入されることがあります。

事業場外裁量労働制の職種・残業代の考え方

各裁量労働制につき、採用可能な職種と残業代の考え方をまとめます。
まずは「事業場外裁量労働制」です。

事業場外裁量労働制を採用可能な職種

事業場外裁量労働制は、以下の2つの要件を満たす場合に限り採用できます。

①事業場外で業務に従事したこと
②労働時間を算定し難いこと

事業場外裁量労働制が適用され得る職種の典型例は、外回りの営業職です。
それ以外にも、労働者の裁量による出張が多い職種では、事業場外裁量労働制を適用できる可能性が高いでしょう。

ただし上記のような職種であっても、会社が労働時間を管理・把握することが可能である場合には、「労働時間を算定し難いこと」という要件を満たさず、事業場外裁量労働制を適用できないことに注意が必要です。

事業場外裁量労働制における残業代の考え方

事業場外裁量労働制が適用される労働者は、原則として所定労働時間労働したものとみなされます(労働基準法38条の2第1項本文)。
つまり、事業場外裁量労働制の対象業務だけで1日が終わった場合には、残業代が発生しないのが原則です。

ただし対象業務を遂行するために、所定労働時間を超える労働時間が通常必要と客観的に認められる場合には、超過分については残業代が発生します(同項但し書き)。

また1日の中で、事業場外・事業場内それぞれで労働するケースも想定されます。

(例)外回りの営業職が、帰社後にオフィスワークも行う場合

この場合、事業場内での労働については、通常の方法で賃金(残業代)を計算する必要があるので注意が必要です。

(例)
事業場外裁量労働制が適用される外回り営業を終えた後、オフィスに帰って1時間仕事をした。
→労働時間は「所定労働時間+1時間」なので、1時間分の残業代が発生

専門業務型裁量労働制の職種・残業代の考え方

次に、「専門業務型裁量労働制」を採用可能な職種と、残業代の考え方を見てみましょう。

専門業務型裁量労働制を採用可能な職種

専門業務型裁量労働制を採用できる職種は、以下の19業務に限定されています。

・新商品や新技術などの研究開発業務
・情報処理システムの分析、設計業務
・記事取材、編集などの業務
・新たなデザインの考案業務
・放送プロデューサー、ディレクター業務
・コピーライター業務
・システムコンサルタント業務
・インテリアコーディネーター業務
・ゲームソフトの創作業務
・証券アナリスト業務
・金融商品の開発業務
・大学教授の業務
・公認会計士業務
・弁護士業務
・建築士業務
・不動産鑑定士業務
・弁理士業務
・税理士業務
・中小企業診断士業務

専門業務型裁量労働制を導入する際には、労働組合(または労働者の過半数代表)と使用者の間で、労使協定を締結することが必要です。

また、業務の遂行手段や時間配分の決定は、労働者の裁量に委ねる必要があり、使用者が具体的な指示を行うことはできません。

専門業務型裁量労働制における残業代の考え方

専門業務型裁量労働制が適用される労働者は、労使協定で定められる時間の労働をしたものとみなされます(労働基準法38条の3第1項)。

専門業務型裁量労働制のみなし労働時間は、労使間の協議によって決定されます。
所定労働時間を超えるみなし労働時間数が設定されることもあり、その場合は、超過分について残業代が発生します。

(例)
所定労働時間は7時間のところ、労使協定により、専門業務型裁量労働制のみなし労働時間は8時間と定められた
→1時間分の残業代が発生

企画業務型裁量労働制の職種・残業代の考え方

最後に、「企画業務型裁量労働制」を採用可能な職種と、残業代の考え方を解説します。

企画業務型裁量労働制を採用可能な職種

企画業務型裁量労働制は、「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務」を取り扱う職種について採用できます。

<企画業務型裁量労働制の職種例>
・人事、労務
・広報
・営業企画
・生産管理
・エンジニア
・プログラマー
・戦略コンサルタント
など

企画業務型裁量労働制を導入する際には、労働者代表が半数以上含まれた「労使委員会」において、5分の4以上の賛成をもって決議する必要があります。
また、企画業務型裁量労働制を適用するには、労働者の同意を個別に取得しなければなりません。

業務の遂行手段や時間配分の決定を労働者の裁量に委ねる必要があり、使用者が具体的な指示を行うことはできない点は、専門業務型裁量労働制と同様です。

企画業務型裁量労働制における残業代の考え方

企画業務型裁量労働制が適用される労働者は、労使委員会決議で定められる時間の労働をしたものとみなされます(労働基準法38条の4第1項)。

労使協定が労使委員会決議に置き換わっただけで、残業代計算の考え方は、専門業務型裁量労働制と基本的に同じです。
すなわち労使委員会決議によって、所定労働時間を超えるみなし労働時間が定められた場合には、超過分について残業代が発生します。

(例)
所定労働時間は7時間のところ、労使委員会決議により、企画業務型裁量労働制のみなし労働時間は8時間と定められた
→1時間分の残業代が発生

まとめ

裁量労働制は、正しく運用される限り、労働者が業務への取り組み方を自由に決定し、能力を存分に発揮できる働き方として機能する可能性があります。
しかし悪質な企業では、残業代を間引くなどの不当な目的のために、「裁量」の実質を伴わない裁量労働制を導入している事例も散見されます。

裁量労働制を標榜する企業に採用応募をする際には、

  • 実態として従業員がどのような働き方をしているのか
  • 労働基準法のルールに沿って残業代が支払われているか

といった点をよく確認することが大切です。

少しでも疑問がある場合には、採用面接の際に忌憚なく質問を行い、十分納得したうえで転職をご決断ください。


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【著者】阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
HP:https://abeyura.com/
Twitter:@abeyuralaw