近年「OODA(ウーダ)ループ」という言葉を耳にする人は多いことでしょう。
「PDCA」のように、業務プロセス回転のひとつの形態として、様々なメディアで紹介されています。
OODAループはPDCAよりも高速な意思決定であり、今の時代PDCAは古くて遅すぎる—
それも一理あるのですが、OODAループの導入によってPDCAは不要になっていくのでしょうか。
OODAループの特徴を知り、考えてみましょう。
どうやって新商品を市場に出していますか?
ある家電メーカーがひとつの新商品を売り出すまでの意思決定の様子を、皆さんはどのように思い浮かべるでしょうか。
まず商品発売について計画を立てる(Plan)
製造・販売する(Do)
売れ行きをチェックする(Check)
売れ行きやマーケットの動向に合わせて商品を改善する(Act)
これを連続していく、というのがPDCAサイクルに沿った一般的な考え方でしょう。
具体的にはこのような風景が思い浮かびます。
P=マーケティング部門、開発部門などが部門単位でアイデアをまとめ、会議を開き、上層部にプレゼンできるようにまとめて上層部に提出、通ればそのまた上層部に提案されて経営トップの決裁を得る。トップが首を縦に振らなければまた持ち帰り、会議を開き、再びトップにアイデアを提出して決裁を得る。
D=トップの決裁を得られたら商品の製造に着手、販売する。
C=営業やマーケティング部門が売れ行きや市場の最新動向をチェックする。
A=マーケティング調査の結果を社内に持ち帰り、商品改善のための計画(P)を立てる作業に入る。
一見、何ら不自然さはない進め方に感じられます。
しかしこのやり方の欠点を指摘し、一風変わった意思決定をする有名企業があります。
PDCAサイクルの危うさ
上記のようなPDCAサイクルの危うさを指摘するのは、アイリスオーヤマの大山健太郎会長です。
「一般企業で採用されているのは、リレー方式の開発体制です。
(中略)
まず事業部やカテゴリーごとに担当者会議を行い、アイデアが出たら部課長会議にかけて、そこで認められた企画を取締役会に上げるというやり方です。自分たちの手を離れたら、上層部の判断を待つしかありません。そして上に行けば行くほど、ジャッジに要する時間が長くなり、最終的にやるかやらないかの決定を下すまでに半年以上かかることも珍しくありません。」
<引用:ハーバード・ビジネス・レビュー 2021年2月号 p31>
自分の手を離れたら、上層部の会議で結論が出るまでの間祈るのみ—
そんな企業は少なくありません。
一方でアイリスオーヤマは、年間1000点もの商品を市場に放つ*1という意思決定の速さを誇っています。そのスピードを可能にしているのが、独特の意思決定プロセスです。
トップまで一同に集まることで解決
アイリスオーヤマの手法は、考え方としてはシンプルです。
現場担当者のプレゼン会議に、社長、会長までが出席してその場で決めてしまうのです。
毎週月曜日に「プレゼン会議」という新商品開発会議を開催し、その会議ですべてを決めます。
(中略)
プレゼン会議を通過して開発が決まったら、提案者がそのまま開発責任者になります。開発部門はそれぞれ数人のチームを組み、リーダーは商品ごとに変わる。
<「ハーバード・ビジネス・レビュー」2021年2月号 p31>
毎週開かれるアイリスオーヤマの「プレゼン会議」では、毎週50件以上の案件の可否を決定しています。広報や営業など他の部署の担当者も一緒に参加しています。
1つの案件につきプレゼン時間は5〜10分です。ただ、発売が決定すればその場で社長がハンコを押すという早さです。パッケージデザインまでもその場で決めてしまうのです。
最初にご紹介したような一般的な「PDCAサイクル」では到底追いつけないことがわかります。また、新型コロナ流行初期にマスク製造に真っ先に手を挙げることができたのも、このようなスピード感があるからでしょう。
「OODAループ」とは
さて、OODAループとは意思決定の高速化につながるメソッドと言われています。
アメリカ空軍で生まれた考えで、軍事という急激な変化が絶えない現場で威力を発揮する概念です。
以下の4つの要素で成り立っています。
O=Observe(観察)
O=Orient(情勢判断)
D=Decide(意思決定)
A=Act(行動)
戦闘機に乗っている軍人の行動を考えてみましょう。もし、日本式のPDCAサイクルの中にいれば、すぐに命の危機が訪れてしまいます。
敵をどう攻略するかを考え(Plan)、実行(Do)し、結果がどうかを見て(Check)、自分の行動を改善する(Act)。
大山会長が指摘するように、多くの日本企業が実践しているような「PDCA」では、アイデアから実行までに本部の指示を仰がなければならなくなります。そのようなスピード感ではすぐに撃ち落とされてしまいます。
そこで、冗長な「Plan」の過程を省いたものがOODAループとも言えます。
OODAの4つの要素は、まさに凄まじいスピードで変化していく情勢の中を生き抜き「勝たなければならない」戦闘の現場を分析したものなのです。
不確定要素が多く、消費トレンドも移り変わりやすい現代では、このOODAループが持つ柔軟性が注目されているのです。
PDCAは「古い」のか?
こう聞くと、OODAループのような速さこそ正解だ、と考えてしまうかもしれません。
では、PDCAサイクルのような悠長すぎる意思決定はもう要らないということになるでしょうか?
実はそうではありません。
OODAループは、PDCAサイクルの補強という考え方があります(図1)。
短期的プランと中長期的プラン、あるいは経営陣と現場、といった違いによっては、どちらが適切であるとは言いがたいのです。
「組織を動かす能力」と「適度な意思決定をできる現場」との棲み分けのようなものも重要といえるでしょう。
アイリスオーヤマの手法を見ると、まさにPDCAとOODAが重なるタイミングで会長までもが参加する「プレゼン会議」が開かれています。非常に効率的な手法であることがわかります。
時計が秒針と分針と時針でできているのと同じと考えるとわかりやすいことでしょう。組織を構成する人員が部門や立場によって様々な時間感覚を持ち、それらがかみ合う時間が定期的にある、そういった組織作りが重要だということです。
また、PDCAかOODAかという二択の議論以前に、現在のPDCAサイクルにおける「PlanからDoまでの時間」を短くすることからは避けては通れません。組織の中で、ムダ会議やムダな待ち時間が長いと考えている人は多いことでしょう。これは改善しなければなりません。
「構想から○年、ついに市場に!」
この売り言葉が危ういものになっています。
意思決定が遅れている間に他社から似たようなモノが売り出されてしまう、そんなことがいくらでも起きうる時代なのです。
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【著者】清水 沙矢香
2002年京都大学理学部卒業後、TBS報道記者として勤務。
社会部記者として事件・事故、科学・教育行政その後、経済部記者として主に世界情勢とマーケットの関係を研究。欧米、アジアなどでの取材にもあたる。
ライターに転向して以降は、各種統計の分析や各種ヒアリングを通じて、多岐に渡る分野を横断的に見渡す視点からの社会調査を行っている。
Twitter:@M6Sayaka